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第一部
33:解雇処分(3)
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「待って!待ってよ、モニカ!」
騎士団の屯所へと向かうモニカを追いかけたノアは息を切らせながら彼女の手首を掴む。
すると、彼女はピタリと足を止めた。
「ノア様、婚約を解消しましょう」
自分の手首を掴むノアの手を振り払うと、モニカは俯いたまま不自然なほどに明るい声でそう告げる。
ノアは唐突の婚約解消の申し出に激しく顔を歪めた。
「君は僕がそれを承諾すると思ってるの?」
「だって、ほら、やっぱり気持ち悪いもの。男色家なんて」
怒ったように声が低くなるノアに対し、モニカは顔は上げずに声色だけ彼を嘲笑うように取り繕い、そして彼の性癖を貶す。
ノアはそんな彼女の頬を軽く叩いた。
「それが君の本心なら、ちゃんと僕の目を見て言ってみろ」
「……本心よ」
「じゃあ顔を上げなさい」
「いやよ。貴方の顔も見たくないわ」
「モニカっ!!」
静かな回廊に、ノアの低く怒鳴りつける声が響いた。
彼がこんな風に声を荒げるところなど見たことがない。
モニカはギュッと唇を噛み締めた。
ノアはモニカの両頬に優しく触れると、彼女の目から流れる雫を拭う。
「モニカ。僕は何があっても君との婚約を解消しない。僕は君をこんな腐った場所から連れ出すと約束した」
ぽたぽたと流れ落ちる雫が回廊の赤絨毯にシミを作る。
泣いたのは何年振りだろう。もうずっと泣いてなかったからか、決壊したダムのように涙があふれて止まらない。
「もういいよ…。私は一人でいい」
ジャスパーを失うくらいなら、一人でいい。
初めからこうしていればよかった。
彼の優しさに甘えてずっと側に置いておいたのが間違いだった。
シャンデリアが落ちてきたあの瞬間、本当に彼が死んでしまったかと思った。
怖かった。あんな思いはもう二度としたくない。
モニカはポツリとそう本心をこぼした。
「私は、生まれてはいけなかった人間だから、だからもういいの。ここまで生きてこられただけで、もう十分だわ」
今までたくさん守ってもらった。たくさん愛してもらった。でも、もういい。
大切な人を傷つけてまで、守られたいなんて思わない。生き延びたいなんて思わない。
そう自棄になるモニカをノアは優しく抱きしめた。
「そんなことを言わないで。僕が何を言っても君には響かないかもしれないけれど、僕は君に出会えて良かったと心から思うよ。君は人とは違う僕を認めてくれたかけがえのない存在だ」
とても優しい声色で彼がそう言うものだから、モニカはもう涙が止まらず彼の胸に顔を埋めて泣いた。
***
しばらくしてモニカの涙も止まった頃、偶然にも第一皇女エレノアが通りかかった。
彼女は抱き合う二人を見てクスッと笑みをこぼす。
「ふふっ、仲がよろしのね?」
「…エレノア様」
ノアは慌ててモニカを抱きしめる手を解いた。
恥ずかしいところを見せてしまったことを詫びる彼に、エレノアわ『お気になさらず』と天使の微笑みを返す。
モニカは涙を拭うと、スッとエレノアの前に立ち、深々と頭を下げた。
「エレノア姉様。昨夜はせっかくお越しいただいたのに、申し訳ございませんでした」
「わたくしは大丈夫よ。それより、あなたの騎士が大怪我を負ったそうですけれど」
「ええ、おかげさまで。全治一ヶ月です」
「そう、それは大変ね。近々お見舞いに伺っても良いかしら」
「申し訳ございませんが、ジャスパー・オーウェンは本日付で護衛の任を解く予定ですので私の部屋に来られても、その頃にはもういないかと」
「あら、そうなの?怪我をしたからって早々に首を切るなんて、随分とひどいのね?彼はずっとあなたを守っていたと言うのに」
「使えない者を側に置く気はありませんから」
睨みつけるような鋭い視線を姉へ送るモニカ。
エレノアは口元に薄く笑みを浮かべ、余裕の表情で異母妹を見つめ返す。
「では、哀れなジャスパー・オーウェンはわたくしが引き取って差し上げようかしら?」
「どうぞ、お好きに。それでは私は先を急ぎますので、これで」
モニカは姉に一礼すると、彼女の横を通り過ぎた。
通りずぎる瞬間、エレノアは地を這うような低い声でボソッと呟いた。
『本当に母親にそっくりね』と。
その言葉に反応することなく、モニカは足早にその場を立ち去る。
彼女を後を追いかけるノアは困惑の表情でその背中に問いかけた。
「モニカ…、もしかして、ホークスってエレノア様なの?」
騎士団の屯所へと向かうモニカを追いかけたノアは息を切らせながら彼女の手首を掴む。
すると、彼女はピタリと足を止めた。
「ノア様、婚約を解消しましょう」
自分の手首を掴むノアの手を振り払うと、モニカは俯いたまま不自然なほどに明るい声でそう告げる。
ノアは唐突の婚約解消の申し出に激しく顔を歪めた。
「君は僕がそれを承諾すると思ってるの?」
「だって、ほら、やっぱり気持ち悪いもの。男色家なんて」
怒ったように声が低くなるノアに対し、モニカは顔は上げずに声色だけ彼を嘲笑うように取り繕い、そして彼の性癖を貶す。
ノアはそんな彼女の頬を軽く叩いた。
「それが君の本心なら、ちゃんと僕の目を見て言ってみろ」
「……本心よ」
「じゃあ顔を上げなさい」
「いやよ。貴方の顔も見たくないわ」
「モニカっ!!」
静かな回廊に、ノアの低く怒鳴りつける声が響いた。
彼がこんな風に声を荒げるところなど見たことがない。
モニカはギュッと唇を噛み締めた。
ノアはモニカの両頬に優しく触れると、彼女の目から流れる雫を拭う。
「モニカ。僕は何があっても君との婚約を解消しない。僕は君をこんな腐った場所から連れ出すと約束した」
ぽたぽたと流れ落ちる雫が回廊の赤絨毯にシミを作る。
泣いたのは何年振りだろう。もうずっと泣いてなかったからか、決壊したダムのように涙があふれて止まらない。
「もういいよ…。私は一人でいい」
ジャスパーを失うくらいなら、一人でいい。
初めからこうしていればよかった。
彼の優しさに甘えてずっと側に置いておいたのが間違いだった。
シャンデリアが落ちてきたあの瞬間、本当に彼が死んでしまったかと思った。
怖かった。あんな思いはもう二度としたくない。
モニカはポツリとそう本心をこぼした。
「私は、生まれてはいけなかった人間だから、だからもういいの。ここまで生きてこられただけで、もう十分だわ」
今までたくさん守ってもらった。たくさん愛してもらった。でも、もういい。
大切な人を傷つけてまで、守られたいなんて思わない。生き延びたいなんて思わない。
そう自棄になるモニカをノアは優しく抱きしめた。
「そんなことを言わないで。僕が何を言っても君には響かないかもしれないけれど、僕は君に出会えて良かったと心から思うよ。君は人とは違う僕を認めてくれたかけがえのない存在だ」
とても優しい声色で彼がそう言うものだから、モニカはもう涙が止まらず彼の胸に顔を埋めて泣いた。
***
しばらくしてモニカの涙も止まった頃、偶然にも第一皇女エレノアが通りかかった。
彼女は抱き合う二人を見てクスッと笑みをこぼす。
「ふふっ、仲がよろしのね?」
「…エレノア様」
ノアは慌ててモニカを抱きしめる手を解いた。
恥ずかしいところを見せてしまったことを詫びる彼に、エレノアわ『お気になさらず』と天使の微笑みを返す。
モニカは涙を拭うと、スッとエレノアの前に立ち、深々と頭を下げた。
「エレノア姉様。昨夜はせっかくお越しいただいたのに、申し訳ございませんでした」
「わたくしは大丈夫よ。それより、あなたの騎士が大怪我を負ったそうですけれど」
「ええ、おかげさまで。全治一ヶ月です」
「そう、それは大変ね。近々お見舞いに伺っても良いかしら」
「申し訳ございませんが、ジャスパー・オーウェンは本日付で護衛の任を解く予定ですので私の部屋に来られても、その頃にはもういないかと」
「あら、そうなの?怪我をしたからって早々に首を切るなんて、随分とひどいのね?彼はずっとあなたを守っていたと言うのに」
「使えない者を側に置く気はありませんから」
睨みつけるような鋭い視線を姉へ送るモニカ。
エレノアは口元に薄く笑みを浮かべ、余裕の表情で異母妹を見つめ返す。
「では、哀れなジャスパー・オーウェンはわたくしが引き取って差し上げようかしら?」
「どうぞ、お好きに。それでは私は先を急ぎますので、これで」
モニカは姉に一礼すると、彼女の横を通り過ぎた。
通りずぎる瞬間、エレノアは地を這うような低い声でボソッと呟いた。
『本当に母親にそっくりね』と。
その言葉に反応することなく、モニカは足早にその場を立ち去る。
彼女を後を追いかけるノアは困惑の表情でその背中に問いかけた。
「モニカ…、もしかして、ホークスってエレノア様なの?」
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