お兄ちゃんは妹の推しキャラに転生しました

negi

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 休学していた生徒のほとんどが復帰した頃、アリスターも無事編入試験に合格して学園で過ごせるようになった。本来の彼はやはり優秀で、復帰後の学力試験で学年トップに躍り出て周りを驚かせていた。
 成績優秀なうえに被害者の彼を生徒会が支援していた事も後押しして、アリスターが生徒会の役員に選ばれるのは自然な流れだったと思う。

 明るく勤勉な彼は先輩達の好感度も高く、いつも周りに厳しいクラレンスも彼には柔らかな態度で接しているように感じる。そんなアリスターにイサイアスとインファントはライバル意識を持っているようで少々当たりが強い。
 クラスでも身分の低いアリスターに対してきつく当たる生徒もいるらしい。

 でもそれってまるでゲームを再現されているような展開なんだよな。もしもそうならアリスターは誰ルートなんだろう。



 その日はたまたま移動途中に生徒会室の前を通った。廊下の角を曲がって目に入って来たのは殿下の後を追って生徒会室に入って行くアリスターの姿だった。
 その時は気にしていなかったけれど、それから二人が一緒にいる姿を何度か見かける機会があってそれはイサイアスも見ていたらしく、ある日彼に声をかけられて入った空き教室にはアリスターがいた。どうやらイサイアスが呼び出したらしい。

「セレスティン様も見たでしょう? アリスターが殿下にすり寄っているのを。婚約者候補がいる貴族のアルファとオメガが二人きりで会うなんてどういうつもりだ?」

 青い顔をしたアリスターにイサイアスが詰め寄る。

「殿下には相談事があっただけで…」

「それは二人きりでする必要がある事なのか?」

 目の前で繰り広げられているやり取りはゲームの展開そのままなんだけど、この場合少々きつい言い方にはなっているがイサイアスの方が貴族としての常識に則っている事になる。詰め寄られたアリスターがガバッと頭を下げた。

「申し訳ありません!」

「謝るってことは自分に非がある事がわかっていて近づいたんだよね!? 生徒会役員に支援してもらった恩を仇で返すつもり?」

「イサイアス、あまり追い詰めるのは…」

 険しい表情になったイサイアスに厳しく非難されてアリスターの顔色がますます悪くなっていく。見かねて止めに入ったら今度は俺がイサイアスに睨まれてしまった。

「殿下に婚約者候補でもないオメガがすり寄っているのに、セレスティン様は気にならないんですか!?」

 正直、気にならないと言ったら噓になってしまうから言葉に詰まる。更に言い募ろうとしたイサイアスが身を乗り出したとき、俺の後ろで入口を開く音が聞こえた。

「言い争っているような声が聞こえると思ったら、あなた達ですか。何か問題事?」

入って来たのはシャーウッドだった。どうやら声が外に漏れていたらしい。彼の登場にイサイアスも流石にこれ以上言うのを止めてくれた。

「いいえ。アリスターに貴族として弁えるべきことを忠告していただけです。私はこれで失礼します」

 上級生であるシャーウッドの登場で気が削がれたのかイサイアスは教室を出て行ってしまった。残された俺とアリスターの間には気まずい空気が流れていてどうしようと思っていたら、また青い顔のアリスターが謝ってきた。

「全て私が悪いんです。セレスティン様、申し訳ありません」

「その…、貴族としての振舞には厳しい人もいるから気を付けた方がいいよ」

 どう言っていいのかわからなくて無難な言葉を返してしまった。俺達のやり取りを見ていたシャーウッドがアリスターの顔色の悪さに気付いて声をかけた。

「酷い顔色をしているよ。アリスターは休養を取った方がいいんじゃないかな。もう部屋に帰りなさい」

 小柄なアリスターを覗き込むように少しかがんだシャーウッドの長めの髪がさらりと流れてうなじが露わになった。そしてチョーカーの少し上の首筋に小さな痕を見つけてしまった。見てはいけない物に気付いてしまって慌てて目を逸らしてしまったけどあれってキスマーク、だよな?

「シャーウッド、こんな所にいたのか」

 急にイグナーツの声がして跳び上がりそうになってしまった。だってあの痕を付けた張本人だよね? ご本人の登場に動揺しているのを顔に出さない様にと思っていたのに教室に入って来たイグナーツがシャーウッドに歩み寄り腰を抱き寄せてしまった。

「時間になっても来ないから心配した。二人に用があったのか?」

「ごめん。言い争っている様な声が聞こえたから気になってしまって…」

 ……空気が甘いです。最近この二人はすっごく親密度が上がっていると思ったらもうそういう関係だったとは。お邪魔だろうからさっさとここを出た方が良さそうだな。
 そう思った俺は俯いているアリスターの腕を取り退室の挨拶をした。

「シャーウッド先輩、お気遣いありがとうございました。私はアリスターを医務室に連れて行きますのでこれで失礼します」

 戸惑うアリスターの腕を引いて教室を後にした。



 まだ少し気まずいのもあって医務室に向かって歩いている間は無言になってしまっていた。そうしたら途中で立ち止まったアリスターが申し訳なさそうに言ってきた。

「あの、私は大丈夫なので医務室ではなく自分の部屋に帰ります」

「でも、本当に顔色が悪いよ? 無理はしない方がいいんじゃないかな」

 俺のかけた言葉にアリスターの顔が苦しそうに歪んだ。

「こんなに良くしてもらっているのに…、申し訳ありませんっ。失礼します」

 泣きそうな顔で小走りに去って行くアリスターの後姿を見ていて思い至った事は、あまり考えたくないものだった。

( もしかしたらアリスターは王子攻略ルートなんだろうか? そうなったら悪役令息だった俺はどうなるんだろう… )



 自分の部屋に帰ってからも上手く考えが纏まらなくて、久しぶりに吸収していたノートを出した。そこにはこの国の滅亡を回避するために必死で思い出したゲームの内容や攻略対象者について書かれている。

 ( そういえば、シャーウッドはイグナーツと結ばれたようで良かったな )

 実は高位貴族の伴侶は純潔を求められていると言っても家同士が公認の婚約者の場合は想いが通じ合えば関係が進むのはよくある事なのだ。
 だって家公認の仲なのだ。よっぽどの事でもない限り伴侶になる相手でしかも両想いなら結ばれたいと思うのは普通の事だし、男性オメガはヒートの時以外での性交で妊娠することはほぼ無いと言われているから、何というか、安心なのだ。
 だからと言ってゲームの主人公みたいに婚約者候補でもない相手と関係が進んでしまうのは貴族としては有り得ない事だ。プレイしていた時は攻略を進める事しか考えていなかったけど、あれはゲームならではの仕様なんだと今ならわかる。
 色々思い出していたらゲームの艶っぽいスチルが浮かんできて、ガゼボで殿下に押し倒された事を思い出してしまった。

( わ~っ! 何思い出してんの俺! でもあの時はびっくりして…… あれ? )

 確かあの時殿下は陛下に俺の事を報告していると言っていた。もちろんセレスティンの実家の公爵家も殿下との仲は公認な訳で、一応、その、両想い、だと思うから…。
 つまり俺は、あの時関係を進めたかった殿下を拒んでしまった事になるんだろうか?


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