視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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霊視

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 ――
 志穂と嵯峨良は屋敷の外を一通り見て回った後、屋敷の正面玄関まで戻って来ていた。

「先生は一足先に屋敷に入っていて下さい。私は煙草吸ってから戻りますから」

 そう言われ嵯峨良は屋敷へと素直に戻り、志穂は一人正面玄関から少し離れた所にある灰皿が設置されている場所までゆっくりと歩いて行った。
 志穂は煙草を一本取り出し咥えると、火をつけて一息煙を吐き出す。志穂はゆらゆらと立ち上る煙を見上げながら考えにふけった。

 結局屋敷の周りでは霊どころか、何も変わった物は見つけられなかったか――。

「……蜂の巣どころか、蜂一匹も見かける事すらなかったもんねぇ」

 紫煙をくゆらせながら呟き、志穂は一人笑みを浮かべていた。
 そんな時屋敷の方から女性の声が響いてくる。

 何事かと思い、志穂は煙草を灰皿で捻り消すと急いで屋敷の方へと歩いて行く。
 そうして志穂が正面玄関の扉を開けると再び女性の声が響き渡る。

「だから貴方が私の事いんちきだって会長に言ったんでしょ!私は視えた事を言ってるだけだからね!自分が絵梨花さんの霊が視えないからって他人の事いんちき呼ばわりするのやめてよね!」

 屋敷に入った瞬間、三条に詰め寄られる嵯峨良が目に入り志穂は思わず笑みが溢れる。

「あらぁ三条さん、うちの先生が何かご迷惑をお掛けしましたか?」

 少しわざとらしく志穂が歩み寄り問い掛けると、三条は鋭く睨みつけ蔑む様な笑みを浮かべる。

「ふん、そういえば秘書も秘書よねぇ。覚えておいてね。私を敵に回した事後悔させてあげる」

「あらぁ、穏やかじゃないですね。所詮は同じ穴のむじな、仲良くしませんか?」

 志穂は目尻を下げて口角を釣り上げるが、三条は志穂達を睨んだまま踵を返した。

「ふん、貴女みたいなのが一番信用ならないのよ」

 捨て台詞を吐き、屋敷を出て行く三条を志穂は笑みを浮かべて見送っていた。
 三条が去り静けさが戻る中、一連の騒動を二階から見ていた叶と幸太がゆっくりと階段を降りてくる。

「志穂さん、また三条さん怒らせたんですか?」

 叶の声を聞き、志穂は笑みを浮かべたまま振り返った。

「またって何よ?それに今回は嵯峨良先生が揉めてて、私が仲裁に入ったんだから。なのに私みたいなのが一番信用出来ないんだって。失礼だと思わない?鬼龍ちゃん」

 そう言ってにこにこと笑みを浮かべ続ける志穂を見て、叶は呆れた様にため息をついた。

「そうやって何時も嘘っぽい笑顔を見せるからそんな事言われるんですよ」

「えぇ酷いじゃない。私は鬼龍ちゃんと違って目が細いから何時も笑ってる様に見られるだけなのに、それを嘘っぽい笑顔だなんて。ねぇ倉井君、貴方の彼女やっぱり酷くない?私傷付いちゃった」

 そう言って目元に手を添え、泣く様な素振りを見せる志穂を見て、叶は呆れた様に頭を振り、幸太は苦笑いを浮かべた。

「志穂さん、あまり幸太君を困らせないで下さい」

「あら何よ、鬼龍ちゃん妬いてるの?」

 からかう様に言う志穂を、あえて無視する様に叶は踵を返し顔だけ僅かに振り返る。

「まだ見てない所もあるんで、また後で会いましょう」

 そう言って叶が歩き出そうとした時、前から歩いて来た神谷崎玲音が前に立った。

「何か騒がしかったみたいですね。皆さん気分転換にもしよろしければ私の占い受けてみませんか?」

 神谷崎は人懐っこい笑顔を浮かべて語り掛けたが、叶は相手にする事なく素っ気ない態度で横をすり抜けて行く。

「占いとか興味ないんで、さよなら」

 神谷崎をまるで無視するかの様に歩いて行く叶を、神谷崎が慌てて追いかける。

「ちょ、ちょっと鬼龍さん。そんな素っ気なくしないで下さいよ。少しだけ付き合ってくてもいいじゃないですか?ねぇ」

 懇願する様に追いすがる神谷崎を叶はにこりともせずに冷めた瞳で見つめていた。そんな時、志穂が後方から声を掛ける。

「鬼龍ちゃんちょっとぐらい付き合ってあげたら?」

 叶が振り返ると志穂が笑みを浮かべて見つめていた。そのまま後ろを見渡すと、全員の視線が自身に注がれている事に気付き叶は少し口を尖らせながら首を傾げる。

「ふぅ、息抜きをかねて少しだけなら……」

 仕方なく叶が承諾すると神谷崎は満面の笑みを浮かべて歩み寄る。

「では食堂の方へ行きましょうか」

 そう言って先頭を歩き出した神谷崎の後を仕方なく叶達がついて行く。
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