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第七話『おひるやすみ』
しおりを挟む午前の学園の簡単な説明と一般科目が終わり昼休みとなった。生徒たちは手にお弁当を持って中庭で食べたり、食堂へ向かっていった。
「フィースぅぅううう。つ、か、れ、た、よぉ~」
「うふふ。仕方ないですね、今日が初めてだったのですから」
授業の終わりと同時に俺の膝の上を這いつくばりながらルルイエに抱きつく。フィースはそれをにこやかに受け入れ、頭を撫でていた。
「さわり」
「いにゃぁー!何してるの!?離して!」
膝の上に形のいい尻があったので触っておく。
白タイツの柔らかな布地と水を弾くようなハリのいい肌を堪能する。
ルルイエは涙目で俺を睨んでいた。
「えっち……」
「しまった。バレたか」
「バレたか……じゃないよ!公共の場でこんなことしちゃいけないんだよ!」
「それは俺以外が勝手に決めた規則だ。それに公共の場じゃなかったらいいのか?」
「あうあう……ダメに決まってるでしょ!フィースからもなんとか言って!」
ルルイエはフィースを盾にして俺から距離をとる。
俺にグイグイと寄せられたフィースは苦笑い。
「フィースは俺の味方だ。そうだろ?」
「違う!フィースは私の味方!」
「お二人共ここは教室ですし、食堂へ参りましょう」
♢♢♢
応用四年と基礎四年が集まっている食堂は、思っていたより多くの人で溢れかえっていた。
階層は二階に別れており、一階が貴族や上位成績者。二階が一般の生徒たちと暗黙の了解で区分されているようだ。
俺は歩みをとめず、二階の一番いい場所を選ぶ。その机と椅子だけ無駄に豪華な作りになっており、周りに他のそれらはなくぽつんと置いてあった。どう見ても特別な人間にしか座れないようにしているのだろう。
それに中庭を見下ろせるロケーションは最高だ。俺が座らないはずはない。
ザワザワと騒ぐ生徒たちを無視して俺は席にふんぞりかえる。
「眠い」
「朝が早かったですものね。仕方ないです」
「私もちょっと眠いかも……ふぁあ」
バイトの生徒からメニュー表を受け取り適当なものを頼んでおく。料理が来るまで暇なので、俺は中庭と正六角形の形をしている学園を眺める。
もはや公国の城よりも大きいだろう。真ん中がぽっかりと空いた学園は辺の部分が同じ数字の学年の校舎となる。
一つの辺に6000人いるのだから巨大になるのも頷ける。
だが大きすぎるが故に一つの辺はそれぞれ全ての特殊な室が揃っている。
職員室や食堂、図書室まで。
さすがシェルバーが大金をかけて作っただけあるな。
「少しいいか?」
一人の男が歩いてくる。
礼儀正しく制服を着て、女性受けのよさそうなキリッとした顔つき。腰に指した剣は立派なものでかなりの出自であることが分かる。
テンプレートな騎士様って感じだ。
「あぁ、なんか用か?」
「貴様、なぜその席に座っている。この場所が何を意味するのか分からないのか?」
「分かるぞ。この学園で一番目立つ奴が座るんだろ?」
「では何故ここに座っている。ここはルウシェ様が座る尊き座。貴様のようなごろつき風情が座っていい場所じゃない」
「別にいいだろ。飯を食べるだけで大袈裟な」
「愚かな。この学年で頂点のルウシェ様が座るのは当たり前だ。でなければ下のものに示しがつかない。貴様がしていることはこの学園のヒエラルキーを脅かしているのだぞ」
「じゃ今日から俺が一番な」
「は?」
「一番しか座れないなら俺が今日から一番だって言ってるんだ。別に筋は通ってるだろ?」
「通ってるも何もそんな馬鹿な話があってたまるか!」
「ひっ」
大声を上げた男にルルイエがビクリと肩を跳ねさせる。
かちーん。
「おい木っ端、はしゃぎすぎだ」
俺はポケットから卵の形をした親指ほどのキーホルダーを取り出す。
これは『個人情報波動端末』。主に個人証明に使い、俺と同じく魔力を持たない和国以外の国の民は皆持っている超便利な携帯端末。通称『まつぼっくり』。
皆は黒色だが俺は白色。魔力がないから、俺専用に作ってもらったのだ。
「ふ。白のまつぼっくりに灰色の髪。そしてふざけた格好。貴様がうわさの転入生か」
男は優雅に笑いながら懐から黒色のまつぼっくりを取り出す。
「まさかもう知られているとはな。有名人も困ったものだ、フワハハハハ」
「聞いてるぞ。魔力が無いんだろう?可哀想に、魔力を使う施設が多いこの国で相当苦労したはずだ。ここで魔力がないことは和国人でないお前にとってデメリットでしかないからな」
男は指をさし、見下ろしてくる。
「クク、そう怯えるな。虚勢が丸わかりだ」
「外見通りふざけた奴だ」
男はニヤリと笑い、懐に手を入れた。
俺たちは決闘の誓いを交わすため、まつぼっくりを突き出す。生徒たちもガラスに張り付いてこちらを見ている。
俺の実力を見たいのだろう。応えてやる。
「おやめなさい。ザンリ」
凛とした涼やかな声が響く。
現れたのは漆黒の車椅子に乗った少女だった。白髪に橙色の瞳。小さい帽子をちょこんとかぶり、手を行儀よく抑えている。その佇まいから理知的なオーラが漂っていた。
後ろには小さい少女が控えている。口をへの字に曲げ、俺を睨んでいた。
ザンリと呼ばれた男は少女が見えるとその場でひざまずく。
その背中には心からの敬服と心酔が感じられた。
「随分可愛らしい新キャラだな。名前は?」
俺の言葉に少女は一瞬眉をひそめた。
なぜ?
「初めましてレイドくん。私はルウシェ・ザナドゥロード。恐れ多くも、ロード御三家の一つ、ザナドゥロードの末席を頂いた者です。あなたも元孤児だと聞きました。同じく孤児同士仲良くやりましょう」
小さくからだを折り、ゆっくりと頭を下げる。
ザナドゥロードか。
政治を司るロード。と言うよりは知を使うもの全般に専門としている。
先程の名乗りから察するに純粋なロードではなく、養子としてロードを名乗っているようだ。
別に不思議なことではない。貴族が有望な若者を養子にするのはよくある。
だがロードは別だ。ロードは基本的に万能な一族。皆が一流の天才だ。そのロードが養子にするほどだ。なかなかキレる人物なんだろう。
「で、ルウシェと言ったな。悪いがそのわんわん、どっかやってくれないか?ルルイエが怯えて、飯が喉を通らなくなる」
「それは申し訳ありません。ザンリ、謝罪しなさい」
「はっ。ルルイエさん申し訳ありませんでした」
「あー……もういいよ。なんか話をおっきくしちゃってごめんね。悪いのはレイドだから」
「いえいえ、私こそ配慮が行き届いておりませんでした。ザンリ、下がっていいですよ」
ザンリは言われるがまま後ろに下がる。
それを確認したルウシェは車椅子を前に進めて近づいてくる。
「重ね重ね申し訳ありません。ザンリはいつもは紳士的ななのですがどうも想定外のことが起きると気がたってしまうようでして……」
やんわりと怪しい笑みを浮かべながらルウシェは俺の目の前に車椅子を動かす。
すごい魔力量だ。そこら辺の生徒とは比べ物にならないほど内包されている。
だがそんなことより驚いたのは車椅子が自動だということだ。おそらく使用者の魔力を消費して使っているのだろうが、そう簡単に作れるものでは無い。
なぜか彼女似合わない、漆黒の外装に鮮やかな赤いラインというカラーリングだが。
しかし男心をくすぐるかっこよさである。
「気にするな、以後気をつければいい。それより悪かったな。お前の席とっちゃって、今からでも一緒に食べるか?もちろん二人も一緒に」
その言葉にザンリと小さい少女は驚く。
「いえ、別に私が必ず座らないといけない、と決まってるわけではありませんよ。私たちに構うことなくお使いになってください。別に席があればどこでもいいので。それよりあなた、レイドくんでしたよね。あなたのことは学年中で噂ですよ」
「超絶イケメンでスーパー最強の男子が入ってきたって?」
「魔力無しのくせに威張り散らすフィース様のコバンザメが来た、と」
「フワハハハハ!やっぱりか!廊下を歩く時、周囲の目が痛いと思った!」
「なぜ、笑っているのですか?あなたは今、この学園で悪い意味で目立ちつつあるのですよ?」
ルウシェは底を見通せない、薄暗い笑みを浮かべながら質問する。
上機嫌な俺は優しく答えてやった。
椅子に浅く腰かけ、足を組みかえる。
そして眼鏡のレンズ越しにルウシェと目を合わせた。
「俺が俺である時点で他人の意思を勘案しないからだ。ゆえ、気にならん。それに俺が言ったこともお前が言ったことも等しく真実だ。ならばそれをどうこうするつもりは俺にない」
他人が俺の事を不快に思うのは当たり前だ。格好、態度、実力者に対する礼儀。俺がしていることは学園の秩序を乱していることにほかならない。
フィースの隣にいるという点も恨みを買っているだろう。魔力無しの木偶の坊が学年で一番地位の高い人の隣に立っているのは耐え難い屈辱のはずだ。
すべて理解出来る。
だが、それは自身の立場を守りたい木っ端な連中が無意識に作りだしたルールだ。
それに俺は誰かに危害を加えているわけではない。
格好は別に注意されてはいないし。態度もいつも通り、いわば個性だ。実力も言わずもがな、俺より上がいるはずない。
正しい、間違ったに興味はないが、『みんな』という博愛に見せかけた自己愛の単位で測れば俺は正しい。
「レイドが言ったことは違うと思う」
ルルイエ、うるさいよ。
「ウフフ。でもレイドくん、あまりはしゃぎ過ぎないようにした方がいいですよ。出る杭は打たれますから」
宣戦布告された気がした。
何かしら俺に対して仕掛けるのだろうか。と言ってもそのからだじゃ戦えなさそうだがな。
見たところ秀考科だろう。
ってことはテストか? まあ、どう足掻こうが俺に勝てんが。
「ククク。打てるものなら打ってみろ。その杭は既にお前の背丈は越してるがな」
心底おかしそうにルウシェは笑う。
「フィース様、面白い方をお連れになられましたね。私、こんなに心が沸き立つのは久しぶりです」
「あ、はい。ですが……ルウシェちゃん、いいのですか?」
二人はどうやら知り合いのようだ。
フィースはルウシェと数瞬視線を交わし合い、そして逸らす。そこにどのような事情があるかは分からないが、俺が口を出すことではないと思った。
かなり気になるが。
「ごきげんよう。またお会いしましょう」
二人を連れてルウシェは立ち去る。
♢♢♢
「フィース、お前ルウシェと知り合いなのか?」
「……はい。技開科の授業でよく一緒になるのです」
技開科。
世界に対する技術、または未開の知識の貢献を目的とする科だ。フィースはそこに属している。
彼女は俺みたいに魔力が細胞レベルまで無いのでは無く、ただ魔力を得ることが出来ない子供たちのための研究などをしているらしい。魔力はどの器官から摂取しているのか、どれぐらいの循環効率なのかとか。
食事だけの魔力供給だとからだが脆弱になるか、最悪死亡する傾向にあるからな。
「てことはルウシェもそこなのか?」
「はい、彼女は秀考科との兼科しています。とても努力家で尊敬できる人です。毎回筆記テストでも満点を出しておそらく総合順位は十位以内に入ってるのではないでしょうか」
「それはすごい」
総合順位は決闘、テスト、研究テーマの三つの順位を合計し、一番少なかった者から決まっていく。
科に属していなくてもこれらからは逃げることは出来ない。万能なる天才を作り出す機関だから、さもありなん。
決定日は期末。
それまでに皆苦手なことも得意なことも血反吐を吐きながらしないといけない。
まあどれかを捨てたりする人もいるが。
ルウシェもその類だろう。戦魔科は捨てているはずだ。
「レイドは問題ないと思いますけどルルイエは少し心配ですね」
「……そうかも。勉強も戦闘もしたことないよ、かなり不安」
「研究とかもよくわかんない」
「悩むことあるか。勉強も教えるし、見たところ運動神経いいも悪くない。下手なことしなければいい所まで行くだろ」
「でも研究テーマ……」
「それはお前だけの特別性があるだろ?」
「第六波動!なるほど!」
「史実の女神と照らし合わせてあれこれできるはずだ。頑張れよ」
「ふへーーー。でもまだ心配だよ。ていうかレイドってなんでそんなに余裕なの?勉強も教えるって言ったけど全然そんなふうに見えない……」
ルルイエは突っ伏したまま読書する俺を懐疑的な目で見てくる。どうやら俺はただの戦闘バカで頭もバカらしい。
「悪くは無い。人に教えることはできるぞ。まだ出来ないことが多いんだから、最初のうちは遠慮なく頼りにすればいい」
「わたくしもできる限りお手伝いします」
「二人ともありがとう……!私、頑張るっ!」
ルルイエは邪気のない笑顔で俺たちに感謝を述べた。
その笑顔は太陽のように暖かく、自然に俺たちまで笑顔にした。
楽しい学園生活の始まりだ。
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