1 / 2
プロローグ
しおりを挟む旧暦20XX年——
新型ウイルスが世界を席巻した。瞬く間に数億の命が奪われ、人類は絶望の淵に立たされた。
救世主として現れたのは、セントラルボーデン国家が開発したワクチンだった。全人類の九割に行き渡ったその薬は、確かに死の病から人々を救った。
だが、代償があった。
「百メートルを三秒で駆け抜けた」
「素手でコンクリートの壁を砕いた」
「指先から炎を生み出した」
世界各地から、信じ難い報告が続々と舞い込んできたのだ。
ワクチンを接種した者の八割に、何らかの身体能力向上が見られた。そして残る二割のうち、一割の者には——常識を超越した力が宿っていた。
人々は歓喜した。『我々は進化したのだ』と。
力を得た者たちは二つに分類された。身体能力が向上した者を「ソルジャー」、超常的な力を操る者を「ウィザード」と。
しかし、どれほど人類が進化しようとも、争いが止むことはなかった。いや、むしろ激化した。
そして——
「この腐った世界など、滅ぶがいい」
炎を操るウィザード、シャリアがその言葉と共に人類への宣戦を布告したとき、世界は真の地獄を見ることになる。
彼が従えていたのは、人だけではなかった。伝承にしか存在しないはずのゴブリンや人狼といった異形の者たち。まるで、この世界の理そのものが歪み始めているかのようだった。
これを迎え撃つ為にセントラルボーデン国家を中心とした連合軍が結成され、数で圧倒する連合軍の勝利は確実視されていた。
だが「最強の魔導士」と呼ばれたシャリアの力は、人智を超えていた。
戦いは熾烈を極め、連合軍は精鋭をシャリア本人に、圧倒的物量を他の敵に向ける戦術を取った。長期戦になれば数で勝る連合軍が有利——そう誰もが思っていた。
追い詰められたシャリアが最期に見せたのは、自らの命と引き換えにした最大級の爆炎魔法だった。
その爆発は大地を揺るがし、灼熱の炎は街を焼き尽くした。そして灼熱の炎にその身を焼かれ、シャリアは倒れた。
辛くも勝利した連合軍だったが、その疲弊は凄まじく、生き残ったシャリア軍を追撃することもできなかった。指導者を失ったシャリア軍は人の手が届きにくい北の大地へと姿を消していく。
パンデミックにこの争いもあり、人類の半数が失われた。
後に『世界超常戦争』と呼ばれることになる、最初で最大の悲劇だった。
-----
戦後、セントラルボーデン国家を中心とした世界連合が樹立され、世界の七割の国々がこれに加盟した。
旧い暦は廃止され、シャリアの悲劇を過去の物へとする為、この年を元年とする新世紀『ネオジェネシス』——N.G.0001年が始まった。
核兵器の全廃、高威力魔法の禁術指定、化石燃料から魔力への動力転換。世界は、二度とあのような悲劇を起こさないために生まれ変わろうとした。
それから約二百年——
N.G.0197年、世界連合の一強支配に反発する国々もあり、その中でも豊富な資源と独自の技術を持つラフィン共和国が異を唱え戦争を仕掛けた。独自技術で開発したバトルスーツを武器に、一時は連合軍を圧倒したものの、国力の差は如何ともし難く、一年に及ぶ戦いは連合軍の勝利に終わった。
この戦争により、連合軍以外の国々にも一定の発言権が認められたものの、両陣営に深い遺恨を残すことになった。
そして三年後——
N.G.0200年。世界超常戦争から二百年という節目を迎えた時、物語は静かに動き出す。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる