異世界で神子になりまして

negi

文字の大きさ
72 / 89

72 法律よりも

しおりを挟む
 マーカスの実家の領地への転移が成功して遠方への転移が正式に認められた。
俺が戻ってきた時、転移陣の部屋にいた貴族のほとんどが要職に就いている人物だったらしい。陛下もその場にいたことも含めて、全てはニスカーナンの仕業だ。

 それならさっそく荒れた領地に向かおうと思っていたのに、暫く休むようにと陛下とニスカーナンから連絡が来た。今までものんびりしていたんだから働きたいと言ったら、エドとリックからも止められてしまった。

 「何かあってからでは遅いですから」

「心配なのです。私たちを安心させるためにも休養してください」

 俺が消えかけたトラウマを持つ二人からそう言われると聞くしかなくて、数日はまったりのんびりと過ごした。



 休養明けにはニスカーナンに時間を取ってもらい、司祭も交えて傷もちへの差別についての話合いをすることになった。司祭は高齢だからと話合いの場を神殿にしてもらったら、その申し出に感激した司祭が俺の姿を見てまた泣きだした。
 今回出迎えはしないように伝えていたので、膝をつかれても毛足の長い絨毯の上だったのがせめてもの救いだ。本当に神殿関係者の俺に対する情緒を何とかして欲しい。


「アキラ様、法律を作るよりも「御触れ」として出してみてはどうでしょう?」

 司祭もなんとか落ち着いて、最初に話を切り出したのはニスカーナンだった。

「御触れ?」

「はい。アキラ様のお言葉として国民に御触れを出すのです」

 法律の場合、差別する気持ちを持ったまま渋々従う者や、守らない者も出る。それでは差別が無くなったとは言えない。
 でも、御触れとして俺の名前で出せば、法律より効果があるという。

「アキラ様の人気は高まっております。一部では絶大と言っても良いでしょう。そのアキラ様からの御触れですから何よりも効果があります」

「王宮だけでなく、神殿からも同時にアキラ様のお言葉として発表しましょう。私どもがいくら説いても駄目でしたが、アキラ様のお言葉なら国民に届きます!」

 司祭までがそう言ってくれるけど、俺の言葉でそんなに効果があるんだろうか?
でも司祭はもの凄くやる気だ。

「護衛のお二人の傷跡を消した経緯も是非とも盛り込みましょう。今まで魔獣の傷跡を消せた話など聞いたことがありません。まさに奇跡の御業ですから!」

「あぁ、そういえば、エドとリック以外の傷跡も消せたよ。その話も今日しようと思ってて…」

 俺の報告にニスカーナンと司祭が揃って目を瞠り絶句している。それほどありえない事なのだろう。やっぱりあの家族には口止めしておいて正解だったかな。


「…もしやそれはベスティンという元貴族の男性ですか? 傷の治療だけでは無かったのですか?」

 先に立ち直ったニスカーナンが聞いてきた。本当になんで知っているんだろうねぇ。

「顔にも傷を負っていたんだ。消したのは顔の傷跡だけだよ」

 ベスティンの傷跡については元々この話合いで報告するつもりだった。だって他にも消せる可能性のある人がいるかもしれないじゃん。そんな人を見かけたらきっとまた俺は止められても傷跡を消すと思う。だから先に知らせておくことにしたんだ。


「顔の傷…。確かに隠せない場所の傷跡だけでも消せればかなり救われますね」

「ですが、アキラ様。護衛のお二人以外の傷跡がなぜ消せたのですか? 」

 司祭に聞かれて、ニスカーナンもこちらを見ているから、ベスティンの傷跡を消した経緯を説明することにした。
 最初は傷の治療と浄化だけしたら、やっぱり傷跡が消えずに残ったことも話した。
でもそこに魔獣から庇った娘のレジーナが来て、事態が変わった。

「傷跡に触れている母子の指が光って見えて、それで消せるって思ったんだ」

 消したいと強く思う二人に、足りない魔力だけ補助して傷跡を消したことを説明したけど、これで理解してもらえるんだろうか? でもニスカーナンは何度か頷いていて…

「やはり条件は同じなのですね」

「今の説明でわかったの?」

「ええ、護衛の二人の時と同じではないですか」

エドとリックの時?
 
首を傾げていたら俺の後ろに立っている二人が誇らしげに言った。

「そうです。アキラ様の愛で私の傷跡は消えました」

「傷跡が消えたのはアキラ様からの愛情の証なのです」

ああああ、そうだった! あの時自分でも妙に納得したじゃん。
でも改めて言われると恥ずかしいんだけどぉ!!


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

処理中です...