主人公にはなりません

negi

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俺はまたゲームの内容を思い出した。
ゲーム内での女子生徒達からの陰湿ないじめや嫌がらせの数々を。

攻略対象者はみんな、貴族の中で高位の者たちばかりな上に美形ぞろいだった。学園内での人気はものすごく、そんな彼らが平民の男子生徒に夢中なのだから面白くないに決まっている。言葉の暴力や持ち物を隠されたり、壊されたりは当たり前。人を雇って誘拐や暴行といった過激な事までまかり通っていた。

ゲームではアイテムやら色々使ってかわしたり、やり直したり出来たけど
現実に自分に降りかかった時のことを考えると恐ろしさしかない。

ナタリーの目はゲーム内の女子生徒達が主人公を見るまなざしに良く似ていた。

オルトが抱きしめた俺の背中を優しくさすってくれている。
俺にはいつも優しいオルト。俺は、彼の気持ちに薄々気付いていた。前世の記憶が戻って浮かれていた俺はそれを見て見ぬふりをしていた。オルトに好意を持っているナタリーがそれに気づかないはずがない。

いつの間にかナタリーはいなくなっていた。
俺はずっと前からナタリーに憎まれ続けていたんだと思う。

「キリ、怖かったよな。次は絶対俺が守るから。」
「オルト、ありがとう。俺、いつもお前に助けられてばかりだ。12歳にもなって
もっとしっかりしないといけないのに。もう大丈夫。...ごめん。」

卑怯な俺は彼の顔を見ることが出来ないまま小声で謝ることしか出来なかった。

                 ◇◇◇

夕食はのどを通りそうもなかったので、そのまま休ませてもらった。
布団の中で今後の対策をどうするかを考えていた。
とにかく学園に行ってはダメだ。貞操どころか命が危ない。記憶によれば孤児の俺が学園に行くことになるきっかけは浄化魔法の使い手なのが判明したからだ。確かこの世界で浄化魔法使いはかなり希少な存在で100年~200年に1人とかだったはず。

主人公はどうして浄化魔法を使えるようになったんだっけ?
早くゲームを始めたくてオープニング飛ばし気味に見てたから記憶が曖昧だよ。

「キリ、眠れないのかい。」
「ごめん。起こした?昼間横になっていたから目が冴えちゃって」

2段ベッドの下側に2人一緒に寝ているからか寝ていないのに気付かれてしまった。
オルトが黙ったままじっと見ている。何だろう。何か言いたいことがあるのかな。
彼は少しだけ躊躇うように口を開いた。

「ナタリーに、俺のことが好きだと言われたことがある。」
「えっ、そ、うなんだ。なんて、答えたの?」
「好きな人がいるから無理だ、と」

俺は何も言えなくなってしまった。こういうのどうしたらいいんだ。

「今日、キリが男に襲われているのを見て、ものすごく嫌だった。
頭に血が上って思い切り奴の脇を蹴ったけど、怒りが治まらなくて...
俺はなんでキリのそばに居なかったんだって、悔しくて...」
「うん。助けてくれてありがとう。でも、戸締りするために残ったんだから...」
「俺はナタリーの仕業だと思ってる。」

俺は目を見開いてオルトを見た。ナタリーが俺に言ったこを聞いていたんだろうか。

「証拠はないけど、状況的にそうとしか思えないんだ。」

俺は、何も答えなかった。俺もそうじゃないかって思っていたから。ナタリーからの好意を知っていたオルトは自分のせいだと思って責任を感じてくれていた。オルトは少し笑顔になって、毛布を掛けなおしてくれた。

「ごめん。こんな話して。明日も早いからもう寝よう」
「うん。おやすみ、オルト」

                 ◇◇◇

翌日からオルトが俺のそばを離れなくなった。何をするのも一緒で、移動のときには肩を抱くようにして歩いた。それはナタリーの気持ちを逆なでするもので本来なら可愛い顔が憎しみに歪んでいる。

「キリ!あなたどういうつもりなの⁈ オルトに付きまとってんじゃないわよ!」
「何を勘違いしているのか知らないけど俺が自分の意思でキリのそばにいるだけだ。
ナタリーが口出しすることじゃないし...むしろ口を出すな!」

オルトがこんな強い口調で話すのを聞くのは、はじめてのことだ。
ナタリーも顔を引きつらせて固まっている。他の子達もびっくりしていて、孤児院内がぎこちない雰囲気になってしまった。

「キリ、次は講堂の拭き掃除だろ。行こう。」

優しく言ってそこから連れ出してくれるオルトに俺は黙って付いていくことしか出来なかった。オルトのあからさまな態度に困惑しながら歩いていたら誰もいない廊下でオルトが立ち止まった。すぐ横にいた俺をそっと抱き寄せて頬を髪につけてきた。

「キリ、君のことが好きなんだ。だからもうあんな事が無いように守ると決めた。
気持ちに応えてくれなくてもいい。ただ俺にキリを守らせて欲しい」
「オルト、俺は...」
「いいんだ。あんな怖い思いをした後にこんなことを言われてもまだ考えられ
ないだろう?今は俺に守らせてくれていれば、それでいいんだ。でもほんの少し
胸の片隅に覚えていてくれよ?」

オルトの言葉を聞いて胸にきゅーっ、と痛みが走る。
なんてことを言ってくれるんだ。
心臓がバクバクしていて、くっついている彼にも気づかれてしまいそう。
髪に頬をすり、としてから俺を解放したオルトは優しい笑顔で俺を見ている。

「行こう?まずは掃除道具を取りにいかないと」
「...うん。井戸に水も汲みに行かなきゃだね」

俺はまた、オルトに甘えてしまった。
でも今までとは違う自分の気持ちにも気づいていた。窓からの光を受けて先を歩くオルトの背中を見つめながら足早に廊下を移動したのだった。

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