人間植物収監所

ニッチ

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第1話 目覚め

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 どこか遠くで銃声が鳴ったような気がして、重い目蓋まぶたを上げる。やけに薄暗い中、視界の大半をめるのが白黒で無機質な天井だと気付くのに、一分以上かかった。

「こ、こは――?」

 えっ? 今、若い女の声がすぐ近くから聞こえなかったか? いや、とりあえずは、頭の中にあるなまりの雲みたいにぶい頭痛を、どうにかしないと。寝床が硬いのは、どうも診察台みたいな台に寝かされているみたいで、身体には白くて薄いシーツみたいなものが掛けられていた。
 ズキン。
 頭だけじゃなく、身体中のあちこちでも鈍痛どんつうがして、さらに言いようのない違和感みたいなのが気色悪かった。関係ないと思うけど、自分がさなぎみたいになって、体内の臓器なんかがドロドロになっては作り直されるという、悪夢ゆめを見たような記憶が――。
 いや、違和感だらけな目覚めだが、そもそも何も思い出せない。一体ここは? それにどんな経緯けいいで、おれはここに?

「(まずは)――起き、ないと」

 また女の声。不気味とは思いつつも、間近まぢかで、しかもあえぐみたいなその声に、少しばかり興奮を覚えそうだった。

「(とりあえず、上半身を、起こ)……して」

 バッ――ファサ。
 胸にかかっていたシーツが落ちる。上半身が視界に入って、今更ながら裸であることに気付く。

「なんで、

 ……とりあえず女の声は無視し、金属的で無機質な狭い室内にて、目線を落とす。胸の二箇所にかしょが野球ボール大くらいにふくれていて、それらの先端にピンク色の飴玉あめだまみたいなのがくっ付いていた。まるで、

「痛みはないけど――ん? 待て、よ」

 さっきからのこの女の声は、おれの心情を代弁だいべんしすぎていないか? 痛みに耐えて動かした手が触れる頬は、スベスベした瑞々みずみずしかった。おれの顔は肌が荒れている方だし、って五時間も経てば、硬いヒゲが生えてくるはずなのに。
 ドクン、ドックン。
 だんだん頭がマグマみたいに熱くなるのに、背骨の中は氷柱つららを刺し込まれたみたいに冷える感じがした。勝手に開きそうになる口を無理やり閉じながら、下半身にかかったシーツの残りをけようと、引っ掴む。
 違う、よな? 何かの、冗談だよな?

「そんな、まさか、な」

 バッ! 腕を振るって、シーツを台から落とす。
 ……細い両脚はすね毛一本も生えていなかった。太腿ももは引き締まっていて、尻からはふくらみ、骨盤こつばんは割と広かった。つまりは、おれの見知る下半身とは何もかもが、違った。
 それでもまだ、脚はあるし尻もある――けども。

「な、い?」

 。脚の付け根の股間の、黒光りする薄い陰毛の中に、あるべきはずのが!

「うそ、だよな? は、裸だったから体が冷えて、一時的に、ちぢんでいるだけとかだよな?」

 自分のとは思えない、爪がキレイな細い指先で、薄い茂みをかき分ける。たまに爪先が生え際の皮膚ひふを引っかくと、感じたことのない電気信号に、変な声がれそうになる。

「(まさ、か)あり、あり得ない。おれが――!」

 そう叫ぶと、再び鉛のような、あるいはもっと重くて暗い存在が頭蓋ずがいの中をめるみたいで、気が、遠くなりそうだった。

 * * *

 ガチャ。

「……中身、は?」

 再びの失神ブラックアウトの後、空腹とのどかわきで気を取り戻したおれは、絶望に押しつぶされる前に、やむなく行動することにした。狂わない自分をめつつも、ある意味では責めながら、狭い室内を調べた。とは言え、興味を引く物なんて、外部へのアルミ扉か細長いスチールロッカーくらいしかなかった。
 まずはロッカーをと、恐る恐る開けるに、服らしきものと拳銃が入っていた。とりあえず素っ裸ではいられない上、魅惑的な自分おんなの身体だなんて、変な気持ちになって仕方ない。急ぎそでを通す――んが。

「な、なんなんだぁ? この痴女ちじょみたいな服の衣装デザインは――」

 ロッカーの内側に付いていた、付属の鏡で全身を写し見る。
 ……まず黒のタンクトップだけど、やたらとネックラインが深くて、嫌でも谷間が出来てしまう。迷彩柄めいさいがらの超マイクロミニスカートは股下またした十センチメートルくらいしかたけがなく、少し屈んだら簡単に股間なかみが見える変態仕様だ。
 何より下着が見当たらない。ノーパンノーブラなのが最悪で、特に乳首の自己主張が尻軽女ビッチすぎる。町中を歩いてたら、捕まるか買春かわれるかの二択だろうな。

「(と、とりあえず裸よりはマシと考えて)――ってか、これがおれの顔、なのか?」

 緑のショートヘアで、目鼻立ちはハッキリしており、唇はふっくらとして柔らかそうだった。いわゆる美形に分類されるんだろうけど、部位パーツ節々ふしぶしに男だった時の面影おもかげがあるような気もした。

「そもそもな話、なんで女になって、しかもこんなわけのわからない所にいるんだ?」

 顔の半分を手で押さえて溜息ためいきを吐く。仕方なく、ロッカーに残る拳銃へ手を伸ばす。その重みに驚きつつも、護身用としてホルダーに仕舞う。

「……どういうことだよ。

 なんでだ? 男だったという記憶じじつ以外には、日本人であることや、太陽は東から昇るみたいな、一般常識くらいしか思い出せない。好きな食べ物も、何が趣味だったかも、どんな家族がいたのかすら。
 そもそも――人生とは記憶で、記憶とは過去だ。自分についてのほぼ全てを思い出せないなんて、自分が自分じゃないみたいで、これほど不安なことはない。
 グゥー。

「ばっ。腹なんて鳴らしてる場合かよ……」

 凹んだ腹を擦ると、柔らかくて温かかった。

「とりあえず、この施設だか建物だかを探索するか」

 気は進まないが、扉へ向き直る。大股で歩くと――うっ――思わず一歩で立ち止まってしまう。
 プルン。
 む、胸が揺れて、乳首が服の内側に強く擦れてしまった。たったそれだけなのに、感じた事のない痛みと何とも言えない電気的な刺激に、思わず口が半開きになる。

「クソ。何なんだよ。女の身体って」

 仕方なく左腕でオッパイを固定するみたいにして持ち上げる。赤い頬のまま、扉のドアノブへ、細い右手を伸ばす。
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