夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

文字の大きさ
45 / 62

二人きりの旅行⑥

しおりを挟む
 叶が隣の部屋に移り暫く経ったが、幸太は一人眠れずにいた。

 駄目だ寝れそうにないな……叶さんは寝たのか?話し掛けてみるか?――。

 幸太がそんな事を考えていると隣から子供が走る様な足音と笑い声が聞こえてきた。

「昼間の子供かな?元気だな。いいな無邪気で、俺なんか上手く行ってるかどうかも分からずリゾートホテルまで来て悩んでんのに」

 足音や笑い声を遮る様に幸太は頭から布団を被る。
 だが再び子供の足音と笑い声が響いてきた。

「……元気だな、もう十一時も回ってるのに。少しぐらい親も注意してくれたらいいのに、俺は今人生の岐路に立たされて悩んでるんだぞ」

 幸太が一人呟き笑っていたが足音や笑い声は止む気配は全くなかった。
 そんな時幸太がふと気付いた。足音や笑い声が大き過ぎる。それにこの部屋は角部屋であり、音がする方向には他の客室や廊下はなかった。あるとすればこの部屋の中に入った所にある小さく短い廊下だ。
 そう考えればこの騒音の大きさも理解出来る。だがそれは同時に、この部屋に自分と叶以外に子供が入って来ている事を意味している。

 それに気付いた瞬間、幸太の背筋がゾクリとして、全身に鳥肌が立つ。自分を落ち着ける様にゆっくりと呼吸をすると、震える声をひそめて叶に呼び掛けた。

「か、叶さん、起きてますか?……叶さん……」

 幸太の呼び掛けに少し遅れてゆっくりと襖が開いた。

「起きてるよ、君が夜這いしてきたらどうしようかと思ったら眠れなくて」

「えっ?いや、そんな……」

 叶がえも言われぬ笑みを浮かべると、幸太は更に戸惑いを見せる。

「ふふ、冗談だよ、ごめんごめん。怖かった?そりゃ怖いか。そこで待ってて、私は私にしか出来ない事しなきゃいけないからさ」

 叶は笑みを浮かべて立ち上がると、廊下に通じる襖を開けた。そのまま部屋の廊下に出ると出入口とは反対の方へと歩んで行く。

「やっぱり君か。何してるの?お姉ちゃんはね慣れてるからまぁ平気なんだけど、あっちのお兄ちゃんは慣れてなくてさ――」

 叶の優しい声が響く。幸太は呆気に取られていたが、気になり廊下を覗くと、叶がしゃがみ込んで笑顔を作りながら一人で話し込んでいた。この時、幸太には見えない何かがそこにはいて、叶はそれに話し掛けているのだろうという事は何となく理解した。

「これが心霊現象ってやつか……」

 幸太は呟き何かに話し掛けている叶を見つめる。そこには子供を撫でる様な仕草をしながら笑顔を浮かべる叶の姿があった。
 何故かこの時、幸太の中では恐怖よりも安堵の気持ちの方が大きかった。

「別に怖くなかったですよ。驚いただけです……」

 そう小さく呟くと、急に眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。
 どれ程眠ってしまったのか分からなかったが気が付くと叶に優しく起こされていた。

「幸太君、そんな所で座ったまま寝てたら体おかしくなるよ。お布団行かなきゃ」

 寝ぼけながら周りを見渡すと、まだ暗く部屋は静まり返っていた。

「ああ、何時?」

「今は夜中の三時過ぎ。さぁ布団で寝ないと」

「ああ、うん。叶さんは?」

「私ももう寝るよ勿論。君が寝てくれないと私は安心して寝れないからさ」

「……どういう意味ですか?」

「ふふふ、さぁいいから早く寝よ」

 笑顔で促され布団に移ると幸太はすぐに眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...