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海女⑧
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十九時過ぎ――。
叶は海を見つめて佇んでいた。
『流石に人も殆どいないか。まぁこの天気だもんね。幸太君にも連絡しなきゃ、心配してるかな?』
叶がそんな事を考えながら周りを見渡すと、遠くの方では男性数名が動画を撮りながら騒いでいた。
『ふぅ、何あれ?前にこの辺で見かけた動画配信の人達かな?もう動画配信者には関わりたくはないよね』
叶は笑みを浮かべつつ振り返り歩き出した。そしてそのまま海の家の前に立つ。普段は外にあるテーブル等は出しっぱなしになっているが今は強風に備えて全て仕舞われ、シャッター等も完全に降りていた。
『あの黒いモヤの正体って……あれ?』
叶が立ち尽くしたままぼんやりと考えていると誰もいないと思っていた海の家の中から人の気配を感じた。少し戸惑ったが入口の扉をノックする。しかし何の反応もなかった。
それでも叶は気になりもう一度ノックすると呼び掛けてみる。
「すいません、誰かいますか?」
すると暫くして扉が開き楓が顔を覗かせる。
「叶ちゃん?何してるの?」
「あ、いや、ちょっと……楓さんこそ何してたんですか?」
「私は色々飛ばされないように対策してたんだけどね。とりあえず中に入って、このままだと扉が壊れちゃうわ」
強風に煽られガタガタと揺れる扉を抑えながら楓が笑って言うと、叶も苦笑いを浮かべながら中へと入って行く。
シャッターが下ろされ、窓の遮光カーテンも閉められていた為外からは気づかなかったが海の家の中は小さな明かりをつけて楓が食事していた様で、テーブルには食べかけの食事が置かれていた。
「すいません、楓さんご飯食べてたんですね」
「ああ、帰ってからまた作ったりするのも面倒だったからここの残り物で済ませようと思ってね。タオル持って来てあげるから叶ちゃんも座ったら?」
「ああすいません大丈夫ですから」
「駄目よ、女の子なんだから身体冷やしちゃ」
そう言って楓は奥からタオルを持ってくると叶に手渡した。叶は申し訳なさそうに頭を下げるとびしょ濡れになった髪をタオルで拭き始める。
楓は更に温かい珈琲をいれて叶の前に置いた。
「身体冷やしちゃう前にこれでも飲んで。こんな天気の中、傘もささずに何してたのよ?」
「いや、こんな天気だから傘さしても意味無いかなって思いまして」
出された珈琲を頂き、軽く会釈しながらそんな事を言って叶は眉尻を下げる。
その後軽く雑談を重ねると、叶は神妙な面持ちで楓を見つめた。
「ふぅ、楓さん、一ついいですか?」
「……何あらたまって?まぁいいわよ」
「実は私、十数年前に行方不明になった羽生蛇崇さんについて調べてたんです。そしたら彼のご友人から『あいつは海の家に入り浸ってた』と聞いたんですよ。楓さん、以前私が行方不明になった人がいるんですよね?って聞いた時『そうみたいね、私は全然知らないけど』っておっしゃいましたよね?咲良ちゃんから楓さんは以前からここでバイトとして働いていたって聞いてるんですが、それなら羽生蛇崇さんの行方不明の事、全然知らないなんて不自然じゃないですか?本当は知ってるんじゃないんですか?彼の事」
楓は叶の話を表情を変える事なく何も言わずに聞いていた。そして叶の話が終わると小さなため息をつき、微かに口角を上げる。
「……そっか、そこまで調べたんだ……じゃあ折角だし話してあげようか、私と彼の話を」
そう言って楓がニヤリと笑う。
叶は海を見つめて佇んでいた。
『流石に人も殆どいないか。まぁこの天気だもんね。幸太君にも連絡しなきゃ、心配してるかな?』
叶がそんな事を考えながら周りを見渡すと、遠くの方では男性数名が動画を撮りながら騒いでいた。
『ふぅ、何あれ?前にこの辺で見かけた動画配信の人達かな?もう動画配信者には関わりたくはないよね』
叶は笑みを浮かべつつ振り返り歩き出した。そしてそのまま海の家の前に立つ。普段は外にあるテーブル等は出しっぱなしになっているが今は強風に備えて全て仕舞われ、シャッター等も完全に降りていた。
『あの黒いモヤの正体って……あれ?』
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それでも叶は気になりもう一度ノックすると呼び掛けてみる。
「すいません、誰かいますか?」
すると暫くして扉が開き楓が顔を覗かせる。
「叶ちゃん?何してるの?」
「あ、いや、ちょっと……楓さんこそ何してたんですか?」
「私は色々飛ばされないように対策してたんだけどね。とりあえず中に入って、このままだと扉が壊れちゃうわ」
強風に煽られガタガタと揺れる扉を抑えながら楓が笑って言うと、叶も苦笑いを浮かべながら中へと入って行く。
シャッターが下ろされ、窓の遮光カーテンも閉められていた為外からは気づかなかったが海の家の中は小さな明かりをつけて楓が食事していた様で、テーブルには食べかけの食事が置かれていた。
「すいません、楓さんご飯食べてたんですね」
「ああ、帰ってからまた作ったりするのも面倒だったからここの残り物で済ませようと思ってね。タオル持って来てあげるから叶ちゃんも座ったら?」
「ああすいません大丈夫ですから」
「駄目よ、女の子なんだから身体冷やしちゃ」
そう言って楓は奥からタオルを持ってくると叶に手渡した。叶は申し訳なさそうに頭を下げるとびしょ濡れになった髪をタオルで拭き始める。
楓は更に温かい珈琲をいれて叶の前に置いた。
「身体冷やしちゃう前にこれでも飲んで。こんな天気の中、傘もささずに何してたのよ?」
「いや、こんな天気だから傘さしても意味無いかなって思いまして」
出された珈琲を頂き、軽く会釈しながらそんな事を言って叶は眉尻を下げる。
その後軽く雑談を重ねると、叶は神妙な面持ちで楓を見つめた。
「ふぅ、楓さん、一ついいですか?」
「……何あらたまって?まぁいいわよ」
「実は私、十数年前に行方不明になった羽生蛇崇さんについて調べてたんです。そしたら彼のご友人から『あいつは海の家に入り浸ってた』と聞いたんですよ。楓さん、以前私が行方不明になった人がいるんですよね?って聞いた時『そうみたいね、私は全然知らないけど』っておっしゃいましたよね?咲良ちゃんから楓さんは以前からここでバイトとして働いていたって聞いてるんですが、それなら羽生蛇崇さんの行方不明の事、全然知らないなんて不自然じゃないですか?本当は知ってるんじゃないんですか?彼の事」
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そう言って楓がニヤリと笑う。
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