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ある夏の出会いと別れ④
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その後自我を失い呆けた様になっている楓に見切りをつけ、叶は倒れた幸太の元へ駆け寄った。
「幸太君大丈夫?」
まだ全身を縛られ身動きの取れない幸太を抱き起こすと口を閉じているテープをゆっくりと剥がす。
「か、叶さん、俺は大丈夫だから。叶さんは?」
全身を縛られ自由を奪われ、頭からも血を流しながら大丈夫だと言う幸太を、叶は笑みを浮かべながら力いっぱい抱き締める。
「私は平気だって。君はそんな状態で何が大丈夫なのよ……また私のせいでこんな怪我まで負わせちゃったね……」
そう言って幸太を抱き締めたまま、叶は肩を震わせる。
「そんな叶さんのせいじゃないって。ひとまずこの紐切ってくれないかな?じゃないと不便でしょうがなくて」
幸太が苦笑いを浮かべながらそう言うと、叶は幸太を優しく寝かせてゆっくりと立ち上がる。
「ふふふ、確かにそうだね。ちょっと待ってて、その紐切れそうな物探してくるから」
そう言って叶は目元を拭うと奥の方へ駆け出して行き、暫くするとカッターナイフを片手に戻って来た。
「あったよ、お待たせ」
叶は手にしたカッターナイフで幸太を縛っている紐を丁寧に切っていく。
紐を切り終えて、ようやく全身の自由が戻った幸太はすぐさま叶を抱き締めた。
「叶さん、よかった無事で」
「ありがとう、君のおかげで私は今回も助かったよ」
そう言って叶も力強く幸太を抱き締めると、「痛っ」と言って幸太が体を硬直させる。
驚いた叶が思わず手を離すと、幸太は背中を押さえながら苦笑いを浮かべた。
「ははは、ごめん、殴られた背中がまだちょっと痛くて。でも大丈夫だからもう一回」
そう言って幸太が再び抱きつくと、次は叶が笑みを浮かべながら優しく抱き締める。
「全然大丈夫じゃないじゃん。さっきカッターナイフ取りに行った時に警察と救急には連絡しといたからもうすぐ助けも来るよ。だからそれまで横になってたら?」
「それなら尚更こうしてたいって……楓さんはどうなった?」
「あの人はもうここにはいないよ。あそこで座ってるのは楓さんの姿をした抜け殻。楓さんの魂は羽生蛇崇さんが連れて行ったから」
そう言って二人は、座ったまま定まらない視線で空中を見上げるだけの楓を静かに見つめていた。
「どうなるんだろう明日から」
幸太がぼそりと呟くと、叶がゆっくりと両手で幸太の頭を包み込む。
「君はそんな事考えなくていいって。今は何も考えずにゆっくり休んで」
そう言われ幸太は叶に身体を預けた。
先程までの殺伐とした雰囲気は消え去り、二人に静かな時間が訪れる。
やがて警察の緊急車両や救急車が到着し、二人の静かな時間は終わりを告げ、荒れた天気と共に騒がしさが増していく。
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