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犯罪者達の前奏曲(プレリュード)
ハーディ・ロック
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「そっちに行ったぞ! 回り込め!! 絶対に逃がすな!!」
人工的に作られた巨大な市街地で、対立する二つのグループが争いあっていた。
赤と青に色分けされた男女は各々武器を手に構え、その形相は真剣そのものである。
全身を青く染め上げた大群が、逃げようとする一人の赤い少女を追っていた。
逃げまわる少女が手に持つのは一丁のライフルだった。後衛から見方をサポートしていた少女は、いつの間にやら回り込んでいた敵に囲まれ、一人孤立してしまったのだ。多数を相手にするのには、少女の持っていた武器はあまりにも頼りなかった。
少女の名前は『エウロア・マキナ』
17と言う幼い年齢にして、刑殺官見習いに志願した女である。
「!!」
逃げる先の細い路地から青の軍勢が現れ、エウロアは足を止めた。
前方からも、後方からもエウロアは囲まれ、逃げ道など見当たらない。
「よし、撃て!!」
青の軍勢は一人だけ青いマントを羽織ったその男の声とともに、一斉にエウロアへと銃を向けた。
エウロアが覚悟を決め、目をつぶったその時である。
道を形成していた住居の屋根から、対照的に赤いマントを羽織った少年が、エウロアの目の前に降ってきた。
「おい女。いい囮っぷりだったぜ」
赤い少年を見た瞬間、取り囲んでいた青の軍勢が目の色を変えた。
現れた少年の名はハーディ・ロック。
エウロアとは違い、幼少期からこの16になるまで、レクイエムの英才教育を受け続けたエリート中のエリートである。
天性の勘と戦闘センス。そして鍛え続けた身体能力により、実技研修においてハーディの右に出るものはいなかった。
「大将自ら囲まれてくれるとはなあ! おまえら! やれ!!」
青い軍勢が銃を放ち、一斉に襲い掛かる中、ハーディはにやりと笑い、両手に銃を構えた。
エウロア・マキナとハーディ・ロック。
これが2人の出会いである。
*** *** ***
「はぁ。こいつを入れたらチーム戦の意味がありませんよ」
刑殺官見習いの訓練を担当する講習員が愚痴をこぼす。
見習い通しを2グループに分け、先に敵の大将を捕った方が勝利するというシンプルな実技講習には、個々の能力より、暴動に対してのチームプレイを養うという目的があった。
もちろん支給されるのは実弾では無いし、剣にも殺傷能力は無い。一回でも攻撃が当たりさえすれば、ペイントが施されその時点で講習からは退場となる。
「いやはや、あそこから勝利するとはなあ。なかなか優秀な小僧じゃねえか」
偵察用の映像を見物していた男はハーディに対し、かなり高めの評価を下した。
男は現職刑殺官官長として、将来有望な見習いを視察しに訪れていたのだ。
この講習で大将に必要とされるのは多くの人員への統率力と、相手の策略を予想する力、そしてどの味方を切り捨てるかという決断力。
当然一人の部下を助けるために、大勢の敵が密集する地点に一人で乗り込むなど、悪手にも程がある。だが、あれだけの集中砲火を受けながら、敵の攻撃はハーディどころか彼のマントすら捉えることは出来なかった。
ハーディとほかの見習いにはそれほど実力の差が生じていたのだ。大将をハーディが務める以上、そのチームが負けることなどあり得なかったのである。
「これからのレクイエムは安泰だなあ。あの子も来てるし、ちょっと会ってみるか」
ハーディに興味を持った男は実際に会って、その底の見えない力を見極めようとしていた。
「エルビスさん、あまりいじめないで下さいよ?」
*** *** ***
模擬戦が終わり、ロッカールームで着替えをしていた最中、他の見習いの輩たちはハーディを周りからじとっ、と睨み付けていた。
「あいつがいると俺たちがいても意味ないじゃねーかよ。試合始まったら急に一人で走り出すしよ」
「個人戦じゃねーんだから大将役は後ろで構えてろよ……」
「俺絶対実戦であいつと組みたくねーわー」
周りから聞こえてくるその声は、ハーディの耳にすべて届いていたが、それでも表情を変えずにハーディは着替えを済ませた。
一人ずば抜けた能力を持つ男に、周りは嫉妬していた。敵だろうと味方だろうと、ハーディには友と呼べる人間などいなかった。
ハーディから見たら周りは雑魚でしかない。
相手をする気にもならず、ハーディはロッカールームから出た。
「えっと、さっきはありがとう。助けてくれて」
ロッカールームを出た途端、待ち伏せをしていたエウロアにハーディが話しかけられる。
「助けたつもりなんかねぇ。丁度敵の大将がいたから倒しただけだ」
それは本心だった。ハーディは実戦開始からただひたすら駆け、そして目に写った敵を倒し続けていただけ。作戦も思惑も在りはしない。究極の個人プレイ。ただそれだけの事だった。
「それでもうちは助かったんだよ! 君、強いんだねえ」
「周りが弱いだけだ」
「ねえ! 君にお礼がしたいんだけど、この後一緒にご飯でもどう?」
ハーディはため息をついた。
「ただの訓練だ。別に助けたとか――」
「ただの訓練だと思うなら、真面目に講習通りに行ってはいかがですか?」
ハーディが言いかけた時、別の女が口をはさんできた。
彼女は先程の訓練時、赤側にいたが、ろくに指示も出さずに一人で突っ走った大将に不満を抱いていた。
「先程の訓練は集団戦だったはずです。勝手な行動をされては、こちらとしてはただの時間の無駄になってしまいます」
ハーディはこの女が苦手だった。どこまでも真面目で、正義感の強い女の名前はコレシャ・コラール。後にアラベスクを管轄する事になる、鞭を得意とする刑殺官見習いである。
ハーディは話し合うことを面倒くさがり、適当に流すことにした。
「ああ……悪かった。次からは気を付ける」
「あなたはいつもそうやって口だけ返事して! 確かにあなたの成績は優秀ですが――」
「まぁまぁ、熱くならないで」
納得していないコレシャをエウロアはなだめた。その時、
『ハーディ・ロック。至急、指令室にくるように』
設置されているスピーカーからハーディへの呼び出しがかかった。
「ふん。きっとさっきの模擬戦についてです。監督役もきっとお怒りでしょう」
コレシャの怒りに返事をせずハーディは指令室へと歩き出した。
「えっと、ハーディ! 今度絶対ご飯付き合ってよ!!」
エウロアの声にもハーディが答えることはなかった。
*** *** ***
「見習い、ハーディ・ロック」
指令室に到着し、自らの身分と名前を名乗ったハーディを待ち構えていたのは知らない顔だった。
「急に呼び出して悪いな、小僧」
エルビスにいきなり子供扱いをされてハーディは不服の表情を見せる。
「さっきの訓練の映像を見ていてな……。いくつか聞きたいことがあるんだが」
ハーディはこの時、新しい講習員が入ったのかと思った。そして先程コレシャに言われたことを、また指摘されるものだと覚悟をした。だが、その予想は大きく外れることとなる。
「あんた。俺の事を小僧と呼ぶ――」
「見事な腕だ」
ハーディは年を重ねるごとに人から褒められることが少なくなっていた。この養成所にいる人間でハーディの事を知らない人間はいなかったし、それは誰からも良しとされていなかったからだ。
「別に、普通だ」
ハーディの返答を聞いてエルビスは「くっくっく」と笑い出した。
「おい小僧、おまえ、ここの連中をどう思う? 退屈してるんじゃないのか?」
ハーディは別に刑殺官になりたくて養成所に入ったわけではなかった。孤児であったハーディの面倒を見るほど、世界に余裕がなかっただけである。他の見習いも大抵は同じ事情であった。志願する人間の多くは、やむを得ぬ理由を抱えてここにいた。
ここに来たばかりのハーディからすれば、周りの人間は全員同志であった。同じ傷を持ち、同じ境遇で、そして同じ生活を送っている同志。
だが今は違う。
「雑魚の集まりだ。それと俺を小僧と呼ぶな。次言ったらぶっ殺す」
ハーディは冷たくそう答えた。
仲間については、人の能力を羨むばかりの無能の集団だと、ハーディの意識は変わってしまっていた。それらと一緒にされたくはないと、ハーディは常にトップで居続けた。
その答えにもエルビスは満足そうだった。
「面白い人間に合わせてやる。来いよ」
エルビスに連れられてハーディは施設内を進んだ。
見習いの訓練は年齢毎に分けられる。二人が着いたのは、ハーディにとっては馴染みのある12歳から14歳までの見習いの為の施設だった。
「ここだ」
エルビスはそう言って立ち止まり、目の前の扉を開けた。中には椅子に座った少女が一人。
「今年で15になる。レイラだ」
「あれぇ? えるびすはん。この方は誰どすか?」
レイラもハーディと似た境遇にいた。孤児だったレイラは、生活の為見習いに志願し、そしてその計り知れない潜在能力の為、周りの見習いから恐れられ続けていた。
「レイラ。こいつはひとつ上の学年のハーディだ。お前と同じで優秀すぎる小僧だよ」
ハーディはそれを聞いて事態を理解した。
だがそれよりハーディには許せないことがあった。
「言ったはずだ。俺を小僧と呼ぶなと」
ハーディはエルビスを睨み付ける。
幼少期から自分の事はすべて自分で、だれにも頼らず生きてきたハーディ。それは外の世界で恵まれた生活を送る子供への憎悪からの行動であり、今までそれをしてきたことはハーディにとって誇りでもあった。
なおさら、子ども扱いされることが許せなかったのである。
「じゃあ小僧。 ゲームをしようぜ」
「ゲーム?」
エルビスの提案にハーディは一瞬固まった。
「そうだな。さっきの模擬戦を俺とお前でやろう。お前が勝ったら小僧と呼ぶのをやめてやる。俺が勝ったら小僧はレイラの言う事を一つ聞いてやれ」
ハーディはそれを聞いて鼻で笑った。見ず知らずのこの人物にハーディが負けるなんて考えられなかった。
「いいぜ。その生意気な口、黙らせてやる。俺とてめぇが大将ってわけか」
「いや、違う。こっちの大将はこの子だ。俺はレイラの部下として戦う」
エルビスはレイラを指さした。
「はぁ。べつに構いまへんけど」
ハーディは勝利を確信していた。いくら優秀だといっても相手は14の少女である。見つけ出した時点で試合は終わりだ。
「用意するから待ってろ小僧」
エルビスはすぐさま、再びスピーカーで先程の模擬戦に参加していた者を集め、再び用意させたのである。
*** *** ***
急なエルビスの収集にも関わらず、それが命令であるならば見習いは従う他ない。
ハーディは再び赤いマントを翻し、陣地についた。そこからは確認できないが、この市街地のどこかに確実にマントをつけたレイラとその部下役のエルビスがいる。
試合が始まる直前、再び小言を言われまいとハーディはコレシャに指示を出した。
「コレシャ、大将命令だ。指示はてめぇに任せる」
「それは大将役の仕事をしている事にはなりません!!」
コレシャは憤怒したが、ハーディは笑って答えた。
「これが俺の指示なんだ。黙って従え」
「ねえ、うちはどうしたらいい?」
エウロアがハーディに近づいて聞いてきたので、適当に答えた。
「さっきみたいに敵を引き付けてろ」
「わかった! うち頑張る!!」
あまりにも適当すぎる返事だったが、ハーディに直接指示を出され、エウロアはやる気を出した。
ハーディはいつにもなくやる気に満ちていた。当然ながら気に入らない男の無様な姿を見ることが出来る為である。
コレシャはハーディに言われたとおりに一人ひとりに的確な指示を出していた。といってもこちらには守るべき大将がいない。
どうせハーディは一人でどこかに行ってしまうと知っていたコレシャは、味方をグループごとに分け、敵の大将を探すことに務めさせた。
遠くから開戦を知らせるアラームが鳴り響いた。
「行くぞ!!」
ハーディはまたも一人で戦場を駆け抜けていく。
人工的に作られた巨大な市街地で、対立する二つのグループが争いあっていた。
赤と青に色分けされた男女は各々武器を手に構え、その形相は真剣そのものである。
全身を青く染め上げた大群が、逃げようとする一人の赤い少女を追っていた。
逃げまわる少女が手に持つのは一丁のライフルだった。後衛から見方をサポートしていた少女は、いつの間にやら回り込んでいた敵に囲まれ、一人孤立してしまったのだ。多数を相手にするのには、少女の持っていた武器はあまりにも頼りなかった。
少女の名前は『エウロア・マキナ』
17と言う幼い年齢にして、刑殺官見習いに志願した女である。
「!!」
逃げる先の細い路地から青の軍勢が現れ、エウロアは足を止めた。
前方からも、後方からもエウロアは囲まれ、逃げ道など見当たらない。
「よし、撃て!!」
青の軍勢は一人だけ青いマントを羽織ったその男の声とともに、一斉にエウロアへと銃を向けた。
エウロアが覚悟を決め、目をつぶったその時である。
道を形成していた住居の屋根から、対照的に赤いマントを羽織った少年が、エウロアの目の前に降ってきた。
「おい女。いい囮っぷりだったぜ」
赤い少年を見た瞬間、取り囲んでいた青の軍勢が目の色を変えた。
現れた少年の名はハーディ・ロック。
エウロアとは違い、幼少期からこの16になるまで、レクイエムの英才教育を受け続けたエリート中のエリートである。
天性の勘と戦闘センス。そして鍛え続けた身体能力により、実技研修においてハーディの右に出るものはいなかった。
「大将自ら囲まれてくれるとはなあ! おまえら! やれ!!」
青い軍勢が銃を放ち、一斉に襲い掛かる中、ハーディはにやりと笑い、両手に銃を構えた。
エウロア・マキナとハーディ・ロック。
これが2人の出会いである。
*** *** ***
「はぁ。こいつを入れたらチーム戦の意味がありませんよ」
刑殺官見習いの訓練を担当する講習員が愚痴をこぼす。
見習い通しを2グループに分け、先に敵の大将を捕った方が勝利するというシンプルな実技講習には、個々の能力より、暴動に対してのチームプレイを養うという目的があった。
もちろん支給されるのは実弾では無いし、剣にも殺傷能力は無い。一回でも攻撃が当たりさえすれば、ペイントが施されその時点で講習からは退場となる。
「いやはや、あそこから勝利するとはなあ。なかなか優秀な小僧じゃねえか」
偵察用の映像を見物していた男はハーディに対し、かなり高めの評価を下した。
男は現職刑殺官官長として、将来有望な見習いを視察しに訪れていたのだ。
この講習で大将に必要とされるのは多くの人員への統率力と、相手の策略を予想する力、そしてどの味方を切り捨てるかという決断力。
当然一人の部下を助けるために、大勢の敵が密集する地点に一人で乗り込むなど、悪手にも程がある。だが、あれだけの集中砲火を受けながら、敵の攻撃はハーディどころか彼のマントすら捉えることは出来なかった。
ハーディとほかの見習いにはそれほど実力の差が生じていたのだ。大将をハーディが務める以上、そのチームが負けることなどあり得なかったのである。
「これからのレクイエムは安泰だなあ。あの子も来てるし、ちょっと会ってみるか」
ハーディに興味を持った男は実際に会って、その底の見えない力を見極めようとしていた。
「エルビスさん、あまりいじめないで下さいよ?」
*** *** ***
模擬戦が終わり、ロッカールームで着替えをしていた最中、他の見習いの輩たちはハーディを周りからじとっ、と睨み付けていた。
「あいつがいると俺たちがいても意味ないじゃねーかよ。試合始まったら急に一人で走り出すしよ」
「個人戦じゃねーんだから大将役は後ろで構えてろよ……」
「俺絶対実戦であいつと組みたくねーわー」
周りから聞こえてくるその声は、ハーディの耳にすべて届いていたが、それでも表情を変えずにハーディは着替えを済ませた。
一人ずば抜けた能力を持つ男に、周りは嫉妬していた。敵だろうと味方だろうと、ハーディには友と呼べる人間などいなかった。
ハーディから見たら周りは雑魚でしかない。
相手をする気にもならず、ハーディはロッカールームから出た。
「えっと、さっきはありがとう。助けてくれて」
ロッカールームを出た途端、待ち伏せをしていたエウロアにハーディが話しかけられる。
「助けたつもりなんかねぇ。丁度敵の大将がいたから倒しただけだ」
それは本心だった。ハーディは実戦開始からただひたすら駆け、そして目に写った敵を倒し続けていただけ。作戦も思惑も在りはしない。究極の個人プレイ。ただそれだけの事だった。
「それでもうちは助かったんだよ! 君、強いんだねえ」
「周りが弱いだけだ」
「ねえ! 君にお礼がしたいんだけど、この後一緒にご飯でもどう?」
ハーディはため息をついた。
「ただの訓練だ。別に助けたとか――」
「ただの訓練だと思うなら、真面目に講習通りに行ってはいかがですか?」
ハーディが言いかけた時、別の女が口をはさんできた。
彼女は先程の訓練時、赤側にいたが、ろくに指示も出さずに一人で突っ走った大将に不満を抱いていた。
「先程の訓練は集団戦だったはずです。勝手な行動をされては、こちらとしてはただの時間の無駄になってしまいます」
ハーディはこの女が苦手だった。どこまでも真面目で、正義感の強い女の名前はコレシャ・コラール。後にアラベスクを管轄する事になる、鞭を得意とする刑殺官見習いである。
ハーディは話し合うことを面倒くさがり、適当に流すことにした。
「ああ……悪かった。次からは気を付ける」
「あなたはいつもそうやって口だけ返事して! 確かにあなたの成績は優秀ですが――」
「まぁまぁ、熱くならないで」
納得していないコレシャをエウロアはなだめた。その時、
『ハーディ・ロック。至急、指令室にくるように』
設置されているスピーカーからハーディへの呼び出しがかかった。
「ふん。きっとさっきの模擬戦についてです。監督役もきっとお怒りでしょう」
コレシャの怒りに返事をせずハーディは指令室へと歩き出した。
「えっと、ハーディ! 今度絶対ご飯付き合ってよ!!」
エウロアの声にもハーディが答えることはなかった。
*** *** ***
「見習い、ハーディ・ロック」
指令室に到着し、自らの身分と名前を名乗ったハーディを待ち構えていたのは知らない顔だった。
「急に呼び出して悪いな、小僧」
エルビスにいきなり子供扱いをされてハーディは不服の表情を見せる。
「さっきの訓練の映像を見ていてな……。いくつか聞きたいことがあるんだが」
ハーディはこの時、新しい講習員が入ったのかと思った。そして先程コレシャに言われたことを、また指摘されるものだと覚悟をした。だが、その予想は大きく外れることとなる。
「あんた。俺の事を小僧と呼ぶ――」
「見事な腕だ」
ハーディは年を重ねるごとに人から褒められることが少なくなっていた。この養成所にいる人間でハーディの事を知らない人間はいなかったし、それは誰からも良しとされていなかったからだ。
「別に、普通だ」
ハーディの返答を聞いてエルビスは「くっくっく」と笑い出した。
「おい小僧、おまえ、ここの連中をどう思う? 退屈してるんじゃないのか?」
ハーディは別に刑殺官になりたくて養成所に入ったわけではなかった。孤児であったハーディの面倒を見るほど、世界に余裕がなかっただけである。他の見習いも大抵は同じ事情であった。志願する人間の多くは、やむを得ぬ理由を抱えてここにいた。
ここに来たばかりのハーディからすれば、周りの人間は全員同志であった。同じ傷を持ち、同じ境遇で、そして同じ生活を送っている同志。
だが今は違う。
「雑魚の集まりだ。それと俺を小僧と呼ぶな。次言ったらぶっ殺す」
ハーディは冷たくそう答えた。
仲間については、人の能力を羨むばかりの無能の集団だと、ハーディの意識は変わってしまっていた。それらと一緒にされたくはないと、ハーディは常にトップで居続けた。
その答えにもエルビスは満足そうだった。
「面白い人間に合わせてやる。来いよ」
エルビスに連れられてハーディは施設内を進んだ。
見習いの訓練は年齢毎に分けられる。二人が着いたのは、ハーディにとっては馴染みのある12歳から14歳までの見習いの為の施設だった。
「ここだ」
エルビスはそう言って立ち止まり、目の前の扉を開けた。中には椅子に座った少女が一人。
「今年で15になる。レイラだ」
「あれぇ? えるびすはん。この方は誰どすか?」
レイラもハーディと似た境遇にいた。孤児だったレイラは、生活の為見習いに志願し、そしてその計り知れない潜在能力の為、周りの見習いから恐れられ続けていた。
「レイラ。こいつはひとつ上の学年のハーディだ。お前と同じで優秀すぎる小僧だよ」
ハーディはそれを聞いて事態を理解した。
だがそれよりハーディには許せないことがあった。
「言ったはずだ。俺を小僧と呼ぶなと」
ハーディはエルビスを睨み付ける。
幼少期から自分の事はすべて自分で、だれにも頼らず生きてきたハーディ。それは外の世界で恵まれた生活を送る子供への憎悪からの行動であり、今までそれをしてきたことはハーディにとって誇りでもあった。
なおさら、子ども扱いされることが許せなかったのである。
「じゃあ小僧。 ゲームをしようぜ」
「ゲーム?」
エルビスの提案にハーディは一瞬固まった。
「そうだな。さっきの模擬戦を俺とお前でやろう。お前が勝ったら小僧と呼ぶのをやめてやる。俺が勝ったら小僧はレイラの言う事を一つ聞いてやれ」
ハーディはそれを聞いて鼻で笑った。見ず知らずのこの人物にハーディが負けるなんて考えられなかった。
「いいぜ。その生意気な口、黙らせてやる。俺とてめぇが大将ってわけか」
「いや、違う。こっちの大将はこの子だ。俺はレイラの部下として戦う」
エルビスはレイラを指さした。
「はぁ。べつに構いまへんけど」
ハーディは勝利を確信していた。いくら優秀だといっても相手は14の少女である。見つけ出した時点で試合は終わりだ。
「用意するから待ってろ小僧」
エルビスはすぐさま、再びスピーカーで先程の模擬戦に参加していた者を集め、再び用意させたのである。
*** *** ***
急なエルビスの収集にも関わらず、それが命令であるならば見習いは従う他ない。
ハーディは再び赤いマントを翻し、陣地についた。そこからは確認できないが、この市街地のどこかに確実にマントをつけたレイラとその部下役のエルビスがいる。
試合が始まる直前、再び小言を言われまいとハーディはコレシャに指示を出した。
「コレシャ、大将命令だ。指示はてめぇに任せる」
「それは大将役の仕事をしている事にはなりません!!」
コレシャは憤怒したが、ハーディは笑って答えた。
「これが俺の指示なんだ。黙って従え」
「ねえ、うちはどうしたらいい?」
エウロアがハーディに近づいて聞いてきたので、適当に答えた。
「さっきみたいに敵を引き付けてろ」
「わかった! うち頑張る!!」
あまりにも適当すぎる返事だったが、ハーディに直接指示を出され、エウロアはやる気を出した。
ハーディはいつにもなくやる気に満ちていた。当然ながら気に入らない男の無様な姿を見ることが出来る為である。
コレシャはハーディに言われたとおりに一人ひとりに的確な指示を出していた。といってもこちらには守るべき大将がいない。
どうせハーディは一人でどこかに行ってしまうと知っていたコレシャは、味方をグループごとに分け、敵の大将を探すことに務めさせた。
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