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出会い⑧
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「何か怪しいな。喧嘩でもしたのか?」
「いや、別にしてねえって。忙し過ぎて咲良もイライラしてるだけだろ」
幸太の質問をなんとか誤魔化しながら弘人はひたすら料理を焼いていく。ひっきりなしに来る注文の多さもあって、幸太もそれ以上弘人に質問する事はなかった。
しかしひたすら注文をさばき続け、ようやく一段落しようかという時、幸太の手が止まる。
「えっ……唯?」
思わず呟いた幸太の声を聞き、弘人が慌てて振り返ると、ちょうど退席しようと席を立った唯を幸太が見つめていた。
唯を見つけてしまい幸太が茫然自失となっていると、焦げたソースの匂いが立ち込めてくる。
「こ、幸太!焦げる、焦げる!」
弘人が慌てて声を掛けると、幸太も我に返って再び焼きそばを焼き始めた。弘人はこの時、何と声を掛けるべきか悩んでいた。幸太がまだ唯の事を想っている事も分かっている。だが復縁するのは無理だと思えるし、するべきではないと思っていた。だからこそ中途半端な事は言えず、掛ける言葉が見つからなかったのだ。
そして幸太の異変は、店内を走り回る咲良もすぐに感じ取った。注文を聞き、ドリンクを各テーブルに届けながら幸太に視線を向けると、先程まで感じられた覇気のような物が一切幸太から感じられなかったのだ。寧ろ今は悲愴感が漂っていた。
咲良はテーブルを片付けるフリをして唯の背後に立つ。
「早く帰って下さい」
小声でそう言うと、目も合わせず別のテーブルに注文を聞きに行く。
唯は少し不満そうな表情をしながら店を後にした。
それから暫くすると店内はようやく落ち着きを見せる。
「よし、交代でお昼にしようか」
楓がそう言うと、皆ほっとした表情を浮かべた。時刻は十四時を回り、まずは幸太が遅めのランチを頂く。
『二人はきっと俺に気を使ってくれてたんだな』
人目のつかないバックヤードで、まかないのカレーを口に運びながら幸太は弘人と咲良のやり取りを思い出していた。
あの時は仕事中であり、忙しかった為、あまり考えずに済んだが、今こうして休憩していると嫌でも色々な事が頭をよぎる。
『俺と唯は終わったんだ。あいつが何処で誰と何しようとあいつの勝手だろ?俺には何も言う権利なんかないんだ』
何度も自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。だが心が全くついて来なかった。いつの間にかカレーを食べる手も止まり、溢れる涙が頬を伝って行く。
「……このままじゃ駄目だ」
暫く俯いていた幸太だったが、自らを奮い立たせるように立ち上がると店内に戻る。
「あれ?もう食べ終わった?」
楓が不思議そうに問い掛けると、幸太は目を伏せながら首を振った。
「いえ、ちょっと暑さにやられたかもしれません。全然食べれなくて。少し外で煙草吸って来てもいいですか?」
「ええ、いいわよ。暫くは落ち着いてそうだし」
楓が優しく微笑みながらそう言うと、幸太は会釈し、外にある喫煙所へと歩いて行った。喫煙所に着くと持っていた電子煙草をセットし口に咥える。自分は何をしているのか?自分はどうすればいいのか?煙を吐き出しながら虚無感に襲われ幸太は佇んでいた。
幸太はため息をつき、何気なしに周りを見渡すと、こちらを見つめている女性がいる事に気が付く。女性は浜辺で日傘をさしながら幸太の方を見つめているように思えた。少し距離があり、はっきりと顔が見えた訳ではなかったが、その雰囲気や風貌から先日幸太が唯にフラれ、ベンチに腰掛けていた時に声を掛けてくれたあの女性だと気が付いた。
しかしあの時の女性だと気付いても、今の幸太は自分から何か行動に移すという事が出来ずにただただ立ち尽くしていた。
すると女性の方からゆっくりと歩み寄って来る。近付くにつれ、女性が微笑んでいるのは分かった。
「私の勘違いならごめんなさい。貴方に出会うのって二回目だよね?」
少し色っぽい微笑を浮かべる女性の問い掛けに、幸太は静かに頷いた。
「いや、別にしてねえって。忙し過ぎて咲良もイライラしてるだけだろ」
幸太の質問をなんとか誤魔化しながら弘人はひたすら料理を焼いていく。ひっきりなしに来る注文の多さもあって、幸太もそれ以上弘人に質問する事はなかった。
しかしひたすら注文をさばき続け、ようやく一段落しようかという時、幸太の手が止まる。
「えっ……唯?」
思わず呟いた幸太の声を聞き、弘人が慌てて振り返ると、ちょうど退席しようと席を立った唯を幸太が見つめていた。
唯を見つけてしまい幸太が茫然自失となっていると、焦げたソースの匂いが立ち込めてくる。
「こ、幸太!焦げる、焦げる!」
弘人が慌てて声を掛けると、幸太も我に返って再び焼きそばを焼き始めた。弘人はこの時、何と声を掛けるべきか悩んでいた。幸太がまだ唯の事を想っている事も分かっている。だが復縁するのは無理だと思えるし、するべきではないと思っていた。だからこそ中途半端な事は言えず、掛ける言葉が見つからなかったのだ。
そして幸太の異変は、店内を走り回る咲良もすぐに感じ取った。注文を聞き、ドリンクを各テーブルに届けながら幸太に視線を向けると、先程まで感じられた覇気のような物が一切幸太から感じられなかったのだ。寧ろ今は悲愴感が漂っていた。
咲良はテーブルを片付けるフリをして唯の背後に立つ。
「早く帰って下さい」
小声でそう言うと、目も合わせず別のテーブルに注文を聞きに行く。
唯は少し不満そうな表情をしながら店を後にした。
それから暫くすると店内はようやく落ち着きを見せる。
「よし、交代でお昼にしようか」
楓がそう言うと、皆ほっとした表情を浮かべた。時刻は十四時を回り、まずは幸太が遅めのランチを頂く。
『二人はきっと俺に気を使ってくれてたんだな』
人目のつかないバックヤードで、まかないのカレーを口に運びながら幸太は弘人と咲良のやり取りを思い出していた。
あの時は仕事中であり、忙しかった為、あまり考えずに済んだが、今こうして休憩していると嫌でも色々な事が頭をよぎる。
『俺と唯は終わったんだ。あいつが何処で誰と何しようとあいつの勝手だろ?俺には何も言う権利なんかないんだ』
何度も自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。だが心が全くついて来なかった。いつの間にかカレーを食べる手も止まり、溢れる涙が頬を伝って行く。
「……このままじゃ駄目だ」
暫く俯いていた幸太だったが、自らを奮い立たせるように立ち上がると店内に戻る。
「あれ?もう食べ終わった?」
楓が不思議そうに問い掛けると、幸太は目を伏せながら首を振った。
「いえ、ちょっと暑さにやられたかもしれません。全然食べれなくて。少し外で煙草吸って来てもいいですか?」
「ええ、いいわよ。暫くは落ち着いてそうだし」
楓が優しく微笑みながらそう言うと、幸太は会釈し、外にある喫煙所へと歩いて行った。喫煙所に着くと持っていた電子煙草をセットし口に咥える。自分は何をしているのか?自分はどうすればいいのか?煙を吐き出しながら虚無感に襲われ幸太は佇んでいた。
幸太はため息をつき、何気なしに周りを見渡すと、こちらを見つめている女性がいる事に気が付く。女性は浜辺で日傘をさしながら幸太の方を見つめているように思えた。少し距離があり、はっきりと顔が見えた訳ではなかったが、その雰囲気や風貌から先日幸太が唯にフラれ、ベンチに腰掛けていた時に声を掛けてくれたあの女性だと気が付いた。
しかしあの時の女性だと気付いても、今の幸太は自分から何か行動に移すという事が出来ずにただただ立ち尽くしていた。
すると女性の方からゆっくりと歩み寄って来る。近付くにつれ、女性が微笑んでいるのは分かった。
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