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34 寝室で

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 目が覚めて、最初に感じたのは喉の痛みだった。

「ぐ、ごほっ、ごほっ、はぁ、は、」

 咳き込む俺の背中を隣にいたジークハルトが身体を起こして優しくさすってくれる。

「起きれるかい? 水を飲ませるよ」

 水を注ぐ音が聞こえて抱き起されて口移しで飲まされた。ひりつく喉を潤して、するりと喉を通るレモン水はほのかな甘さもあるから蜂蜜が溶かされているのかもしれない。もう一度唇が重なって続けて飲ませてもらって随分楽になった。

「ん…、ジ、ク、ハルト、さ、ま…」

「大丈夫かい? 身体、辛いだろう?」

 コップをベッド脇の台に置いたジークハルトに聞かれてぼんやりしていた頭がはっきりしてくる。そうしたら色々と思い出してきて愕然とした。

( そうだ、ヒートが来て。あんな、淫らな言葉でジークハルト様に強請って… )

「申し、訳、ありません。 う、痛っ」

 申し訳なさに身体を離そうとしたけど節々が痛くて上手く動けない。特に腰の痛みが酷い。やらかした事を思い出して落ち込んでいたら肩を抱いているジークハルトがもう片方の腕も回して抱き寄せてこめかみにキスをしてすまなそうに謝って来た。

「すまない。手加減が出来なかった。身体の痣が消えるまでは休養して欲しいと思っている。本当にごめん」

( 身体の、あざ? …って、うわっ、なんだこれ?! )

 着ているガウンから出ている手首にくっきりと握った手形がついている。もしかして腕や足も同じような状態なんだろうか? 

 唖然と自分の手首を見ていたら、ジークハルトの指が労わるように痣を辿りそっと持ち上げて唇が優しく触れてから離れていく。

「身体は拭いたけど、目が覚めたならお風呂に入らないか? その間に食事を用意してもらおう」

 そう言って頬にキスをしてからベッドを下りたジークハルトが続いて下りようとしていた動きの鈍い俺を腕を伸ばして抱き上げてしまった。

「ジークハルト様? 自分で歩きますから…」

「ん~…多分、無理だと思うよ?」

 困り顔で縦抱きにしていた俺をそっと下ろしてくれたのだけど、自分の足で立とうとしたら全く力が入らずカクンと膝から崩れ落ちそうになってジークハルトの腕に縋りつくことになってしまった。少しかがんで抱き直してくれたジークハルトが小さく笑っている。

「私のせいでこうなってしまったんだから甘えてくれると嬉しいな」

 子供のように縦抱きにされてそのまま脱衣所まで連れて行かれた。そこでソファーに座らされてしゅるりと腰紐を解きガウンを開かれてしまって、他に何も身に着けていないから慌てて前を隠したんだけど露わになった自分の身体は凄い事になっていた。

 握ったような指の痕は手首以外に足首や膝裏からのもの、太腿、二の腕にもあって、なにより体中キスマークだらけで所々歯型もある。呆然と見下ろしていたらジークハルトが膝をついて謝ってきた。

「改めて見ても酷い…。本当にすまない。セレスからのおねだりが可愛すぎて自制が全く出来なかった。実は行為の前に強い抑制剤を追加で飲んだんだ。けれどあんなに可愛い君の媚態を前にしたらほとんど意味がなかったよ。危うく最奥まで突き入れて注いでしまいそうだった。言い訳になってしまうがそれを我慢した反動で力が入ってしまったんだと思う」

「な、な、何を言っているんですか?!」

 ジークハルトが余りにも恥ずかしい事をべらべらと喋り出すから羞恥できっと顔が真っ赤になっている。なのにジークハルトは止まらない。

「素直に私を求めてくれる君は本当に凶悪な可愛いさだったんだ。独り占めしたくて身体に付けてしまった色々も…、申し訳ない気持ちはもちろんあるんだよ? けれど、満足している自分もいるんだ。すまない…」

( え? それって所有印付けた的な? 普段は王子様然としているくせにそんなエロ、いや、イカガワシ、…どう言ってもダメだな… )

 告白された内容には驚いたけど、いつも大人びて落ち着いているジークハルトがこんな風に項垂れている姿は珍しい。なんだか可愛いなと思ってしまったらさっきまでの羞恥心も薄れてきた。

「元はと言えば私の突然のヒートが原因です。私から強請って、その、して、もらったので…。巻き込んでしまい申し訳ありません」

 こちらからも謝ったらジークハルトが立ち上がり、抵抗する間もなくガウンを剥ぎ取ってすくい上げるように抱えられて浴室に連れて行かれた。
 一人で立てない俺を支えてシャワーを浴びてから横抱きにされて湯船に浸かる。入浴剤が入れられているようでお湯が白濁していて身体が隠れるのがありがたい。温かいお湯が酷使された身体を優しく包んでくれる。
 その気持ち良さにほぅっと息が漏れて身体の力を抜いたところで、ここまで無言だったジークハルトが話しはじめた。

「巻き込んで…、と君は言ったけどそれは少し違うな。セレスはもう私のものだろう? だから本当に私が側にいる時で良かった。今まで薬は効いていたんだよね?」

 唇をついばんで濡れて顔にかかった髪を耳にかけてくれたジークハルトに聞かれて、改めて思い返してみてもあんな風になったことは記憶にないと思う。

「今まで薬はちゃんと飲んでいましたし、あんなことは初めてです」

「そうか…こちらでも調べてみよう。…あぁ、項が酷い事になっている。噛みたくて何度も吸い付いてしまったからチョーカーの周りが痕だらけだ」

「か、嚙みたくてっ? 痕だらけって…」

「ヒートがきたセレスの可愛さを知ってしまったから卒業するまで噛めないのが辛い。早く番にしてしまいたい」

 そう言ってキスをしてくるジークハルトに抱きしめられてヒートは終わった筈なのに身体が反応してしまう。

「んぅ、ん、ジークハルト様…」

「様は要らない。ジークでもハルトでも君の好きなように呼んで欲しいんだ」

 ヒートの間は呼び捨てにしていた記憶がある。唇を吸いながら懇願されてそれを許される特別が嬉しくて、甘く強請られたら応えてしまう。

「ん、ジーク、好き、」

「セレス! 嬉しいっ。愛してる!」


 流石にもう出来ないしのぼせてしまうから早々に湯船がら上がり身体を洗って着替えたら立てない俺はジークハルトに抱えられてベッドに運んでもらった。




「食事を運んで貰うから少しだけ待っていて?」

 俺をベッドに下ろして背もたれにクッションを当ててくれてからジークハルトが寝室を出て行った。

 一人になってポフっとクッションに埋まった時だった…


『 運命の番だね! おめでとう~!! 』

「うわっ?! な、なんだって?」

『 だ・か・ら~、二人の愛情ゲージがМAXになって王子とあなたは運命の番になったの! その瞬間は抑制剤なんか効かないのよ~ん! うふふふ~ 』

「…それであんな。まさかもう薬は効かないのか?」

『 それは最初だけだから安心して~。やっぱりサプライズは必要だからね! 』

「いやいらないから。運命の番になったらどうなるんだ?  ……切れた」

 相変わらす唐突で心臓に悪い。久しぶりだったから余計にびっくりした。脱力して背もたれのクッションに後頭部を預けたら溜息が出てしまった。


「セレス、誰と話していたんだ? まさか、女神様のお告げか?」

 声をかけられてビクッとして顔を向けた視線の先には困惑した表情のジークハルトとその後ろに食事を乗せたワゴンを押してきたヒューイも立っていた。



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