画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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最終章『画廊寄武等のyouかん』

97.終わった後の事 その二

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「惚れるって、恋愛感情とかいう意味か? こんな奴を好きになるのは、それこそ幽霊になったとかいうあの娘くらいじゃろ……。ってか、それすら奇跡じゃと思うがの」

 そんな、嘘偽りなど全く感じさせないアリアさんの態度に、引っ込みがつかなくなってしまったように〝あーちゃん〟は続ける。

「いやぁ、おバカそうに見えてもさすがは女神様。とぼけるのがうまいようね」

 自らの動揺を隠そうとしているのだろうが、そんなことにも思い至らないのだろうアリアさんは普通に答える。

「誰もとぼけてなどはおらんが……? というか、嘘をつくのが下手じゃと、ちょくちょく指摘されるくらいなのじゃがのう……。あぁ? おぬし、もしかして……」

「な、なによ!!」
 そんな言葉に、さらに動揺してしまう彼女の態度を見て、アリアさんは「ぷっ」と笑いを堪えようとした……らしいが。

「わははははははは! な、何じゃそりゃ!? 趣味悪っ! ぐフへへハハハハハ!」

 思いっきり爆笑していた。どうやら我慢できなかったらしく、腹を抱えて……というか僕の体を抱えて笑っている。

「あ、有り得ん有り得ん! なんじゃ? おぬし、何やらただならぬ存在じゃと思ったんじゃが、実は単なる馬鹿じゃったとは、あははははははは!」

 思いっきりツボにはまった感じで、悶絶寸前のアリアさんだった。
 というか、膝の上に乗せていた僕の体をバンバンと叩きながら笑い続ける……。

 それこそ、もし僕の意識があったのならば『人の遺体を何だと思ってんだ!?』と、そんなツッコミを入れておくべき所なのだろうが、イマトオは元よりあーちゃんすらそんな指摘はしてくれない様子で、ただ顔を真っ赤にして拳を握りしめていた。

「くへっ! へきょー。へきょー。ぜぇー……ぜぇー……」

 そんな勢いで一分ほど豪快に笑い続けたアリアさんは、呼吸困難に陥りかけていた。

「ごほ、ごほっ!! ふぅー……って、笑い死にさせる気かい!」

 やっと笑いが収まった彼女のそんなデリカシーのかけらもないツッコミに、あーちゃんは顔を真っ赤にしたまま、怒りを噛み殺すかのように言葉を絞り出す。

「なんなら、笑い死にするより先にあたしが殺してあげましょうか?」

「おう、なんじゃ? 儂と戦って勝てるとでも思っておるのか? やるなら相手になっても良いぞ?」

「あんた……、せっかく復活したってのにまた死にたいってわけ? いいわよ、掛かって来なさいよ!」

「おいおい二人とも、ここは成仏するタケト君を見送るシーンじゃないのかい?」

 と、そこからバトルを始めようとする二人に、イマトオは僕の遺体から抜け出ようとしていた魂を指差しながら言った。

「もしここでキミ達が戦っちゃったりしたらそれこそ、その巻き沿いでタケトくんの魂が消滅しかねない規模になるだろうけれど、それでも良いのかい? まあ、別にボクはいいけどね、あははは」

 そんな言葉に我に返ってくれたらしく、一触即発だった二人は大きく息を吐いて落ち着きを取り戻すように言う。

「……まあ、それもそうじゃな。何だか笑い疲れたしの」

「ふん。もうこんな彼になんて未練なんか無いわよ。だからこんな所に居る意味もないわね」

 あーちゃんはそう言い捨てると、宙に浮かんでいる僕の魂を無表情に一瞥してから、くるりと背を向けてそのまま歩き始めた。

「あはは、まあ彼女の言葉を素直に受け止める気は無いけれど、とりあえずめでたしめでたしという状況のようだねぇ」

 イマトオはこの場から去ってゆく彼女の背を見送りながら、彼女とは逆の方に体を向ける。

「てなわけで、じゃあボクもそろそろ帰るとしようかな」

 そう言って、同じくこの場から去ろうとするイマトオにアリアさんが怒鳴る。

「ちょっと待てい! どいつもこいつも何じゃ? ここは、皆でこいつの魂が昇天するのを見送る場面じゃといったのはお前じゃろうが?」

「別にボクは皆でとは言ってはいないよ。それにこのボクが男子のためにわざわざそんな面倒な行事に参加するとでも思ってるのかい?」

「そうは言っても小僧の記憶を見た限りだと、おぬしもこやつに何やら色々と手を貸していたようではないか」

 そんなアリアさんにイマトオはふざけた様子で答える。

「いやだなぁ、ボクはただ愛しいキミを、こうして無事に復活させようと陰ながら動いていただけだよ」

「ウソ臭っ! というかおぬしを恋愛対象にするなどというのは、この小僧よりも有り得んぞ」

「ああ、それはショックな一言だねぇ。悲しい限りだ、これは帰ってヤケ酒でも飲んで心を癒さないとねぇ。あはははは」

 イマトオはそんな笑い声を残しながらその場で姿を消してしまい、そこにいるのはアリアさんと僕の死体だけとなった。

「相変わらず口から出まかせしか言わん奴じゃ。まあしょうがないのう。これも何かの縁じゃし、儂くらいはお前の魂を見送ってやるとするかの」

 そう言って、アリアさんは中空に浮かんでゆく魂を見上げる。

 その魂は幽霊になる事はないだろう。

 その証拠に命を終えた僕の体。その手にはもうあの子が残していったブラジャーは無かった。

 既に死を迎えた体から抜け出すだけという状況で、何をのろのろしているのかと言われれば、その影ではしっかりとブラ様をお連れする準備を整えていたのだ。

 なので今、僕の魂にはブラ様が繋がっている状態だ。

 魂になっても、それがあの子との出会いによって変わった今の僕なのだろう。

 それは、来世からの僕にとっても行動の指針となってゆくはずだ……。

――いや、何それ?

 そんなツッコミが入った気もするのだが気のせいだろう。

 一方、アリアさんは柄にもなく女神らしい優し気な笑みを浮かべながら言う。

「まあ次の人生では、好きなだけブラジャーとやらを信奉して生きられる環境に生まれるがいいさ」

――それって、これから生まれ変わる俺は今後転生した後もブラジャー第一の人生を送るっていう意味か? それは俺からしてもあの子からしても本来の意図ではないんだけどぉ!

 そんな不満でいっぱいな感じの言葉が有ったのかもしれないが、それを聞き取る者はその場には居なかったらしく、アリアさんは笑みを浮かべたままで続ける。

「とはいえおぬしの事じゃ。それがどんな世界じゃろうと、その惚れておる小娘とやらの存在する所に転生するのじゃろうなぁ」

――ま、それなら良いんだが……。

 そんな僕の魂は、そんなアリアさんの言葉にも興味が無いかのようにゆっくりと天を目指して昇り続ける。

 上へ上へと。

 その先にあるどこかを目指して。

 何も見ず。

 何も考えず、何もかも忘れて……。
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