村に勇者が来た

negi

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 夕食後のお茶の時間に俺の話を聞いてもらう事になって、また作戦会議用テントのソファーに4人で座っている。今回は俺とダグラス様、クライド様とグレゴール様に分かれて座り、要点を書き出したものを見ながら話を聞いてもらった。

全てを報告すると少し考えこんでからクライド様が口を開いた。

「ご両親を亡くされた時君は何とか助けたいと強く願ったのではないか? 魔力紋が発現する前にも命を懸けても誰かを守りたいと思った瞬間はなかったかい? 魔力紋はそんな強い想いに反応する。そういう気持ちを持てる人間でなければ魔力紋を持ち続けることは出来ない」

 12歳のカイは確かに両親が助かって欲しいと願った。そして俺はダグラス様に振り下ろされた刃を見て絶対傷ついて欲しくないと...その想いによって発現したという事なのか? でも…

「宝玉で召喚されなくても勇者なのですか? 私にそんな力は無いと思うのですが」

「魔力に関してはこれからの頑張り次第かな。魔力紋はね育っていくものなんだよ。見てごらん」

クライド様がいつもしている白い手袋を外した。現れた両手は魔力紋が全体に刻まれ、長袖の下の両腕の肩まで続いているらしい。魔力紋が広がるほど魔力も多く、強くなると言う事はクライド様の強さはどれ程なのだろう。

手袋をつけ直しながらまた少し考えているようだったクライド様が調べてみなければわからないが、と前置きをしてから

「召喚を失敗した事があったと聞いた覚えがあるんだ。それが君の事なんじゃないかと思ってね。向こうで死んでいるなら転移してくる体は無いわけだから魂だけ召喚された。そして強い想いに反応して記憶と魔力紋が発現して今に至る。どうだい、なかなかに名推理だと思わないか? まあ、それは追々調べるとして…カイ、君は間違いなく勇者だ。魔力紋は勇者にしか発現しないんだよ」

 断言したクライド様にダグラス様とグレゴール様も頷いている。

俺が勇者…まるで実感がない。これからどうすればいいんだ? 魔獣の討伐なんて出来そうもないし、元勇者の2人よりも役立たずな気がする。俺は縋るように横に座るダグラス様を見上げて聞いた。

「私はこれからどうすればいいと思いますか? 勇者になってしまうとダグラス様の侍従にしてもらえないのでしょうか?」

「ぶはっ、侍従って…ダグラスお前いつの間に…」

「グレゴール、煩い。…カイ様、あなたは勇者です。勇者は王族の次の身分になりますから侯爵と同等の立場となります。私の侍従にというお話はお忘れ下さい」

 余りにも衝撃的な答えに息が出来なくなって喉の奥がひくりと鳴った。感情は乱れてぐちゃぐちゃで目の前がどんどん滲んでいく。どうして? 俺は、俺は、

「俺、は…っ。ダグラ、ス様、ひっく、お仕えして、ずっと、お傍に…ううっ」

「カイ⁉ いや、カイ様、なぜ泣いてっ…?」

「あーー、ダグラス。私たちは外すから、カイくんが泣き止むまで一緒にいなさい。まったく、今のは君が悪いと思うよ?ほら、グレゴール、行くよ!」

クライド様に言われてグレゴール様も一緒にテントから出て行ってしまった。


ダグラス様が俺の肩を抱いて取り出したハンカチで涙を拭いてくれる。
感情の高ぶりが収まって来ると今度は羞恥で顔が上げられない。ここのところ色々あり過ぎて不安定になっていたとはいえ子供のように泣いてしまうなんて恥ずかしい。

「あの、取り乱してしまい、申し訳ありません。もう大丈夫です。顔を洗ってからお2人を呼んできます…っ⁉」

「君はそうやって言いたいことを飲み込んできたのか? 誰にも頼らずに、ずっと…」

ダグラス様が俺を思い切り抱きしめている。苦しげな声に腕の中から見上げると、額に優しく唇が触れて離れていった。え? 今、キス⁈ ダグラス様が? びっくりしていたら今度は目尻に唇が触れ残った涙を拭っていく。

「えっ⁉ ダグラス様? あ…っ」

「今は君の方が身分が上だ。嫌なら命令すればいい…」

「そんな⁉ で、出来ません!」

「なら涙の訳を私は都合よく解釈させてもらうよ。今までは強制になるからと我慢していたからね」

そう言ってダグラス様の唇が耳たぶを食み頬をたどり唇に触れる寸前で「君が愛しいよ、カイ」とつぶやいてから重なって来た。大きな手が後頭部にあって逃がしてくれない。触れた唇を数度ついばんでから一度離れて青紫の瞳が俺を見ている。
信じられなくて、でも嬉しい。

「好き、ダグラス様、好きです…んぅっ」

また重なってきた唇はすぐに深い交わりになって息が苦しい。胸も苦しくてまた新たな涙が浮かぶと気付いたダグラス様がちゅっと吸い取りまた唇に戻ってきた。

「んん、はぁ、ダグラス、様っ」

「カイ、君の気持も聞けて嬉しいよ。かわいい、カイ」

唇がちゅっとリップ音をたててから離れていく。力が抜けてしまって胸に凭れて息を整えている俺の肩や背を大きな手が撫でながら時折髪に唇が触れてくるのがわかって多幸感で胸がいっぱいになる。ダグラス様が頬に触れ俺の顔を上げさせて目を合わせて言った。

「身分が変わっても私は君の側を離れるつもりはないんだよ。覚悟してくれ」

「はい。嬉しいです」

 俺の返事に笑ってもう一度キスをしてから一緒に立ち上がった。俺が泣き出してしまった為中断してしまった話の続きをする為に俺はお茶の準備を、ダグラス様は席を外してくれた2人を呼びに行った。


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