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犯罪者達の前奏曲(プレリュード)
キリシマ・エンカ
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「ほんとにこいつで大丈夫なのか?」
グラミーの裏社会の大御所、『ジョン・ザディコ』がその男を初めて見た第一声はその一言だった。
対抗組織、そして警察、はては下剋上を狙う部下どもから常に命を狙われるジョンは、襲われるたびに、用心棒を変えていた。ジョンが首にしたからではない。彼らがジョンの命を守るため、死んでいったからだ。
ジョンは腕利きの用心棒を世界中から集めた。それでも今まで満足にジョンを守り続けれた者はいない。ジョンの雇った大抵の用心棒は、一回襲われる毎に役目を果たして死んでしまう。決して雇った用心棒の腕は悪くはなかった。だがしかし、ジョンの命を狙う連中がそれに勝る暗殺者を用意していたのだ。
ジョンの警備は常に二重になっている。腕の立つものを側近に、新人をさらに前線に立たせる二段構えだ。新人は言うまでもなく簡単に死んでいく。万が一ジョンの首に届きそうなものを側近が殺す。ジョンが今まで命を落とさなかったのは、結論から言えば側近の力が大きかったからだ。
ジョンの言葉に現在側近を務める男、『ファン・ファンク』は答える。
「心配ありませんボス。こいつは俺より腕が立つ」
男をジョンの前に連れてきたのは他でもないファンである。
用心棒の世界は狭い。新人を入れてもすぐに代わりが必要となるこの状況に、ファンは自分の知る限り、最高の用心棒を連れてきた。
「ふん。どうも信用ならんな」
ジョンが納得しないのも無理はなかった。その男は見た目からして、力があるようにも見えない。さすがに一般人より体は出来ていそうだが、今まで雇った大男と比べ遥かに見劣りする。なにより殺気を感じない。おまけに使う武器は時代遅れの刀一本だというじゃないか。
「おいおっさん。黙って聞いてりゃ偉そうに。信用できねえなら別に無理に雇わなくてもいいんだぜ?」
散々ジョンに言われ放題だった男はついに口を開いた。
へらへらとしまらない顔をしている男の名はキリシマ・エンカ。小さい島国出身であるキリシマは用心棒となり世界を歩いていた。表では彼の名を知る者はいないが、裏の世界ではそこそこの有名人である。キリシマがついたのなら離れるまで手を出すな。キリシマを知る人間からはそうとまで言われていた。
ジョンはキリシマを知らなかった。なぜならジョンは自分の警護を側近のファンに任せっきりにしていたからである。いつもは屈強な男や、明らかに目つきの悪いものを連れてくるファンがこんな優男を連れて来たのだ。ジョンが疑うのも無理はない。
「まあいい。死んだら代わりを雇うだけだ。護衛代も死ねば払う必要もない。もしともなれば、いつも通りお前が止めればいい」
ジョンはファンに目を配らせ、ファンは深々と頭を下げた。
「なんだ? おっさんよ、契約成立でいいのか?」
キリシマはあっけらかんとジョンに尋ねる。
今までジョンに向かってこんな口の利き方をしたものはいなかった。裏社会を力でねじ伏せてきた男。ジョンを怒らせたら殺される、誰もがそう知っていたからだ。周りにいる部下の目には、キリシマは命知らずな田舎者にしか映らなかった。
苛立ちを見せたジョンを察し、ファンはキリシマを黙らせ、部屋の外へと連れて行った。
「キリシマ、もう少しボスへの態度を改めてくれないか?」
「それは契約にないはずだぜ? 俺の仕事はゴマをすることじゃねえ」
キリシマにとって雇い主に嫌われようが関係のないことだった。キリシマが求めていたのは強者。ただそれだけだったからだ。より地位の高い者の護衛につけばつくほど、それを狙う敵は強くなっていく。キリシマが裏で幅を利かすジョンの護衛につくようになったのは必然的なことだった。
ファンはため息をつく。
キリシマは何を言ってもジョンへの態度を変えないだろう。そう感じたからだ。それならもうジョンの近くには寄せない方がいい。
「わかった。それならキリシマは外での警備を頼む」
ファンに言われ、キリシマはジョンの滞在する豪邸の外へと出た。
キリシマが空を見上げると星が輝いている。故郷の島国で見た星空と同じ景色だった。
武者修行のため旅に出たキリシマだったが、今まで眼鏡にかなう敵は一握りだった。キリシマは強くなりすぎたのだ。
「ここが駄目だったらもうあそこしかねえよなあ……」
キリシマはぼそりと呟く。
あそこ、とは世界中の猛者が集う刑務所、レクイエムに他ならない。ありとあらゆる犯罪者のいるその刑務所に、キリシマは密かに期待を抱いていた。
キリシマは周囲を見渡す。とても敵なんか襲ってきそうになかった。
「あーあ。暇だぜ」
キリシマは自分の刀を見つめた。
問題はこれをどうやって運ぶか。キリシマはレクイエムの内部を知っていた。キリシマと同じ島国出身の友人、『イカルガ・マキナ』がレクイエムに収容後、1年もせずに出てきたからだ。
イカルガの話によると、内部では相手を探すのには困らないが、逮捕時に武器を奪い取られるため、あらかじめ仕入れ屋に預ける必要があるとの事だった。
弘法筆を選ばずという。だがしかし、キリシマのそれは今は亡き師匠から譲り受けた、いわば形見だ。他人に預ける気なんてなかった。
*** *** ***
「キリシマ、今晩ボスは、グラミーのミュゼットファミリーと取引する。もう休め」
一晩中外に立たされていたキリシマに、中から来たファンが話しかけてきた。
キリシマはそれを聞くとジョンの部屋に戻り、壁にもたれかかるように座り、仮眠を取り始めた。いつジョンが襲われても反応できるようにだ。
部屋に戻ってきたキリシマを気にせず、ジョンはひたすら電話を繰り返している。
ミュゼットファミリーもまた、グラミーで幅を利かすマフィアだ。ジョン率いるザディコファミリーがグラミー1なら次に名を挙げるのはミュゼットファミリーが有力だろう。商談のためとはいえ、彼らに会わなくてはならないジョンはノイローゼ気味になっていた。
「ボス、ミュゼットの野郎は予定通り今晩ここに来るそうです」
「おう」
部屋に入ってきた部下の報告に、ジョンはぶっきらぼうに答えた。
「ボスも少しお休みになってはいかかでしょうか? 昨晩から寝ていないようですが……」
「てめえ! 俺に指図すんじゃねえ!」
心配する部下に怒鳴り散らすジョン。今夜の商談では多額の金が動く予定だ。失敗は許されない。ジョンの周りには緊迫した空気が流れていた。
「てめえもいつまでも寝てんじゃねえ!!」
ジョンは手に持ったガラスの灰皿を寝ているキリシマに投げつけた。キリシマは目をつぶったまま飛んでくるそれを掴んだ。
「なにか用か? おっさん」
キリシマは確かに寝ていたはずだ。
ジョンと部下はそれを見て絶句した。
「いや、起こして悪かった。そのまま休んでろ」
ジョンはただそういうと再び冷静さを取り戻した。ファンがあそこまで言うだけのことはありそうだ、ジョンはキリシマへの期待を高めたのである。
「ファンはどうした?」
ジョンは部下に尋ねる。そう言えば、キリシマが戻ってきてから姿を見ていない。
「ファンさんは昼から外に出ました。中はキリシマに任せると」
部下はそれだけ言うと、また八つ当たりを受けることを恐れて部屋から逃げるように出て行った。
*** *** ***
日が落ちると屋敷の大広間には長いテーブルが置かれ、その端にジョンが座った。
ジョンの両脇にはファンとキリシマが立っている。
テーブルの半分、ジョンが座っている側にだけ、コップと水が用意されている。
「ボス。ミュゼットが到着しました」
「おう、通せ」
ジョンがそう命令すると部下は走り出し、やがて大人数を広間に連れてきた。
「これはこれはザディコさん。立派なお屋敷ですな」
「座れ。ミュゼット」
ジョンがそう言うとミュゼットは長いテーブルを挟み、ジョンの反対側の端に腰掛ける。
テーブル半分にジョンの部下が、そして残り半分をミュゼットの部下が腰掛けた。
「おい、用意しろ」
ミュゼットがそう言うと、彼の部下がミュゼット側にグラスと水を配り始めた。ジョンと同じくミュゼットの両脇には二人の男が立っている。
そのうちの一人をキリシマはよく知っていた。その人物はキリシマにレクイエムの内部を教えたイカルガ・マキナに間違いなかった。
キリシマとイカルガは目が合ったが、二人は一言も発さなかった。
「それじゃあ始めましょうか、ザディコさん」
「仕切ってんじゃねえよぉ、ミュゼット」
二人のその会話でザディコファミリーとミュゼットファミリーの商談が始まる。お互いの部下は、それぞれのボスの会話をただ黙って聞き続けていた。
「これはこれは。失礼しました」
「ふん。例のシマの件だろ?」
「ええ、うちも人員が増えて手狭になったので……、新しいシマを頂きたいのです」
冷たく笑うミュゼットにジョンは睨みを利かせた。
「あのシマは稼げる。若い女が多いからな。安くねえぞ?」
「ほう、それはなおさら手に入れたいですな」
「あそこにいくら出す? わかってるだろうが金額次第だ」
「無料でお譲りいただけないでしょうか?」
ミュゼットがニヤリと笑いそう言うと、ミュゼットの部下が懐から拳銃を抜き、その銃口は一斉にジョンへと向いた。
反射的にジョンの部下も同じように拳銃を抜きミュゼットへと向ける。
「てめえ、なんのつもりだ?」
「いえ、賭けをしていただこうかと」
「ふざけた事言ってんじゃねえぞ!!」
「ですが、このままですとジョンさんも私も死んでしまいます。それこそふざけた話でしょう?」
ミュゼットの頭は完全に狂っていた。だが、それくらいでなくてはこの世界では這い上がれない。自分の命をかけてでもジョンが絶対に断れない状況を作ってから、自分が絶対に勝つ賭けを押し付けようとしていたのだ。緊迫した空気の中ジョンは尋ねる。
「賭けだと? チップはわかるが、どんな内容だ?」
「いえ簡単な話ですよ。私の連れてきた二人の用心棒とザディコさんの両脇に立つ男。シマを賭けて2対2で戦わせてみませんか?」
ジョンはファンに小声で尋ねる。
「いけるか?」
「問題ありませんボス。二人とも見ねえ顔だ」
それを聞いてジョンは安心する。キリシマの実力はまだ見ていないが、ファンがそう言うなら間違いないだろうとそう思ったからだ。
「俺が勝ったら言い値でシマを買い取ってもらおうか」
「ええ、では私が勝ったら無料でお譲りしてもらいましょう」
どちらにしても負ければ手痛い損害である。ジョンも言った通りそのシマは若い女が多かった。シマにいる女を薬漬けにして売春宿に落とせばそれで多額の金を稼ぐことができる。それをミュゼットも狙っていたのだ。
「いいだろう。場所を移すぞ」
一同はジョンの屋敷の中庭へと移動した。
話を聞いてなお、キリシマとイカルガは表情を変えなかった。たとえ友人であろうと、依頼を確実にこなすことは二人の信念であったからだ。
グラミーの裏社会の大御所、『ジョン・ザディコ』がその男を初めて見た第一声はその一言だった。
対抗組織、そして警察、はては下剋上を狙う部下どもから常に命を狙われるジョンは、襲われるたびに、用心棒を変えていた。ジョンが首にしたからではない。彼らがジョンの命を守るため、死んでいったからだ。
ジョンは腕利きの用心棒を世界中から集めた。それでも今まで満足にジョンを守り続けれた者はいない。ジョンの雇った大抵の用心棒は、一回襲われる毎に役目を果たして死んでしまう。決して雇った用心棒の腕は悪くはなかった。だがしかし、ジョンの命を狙う連中がそれに勝る暗殺者を用意していたのだ。
ジョンの警備は常に二重になっている。腕の立つものを側近に、新人をさらに前線に立たせる二段構えだ。新人は言うまでもなく簡単に死んでいく。万が一ジョンの首に届きそうなものを側近が殺す。ジョンが今まで命を落とさなかったのは、結論から言えば側近の力が大きかったからだ。
ジョンの言葉に現在側近を務める男、『ファン・ファンク』は答える。
「心配ありませんボス。こいつは俺より腕が立つ」
男をジョンの前に連れてきたのは他でもないファンである。
用心棒の世界は狭い。新人を入れてもすぐに代わりが必要となるこの状況に、ファンは自分の知る限り、最高の用心棒を連れてきた。
「ふん。どうも信用ならんな」
ジョンが納得しないのも無理はなかった。その男は見た目からして、力があるようにも見えない。さすがに一般人より体は出来ていそうだが、今まで雇った大男と比べ遥かに見劣りする。なにより殺気を感じない。おまけに使う武器は時代遅れの刀一本だというじゃないか。
「おいおっさん。黙って聞いてりゃ偉そうに。信用できねえなら別に無理に雇わなくてもいいんだぜ?」
散々ジョンに言われ放題だった男はついに口を開いた。
へらへらとしまらない顔をしている男の名はキリシマ・エンカ。小さい島国出身であるキリシマは用心棒となり世界を歩いていた。表では彼の名を知る者はいないが、裏の世界ではそこそこの有名人である。キリシマがついたのなら離れるまで手を出すな。キリシマを知る人間からはそうとまで言われていた。
ジョンはキリシマを知らなかった。なぜならジョンは自分の警護を側近のファンに任せっきりにしていたからである。いつもは屈強な男や、明らかに目つきの悪いものを連れてくるファンがこんな優男を連れて来たのだ。ジョンが疑うのも無理はない。
「まあいい。死んだら代わりを雇うだけだ。護衛代も死ねば払う必要もない。もしともなれば、いつも通りお前が止めればいい」
ジョンはファンに目を配らせ、ファンは深々と頭を下げた。
「なんだ? おっさんよ、契約成立でいいのか?」
キリシマはあっけらかんとジョンに尋ねる。
今までジョンに向かってこんな口の利き方をしたものはいなかった。裏社会を力でねじ伏せてきた男。ジョンを怒らせたら殺される、誰もがそう知っていたからだ。周りにいる部下の目には、キリシマは命知らずな田舎者にしか映らなかった。
苛立ちを見せたジョンを察し、ファンはキリシマを黙らせ、部屋の外へと連れて行った。
「キリシマ、もう少しボスへの態度を改めてくれないか?」
「それは契約にないはずだぜ? 俺の仕事はゴマをすることじゃねえ」
キリシマにとって雇い主に嫌われようが関係のないことだった。キリシマが求めていたのは強者。ただそれだけだったからだ。より地位の高い者の護衛につけばつくほど、それを狙う敵は強くなっていく。キリシマが裏で幅を利かすジョンの護衛につくようになったのは必然的なことだった。
ファンはため息をつく。
キリシマは何を言ってもジョンへの態度を変えないだろう。そう感じたからだ。それならもうジョンの近くには寄せない方がいい。
「わかった。それならキリシマは外での警備を頼む」
ファンに言われ、キリシマはジョンの滞在する豪邸の外へと出た。
キリシマが空を見上げると星が輝いている。故郷の島国で見た星空と同じ景色だった。
武者修行のため旅に出たキリシマだったが、今まで眼鏡にかなう敵は一握りだった。キリシマは強くなりすぎたのだ。
「ここが駄目だったらもうあそこしかねえよなあ……」
キリシマはぼそりと呟く。
あそこ、とは世界中の猛者が集う刑務所、レクイエムに他ならない。ありとあらゆる犯罪者のいるその刑務所に、キリシマは密かに期待を抱いていた。
キリシマは周囲を見渡す。とても敵なんか襲ってきそうになかった。
「あーあ。暇だぜ」
キリシマは自分の刀を見つめた。
問題はこれをどうやって運ぶか。キリシマはレクイエムの内部を知っていた。キリシマと同じ島国出身の友人、『イカルガ・マキナ』がレクイエムに収容後、1年もせずに出てきたからだ。
イカルガの話によると、内部では相手を探すのには困らないが、逮捕時に武器を奪い取られるため、あらかじめ仕入れ屋に預ける必要があるとの事だった。
弘法筆を選ばずという。だがしかし、キリシマのそれは今は亡き師匠から譲り受けた、いわば形見だ。他人に預ける気なんてなかった。
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「キリシマ、今晩ボスは、グラミーのミュゼットファミリーと取引する。もう休め」
一晩中外に立たされていたキリシマに、中から来たファンが話しかけてきた。
キリシマはそれを聞くとジョンの部屋に戻り、壁にもたれかかるように座り、仮眠を取り始めた。いつジョンが襲われても反応できるようにだ。
部屋に戻ってきたキリシマを気にせず、ジョンはひたすら電話を繰り返している。
ミュゼットファミリーもまた、グラミーで幅を利かすマフィアだ。ジョン率いるザディコファミリーがグラミー1なら次に名を挙げるのはミュゼットファミリーが有力だろう。商談のためとはいえ、彼らに会わなくてはならないジョンはノイローゼ気味になっていた。
「ボス、ミュゼットの野郎は予定通り今晩ここに来るそうです」
「おう」
部屋に入ってきた部下の報告に、ジョンはぶっきらぼうに答えた。
「ボスも少しお休みになってはいかかでしょうか? 昨晩から寝ていないようですが……」
「てめえ! 俺に指図すんじゃねえ!」
心配する部下に怒鳴り散らすジョン。今夜の商談では多額の金が動く予定だ。失敗は許されない。ジョンの周りには緊迫した空気が流れていた。
「てめえもいつまでも寝てんじゃねえ!!」
ジョンは手に持ったガラスの灰皿を寝ているキリシマに投げつけた。キリシマは目をつぶったまま飛んでくるそれを掴んだ。
「なにか用か? おっさん」
キリシマは確かに寝ていたはずだ。
ジョンと部下はそれを見て絶句した。
「いや、起こして悪かった。そのまま休んでろ」
ジョンはただそういうと再び冷静さを取り戻した。ファンがあそこまで言うだけのことはありそうだ、ジョンはキリシマへの期待を高めたのである。
「ファンはどうした?」
ジョンは部下に尋ねる。そう言えば、キリシマが戻ってきてから姿を見ていない。
「ファンさんは昼から外に出ました。中はキリシマに任せると」
部下はそれだけ言うと、また八つ当たりを受けることを恐れて部屋から逃げるように出て行った。
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ジョンの両脇にはファンとキリシマが立っている。
テーブルの半分、ジョンが座っている側にだけ、コップと水が用意されている。
「ボス。ミュゼットが到着しました」
「おう、通せ」
ジョンがそう命令すると部下は走り出し、やがて大人数を広間に連れてきた。
「これはこれはザディコさん。立派なお屋敷ですな」
「座れ。ミュゼット」
ジョンがそう言うとミュゼットは長いテーブルを挟み、ジョンの反対側の端に腰掛ける。
テーブル半分にジョンの部下が、そして残り半分をミュゼットの部下が腰掛けた。
「おい、用意しろ」
ミュゼットがそう言うと、彼の部下がミュゼット側にグラスと水を配り始めた。ジョンと同じくミュゼットの両脇には二人の男が立っている。
そのうちの一人をキリシマはよく知っていた。その人物はキリシマにレクイエムの内部を教えたイカルガ・マキナに間違いなかった。
キリシマとイカルガは目が合ったが、二人は一言も発さなかった。
「それじゃあ始めましょうか、ザディコさん」
「仕切ってんじゃねえよぉ、ミュゼット」
二人のその会話でザディコファミリーとミュゼットファミリーの商談が始まる。お互いの部下は、それぞれのボスの会話をただ黙って聞き続けていた。
「これはこれは。失礼しました」
「ふん。例のシマの件だろ?」
「ええ、うちも人員が増えて手狭になったので……、新しいシマを頂きたいのです」
冷たく笑うミュゼットにジョンは睨みを利かせた。
「あのシマは稼げる。若い女が多いからな。安くねえぞ?」
「ほう、それはなおさら手に入れたいですな」
「あそこにいくら出す? わかってるだろうが金額次第だ」
「無料でお譲りいただけないでしょうか?」
ミュゼットがニヤリと笑いそう言うと、ミュゼットの部下が懐から拳銃を抜き、その銃口は一斉にジョンへと向いた。
反射的にジョンの部下も同じように拳銃を抜きミュゼットへと向ける。
「てめえ、なんのつもりだ?」
「いえ、賭けをしていただこうかと」
「ふざけた事言ってんじゃねえぞ!!」
「ですが、このままですとジョンさんも私も死んでしまいます。それこそふざけた話でしょう?」
ミュゼットの頭は完全に狂っていた。だが、それくらいでなくてはこの世界では這い上がれない。自分の命をかけてでもジョンが絶対に断れない状況を作ってから、自分が絶対に勝つ賭けを押し付けようとしていたのだ。緊迫した空気の中ジョンは尋ねる。
「賭けだと? チップはわかるが、どんな内容だ?」
「いえ簡単な話ですよ。私の連れてきた二人の用心棒とザディコさんの両脇に立つ男。シマを賭けて2対2で戦わせてみませんか?」
ジョンはファンに小声で尋ねる。
「いけるか?」
「問題ありませんボス。二人とも見ねえ顔だ」
それを聞いてジョンは安心する。キリシマの実力はまだ見ていないが、ファンがそう言うなら間違いないだろうとそう思ったからだ。
「俺が勝ったら言い値でシマを買い取ってもらおうか」
「ええ、では私が勝ったら無料でお譲りしてもらいましょう」
どちらにしても負ければ手痛い損害である。ジョンも言った通りそのシマは若い女が多かった。シマにいる女を薬漬けにして売春宿に落とせばそれで多額の金を稼ぐことができる。それをミュゼットも狙っていたのだ。
「いいだろう。場所を移すぞ」
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