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犯罪者達の前奏曲(プレリュード)
一望を抱く強者
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ジョン、ミュゼットは中庭に着くと再び対角線上に居座り、それぞれの部下が周りを覆う。
互いの頭の前に用心棒が歩き出る。
「ザディコさん。四人のうち先に一人死んだ方の負け。それでいいですかね?」
ミュゼットには絶対に勝てる秘策があった。ジョンにそう言うとにやりと笑う。
こういう場合は普通先に二人死んだ方の負けだ。ファンに余裕があったとしてもキリシマが死んだら負けになってしまう。それをジョンは恐れた。
「そんな半端受けれるか! きっちり二人――」
そこでファンはジョンの言葉を止めた。
「安心してくださいボス。相手は雑魚だ」
ファンの言葉を聞いてジョンは「ううむ」としぶしぶ納得した。
ここでごねてミュゼットの気が変わったら儲け話を不意にするとも考え、少々経ってから返事を出す。
「かまわねえ! 好きにしろ!」
それを聞いてミュゼットは取り仕切った。
「それじゃあ始めますか。このコインを投げて、下に落ちたら決闘開始です」
キリシマは腰を落とし、ファンは剣を強く握り、イカルガは鎖鎌の鎖を回し始め、その隣の男は手に刃物のついたグローブをはめた。グローブを握るとその先に刃が出る。
それを見たジョンの近くにいた男が突然口を開いた。
「あいつ!? コウモリだ……」
ジョンがそれを聞いて慌てる。
「おまえ、あいつを知ってんのか!?」
「ええ、両手に変わったグローブを嵌める暗殺屋です。普段顔を見せないけどあの武器は、間違いありません! コウモリです!」
コウモリ、それは長年グラミーに巣食う都市伝説である。数々の要人が彼によって命を落としたが、その正体は不明のまま。それは彼が暗殺の際、体全体を黒い布で覆い姿が見えないためである。その姿から彼を見かけたものはコウモリと彼に名付けた。ミュゼットは多額の金を支払い、その暗殺者を手中に収めたのである。
だが、その話をきいてなおキリシマの眼中に入っていたのはイカルガだけであった。イカルガは同郷であり、同じ依頼をこなした仲でもある。あの鎖鎌は厄介だとキリシマは認識していた。
「ま、待てっ……」
ジョンがそう言った時にはすでに、ミュゼットはコインを空へと投げていた。宙に舞ったコインが地面に落ちる。
キーーーン……
コインが地面に落ちると同時にファンはキリシマに切りかかった。
キリシマはそれに反応し剣を刀で受け止める。ギリギリとつばぜり合いをしながらファンは口を開く。
「よく反応したなぁ! さすがだぜ、キリシマァ!!」
「ファアアアアアアアアン!! なにやってんだあああああああ!!」
突然キリシマを狙ったファンにジョンの怒号が響く。
「あんたより高い金を出されたんでねえ。俺はあっちについたんだよ!!」
にやりと笑うファンに続いてミュゼットが大声で笑う。
「ヒャハハッハ!! これで3対1だぜ!? さっさとそいつを殺せぇ!!」
ミュゼットの策はこれだった。昼間のうちにファンを仲間に引き入れていたのだ。ファンとコウモリに多額の金を支払ったが、シマが手に入ればそれはいくらでも取り戻せる。万全の策だ。
つばぜり合いをするキリシマのもとに鎖鎌の分銅が飛んできた。
キリシマは両手に力を込め、ファンを押し飛ばし、分銅をギリギリのところで避ける。
そこに切りかかったのはコウモリだ。
キリシマは刀でコウモリのグローブをいなしていた。キンキンと刃物がぶつかる音が響く。
コウモリは拳を作ると、その先についた刃物で何度も何度もキリシマに切りかかる。
「きたねえぞミュゼット!!」
ジョンはミュゼットに怒鳴り散らしたが、それは笑い声にかき消された。
ジョンは賭けに勝つことをもう諦めていた。頼みのファンが敵に回ったのである。もう勝ち目は無いと、そうジョンは確信し、小さくつぶやく。
「終わりだ……畜生……」
ファンがコウモリの相手をするキリシマに後ろから切りかかると、キリシマは振り向かずファンの腹を蹴り飛ばした。その瞬間キリシマの右手に鎖が絡みつく。一瞬の隙を逃さずコウモリとファンがキリシマに切りかかった。
「終わりだキリシマ!!」「死ねえええええええ!!」
二人がそう言った刹那の時、キリシマは左手に刀を持ち替え、自身を拘束する鎖をぶった斬った。
それを見てコウモリは引いたが、ファンはそのまま切りかかっていた。
キリシマはファンの振り下ろした剣を躱し、刀の柄でファンの頭を力いっぱいぶん殴った。
頭を殴られたファンはそのまま倒れ、気絶し、動かない。
深く息を吐き、キリシマが口を開いた。
「おいおっさん、後の二人は殺してもいいんだよな?」
その問に答えるものは一人もいなかった。
長くジョンの側近を務めたファンが一撃で沈められたのだ。その場に居合わせた全ての男たちはただただ驚愕していた。
「……あ、ああ……、かまわん……」
長い沈黙の後ジョンは口を開いた。
コウモリはゆっくりとミュゼットに近寄り、口を開いた。
「悪いが、俺はここで降ろさせてもらう」
「なっ!? 何言ってやがる!?」
暗殺を生業としていたコウモリは、一瞬だけ見えた力量の差に、絶対に勝てないと本能的に判断を下した。止めるミュゼットの声もむなしく、グローブを外しだす。
「ふざけんな!! 貴様にいくら払ってると思ってる!?」
「金は返す。惜しいが死んだら使いようがない」
コウモリはそう言うと静かに立ち去っていった。
「どうする。まだやんのかい?」
キリシマがそう言うとミュゼットは悔しそうに頭をガシガシ掻いた。
「……当たり前だ」
それに答えたのはイカルガだった。
斬れた鎖の先端に新しい分銅をつける。
「ハッハッハ! さっさと殺せ! キリシマ!!」
事態が好転したとたんジョンは強気になった。
その声を聴き、ファンが目を覚ます。
「貴様は後でかわいがってやる。俺を裏切ったやつの末路はよく知ってるよなあ?」
起き上がるファンを睨みつけながら、ジョンはそう吐き捨てた。
キリシマは腰を落とし、イカルガを睨みつけ、イカルガは再び鎖を回し始めた。二人がにらみ合う中、ファンの雄たけびが響く。
キリシマが振り向くと、ファンは自分の剣を自身ののどに突き刺していた。この試合が終われば、キリシマが勝ったとしてもジョンに拷問に会った末に殺される。イカルガに加勢したとしても、コウモリが抜けた今、キリシマには勝てないと悟ったのだ。
ファンは絶叫した後、動かなくなった。
「ど……どうやら勝負は私の勝ちみたいですねえ」
ミュゼットはまったく予想のしてなかった勝利に困惑していた。
キリシマは構えを解き、イカルガは鎖を回すのをやめキリシマに話しかける。
「おめーよー。俺の大事な鎖斬ってんじゃねーよ!」
「はっは、わりいな! でも勝負事に手加減はいらねーだろ」
イカルガとキリシマは笑って話し始めた。
周りの人間は先程まで殺し合いをしていた二人が、まるでなにもなかったかのように楽し気に話す姿に唖然としている。
「なーら最初にコウモリを斬っちまえばよかったじゃねーか。おめえ様子見てただろ?」
「いやあ、すぐに終わらせたら勿体ねーだろ。せっかく手練れ三人まとめて相手にできんのによ」
「……お前もグルだったのか? キリシマァ……」
ジョンがキリシマに怒りの目を向ける。賭けに負けたというのに、楽しそうに笑うその姿は裏切り者にしか見えなかった。
「……イカルガ、お前手加減してたんじゃないだろうな」
同様にミュゼットもイカルガを疑い始めた。一瞬だが、焦らされた事に怒りを感じていた。
キリシマとイカルガが事情を話し出す前に、ジョンとミュゼットが叫ぶ。
「「おまえら! 裏切者を殺せ!!」」
今まで傍観していただけの部下が銃を二人に向ける。
キリシマとイカルガは目を合わせ、にやりと笑い合った。
二人はミュゼットファミリーもザディコファミリーも返り討ちにした挙句、壊滅に追いやり、屋敷を後にしたのだった。
*** *** ***
「はっはっは! 見たか!? あのおっさんの顔!」
屋敷を離れた二人は町にあるバーに来ていた。
久しぶりの再会に、とりあえず一杯とグラスを交わしに来ていたのだ。
「おめーは変わんねーなーキリシマ。俺もあいつには吐き気がしてたから別にいーけどよー」
バーに二人の笑い声が高々と響く。ほんの少し前まで本気の殺し合いをしていた。それは間違うことなく真剣だった。いざとなればお互いの命をとるつもりであった。それでもなお、生きていたのだから二人は笑って酒を酌み交わせる仲なのである。
「……キリシマ。やっぱり……、おめー行くんだろ?」
イカルガは笑いながらキリシマの顔を見た。
「ああ、もう……、そこにしか多分いねえよ」
笑うキリシマの顔を確認し、イカルガは胸から一枚の紙を取り出す。
「ん? ……なんだこれ?」
「俺の知り合いだから間違いなく信用できるぜー。行って来いよキリシマ」
イカルガが手渡した紙には、レクイエムの仕入屋の連絡先が書いてあった。
「おお、助かるぜ。ありがたく使わせてもらう」
キリシマはイカルガに礼を言い、バーを出るとイカルガと別れ、紙に書かれた連絡先を目指した。
そこは程近く、グラミーの中にあった。
イカルガが言うのだから信用できる。キリシマは刀を仕入屋に預け、今持っている現金を全て払い、その日の内にジョン・ザディコの屋敷の惨劇は自分の仕業だと警察に出頭した。
こうしてキリシマは、念願のレクイエムに入ることになるのであった。
*** *** ***
場所はオラトリオ。
キリシマはそこで待ち合わせをした仕入屋に預けていた刀を受け渡された。
キリシマがまず向かった先は街にある情報屋、マーリーである。
カランカラン……
マーリーの扉を開くとドレッドヘアーの黒人が迎え入れた。
「いらっしゃい。おや、お兄さん、変わった服着てるねぇ。そんな服、俺っちも見たことねぇぜ?」
「ああ、俺の島の民族衣装でな。気にしないでくれ」
キリシマがポールと談笑していると、再びマーリーの扉がカランカランと開いた。キリシマは入ってきた女を見て口が開きっぱなしになった。
「いらっしゃい。ポール、この人お客さん?」
ポールが返事をするより早く、キリシマの両手はリップの胸に置かれていた。
「えっと、お客さん? これはどうゆうこと?」
リップは自分の胸に置かれたキリシマの両手を指さす。顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
「あ、すまん。つい条件反射で」
「つい、条件反射で。で、すむかあああああああああああ!!!!!」
リップはキリシマの顔面を思いっきりぶん殴った。今日が記念すべき、初めてキリシマがリップに殴られた記念日である。キリシマは鼻から血をダクダク流しながらポールに話しかけた。
「俺は人を探しに来たんだが……」
「お……、お兄さん……。リップは怒らせたら怖いぜぇ? で、誰を探してるんだ」
「ポール! こんな奴の話聞くことないわよ!」
「まぁまぁリップ、落ち着けって。一応お客さんだぜぇ?」
「俺は強ええやつを探してんだ」
「変わってんねえ。一言で強いって言われたら思いつくのは刑殺官だなぁ」
キリシマはイカルガの話を聞き、ある程度レクイエムの仕組みを知っていた。だが、確認の為ポールに訪ねる。
「どうすりゃ会える?」
「そりゃあタダじゃ教えられねえなぁ。俺っちも商売でね」
キリシマはオラトリオに着くまでに殺した数人分の刑期をリップに支払う。
「町ん中で自分より刑期の短いやつに暴行したら、刑殺官は一発で駆けつけまさぁ」
「ふーん……なるほどな」
キリシマはそれを聞くとにやりと笑いポールの頭を思いっきり殴った。
「いった! あんた何すんだ!」
キリシマの腕途刑から警告音が鳴り出す。
「やべえ!! それが鳴ったら刑殺官が来る合図だ! 出てってくんな!」
マーリーから自分を追い出そうとするポールにキリシマは笑いながら言った。
「俺の刑期は350年くらいだ。ここに来たやつに言いふらしといてくれ」
「ああ、わかったわかった。早く出てってくんな!!」
キリシマはマーリーから追い出された。
その直後、銃声が響き、キリシマは飛んでくる弾丸を刀で斬る。
「はっはっは!! これは楽しめそうだぜ!!」
キリシマの目に入ったのは右手に黒い拳銃、そして左手に銀色の拳銃を持った男。今迄出会った中、最強の男であった。
互いの頭の前に用心棒が歩き出る。
「ザディコさん。四人のうち先に一人死んだ方の負け。それでいいですかね?」
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「安心してくださいボス。相手は雑魚だ」
ファンの言葉を聞いてジョンは「ううむ」としぶしぶ納得した。
ここでごねてミュゼットの気が変わったら儲け話を不意にするとも考え、少々経ってから返事を出す。
「かまわねえ! 好きにしろ!」
それを聞いてミュゼットは取り仕切った。
「それじゃあ始めますか。このコインを投げて、下に落ちたら決闘開始です」
キリシマは腰を落とし、ファンは剣を強く握り、イカルガは鎖鎌の鎖を回し始め、その隣の男は手に刃物のついたグローブをはめた。グローブを握るとその先に刃が出る。
それを見たジョンの近くにいた男が突然口を開いた。
「あいつ!? コウモリだ……」
ジョンがそれを聞いて慌てる。
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コウモリ、それは長年グラミーに巣食う都市伝説である。数々の要人が彼によって命を落としたが、その正体は不明のまま。それは彼が暗殺の際、体全体を黒い布で覆い姿が見えないためである。その姿から彼を見かけたものはコウモリと彼に名付けた。ミュゼットは多額の金を支払い、その暗殺者を手中に収めたのである。
だが、その話をきいてなおキリシマの眼中に入っていたのはイカルガだけであった。イカルガは同郷であり、同じ依頼をこなした仲でもある。あの鎖鎌は厄介だとキリシマは認識していた。
「ま、待てっ……」
ジョンがそう言った時にはすでに、ミュゼットはコインを空へと投げていた。宙に舞ったコインが地面に落ちる。
キーーーン……
コインが地面に落ちると同時にファンはキリシマに切りかかった。
キリシマはそれに反応し剣を刀で受け止める。ギリギリとつばぜり合いをしながらファンは口を開く。
「よく反応したなぁ! さすがだぜ、キリシマァ!!」
「ファアアアアアアアアン!! なにやってんだあああああああ!!」
突然キリシマを狙ったファンにジョンの怒号が響く。
「あんたより高い金を出されたんでねえ。俺はあっちについたんだよ!!」
にやりと笑うファンに続いてミュゼットが大声で笑う。
「ヒャハハッハ!! これで3対1だぜ!? さっさとそいつを殺せぇ!!」
ミュゼットの策はこれだった。昼間のうちにファンを仲間に引き入れていたのだ。ファンとコウモリに多額の金を支払ったが、シマが手に入ればそれはいくらでも取り戻せる。万全の策だ。
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キリシマは両手に力を込め、ファンを押し飛ばし、分銅をギリギリのところで避ける。
そこに切りかかったのはコウモリだ。
キリシマは刀でコウモリのグローブをいなしていた。キンキンと刃物がぶつかる音が響く。
コウモリは拳を作ると、その先についた刃物で何度も何度もキリシマに切りかかる。
「きたねえぞミュゼット!!」
ジョンはミュゼットに怒鳴り散らしたが、それは笑い声にかき消された。
ジョンは賭けに勝つことをもう諦めていた。頼みのファンが敵に回ったのである。もう勝ち目は無いと、そうジョンは確信し、小さくつぶやく。
「終わりだ……畜生……」
ファンがコウモリの相手をするキリシマに後ろから切りかかると、キリシマは振り向かずファンの腹を蹴り飛ばした。その瞬間キリシマの右手に鎖が絡みつく。一瞬の隙を逃さずコウモリとファンがキリシマに切りかかった。
「終わりだキリシマ!!」「死ねえええええええ!!」
二人がそう言った刹那の時、キリシマは左手に刀を持ち替え、自身を拘束する鎖をぶった斬った。
それを見てコウモリは引いたが、ファンはそのまま切りかかっていた。
キリシマはファンの振り下ろした剣を躱し、刀の柄でファンの頭を力いっぱいぶん殴った。
頭を殴られたファンはそのまま倒れ、気絶し、動かない。
深く息を吐き、キリシマが口を開いた。
「おいおっさん、後の二人は殺してもいいんだよな?」
その問に答えるものは一人もいなかった。
長くジョンの側近を務めたファンが一撃で沈められたのだ。その場に居合わせた全ての男たちはただただ驚愕していた。
「……あ、ああ……、かまわん……」
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「なっ!? 何言ってやがる!?」
暗殺を生業としていたコウモリは、一瞬だけ見えた力量の差に、絶対に勝てないと本能的に判断を下した。止めるミュゼットの声もむなしく、グローブを外しだす。
「ふざけんな!! 貴様にいくら払ってると思ってる!?」
「金は返す。惜しいが死んだら使いようがない」
コウモリはそう言うと静かに立ち去っていった。
「どうする。まだやんのかい?」
キリシマがそう言うとミュゼットは悔しそうに頭をガシガシ掻いた。
「……当たり前だ」
それに答えたのはイカルガだった。
斬れた鎖の先端に新しい分銅をつける。
「ハッハッハ! さっさと殺せ! キリシマ!!」
事態が好転したとたんジョンは強気になった。
その声を聴き、ファンが目を覚ます。
「貴様は後でかわいがってやる。俺を裏切ったやつの末路はよく知ってるよなあ?」
起き上がるファンを睨みつけながら、ジョンはそう吐き捨てた。
キリシマは腰を落とし、イカルガを睨みつけ、イカルガは再び鎖を回し始めた。二人がにらみ合う中、ファンの雄たけびが響く。
キリシマが振り向くと、ファンは自分の剣を自身ののどに突き刺していた。この試合が終われば、キリシマが勝ったとしてもジョンに拷問に会った末に殺される。イカルガに加勢したとしても、コウモリが抜けた今、キリシマには勝てないと悟ったのだ。
ファンは絶叫した後、動かなくなった。
「ど……どうやら勝負は私の勝ちみたいですねえ」
ミュゼットはまったく予想のしてなかった勝利に困惑していた。
キリシマは構えを解き、イカルガは鎖を回すのをやめキリシマに話しかける。
「おめーよー。俺の大事な鎖斬ってんじゃねーよ!」
「はっは、わりいな! でも勝負事に手加減はいらねーだろ」
イカルガとキリシマは笑って話し始めた。
周りの人間は先程まで殺し合いをしていた二人が、まるでなにもなかったかのように楽し気に話す姿に唖然としている。
「なーら最初にコウモリを斬っちまえばよかったじゃねーか。おめえ様子見てただろ?」
「いやあ、すぐに終わらせたら勿体ねーだろ。せっかく手練れ三人まとめて相手にできんのによ」
「……お前もグルだったのか? キリシマァ……」
ジョンがキリシマに怒りの目を向ける。賭けに負けたというのに、楽しそうに笑うその姿は裏切り者にしか見えなかった。
「……イカルガ、お前手加減してたんじゃないだろうな」
同様にミュゼットもイカルガを疑い始めた。一瞬だが、焦らされた事に怒りを感じていた。
キリシマとイカルガが事情を話し出す前に、ジョンとミュゼットが叫ぶ。
「「おまえら! 裏切者を殺せ!!」」
今まで傍観していただけの部下が銃を二人に向ける。
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二人はミュゼットファミリーもザディコファミリーも返り討ちにした挙句、壊滅に追いやり、屋敷を後にしたのだった。
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「はっはっは! 見たか!? あのおっさんの顔!」
屋敷を離れた二人は町にあるバーに来ていた。
久しぶりの再会に、とりあえず一杯とグラスを交わしに来ていたのだ。
「おめーは変わんねーなーキリシマ。俺もあいつには吐き気がしてたから別にいーけどよー」
バーに二人の笑い声が高々と響く。ほんの少し前まで本気の殺し合いをしていた。それは間違うことなく真剣だった。いざとなればお互いの命をとるつもりであった。それでもなお、生きていたのだから二人は笑って酒を酌み交わせる仲なのである。
「……キリシマ。やっぱり……、おめー行くんだろ?」
イカルガは笑いながらキリシマの顔を見た。
「ああ、もう……、そこにしか多分いねえよ」
笑うキリシマの顔を確認し、イカルガは胸から一枚の紙を取り出す。
「ん? ……なんだこれ?」
「俺の知り合いだから間違いなく信用できるぜー。行って来いよキリシマ」
イカルガが手渡した紙には、レクイエムの仕入屋の連絡先が書いてあった。
「おお、助かるぜ。ありがたく使わせてもらう」
キリシマはイカルガに礼を言い、バーを出るとイカルガと別れ、紙に書かれた連絡先を目指した。
そこは程近く、グラミーの中にあった。
イカルガが言うのだから信用できる。キリシマは刀を仕入屋に預け、今持っている現金を全て払い、その日の内にジョン・ザディコの屋敷の惨劇は自分の仕業だと警察に出頭した。
こうしてキリシマは、念願のレクイエムに入ることになるのであった。
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場所はオラトリオ。
キリシマはそこで待ち合わせをした仕入屋に預けていた刀を受け渡された。
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カランカラン……
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「いらっしゃい。おや、お兄さん、変わった服着てるねぇ。そんな服、俺っちも見たことねぇぜ?」
「ああ、俺の島の民族衣装でな。気にしないでくれ」
キリシマがポールと談笑していると、再びマーリーの扉がカランカランと開いた。キリシマは入ってきた女を見て口が開きっぱなしになった。
「いらっしゃい。ポール、この人お客さん?」
ポールが返事をするより早く、キリシマの両手はリップの胸に置かれていた。
「えっと、お客さん? これはどうゆうこと?」
リップは自分の胸に置かれたキリシマの両手を指さす。顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
「あ、すまん。つい条件反射で」
「つい、条件反射で。で、すむかあああああああああああ!!!!!」
リップはキリシマの顔面を思いっきりぶん殴った。今日が記念すべき、初めてキリシマがリップに殴られた記念日である。キリシマは鼻から血をダクダク流しながらポールに話しかけた。
「俺は人を探しに来たんだが……」
「お……、お兄さん……。リップは怒らせたら怖いぜぇ? で、誰を探してるんだ」
「ポール! こんな奴の話聞くことないわよ!」
「まぁまぁリップ、落ち着けって。一応お客さんだぜぇ?」
「俺は強ええやつを探してんだ」
「変わってんねえ。一言で強いって言われたら思いつくのは刑殺官だなぁ」
キリシマはイカルガの話を聞き、ある程度レクイエムの仕組みを知っていた。だが、確認の為ポールに訪ねる。
「どうすりゃ会える?」
「そりゃあタダじゃ教えられねえなぁ。俺っちも商売でね」
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「ふーん……なるほどな」
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「いった! あんた何すんだ!」
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「やべえ!! それが鳴ったら刑殺官が来る合図だ! 出てってくんな!」
マーリーから自分を追い出そうとするポールにキリシマは笑いながら言った。
「俺の刑期は350年くらいだ。ここに来たやつに言いふらしといてくれ」
「ああ、わかったわかった。早く出てってくんな!!」
キリシマはマーリーから追い出された。
その直後、銃声が響き、キリシマは飛んでくる弾丸を刀で斬る。
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彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
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