夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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海女②

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「叶さん、なんか変な方向に話が進んでませんか?」

「そうね、でも何か黒いモヤの正体に近付けるかもしれないし」

 幸太が不安になり叶に問い掛けたが、叶は苦笑いを浮かべながらも引き下がる様子は見られなかった。

「でも――」

「ああ、お姉ちゃん会ってもいいってよ」

 幸太が尚も不安を口にしようとした時、男性の電話が終わり叶に話し掛けてきた。
 幸太は仕方なく口を噤み、叶と男性のやり取りを見守る。どうやら電話の相手はこの街ではなく、幸太達が住む街に住んでいるようで、明日の夕方に面会の約束を取り付けたようだった。
 幸太と叶は男性に深々と頭を下げるとサーフショップを後にする。

「叶さん、明日は俺バイトだし、夜からなら一緒に……」

「ああ明日は一人で大丈夫よ。先方には夕方で約束してるんだし明日は私だけバイト早めに上がらしてもらうから。何、心配してくれてるの?それとも妬いてるのかな?」

 あえて笑って明るく問い掛ける叶だったが、幸太は苦笑いを浮かべながら小さくため息をついた。

「いや、なんて言うか不安なんだって。叶さん、旧校舎の時も一人で行動して危ない目にあったし、なんか嫌な予感がして」

「……心配してくれてありがとう。だけど中途半端に終わらせたくないの。君に心配掛けたくはないんだけどさ、乗り掛かった船ってやつかな。幸太君や弘人君や咲良ちゃん、それに楓さんや海の家に悪い影響が出る前に黒いモヤの正体を突き止めたくてね」

「ああそうなんだ、ありがとう。でもやっぱり不安で――」

 それでも尚幸太が不安を口にすると叶が電柱の陰に幸太を引っ張り込んだ。幸太は突然の事に目を丸くさせ困惑していたが、叶はキョロキョロと周りを素早く見渡し、誰の目もない事を確認するとそのまま幸太に抱きつきキスをする。
 突然の事に幸太は驚いていたが、すぐに叶の腰に手を回し身体を支えた。

 数秒後、叶は離れると頬を少し赤らめながらやや照れた様に俯き語り掛ける。

「私、本当は人目のある所でこんな事しないんだけど今回は特別ね。もし何かあったらすぐに連絡するからそんなに心配しないで。それとちょっとゆっくりと話したいし喫茶店か何処か入らない?」

「えっ、ああ、うん。じゃあちょっと近くにある喫茶店探してみるよ」

 幸太も少し戸惑いながらスマホを取り出し喫茶店を検索し始める。幸い徒歩十分圏内に喫茶店が数件あり、そのうちの一つに二人は向かう事にした。

 喫茶店に着いた二人は向かい合わせにゆっくりと腰掛ける。

「さっきはごめんね、驚いた?迷惑だったかな?だって幸太君がいつまでも納得してくれないからさ」

「いや、迷惑な訳ないって。少し驚いたけど、あの、もっとどんどん来てくれても――」

「だから普段はしないって」

 幸太がにやけながら言うと、叶はすぐさま遮り拗ねるように顔を逸らした。そんな叶からそこはかとなく漂うツンデレ感を感じ、幸太は更に笑みがこぼれてしまう。

「君は何をニヤニヤしてるの?」

「あっ、いや、叶さんとちゃんと付き合えたんだなって思うとつい嬉しくて」

「ふう、君がそうやって素直に伝えてくれるから私ももう着飾らなくていいやって思えて楽なんだけどね」

 そうやって二人は会話を重ね楽しい時間を過ごしていく。

「ねぇ幸太君、君には言っとかなきゃいけないって思ってるんだけどね。今回のホテルでの子供の霊みたいに心霊現象に関する依頼があったりするの。主にネットからの依頼なんだけどね、それで生計立てながら全国をふらふらしてるんだけどさ、だから場合によっては暫く会えなかったりもするかもしれないんだ」

「えっ、じゃあついて行くって」

「ついて行くって君には君の生活もあるでしょ?バイトとかもあるし大学だってあるんだしさ」

「いやまぁそうだけど……」

「私と付き合ってその辺疎かにされたくないからさ。まぁ大学はあと少しだとは思うけど……私の事もこれからゆっくりと知ってもらわないといけないかな」

「それは勿論」

 幸太が力強く頷くと、叶は妖艶な笑みを浮かべながらじっと見つめていた。
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