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マリーに降りかかった呪いについて神父様の部屋で現場にいた助祭様と3人で話すことになった。マリーの首に提げられていたペンダントが呪いの現況だったらしい。
神父様が机の上に置いたそれは、湾曲した獣の牙のようなものだった。女の子たちの寝室でそれを見つけたマリーが、一緒にあった紙切れに「髪を巻く」と書いてあったため、自分の髪を2,3本抜いて巻き、首から提げたら黒い霧が出て来た、と一緒になって遊んでいた他の子が泣きながら言っていたらしい。
その紙切れとペンダントは以前ナタリーが使っていたベッドのすき間に隠されていたらしく、それをたまたまマリーが見つけて今回の事件が起きてしまった。
「すでに呪いは消滅している。君が浄化したと聞いたが...浄化魔法の使い手は
ここ80年余り発現されていない。キリ、君はいつから開花していたんだね。」
「開花したのはついさっきだと思います。マリーに呪いの印があるのがはっきり
見えて、頭の中に祈りの言葉が浮かんできました」
浄化魔法を使うところを見られてしまったから隠しておくことはできない。
俺の返事に神父様と助祭様が目配せして頷き合っている。
「キリ、素晴らしいスキルを開花したね。これで問題なく君を伯爵家に推薦することができるよ。本当に喜ばしいことだ」
「伯爵家?どうして、推薦って...」
「先日慰問にお見えになったコルネリアス様が君の魔法能力は期待できると仰って、ぜひ迎え入れたいとのお申し出があったのだよ。ハイデン家にはこの教会も多大な援助を頂いていますから、水魔法のスキルだけでなく浄化魔法まで開花したとお聞きになればとても喜んでいただけますよ。良かったですね」
全然よくない!なんでそんな話になるんだよ!たった一度の慰問で目を付けられるなんて...でもこれが断れないものだという事もわかっていた。貴族に望まれて拒否できるはずがない。
どうしよう...やっぱりゲームの強制力が働いてしまっているんだろうか。
このまま伯爵家に行ったら俺は一生あの鬼畜子息のいいようにされてしまう。
以前俺を襲った男の「恥ずかしい所を見られるのが好きなの?」というセリフを吐いたのはコルネリアスなんだよ!奴は氷の貴公子なんて呼ばれてたけど、執着体質な上に鬼畜な性癖でスチル画像も過激なものが多かった。
ここはゲームの世界だから、どんなに頑張っても逃れることは出来ないのか……。
「浄化魔法を開花したことは伯爵家に迎えられるまで隠しておくように。とても希少なスキルだからあまり知られると良くないこともある。これは君のためでもあるから必ず守るように。いいね」
神父様に念を押されて部屋から出された。
閉まりかけた扉のむこうで「これで更に...上乗せが...」というような言葉が聞こえたけれど、他の事に意識を向けることなんて出来ず、その場を離れた。
◇◇◇
俺は手紙を書いた。もちろんオルトにあてて。
浄化魔法の事は書かずに、すぐに会いたいとだけ書いた。
普段手紙は教会の事務員に渡して出してもらうのだけれど、この手紙は渡さない。
あれから俺は見張られているようで、常に大人が近くに居るし外への買い出しにも出してもらえなくなった。手紙は小さくたたんで出口門に続く石壁沿いを通る時に、
誰にも気づかれないようにすき間に差し込んだ。前にオルトが会いに来てくれた時、助けが必要になった場合の連絡方法として決めておいたんだ。
オルトは俺が窮地に陥ることがわかっていたんだろうか?
◇◇◇
そして俺は窮地に陥っていた。
「緊張しているのか?大丈夫、少し話をするだけだ。それにしても君は細いな」
「どうかご容赦ください。私は孤児です。お隣に座るなど...「私が許可している。構わない」
俺は今、来賓室のソファーでコルネリアス様の隣に座り腰に手を回されていた。
コルネリアス様はさっきから俺の頬や首筋を撫でたり、髪に指を通したりしている。
その度にぞくりと背中に怖気が走り、体が震えてしまう。
「フフッ。どこに触れても反応するなんて君は感じやすいな。そのエメラルドの様な瞳も気に入った。もっとちゃんと見せてくれ」
違うんだよ。嫌なんだよ。勘違いするな!
そんな心の声は届くはずもなく、顎に指がかかり上を向かされる。
つかまれた顎にかかる親指に下唇を押されて口が開いてしまう。
コルネリアス様の顔が近づいてきた。
「コルネリアス様、まだ、困ります。今日のところはご遠慮ください」
「ふん。まあいいだろう...。明日も来る。例の話もその時だ」
神父様のおかげで解放されたけど、神父様、「まだ」ってどういうこと⁉
つかんでいた顎をするりと撫でて、コルネリアス様は護衛を伴って帰って行った。
明日も来るって言っていた。どうしよう...孤児の俺には抵抗する術はない。
俺が恐れていた事が現実になろうとしていた。
神父様が机の上に置いたそれは、湾曲した獣の牙のようなものだった。女の子たちの寝室でそれを見つけたマリーが、一緒にあった紙切れに「髪を巻く」と書いてあったため、自分の髪を2,3本抜いて巻き、首から提げたら黒い霧が出て来た、と一緒になって遊んでいた他の子が泣きながら言っていたらしい。
その紙切れとペンダントは以前ナタリーが使っていたベッドのすき間に隠されていたらしく、それをたまたまマリーが見つけて今回の事件が起きてしまった。
「すでに呪いは消滅している。君が浄化したと聞いたが...浄化魔法の使い手は
ここ80年余り発現されていない。キリ、君はいつから開花していたんだね。」
「開花したのはついさっきだと思います。マリーに呪いの印があるのがはっきり
見えて、頭の中に祈りの言葉が浮かんできました」
浄化魔法を使うところを見られてしまったから隠しておくことはできない。
俺の返事に神父様と助祭様が目配せして頷き合っている。
「キリ、素晴らしいスキルを開花したね。これで問題なく君を伯爵家に推薦することができるよ。本当に喜ばしいことだ」
「伯爵家?どうして、推薦って...」
「先日慰問にお見えになったコルネリアス様が君の魔法能力は期待できると仰って、ぜひ迎え入れたいとのお申し出があったのだよ。ハイデン家にはこの教会も多大な援助を頂いていますから、水魔法のスキルだけでなく浄化魔法まで開花したとお聞きになればとても喜んでいただけますよ。良かったですね」
全然よくない!なんでそんな話になるんだよ!たった一度の慰問で目を付けられるなんて...でもこれが断れないものだという事もわかっていた。貴族に望まれて拒否できるはずがない。
どうしよう...やっぱりゲームの強制力が働いてしまっているんだろうか。
このまま伯爵家に行ったら俺は一生あの鬼畜子息のいいようにされてしまう。
以前俺を襲った男の「恥ずかしい所を見られるのが好きなの?」というセリフを吐いたのはコルネリアスなんだよ!奴は氷の貴公子なんて呼ばれてたけど、執着体質な上に鬼畜な性癖でスチル画像も過激なものが多かった。
ここはゲームの世界だから、どんなに頑張っても逃れることは出来ないのか……。
「浄化魔法を開花したことは伯爵家に迎えられるまで隠しておくように。とても希少なスキルだからあまり知られると良くないこともある。これは君のためでもあるから必ず守るように。いいね」
神父様に念を押されて部屋から出された。
閉まりかけた扉のむこうで「これで更に...上乗せが...」というような言葉が聞こえたけれど、他の事に意識を向けることなんて出来ず、その場を離れた。
◇◇◇
俺は手紙を書いた。もちろんオルトにあてて。
浄化魔法の事は書かずに、すぐに会いたいとだけ書いた。
普段手紙は教会の事務員に渡して出してもらうのだけれど、この手紙は渡さない。
あれから俺は見張られているようで、常に大人が近くに居るし外への買い出しにも出してもらえなくなった。手紙は小さくたたんで出口門に続く石壁沿いを通る時に、
誰にも気づかれないようにすき間に差し込んだ。前にオルトが会いに来てくれた時、助けが必要になった場合の連絡方法として決めておいたんだ。
オルトは俺が窮地に陥ることがわかっていたんだろうか?
◇◇◇
そして俺は窮地に陥っていた。
「緊張しているのか?大丈夫、少し話をするだけだ。それにしても君は細いな」
「どうかご容赦ください。私は孤児です。お隣に座るなど...「私が許可している。構わない」
俺は今、来賓室のソファーでコルネリアス様の隣に座り腰に手を回されていた。
コルネリアス様はさっきから俺の頬や首筋を撫でたり、髪に指を通したりしている。
その度にぞくりと背中に怖気が走り、体が震えてしまう。
「フフッ。どこに触れても反応するなんて君は感じやすいな。そのエメラルドの様な瞳も気に入った。もっとちゃんと見せてくれ」
違うんだよ。嫌なんだよ。勘違いするな!
そんな心の声は届くはずもなく、顎に指がかかり上を向かされる。
つかまれた顎にかかる親指に下唇を押されて口が開いてしまう。
コルネリアス様の顔が近づいてきた。
「コルネリアス様、まだ、困ります。今日のところはご遠慮ください」
「ふん。まあいいだろう...。明日も来る。例の話もその時だ」
神父様のおかげで解放されたけど、神父様、「まだ」ってどういうこと⁉
つかんでいた顎をするりと撫でて、コルネリアス様は護衛を伴って帰って行った。
明日も来るって言っていた。どうしよう...孤児の俺には抵抗する術はない。
俺が恐れていた事が現実になろうとしていた。
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