55 / 80
53:神聖な会議室(2)
しおりを挟む
「閣下、ここでするお話ではないかと。皆さまお困りですよ」
熱くなりすぎている父を宥め、リリアンは辺りを見渡す。皇帝派の貴族たちはリリアンの口出しに安堵したような表情を浮かべた。
「……はあ、仕方がないな」
怒りがおさまらないハイネ公爵だが、娘がわざわざ部下として進言してくるのならば仕方がない。部下の言葉には耳を傾ける上司でいたい彼は、内圧下げるようにゆっくりと息を吐いた。
「関係のない話で盛り上がってしまったな。失敬」
ニコッと笑みを貼り付けた公爵。無言の圧力を感じるその笑みがまだ怖い。
リリアンはもう少し愛想よく微笑むことができぬものかと思いつつも、とりあえず安堵した。
しかし、神に仕えているはずのおバカな奴らはせっかくの休戦の提案を蹴った。
「しかしながら、公女様もご苦労が絶えませんな」
「……どういう意味でしょう?苦労などしておりませんが」
「ご苦労されていらっしゃるでしょう?ヨハネス殿下との婚姻目前で、婚約を解消させられた上に次に当てがわれたのが彼では、ねえ?」
「本当にお気の毒です」
エイドリアンを筆頭に枢機卿たちが顔を見合わせ、うんうんと頷き合う。グレイス侯爵はリリアンを憐れむようにフッと嫌味な笑み浮かべた。
リリアンを逆上させるためにわざとそうしているのか、それとも本当に頭が悪いのかどちらだろう。
いや、どちらにせよ不愉快極まりない。リリアンは口元を押さえて優雅に笑った。
「あら、いやですわ。お気の毒ですって?おかしなことをおっしゃいますのね。私はあの方の妻となれることをこの上ない幸せに感じておりますのに」
「……さすがはハイネ公爵閣下のご息女。海のように広いお心をお持ちで」
「うーん、そうでしょうか?私は今、うっかり手袋を外してしまいそうになるくらいには導火線が短いタイプですよ?」
そう言いながら、真顔で真っ白な手袋に手をかけるリリアン。それはつまり、これ以上下手な発言をするなら決闘を申し込むぞと言っている。
グレイス侯爵はリリアンの行動にギョッとしたのか、目を泳がせているが、噂程度にしかリリアンの実力を知らない枢機卿たちは小娘が何をいうかと鼻で笑う。
どうやらこれはまずいと青ざめる魔法師たちの顔が見えていないらしい。
「ははっ。押し付けられただけの婚約者のために決闘までしようとなさるとは、やはりお優しい。涙が出そうです」
「……ふふっ、そうですか。私は今ほど、自分が騎士でなく魔法師であることに感謝したことはありませんわ」
まるで挑発するかのような彼らにリリアンは青筋を立てた。騎士ではない彼女には私闘禁止の規律は適用されない。
父を宥めたはずのリリアンまでもが怒り出した会議室は何とも言えない緊張感に包まれる。
すると、呆れたようなため息と共に扉が開いた。上等な黒のマントを羽織った皇帝と二人の皇子が入室する。
ヨハネスは枢機卿たちを見て鼻で笑い、珍しくメガネをかけたジェレミーは俯きながらも、こっそりとリリアンにウインクした。
「その辺でやめておけ。本当に泣くことになるぞ」
「ヨハネス殿下……!」
「前線を離れて長いのに、力は衰えておらぬのか。お前の婚約者は素晴らしいな、ジェレミー」
「いつの間にか無詠唱を習得していて驚きました」
「ははっ、さすかだな。貴殿らの内に潜む闇も浄化してもらったらどうだ?」
「は、ははは……」
いつから聞いていたのかはわからないが、外に漏れるほど大きな声でジェレミーを侮辱していたことに腹を立てているのだろう。
さすがに皇帝のいる前でジェレミーを批判するようなことはできないのか、枢機卿たちは愛想笑いを浮かべつつも冷や汗が止まらない。
「急な招集で苛立つのも無理はないが、言葉には気をつけたまえ。神に仕える身なら尚のこと」
「も、申し訳ございません……」
なんて言ってはいるが、本当に心からの言葉でないのは顔を見ればわかる。不服そうに歪められた枢機卿の表情にリリアンは小さく舌を鳴らした。
「では本題に入ろう。クライン卿が説明してくれるのだろう?」
「は、はい!」
ここまで息が詰まるような思いだったキースは、皇帝の優しい微笑みにホッと胸を撫で下ろした。
熱くなりすぎている父を宥め、リリアンは辺りを見渡す。皇帝派の貴族たちはリリアンの口出しに安堵したような表情を浮かべた。
「……はあ、仕方がないな」
怒りがおさまらないハイネ公爵だが、娘がわざわざ部下として進言してくるのならば仕方がない。部下の言葉には耳を傾ける上司でいたい彼は、内圧下げるようにゆっくりと息を吐いた。
「関係のない話で盛り上がってしまったな。失敬」
ニコッと笑みを貼り付けた公爵。無言の圧力を感じるその笑みがまだ怖い。
リリアンはもう少し愛想よく微笑むことができぬものかと思いつつも、とりあえず安堵した。
しかし、神に仕えているはずのおバカな奴らはせっかくの休戦の提案を蹴った。
「しかしながら、公女様もご苦労が絶えませんな」
「……どういう意味でしょう?苦労などしておりませんが」
「ご苦労されていらっしゃるでしょう?ヨハネス殿下との婚姻目前で、婚約を解消させられた上に次に当てがわれたのが彼では、ねえ?」
「本当にお気の毒です」
エイドリアンを筆頭に枢機卿たちが顔を見合わせ、うんうんと頷き合う。グレイス侯爵はリリアンを憐れむようにフッと嫌味な笑み浮かべた。
リリアンを逆上させるためにわざとそうしているのか、それとも本当に頭が悪いのかどちらだろう。
いや、どちらにせよ不愉快極まりない。リリアンは口元を押さえて優雅に笑った。
「あら、いやですわ。お気の毒ですって?おかしなことをおっしゃいますのね。私はあの方の妻となれることをこの上ない幸せに感じておりますのに」
「……さすがはハイネ公爵閣下のご息女。海のように広いお心をお持ちで」
「うーん、そうでしょうか?私は今、うっかり手袋を外してしまいそうになるくらいには導火線が短いタイプですよ?」
そう言いながら、真顔で真っ白な手袋に手をかけるリリアン。それはつまり、これ以上下手な発言をするなら決闘を申し込むぞと言っている。
グレイス侯爵はリリアンの行動にギョッとしたのか、目を泳がせているが、噂程度にしかリリアンの実力を知らない枢機卿たちは小娘が何をいうかと鼻で笑う。
どうやらこれはまずいと青ざめる魔法師たちの顔が見えていないらしい。
「ははっ。押し付けられただけの婚約者のために決闘までしようとなさるとは、やはりお優しい。涙が出そうです」
「……ふふっ、そうですか。私は今ほど、自分が騎士でなく魔法師であることに感謝したことはありませんわ」
まるで挑発するかのような彼らにリリアンは青筋を立てた。騎士ではない彼女には私闘禁止の規律は適用されない。
父を宥めたはずのリリアンまでもが怒り出した会議室は何とも言えない緊張感に包まれる。
すると、呆れたようなため息と共に扉が開いた。上等な黒のマントを羽織った皇帝と二人の皇子が入室する。
ヨハネスは枢機卿たちを見て鼻で笑い、珍しくメガネをかけたジェレミーは俯きながらも、こっそりとリリアンにウインクした。
「その辺でやめておけ。本当に泣くことになるぞ」
「ヨハネス殿下……!」
「前線を離れて長いのに、力は衰えておらぬのか。お前の婚約者は素晴らしいな、ジェレミー」
「いつの間にか無詠唱を習得していて驚きました」
「ははっ、さすかだな。貴殿らの内に潜む闇も浄化してもらったらどうだ?」
「は、ははは……」
いつから聞いていたのかはわからないが、外に漏れるほど大きな声でジェレミーを侮辱していたことに腹を立てているのだろう。
さすがに皇帝のいる前でジェレミーを批判するようなことはできないのか、枢機卿たちは愛想笑いを浮かべつつも冷や汗が止まらない。
「急な招集で苛立つのも無理はないが、言葉には気をつけたまえ。神に仕える身なら尚のこと」
「も、申し訳ございません……」
なんて言ってはいるが、本当に心からの言葉でないのは顔を見ればわかる。不服そうに歪められた枢機卿の表情にリリアンは小さく舌を鳴らした。
「では本題に入ろう。クライン卿が説明してくれるのだろう?」
「は、はい!」
ここまで息が詰まるような思いだったキースは、皇帝の優しい微笑みにホッと胸を撫で下ろした。
20
あなたにおすすめの小説
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる