画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第二章 『画廊寄武等とyouじん!』

31.俺の質問。

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「俺は昨日、この火事の犠牲者である一人の幽霊と出逢ったんだ」

 僕は殴られ過ぎたダメージでおかしくなっているのだろうか、まるで夢と現実の区別がつかなくなっているかのようにそんなことを口走っていた……。

 それは僕の意識というよりも想像で作った別人格のものみたいに思える。
 どうやら瀕死状態で意識が危うい状態の僕に変わり、その場の会話を続けてくれているかのような状態だったが、こちらは体中痛いし、特に言いたい事も無いのでその状況に身を任せるだけだった。

『いや、イマジナリーフレンドって、そんな権限有るものなのかよ?』

 そんな疑問はあるものの、そうしている間にもアリアさんは質問を挟んでくる。

「ほう……。で、そやつは今どこにおるのじゃ?」

 その質問に、もうひとりの僕は何故だか切なさにも似た切ない感情が湧き上がる中、僕として答える。

「……わ、分からない……何も覚えていない……」

 自分でも分からない絶望感に包まれかけているもう一人の自分の言葉に、アリアさんは言う。

「別に良いわ。ちょっとばかりおぬしの記憶を覗かせてもらおうかの」

 と、彼女は何やら印を結ぶようにして指を二本立てると、その指先を僕の額に当ててから瞑想でもするかのように目を閉じつつ言う。

「ふむふむ、お主は画廊寄がろうより武等たけとというのか」

「え……?」

「まあ、そんなのどうせ覚えておれんからどうでも良いわ。それよりもその幽霊とやらの記憶はっと……」

 おお……まだ名乗っていない名前を言い当てられた……。何だかここに来て初めて彼女の神様っぽい言動を目の当たりにした気がする。

「えっと、んん? 昨日の出来事のフォルダーがほぼ消えておるな?

 いきなり神っぽさが消えたな。フォルダーって何? 僕の記憶って、パソコンのファイルみたいな感じに分別されてんの!?

 そんな、神々しさの欠片も無い記憶の読み取り方に呆れていると、女神様は声を上げる。

「お、あったあった。てかその小娘と出会った記憶、夢フォルダーに入っとるではないか?」

 怪訝な表情でため息をつきながら彼女は続ける。

「何じゃ、結局夢オチかぁ? にしては、時系列とかには矛盾も無いようじゃし……んん? なるほどそういう訳か」

『いいや、どういう訳なんだよ? そこまで伝えてくれるんだったら、ちゃんと詳しく教えてくれよ』

 そんな僕の要望は完全に黙殺されたまま彼女は僕のひたいから指を離して立ち上がると、少々がっかりした様子を見せていた。

 まあ、友人の仇の情報が得られるかと思いきや、それが僕自身も覚えていない夢の記憶だったらしいのだから、そのがっかり具合も納得できるというものだ。

 しかし彼女が落胆していたのは、そんなこちらの想像とは少々違っていたようだった。

「そうか。つまり、その小娘が成仏してしまったというのは、昨夜だったというわけじゃな。どうやら少しばかりタイミングが遅かったようじゃ」

『いやこの自称女神様は馬鹿なのか? 本人である僕自身ですら思い出せない夢の記憶を見て、何を納得しちゃってんだよ』

 と、そんなツッコミを入れようとした僕だったが、この口が発した言葉は、またもや意図していない言葉だった。

「てか、あんた神様なんだろ? その子の魂を呼び戻すとか、天国に会いに行くとか、そういう事は出来ないのか?」

「あん? 天国なぞ人間どもの造り出した妄想にすぎん。そんな世界なぞは無いぞ」

「はぁ? じゃあ、あの子の魂は今どうなっているんだよ……?」

 僕も馬鹿なのだろうか。いくらなんでも夢の中の登場人物に、魂なんてものが存在するわけなどは無い。しかしその自称女神様はそんなこちらの発言を受けて話を続けるのだった。

「成仏した者の魂か……。まあ、この世界に溶け込んでいるような状態、とでも説明すればいいのかの」

「何だかよく分からないな。つまり、もう彼女の魂は存在しないと?」

「うーむ。説明するというのは苦手なのじゃがの……。まあ、おぬしにも分かるようにこの世界のことわりを説明すると、生命……おぬし等の言う成仏した魂は、この世界に遍満へんまんする形で存在しておる。とでも言えばいいのかな」

「へんまん……とは?」

「広くあまねく行き渡るという意味じゃ……。わかりやすく言うと、グラスに注がれた水に塩を入れたようなものじゃな。そうするとグラスの水の中に溶けた塩は均等に行き渡るじゃろ? 水がこの世界だとすると魂が塩で、本来の形を持たぬ状態で溶けるようにこの世界の全てと同化しておるというわけじゃ」

「彼女の魂が……この世界に溶けて……いる?」

 よく分からない説明だった。

「まあ理解できんのならそれでいい。とにかくそれがこの世で成仏したといわれる魂の状態というわけじゃ」

「まがりなりにも神様なら、その中から彼女の魂をサルベージする事だって可能なんじゃないのか?」

 そんな質問に、彼女は煩わしそうに答える。

「塩水の中から塩だけを取り出すのは面倒じゃろ? 更にいえばそれ、既に塩水になっているその中にひとつまみの塩を混ぜてから、『さあ今入れた塩だけを判別して取り出してみろ』とか言われるようなもんじゃし」

 そりゃ不可能だと、そう納得せざるを得ないのだが、それでも僕の口は勝手に意見をする。

「そこは、神様なんだから何とかできるんじゃないのか?」

「バカを言え。おぬしは、この世に存在する魂の数を知らんからそんな事が言えるのじゃ。人類だけではなく、そのへんの虫どころか細菌や細胞、はたまた石ころですら時には魂が宿っていたりするのじゃぞ。そんな中から、会った事も無い一つの魂の成分だけを判別するなど流石の儂にも無理じゃ。ってか面倒くさい。転生して、この世のどこかで生きておるというのならまだ多少は見付けやすくなるかもしれんが、成仏している状態ではそれも無理じゃろう」

「転生? つまり、生まれ変わりは存在するのか?」

「うむ。生命が生まれ変わる時には……先の塩水の例えで言うと、その水に溶けた塩分が結晶となって塩に戻るように、世界に溶けていたその魂だった物が元通りに集まって、再びひとつの魂として再結成されるのじゃ」

「よく解らない話だが……。つまりは、成仏している霊を見付けるのは不可能で、天国とかそういう場所も存在しないってのは分かったよ……」

――もしかしたら、あの女の子にもう一度会う事ができるかもしれないと、そんな期待をしていたんだけれどなぁ。

 どうやらもうひとりの僕は、そんなアリアさんの説明を聞いて落胆していたのか、彼女はそれには気付かずに話を続ける。

「天国も地獄も生きている人間の中にある、というわけじゃな」

 女神様の格言めいた台詞だったが、その頃には僕の中にある別の意識は何の言葉も発さなくなっていた。なのでこちらが答えるべきなのだろうが元々僕にとっては興味も無い話だ。

「それは哲学的ですな」

 口が勝手に喋るという、そんな状態もどうやら終わったらしき僕は、その場に横たわったまま、おざなりな感じでそう返すのだった。
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