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零限目 初トウコウ
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「うっ」
女の子の呻く様な声を、耳にした気がした。目を覚ました私は、硬く冷たい長椅子を背にしていたらしかった。コンクリ剥き出しで生命感の無い灰色の天井を、しばらくボーっと見上げていた。
あまり意識がハッキリとしない中、首をそっと左右に振る。左にはやはり天井から伸び下がる冷たい壁があり隅の方には掃除用らしきロッカーがあり、右側にはボロボロに錆びた鉄の扉があった。四畳半くらいの広さのこの部屋は、刑務所の独房を思い起こさせた。
「んんっ」
長椅子から上半身を起こすと、今度はちょっと喘ぎ気味な――その――言うなればエッチな感じの女の子の声を耳にした。
けど声の主を探す前に――サラサラっと黒くて艶のあるキメ細かな極細のカーテンが視界に入って来た。それらが自分の髪だと気付くのに二十秒くらいかかる中、なんでこんなに髪が伸びたのだろう? 未だにボーッとする頭を抑えつつも、頭の痛みを軽減しようと、顎を引いて顔を下へ向ける。
「!」
あ、赤く可愛いリボンが首元に付いた女子の制服と白のブラウスが視界に飛び込んでくる。ふくよかで丸っとした胸が二つ、私の呼吸に合わせて上下した。
止まりそうな呼吸のまま、目は逃げるみたく下半身へと下りてゆく。短い紺色のスカートから、肌のきめ細かい二本のしなやかな足が、ニョキっと生え出ていた。
「え? あ? な、に?」
私の気持ちを代弁するみたく、当惑する女の子の声は、けど虚しく灰色のコンクリへ吸い込まれた。
おそるおそる、違和感のある細い両手で胸の出っ張りに触れると、柔らかく、そして温かかった。しかも痛くないということは、腫れているとかでは無さそうだった。
……えと、なんで私が女の子の制服なんて着ているんだ? いや、それ以前にこの細くて無毛で、綺麗な足と腕は?
動悸が加速する中、恐る恐るベッドから降りると、冷たく固い感触が黒の靴下を貫通して足裏へ広がる。一瞬、床で何かが光ったため拾い上げると、鏡の破片みたいだった――。
「へっ?」
破片を持つ指が青くなる。だ、だってそこには、同い年くらいの、つまり高校一年くらいの女の子の顔が写っていたから。
しかも目鼻立ちは通っていて、唇は赤くぷっくりしており、頬と顎の線は細く、どちらかと言うと美形の部類と言えた。奇妙なのは、何となく見覚えがあったことだけど、どういうわけか、ハッキリと思い出せない。
ズキン。
――っ。無理に思い出そうとすると、なぜか頭の奥が軋むみたいに痛んだ。
「うっ」
破片を遠ざけて身体全体を映すと、体格の割に胸とお尻が大きく思えた。そのアンバランスさが――何と言うか、男好みな感じもした。
ドクン。
何より、この見たことのある様で無い制服は、スカートの丈が股下二十センチメートルくらいと、極端に短かかった。女子校なら可愛いと言えなくもないけど、共学だったらちょっとエッチ過ぎる。
ドクン、ドクン。
……驚異的で脅威的な目の前の真実は、私から逃げ場を奪っていく。だ、だって、位置的に、鏡に映っているの、って。
「私、なの――あはは。嘘、だよ、ね?」
そう言うと、鏡の中の女の子は、その可愛い顔をどんどんと歪めていく。大きな目を見開き、柔らかな頬を引きつらせ、綺麗な肌を青くしていった。
カシャン。小さな鏡の破片は床に落ちて砕け、暗く狭い部屋の中でキラキラと輝いた。過剰に働く心臓をを抑えようと服の上から胸を押す。
グニュリ。乳房が柔らかに変形し、ほんの微かな電気的刺激に、肌が泡立つ。震える指で鉤爪を作って襟元へ引っ掛け、制服の中を覗き込む。ピンク色のノーマルなブラが、弾力のありそうな谷間を人知れず作っていた。
「ひっ、あ」
両手を股間へ伸ばし、汗ばむ指でスカートの裾をそっと捲り上げる。ブラと同系色のピンク色の、小さな赤いリボンが付いているオーソドックスな下着が覗く。
「な。ぅ、えっ?」
喉がカラカラで息が、息ができないっ。短いスカートを戻し、その上から股間をそっと抑えると、硬い股関節に手が触れる。
「な、ぃ?」
急に頭の血が少なくなったかと思うとベッドへ倒れ込みかける。固くて冷たく石の椅子みたいで、柔らかで温かい私の身体を、カチリと受け止めるだけだった。
再び天井を喘ぎ、いや仰ぎつつ。
「なん――ゴクリ――私が?」
飯沼祐希が、なんで、女の子、なの――? ありえない……何かの間違いだ。
そうだ携帯、携帯は? 貧血気味の頭を抑えつつ、部屋の隅にあったロッカーを開けた。中はかび臭く、さらに見たくもない害虫の死骸が散見された。折れたほうきや赤く汚れたバケツ、何か錠剤が入っていたっぽい薬瓶? なんかで、役には立たないものばかりだった。
「病気? 人体改造?」
未だに女体を受け入れられない私は、こめかみを抑えて、ここへ来るまでの経緯を思い出そう試みる。
けれども――。
「だ、めだ。何にも、思い出せな、い」
名前以外、何一つ脳裏をよぎらない。
お父さんやお母さんと言った存在はわかるけど、顔や名前、そして友達やら親戚や、生まれ育った街や好きな音楽すら、何一つ。例えるなら、霞がかった川辺の向こうに浮く対岸の輪郭が、薄目でぼんやりと見えそうで見えない感じだった。
――そもそも人生なんて過去と現在そのものじゃないか。その過去たる記憶が全く頼りなく、また現在で唯一確信できるのは、違和感しかない女の身体だなんて、どうしろって言うんだ。
「私、は」
自分の物とは思えない、思いたくない指で頬に触れる。柔らかで温かく、またスベスベしていた。
その一方、この冷たく硬い、生気の無い部屋だと、私の方に違和感を覚える。
全ての事実に打ちひしがれるみたく視線をまた落とす。ふんわりで生命感にあふれる胸が視界の半分を埋めて、その奥には綺麗で細い脚が見え隠れし、ますます自信を失う。
「と、と、とにかくここから出ないと――」
考えを何一つまとめられない上、急に閉所恐怖症を患ったみたく、唯一の鉄の扉のその向こうへと助けを求めた。
……あるいは、この狭くて暗くて臭い世界で、永遠にジッとしていた方が、幸せだったのかもしれなかった。
ググッ。
手に力を込めて押す程度では、開きそうになかった。
「んっ、しょ!」
右肩を冷たい扉へ当てて、体当たりするみたく力を込める。
グニニィ――柔らかいこの身体が、力作業に向いていないことなんて分かっていたけど、それでも顔を真っ赤にして力む。どうにかこうにかやっかむと、気味の悪い鈍い悲鳴みたく蝶番が叫んだ。
ギギイィーッ。
扉が開き、始まってしまったのだった。……狂気と邪悪と情欲に満ち満ちる、学校探索が。
女の子の呻く様な声を、耳にした気がした。目を覚ました私は、硬く冷たい長椅子を背にしていたらしかった。コンクリ剥き出しで生命感の無い灰色の天井を、しばらくボーっと見上げていた。
あまり意識がハッキリとしない中、首をそっと左右に振る。左にはやはり天井から伸び下がる冷たい壁があり隅の方には掃除用らしきロッカーがあり、右側にはボロボロに錆びた鉄の扉があった。四畳半くらいの広さのこの部屋は、刑務所の独房を思い起こさせた。
「んんっ」
長椅子から上半身を起こすと、今度はちょっと喘ぎ気味な――その――言うなればエッチな感じの女の子の声を耳にした。
けど声の主を探す前に――サラサラっと黒くて艶のあるキメ細かな極細のカーテンが視界に入って来た。それらが自分の髪だと気付くのに二十秒くらいかかる中、なんでこんなに髪が伸びたのだろう? 未だにボーッとする頭を抑えつつも、頭の痛みを軽減しようと、顎を引いて顔を下へ向ける。
「!」
あ、赤く可愛いリボンが首元に付いた女子の制服と白のブラウスが視界に飛び込んでくる。ふくよかで丸っとした胸が二つ、私の呼吸に合わせて上下した。
止まりそうな呼吸のまま、目は逃げるみたく下半身へと下りてゆく。短い紺色のスカートから、肌のきめ細かい二本のしなやかな足が、ニョキっと生え出ていた。
「え? あ? な、に?」
私の気持ちを代弁するみたく、当惑する女の子の声は、けど虚しく灰色のコンクリへ吸い込まれた。
おそるおそる、違和感のある細い両手で胸の出っ張りに触れると、柔らかく、そして温かかった。しかも痛くないということは、腫れているとかでは無さそうだった。
……えと、なんで私が女の子の制服なんて着ているんだ? いや、それ以前にこの細くて無毛で、綺麗な足と腕は?
動悸が加速する中、恐る恐るベッドから降りると、冷たく固い感触が黒の靴下を貫通して足裏へ広がる。一瞬、床で何かが光ったため拾い上げると、鏡の破片みたいだった――。
「へっ?」
破片を持つ指が青くなる。だ、だってそこには、同い年くらいの、つまり高校一年くらいの女の子の顔が写っていたから。
しかも目鼻立ちは通っていて、唇は赤くぷっくりしており、頬と顎の線は細く、どちらかと言うと美形の部類と言えた。奇妙なのは、何となく見覚えがあったことだけど、どういうわけか、ハッキリと思い出せない。
ズキン。
――っ。無理に思い出そうとすると、なぜか頭の奥が軋むみたいに痛んだ。
「うっ」
破片を遠ざけて身体全体を映すと、体格の割に胸とお尻が大きく思えた。そのアンバランスさが――何と言うか、男好みな感じもした。
ドクン。
何より、この見たことのある様で無い制服は、スカートの丈が股下二十センチメートルくらいと、極端に短かかった。女子校なら可愛いと言えなくもないけど、共学だったらちょっとエッチ過ぎる。
ドクン、ドクン。
……驚異的で脅威的な目の前の真実は、私から逃げ場を奪っていく。だ、だって、位置的に、鏡に映っているの、って。
「私、なの――あはは。嘘、だよ、ね?」
そう言うと、鏡の中の女の子は、その可愛い顔をどんどんと歪めていく。大きな目を見開き、柔らかな頬を引きつらせ、綺麗な肌を青くしていった。
カシャン。小さな鏡の破片は床に落ちて砕け、暗く狭い部屋の中でキラキラと輝いた。過剰に働く心臓をを抑えようと服の上から胸を押す。
グニュリ。乳房が柔らかに変形し、ほんの微かな電気的刺激に、肌が泡立つ。震える指で鉤爪を作って襟元へ引っ掛け、制服の中を覗き込む。ピンク色のノーマルなブラが、弾力のありそうな谷間を人知れず作っていた。
「ひっ、あ」
両手を股間へ伸ばし、汗ばむ指でスカートの裾をそっと捲り上げる。ブラと同系色のピンク色の、小さな赤いリボンが付いているオーソドックスな下着が覗く。
「な。ぅ、えっ?」
喉がカラカラで息が、息ができないっ。短いスカートを戻し、その上から股間をそっと抑えると、硬い股関節に手が触れる。
「な、ぃ?」
急に頭の血が少なくなったかと思うとベッドへ倒れ込みかける。固くて冷たく石の椅子みたいで、柔らかで温かい私の身体を、カチリと受け止めるだけだった。
再び天井を喘ぎ、いや仰ぎつつ。
「なん――ゴクリ――私が?」
飯沼祐希が、なんで、女の子、なの――? ありえない……何かの間違いだ。
そうだ携帯、携帯は? 貧血気味の頭を抑えつつ、部屋の隅にあったロッカーを開けた。中はかび臭く、さらに見たくもない害虫の死骸が散見された。折れたほうきや赤く汚れたバケツ、何か錠剤が入っていたっぽい薬瓶? なんかで、役には立たないものばかりだった。
「病気? 人体改造?」
未だに女体を受け入れられない私は、こめかみを抑えて、ここへ来るまでの経緯を思い出そう試みる。
けれども――。
「だ、めだ。何にも、思い出せな、い」
名前以外、何一つ脳裏をよぎらない。
お父さんやお母さんと言った存在はわかるけど、顔や名前、そして友達やら親戚や、生まれ育った街や好きな音楽すら、何一つ。例えるなら、霞がかった川辺の向こうに浮く対岸の輪郭が、薄目でぼんやりと見えそうで見えない感じだった。
――そもそも人生なんて過去と現在そのものじゃないか。その過去たる記憶が全く頼りなく、また現在で唯一確信できるのは、違和感しかない女の身体だなんて、どうしろって言うんだ。
「私、は」
自分の物とは思えない、思いたくない指で頬に触れる。柔らかで温かく、またスベスベしていた。
その一方、この冷たく硬い、生気の無い部屋だと、私の方に違和感を覚える。
全ての事実に打ちひしがれるみたく視線をまた落とす。ふんわりで生命感にあふれる胸が視界の半分を埋めて、その奥には綺麗で細い脚が見え隠れし、ますます自信を失う。
「と、と、とにかくここから出ないと――」
考えを何一つまとめられない上、急に閉所恐怖症を患ったみたく、唯一の鉄の扉のその向こうへと助けを求めた。
……あるいは、この狭くて暗くて臭い世界で、永遠にジッとしていた方が、幸せだったのかもしれなかった。
ググッ。
手に力を込めて押す程度では、開きそうになかった。
「んっ、しょ!」
右肩を冷たい扉へ当てて、体当たりするみたく力を込める。
グニニィ――柔らかいこの身体が、力作業に向いていないことなんて分かっていたけど、それでも顔を真っ赤にして力む。どうにかこうにかやっかむと、気味の悪い鈍い悲鳴みたく蝶番が叫んだ。
ギギイィーッ。
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