夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人きりの旅行⑦

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 翌日。

 幸太が目を覚ますと隣の部屋とを隔てる襖は既に全開に空いており、隣の部屋では叶が椅子に腰掛けぼんやりとスマートフォンを見ていた。
 幸太が寝ぼけながら、そんな叶を見つめていると、叶も幸太が起きた事に気付く。

「おはよう。そろそろ起こそうかと思ってた所だったんだけど起きたんだね。とりあえず顔ぐらい洗って来る?」

「ああ、うん、そうするよ」

 まだ少し眠い眼を擦りながら、幸太は洗面所へと行き、顔を洗い歯磨きをしながら昨夜の事を思い返していた。
 まだ少し寝ぼけてはいるものの、昨日の夜、姿は見えなかったが叶が子供の霊と話しをしていたのは確かな筈だった。

 部屋に戻ると、叶はいつの間にか幸太の部屋に来て座っていたので幸太はその横にそっと腰を下ろした。

「叶さん、昨日の事なんだけど――」

「うん、わかってるよ。ちゃんと話すつもりだから。実はね――」

 そこまで叶が話し出した時、部屋の扉をノックする音が響いた。

「あっ、丁度いいかも。君はそこで大人しく座っててくれる?」

 そう言って叶は立ち上がると、部屋の出入口の方へと歩いて行き扉を開けた。

「お邪魔しても大丈夫ですか?」

「ええ勿論、お待ちしてました」

 叶が丁寧にお辞儀し客人を招き入れると、如何にも高級なスーツに身を包んだ初老の男性が叶に続いて入って来た。
 男性は幸太に気付くとにこやかな笑みを浮かべて軽く会釈する。

「どうも、お邪魔でしたかな?」

「えっ?いえいえそんな事ないです、大丈夫です」

 幸太が慌てて手を振り頭を下げると、そんな様子を見ていた叶がくすくすと笑いながら間に入る。

「岡田オーナー、こちら私の友人の倉井幸太君です。今回霊感のない人にも影響があるのか協力してもらったんです。幸太君、こちらこのホテルのオーナーの岡田さん。今回岡田オーナーの御厚意で部屋と食事を無料で提供して頂いたの」

「あ、そうだったんですか、あんなに豪華な食事まで、ありがとうございます」

 再び幸太が頭を下げて感謝を伝えると、岡田オーナーは照れくさそうに頭を振った。

「いやいや、こちらが鬼龍さんに変な依頼をしたんだから出来る限りおもてなしするのは当然の事です。それで依頼した件はどうでしたか?」

 岡田オーナーが神妙な表情で叶の方へ向き直ると、叶は口元に指を添えて僅かに笑みを浮かべると静かに一度頷いた。

「御依頼の件ですが、事前にお話頂いた通りこの部屋にはやはり子供の霊がいました。ただこちらの施設で亡くなったとかではなく、何処か別の場所で亡くなり、生前訪れて楽しかった思い出のあるこのホテルにやって来てしまった様ですね。まぁ浮遊霊の一種です。昨日話を聞いていたら満足したのか何処かへ行ったのでもう大丈夫だとは思いますが、数日は一応様子見して下さい」

 叶がそう言って深々と頭を下げると、岡田オーナーは手を叩いて喜び、同じくこちらも頭を下げた。

「おおそうですか、それはありがとうございました」

「いえいえ。ただ私は祓った訳ではないので今後もまだ出没するようであれば、一度ちゃんとした方に来て頂いた方がいいかもしれません。その時は言って頂ければ腕は確かな知り合いの方を紹介します」

「そうですか、まぁその時はまたお願いします。では数日様子を見て、大丈夫そうならご指定の口座に今回の代金振り込ませて頂きます。ではあまり長居するのも何なんでこの辺で失礼させて頂きます」

 そう言って岡田オーナーは立ち上がると柔らかな笑みを浮かべて去って行った。二人残され、幸太は呆気に取られた様にきょとんとした表情を浮かべ、叶はそんな幸太を見て優しく微笑む。

「ごめんね幸太君、君には何も伝えてなくて。今回のが私のもう一つの仕事。まぁ私には霊を祓ったりする力は無いんだけどさ、霊と会話を重ねていくのが私のやり方。それと君に来てもらった理由は二つ。一つはさっきも言ってたように霊感のない君にも感知出来る霊なのか気になったから。そしてもう一つは幸太君に知っていてほしかったから。私と一緒にいたらこんな心霊現象なんか日常茶飯事で起こるって事を……嫌になった?」

 儚い笑みを浮かべて微笑む叶を見つめ幸太が叶の手を取る。

「嫌になる訳ないじゃないですか。俺は叶さんの事を知れて嬉しかったんだから」

「私は性格悪いよ、君の事試す様な事したんだし」

「そんな事ないです、俺に教えてくれたんでしょ?こんな事がこれからも起こるって。叶さんの傍にいれるんなら俺は全然平気だから」

「……そっか、じゃあちゃんと返事しなきゃ駄目だね」

 そう言うと叶は近付きなめまかしい笑みを浮かべると、そっと幸太の頬を撫でた。気付けば互いの息が触れ合う程まで近寄っていた。

 叶はそのまま幸太の首に腕を回すと笑みを浮かべたままそっと目を閉じ、幸太はすぐさま唇を重ねた。
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