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海女⑦
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自室で頭を抱えていた幸太はついに部屋を飛び出した。
外は既に風が吹き荒れ、横殴りの雨が幸太の体に打ちつけ、嵐の様相を呈していた。
傘さしても邪魔になるだけだな――。
幸太はそのまま自転車に跨ると、力強くこぎ始める。そのまま自転車をこぎ進めて十五分程で叶のマンション前まで辿り着いた。
幸太はびしょ濡れのままマンションのエントランスまで行くが、そこでオートロックの扉が立ち塞がり呆然と立ち尽くしてしまう。その横にある管理人室に目をやると中では白髪混じりの初老の女性が帰り支度をしながら幸太を訝しんだ目で見つめていた。
幸太は少したじろぎながらも笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄る。
「あのすいません。このマンションに住む鬼龍叶さんに会いたいんですが」
「このマンションは女性専用で男の人は立ち入り禁止だよ」
警戒するように女性が冷たく言い放つが、それでも幸太は笑顔で頭を下げ続ける。
「あ、それは聞いてるんですがこちらに住む鬼龍叶さんと連絡が取れなくて、帰ってるかどうかだけでも確認させて頂きたいんです」
「……あんた名前は?」
「あ、すいません、自分は倉井幸太って言います」
「倉井さんね……倉井、倉井」
幸太の名前を聞き、女性はパソコンの画面を見つめながら何かを調べ始める。やがて女性はため息をついて幸太を見つめた。
「あんたの名前、連絡先や保証人の中には入ってないね。残念だけどあんたには何も教えてやれないよ」
「えっ、そんな……せめて鬼龍さんが帰ってるかだけでも――」
「そんな人はいないって言ってるんだよ!いても教えてやれないね!どうしても知りたけりゃ警察でも連れて来るんだね!そうすればいくらでもあんたの探偵ごっこに付き合ってあげるよ」
「俺は探偵ごっこなんかしてるんじゃなくて――」
「ああもう、私は帰る所なんだよ!この天気のせいで残業までしてるのに、これ以上天気が酷くなったら帰れなくなるじゃないか!また明日にしておくれ」
管理人の女性はそう言って幸太を残し、さっさと一人で立ち去ってしまった。エントランスに一人残された幸太は途方に暮れる。
ああどうしたらいい?どうすれば叶さんと連絡が取れる?……叶さん、無事だよな?――。
そう思い、幸太がスマートフォンを取り出し見つめる。叶に送ったメッセージはいまだ既読すら付かないままだ。
そんな画面を見つめ、幸太が小さくため息をついた時、突然弘人から着信が入った。
幸太は慌てて電話に出る。
「も、もしもし」
「おう、幸太。なんだ家じゃないのか?」
「いや、ちょっと出てて」
「こんな日に何してんだよ?」
「いやまぁいいだろ。それで何だ?何かあったのか?」
「ああ、いや、この前心霊系の動画配信の奴が海に来てただろ?」
そう言われて幸太が振り返る。確かにバイトの休憩中、叶から旅行に誘われた時、その後バイトに戻った時に楓と咲良が海岸を見つめながらそんな話をしていたのを思い出す。
「ああなんかいたな」
「さっきそいつらの動画がたまたま流れて来て見てたんだけど、後ろの方に叶さんらしき人が映ってたからお前に聞いてみようと思ってよ」
思わぬ話に幸太は暫く言葉を失った。
「えっ?叶さんが?その動画何時のだよ?」
「確か時間は今日の十九時ぐらいになってたんじゃないか?動画じゃ暗くなって海がもう荒れ始めてたからな。気になるんなら今からお前に動画送るから見てみろよ」
「おう助かる。すぐに送ってくれ」
「おう分かったよ」
やがて弘人から動画が送られて来るとすぐに動画を確認する。
動画内では男が一人立ち、荒れた海を指さしながらやたら興奮しながら喋っていた。
そんなくだらない動画を見始めて十分が経過した頃、男の後方に叶らしき人物が海を見つめて佇んでいるのが映っていた。
間違いない叶さんだ――。
画面は暗く遠いアングルだった為はっきりとは映ってなかったが、幸太には確信めいた自信があった。
動画は荒れる海のライブ中継と言って一時間程前に上がっていた物だった。
って事は一時間ぐらい前には叶さんは海にいたって事か?――。
どんどんと荒れてくる天気の中、幸太は必死になって海に向かって自転車を走らせる。
外は既に風が吹き荒れ、横殴りの雨が幸太の体に打ちつけ、嵐の様相を呈していた。
傘さしても邪魔になるだけだな――。
幸太はそのまま自転車に跨ると、力強くこぎ始める。そのまま自転車をこぎ進めて十五分程で叶のマンション前まで辿り着いた。
幸太はびしょ濡れのままマンションのエントランスまで行くが、そこでオートロックの扉が立ち塞がり呆然と立ち尽くしてしまう。その横にある管理人室に目をやると中では白髪混じりの初老の女性が帰り支度をしながら幸太を訝しんだ目で見つめていた。
幸太は少したじろぎながらも笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄る。
「あのすいません。このマンションに住む鬼龍叶さんに会いたいんですが」
「このマンションは女性専用で男の人は立ち入り禁止だよ」
警戒するように女性が冷たく言い放つが、それでも幸太は笑顔で頭を下げ続ける。
「あ、それは聞いてるんですがこちらに住む鬼龍叶さんと連絡が取れなくて、帰ってるかどうかだけでも確認させて頂きたいんです」
「……あんた名前は?」
「あ、すいません、自分は倉井幸太って言います」
「倉井さんね……倉井、倉井」
幸太の名前を聞き、女性はパソコンの画面を見つめながら何かを調べ始める。やがて女性はため息をついて幸太を見つめた。
「あんたの名前、連絡先や保証人の中には入ってないね。残念だけどあんたには何も教えてやれないよ」
「えっ、そんな……せめて鬼龍さんが帰ってるかだけでも――」
「そんな人はいないって言ってるんだよ!いても教えてやれないね!どうしても知りたけりゃ警察でも連れて来るんだね!そうすればいくらでもあんたの探偵ごっこに付き合ってあげるよ」
「俺は探偵ごっこなんかしてるんじゃなくて――」
「ああもう、私は帰る所なんだよ!この天気のせいで残業までしてるのに、これ以上天気が酷くなったら帰れなくなるじゃないか!また明日にしておくれ」
管理人の女性はそう言って幸太を残し、さっさと一人で立ち去ってしまった。エントランスに一人残された幸太は途方に暮れる。
ああどうしたらいい?どうすれば叶さんと連絡が取れる?……叶さん、無事だよな?――。
そう思い、幸太がスマートフォンを取り出し見つめる。叶に送ったメッセージはいまだ既読すら付かないままだ。
そんな画面を見つめ、幸太が小さくため息をついた時、突然弘人から着信が入った。
幸太は慌てて電話に出る。
「も、もしもし」
「おう、幸太。なんだ家じゃないのか?」
「いや、ちょっと出てて」
「こんな日に何してんだよ?」
「いやまぁいいだろ。それで何だ?何かあったのか?」
「ああ、いや、この前心霊系の動画配信の奴が海に来てただろ?」
そう言われて幸太が振り返る。確かにバイトの休憩中、叶から旅行に誘われた時、その後バイトに戻った時に楓と咲良が海岸を見つめながらそんな話をしていたのを思い出す。
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「さっきそいつらの動画がたまたま流れて来て見てたんだけど、後ろの方に叶さんらしき人が映ってたからお前に聞いてみようと思ってよ」
思わぬ話に幸太は暫く言葉を失った。
「えっ?叶さんが?その動画何時のだよ?」
「確か時間は今日の十九時ぐらいになってたんじゃないか?動画じゃ暗くなって海がもう荒れ始めてたからな。気になるんなら今からお前に動画送るから見てみろよ」
「おう助かる。すぐに送ってくれ」
「おう分かったよ」
やがて弘人から動画が送られて来るとすぐに動画を確認する。
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