画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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youれい!

05.なんで立場が逆転してんだよ?

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 まあ、別に見返り目当てで引き受けたわけじゃないけどな。

「あまりな報酬の低さに対し落胆を誤魔化すために言葉を返してみせたが、労力との釣り合わなさに、僕のテンションはダダ下がりだった……あ」

 ついつい本音(地の文)と建て前(セリフ)を間違えてしまっていた……。そんな僕の言葉に、彼女はハッとしたように俯いてしまう。

「そ……そうですよね、今のわたしは無一文ですし……」

「え……」

「よくよく考えたら、わたしには何もお返しが出来ない事を忘れていました……。今日出会ったばかりのかたにそんな一方的なお願いをするなんて、おこがましかったですよね」

「う……うん、そりゃぁまあ……」

 そう言ってから――そこは、『そんな事はない』とか言うべきでは? なんて思ったが既に手遅れだった。

「もうしわけございませんでした……もう大丈夫ですので失礼します」

 彼女はそう言って頭を下げると、名残惜しそうに背を向け始める。

――いや。強引に頼まれたから無理してそれを受け入れたとこなのに、なんで急にそこで引き下がろうとするんだよ? 

 それは全く不可解にも思える彼女の心変わりだった。

 もしかすると、神様にでも頼るべき難度の案件に対して何の価値も無い代償を提示した自分の行為に気付いて、今更ながら罪悪感をいだいてしまったのだろうか。

 まあ理由は何にせよ、彼女が願いを取り下げてくれるのはこちらにとっては渡りに船だったはずなのだが、こっちはこっちで不可解な心理が働いていた。

――だとしても、その切っ掛けがこっちの失言なのだったとしたなら、それこそ目覚めが悪くなってしまう。

 向こうが勝手にこちらに見切りを付けて切り捨てられる分には構わないが、こちらが良かれと思って起こした行動を失敗体験にさせられてしまうのは納得がいかないと、どうやらそんな理屈が生まれてしまったようだ。

 そのせいか、申し訳なさげにここから立ち去ろうとする彼女の背中をただ見送る事に戸惑いが生まれる。

「ま、待てよ、今の君は無一文かもしれないが、もしかしたら君の家はお金持ちかもしれないだろ。だったら報酬なんか、いくらだって出せるかもしれないじゃないか」

 なんだかフォローするはずがゲスな発言をしてしまっている気がして、無視されてしまうんじゃないかと思ったが、とりあえず彼女は立ち止まって答えを返してくれる。

「そうかもしれませんが、そんな希望的……というか願望的な推測を担保に交渉するというのも、なんだか倫理に反しているような気もしますし」

「だ、大丈夫だ。もし君の家がお金持ちじゃなかったとしても、そこはそれ、体で払ってもらうっていう手もあるだろう」

「か、か、か、体でって……」

 そんな僕の更なる失言に彼女がドン引きしていた。というか、僕自身もドン引きしていた。
 どうやら僕は、昔テレビとかで観た言葉をそのまま口にしてしまったようだ。架空の話に影響され、実生活において言って良い言葉とそうではない言葉の判断をミスってしまうというのは、人付き合いの薄いコミュ障にありがちな事だったりする。

 っていうか、追い詰められている様子の彼女に助け船を出そうとした筈なのに、そんな悪代官みたいな最低の発言をしてしまい、いたたまれなくなって慌てて弁明する。

「い、いや、君が何を勘違いしているのかは知らないが、体で払ってもらうっていうのは、肉体労働という意味でだな、えーと……」

「そ、そうなのですか。だとしても、こんなわたしに何か出来ることなんてあるのでしょうか」

 そんな問いに、僕は苦し紛れの言葉をひねり出す。

「そ、そうだな。えーと、とりあえずメル友にでもなってくれればそれでいいさ」

「は? なんですかそれ? 体で払うというかそれ、指先くらいしか労力を使わない気がするのですが……」

「いや、そのへんは会話能力が退化している僕の単なる言い間違いだから気にしないでほしいな」

「だとしても、それにいったいどのような価値が?」

 それは僕にも分からないが、とにかく言ってしまった手前、無理やり辻褄を合わせるしか無かった。

「そうして貰えば僕には生まれて初めてイマジナリーフレンド以外の実在する友達、『メル友』ができるのだ! そのためなら僕はどんなに困難な障害も乗り越えられるはずだ!」

 と、僕はセクハラ発言を誤魔化すためにそんな作り話をしてしまっていた。こっちは携帯すら持っていないのに……。

「なんて悲しい人生なのでしょう……」

 いやいや。僕は自ら望んで孤独な道を選択した上で、その人生を満喫しているのだ。だから悲しいはずなどは無いのだが、改めてそんな憐れみの視線を向けられてしまうとその自信も揺らいでしまいそうだった。

 世間知らずな失言のせいで自分に悪いイメージを抱かれてしまいかけたのを必死で回避しようとして、なんだか別の方面でアイデンティティにダメージを負ってしまっているような気もするが、あまり深く考えたくもないので、ここは強引に話を進める。

「まあ、とにかく僕は君がお金持ちである事に賭けるとしよう。もし、そうじゃなかったとしても何も持っていないって事は無いだろうから、その願いを叶えた暁にはその時に君の所有物から問答無用で僕が一番欲しいと思った物をもらう。それすら無かった場合はそれこそメル友になってくれりゃそれでいいさ」

「そんな不確定な条件でお願い事を引き受けてもらうというのはあまりにも……」

「そっちの気持ちなんて関係ない。引きこもり無職のダメニートが一発逆転の儲け話にギャンブル感覚で挑戦しようとしているだけなんだから、そっちはそんな僕を利用すればいいだけだ。そうだろう?」

 そんな主張をした僕に対し、彼女は軽く吹き出したように言った。

「偽悪的に振る舞ってはいてもやっぱりいい人なのですね……」

 その言葉に、彼女は納得した様子で笑みを浮かべていた。

――いや、こっちの言動のどこかにそんな要素なんてあったか? 偽悪的というよりも、何やら恥ずかしいボッチの告白みたいな事しか言ってない気がするんだが……。

 相変わらずの過大評価にこちらとしてはその視線が痛くてたまらない。そんな善人を見るような目で僕を見ないでくれ、僕はただ女の子との会話経験の無さから吐いてしまった失言を必死で取り繕っているだけなのだから……。

 そんなやましさから逃げようとするように僕は話を進める。

「ってなわけで、さっそく君の願いを叶えるべく行動するとしようか」

「はい、ありがとうございます! とにもかくにも希望というものが見えてきて嬉しい限りです」

 いや、そんな感じで喜んでもらったところで、どうせ僕には何も出来やしないのだが……。

 そんな事を思ったが、せっかく希望を抱いているらしき彼女に水を差すのも気が引ける。というか、女子を前にしていかに自分が無力な存在であるのかを説明し続けるのは、こちらのメンタルが削られるだけになってしまいそうな気がした。

――それよりは話を逸らすためにも、何か対策を練っているフリくらいはしておくべきだろう。

 と、そんな事を思うのだった。
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