ダーク・プリンセス

ノリック

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「始まり、そして旅立ち」1

~不穏な動き~ ミシェルのデート12 ~ニッシュの夢~

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* * *



「やつらは、またサントバーグの公園に向かうようです」

「そうか、作戦は、今日実行するぞ!いいな!」

「――はっ!」

「―――機会を見て、六時を過ぎたら――――決行だ!」



* * *







「―――あはは……今日は楽しかったわ――」

 サントバーグの公園に着くと、ミシェルとニッシュは公園の中央の方で夕暮れを見ていた。ミシェルは軽く笑って見せて、ニッシュの方を振り返った。

 ニッシュは、夕暮れを真っ直ぐに見つめていた―――その横顔が、何か大事な事を決意している、大人のような顔立ちだった。素直にニッシュの横顔って奇麗だなと、ミシェルは感じた。

 ミシェルは夕日の方を向いた。オレンジ色の光が、サントバーグの公園を包むように広がっていた。

「もう、夕暮れ時ね」

 ―――夏の日の長い時分でも、すでに空は橙色で、サントバーグの公園ではカートンショップの店仕舞いをする者もいたが、まだ営業している店の飲食店などでは夕食を取っている人もいて、人もまばらになり、サントバーグの公園は夕闇になる前の静けさを漂わせ始めていた。

サントバーグの公園の“トレビの噴水”は、夕暮れの光の中、その水飛沫に反射した光がキラキラとオレンジ色の輝きを放っていた。

「ニッシュ―――デートの終わりに私に話したいって言ってた事って………なに?」

「ミシェル――――それなんだけれど………いいかな?」

 ニッシュの『伝えたい事』について、ミシェルは問い掛けた――ニッシュは、空の向こうを眺めてから、何か新鮮さを纏った雰囲気で、真っ直ぐに前を見つめて話し出した。

「――――学校で、中等学校の時の事、振り返ってもらったよな……そのときの俺『世界一のレイピア術使いになりたい』って、言ってたよな……、―――俺からミシェルに伝えたいっていうのは、その事に関連する事なんだけれど………」

「―――うん、ニッシュ、私ちゃんと聞くわ。ニッシュの『伝えたい事』」

 ミシェルはしっかりとニッシュの言葉に耳を傾けた。

「―――うんミシェル、じゃあ、いいかな?―――俺、中等学校の時に、『世界一のレイピア術使いになりたい』って言っていたけれど、それで、俺、レイピア術が強くなる為に、その証として、いつか―――そう、レイピア術のマスタークラスになりたいんだ!それで、俺、その為には、まず、レイピア術の世界修行に行きたいんだ!」

「――ニッシュ―――」

「それで、今すぐっていう訳にはいかないけれど、高等学校を卒業してから―――大学には進学せずに―――レイピア術の修行の為に世界を回りたいんだ!……ロマノフ王国とか、レイピア術を実戦で、過去の戦争で使ったっていうから、その国なんかに行ってみようと思うんだけれど、それにはまず、俺の夢……この思いを、ミシェルに伝えたかったんだ!」

 ニッシュは噛み締める様に、それでいて勢いよく自分の夢を語った。

 ミシェルは、感嘆して一人のレイピア術使いに向けて言葉を放った。

「―――ニッシュ――――分かったわ!、私もレイピア術の一選手だもの、その気持ち、分かるわ!私、ニッシュの夢を応援する!私だってもっと強くなりたいけれど、ニッシュにだって頑張ってほしいもの!」

 ミシェルとニッシュの二人は、ニッシュのその思いを聞いて、お互いを深く感じ合えた気がした。互いにレイピア術使いとして、恋人同士として、二人は共感を強める。ニッシュは、ミシェルに感謝していた。

「―――!!ありがとう、ミシェル!――ありがとう―――」







 ニッシュの夢を語り合った二人は、サントバーグの公園で今日の事を振り返り、デートの終わりの事を話していた。

「―――すっかり、遅くなっちゃったわね。ニッシュ、どうする?夕飯、食べてから帰る?」

「ミシェル、そうだな。俺は―――食べてから帰りたいな―――ミシェルともう少し、一緒にいたいし――」

「そうね、私も!―――でも、食べて帰るなら家に連絡しないと……」

「それは俺もだな、親父やお袋に心配かけさせちゃ悪いからな―――ミシェルも、ちゃんと家族に言って、良かったら、食べていこう」

「うん!―――じゃあ私、家族に夕飯食べてきていいかどうか〈電話〉で聞いてみるね」

「ああ。じゃあ、俺も、家族にに夕飯のこと、〈電話〉で聞いてみるよ」

 ミシェルとニッシュは、互いに家族に夕飯を食べてから帰ると伝えるため〈電話〉を掛けた。

 トゥルルルル――トゥルルルル

『―――あ、母さん、私、ミシェルだけれど』

『ミシェル?――――デートはどう?もう、夕暮れ時だけれど』

『――――それなんだけれどね……私、ニッシュと一緒に夕飯を食べてから帰ろうと思うんだけれど……』

『あら、そう――――母さんは、食べてきてもいいと思うわ―――うん、食べてきていいわ!―――父さんはね、午後には落ち着いて、今、一人でレイピア術の鍛錬をしているところよ。ミシェルの事は、そっと伝えるわ。また落ち込んで自分の世界に入って機械に没頭してもらっても、嫌になっちゃうからね』

『うん、ありがとう、母さん!』

『ビルも、学校のレイピア術部の活動に行って、遅くなるから何か食べてくるっていうから、今日は母さん私と父さんの分の夕飯だけ用意するわ―――ああ、日曜日に楽できるって、いいわね。今日は母さん一日のんびりしてたわ』

『ふふふ―――母さん、ありがとね……母さんの気持ち、感謝するわ』

『勘違いしないで、ミシェル。母さんはほんとに、楽チンなのは、歓迎よ。紅茶を飲みながら、好きな本がゆっくり読めるし、テレビドラマも見られるしね……ところで、ミシェル、ニッシュとの今日のデートは……どうだったの?』

『母さん、とっても良かった!―――ニッシュの夢も、ちゃんと聞く事ができたし』

『そう、それは何よりだったわね!―――母さん、あなたが幸せでいてくれたら、本当にそれでいいのよ』

『―――!!――本当にありがとう、母さん!―――じゃあ私、ニッシュと夕飯食べてくるわね。どこで食べるかは、まだ決めてないんだけれど』

『いいわ、大丈夫よ、ミシェル。じゃあ、デートの最後、存分に楽しんでらっしゃい』

『ありがとう―――またね、母さん』

『またね、ミシェル』

 プツッ

 ミシェルは電話を切ると、思いを感じていた。

(これで今日、もうちょっとニッシュといられるわね)

 ミシェルは少し嬉しくなり、ふふっと笑みが零れる。

「ニッシュ、母さんが、夕飯食べてきていいって」

 母の了解を取ったミシェルは、ニッシュにその旨を伝えた。ニッシュもそれに答える。

「俺も、家族の了解を取れたよ」

「良かった――ふふ、ニッシュ、何食べる?」

「そうだな、夕飯は食べるかどうか分からなかったから……とりあえず、ウィングエッジの商店街に行って、どこのレストランがいいか探してみよう」

「うん、そうしましょう!」
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