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2 勇者パーティーの体制を整えよう
024 魔王軍って怖い
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魔王コスモは椅子に体を預けると、長い足を組んだ。閉じていた瞼が開かれ、紫色の瞳が輝く。ぼさぼさな髪と、センスのかけらもない黒で統一された服。魔王のくせに、身だしなみには気を使っていないらしい。
立派な角と整った顔立ち、それから圧倒的な強さ。魔族のモテ要素をすべて持っているのに、このだらしなさでは全て意味をなさない。コスモに妻どころか婚約者すらいないのが納得だ。
「僕ってば、天才!」
コスモはふふんと鼻を鳴らした。
だらしないうえに、この子供っぽさ。たとえ求婚されたとしても、側近であるカオスが断っているのだろう。魔王がこんなのだと民衆に知られてしまえば……。魔王の威厳を守るためにも隠し通さねばならないのだ。
「勇者パーティーの体制を整えるとは、具体的には何をするのですか?」
コスモはレインの問いかけに静止し、しばらく考えたのちに、映し出されている冒険者登録票を指さした。
「まずは、イルって人をどうにかする」
弓使いのイル。勇者への当たりが強く、冒険の障壁となる人物。この不安要素は取り除いておきたい。
「勇者パーティーから追い出すのが手っ取り早いんだろうけど……」
「イルさんがいなくなれば、勇者たちは一気に弱くなりますよ」
コスモはうんうんと頷く。
「イルさんって強いの?」
「弓使いの中ではトップレベルの実力を持っているでしょうね。上級魔物を倒したこともあるそうです」
レインはカンシチョウから映し出されたイルの功績を見ながら言った。
上級魔物を倒せるのは冒険者の中でも一握り。勇者パーティーに所属するのにふさわしい実力は持っているようだ。
「ぼくたち四天王にかすり傷を付けられる程度には、強いのではないでしょうか」
かすり傷。それだけで強者だと言われる人間は、本当に無力だ。
人間であるレインが、何を食べてどんな生活をして魔王軍四天王まで上り詰めたのか、甚だ疑問だ。
レインは本当に人間なのだろうか。私に油断させるために嘘をついているのでは。そう疑いたくもなるが、彼は私より筋力は劣っている。その点を見れば、レインはれっきとした人間なのだろう。
「イルさんが勇者へ辛辣な言葉を投げかけないように認識を変えるか、何を言われても大丈夫なように勇者の精神を鍛えるか、ですね」
「なら前者だね」
私もコスモと同じ意見だ。勇者の精神を鍛えるのはほぼ不可能。下手したら、勇者が一生部屋から出てこなくなる。それは何としてでも避けたい。
「じゃあ、イルに勇者のことを知ってもらおう」
コスモは指をパチンと鳴らそうとして、スカッという音を鳴らした。じっと右手を見つめたのち、静かにその手を下ろす。
「それなら、アストさんに話をしてもらえばいいのでは?」
「んー、アストはイルに何度も話をしてるみたいだけど、一向に効果なし」
「では……勇者に助けられた人、などはどうでしょう」
コスモとレインは考え込む。
勇者に助けられた人。重い荷物を持ってもらったおばあちゃん、一緒にお母さんを探してもらった小さな子。
魔物に襲われていたところを助けるだなんて、いかにも勇者らしいことはしていないだろうけれど、小さな手助けなら彼は何度もしているだろう。
「あと、イルには他人を守るっていう考えが全くないんだよ」
「それは……勇者の仲間としてどうなの?」
勇者パーティーって人間界を守るためにあるんだよね。そのくせに守る気がないってどういうことだよ。
イルは魔のものたちを滅ぼそうとしている。誰かを守りたいとか救いたいとか、そういう理由で冒険者になったわけではない。だから、目の前で傷ついて泣いている人がいても気にしない……あれ、イルってかなりやばい人では?
「とりあえず心をへし折りましょうか。絶望に付け込めばあとは簡単です」
「おお。君、可愛い顔して怖いこと言うね」
怖いことを言いながらも、その表情は変わらない。普通なら悪い顔をするものだろうが、そうではなく無表情だとむしろ怖くて不気味だ。魔王軍って怖い。
「イルは最近、緑の丘によく来てるよ」
緑の丘とは、ランドが支配するダンジョンのことだ。土属性の魔物が多く生息する、そこまで難易度は高くないダンジョンだと聞いた。
「一人で攻略しようとしているらしい。愚かだねぇ」
クククと笑うコスモは魔王っぽいけれど、私たちにはどうしても魔王の真似事にしか見えない。子供が「魔王ごっこ」をしているかのようだ。本物の魔王であるはずなのに。
「ちょっとランドに潰してきてもらおうか。あれはきっと心折れるよ」
ランドの強さはさっき見たばかりだからわかる。頑丈に作られた魔王城の壁すらも壊す怪力。あんな力で殴られたら、ぺっしゃんこになって戻れないだろう。
「ついでに、誰かを守ることも学ばせよう」
レインは無言で頷いた。話す必要がなければ、彼は話そうとしないのだ。
「それと、故郷を滅ぼされた時のトラウマも掘り返しちゃおう」
子供っぽく無邪気な笑顔で怖いことを言う魔王コスモ。やっぱり魔王軍って怖い。
立派な角と整った顔立ち、それから圧倒的な強さ。魔族のモテ要素をすべて持っているのに、このだらしなさでは全て意味をなさない。コスモに妻どころか婚約者すらいないのが納得だ。
「僕ってば、天才!」
コスモはふふんと鼻を鳴らした。
だらしないうえに、この子供っぽさ。たとえ求婚されたとしても、側近であるカオスが断っているのだろう。魔王がこんなのだと民衆に知られてしまえば……。魔王の威厳を守るためにも隠し通さねばならないのだ。
「勇者パーティーの体制を整えるとは、具体的には何をするのですか?」
コスモはレインの問いかけに静止し、しばらく考えたのちに、映し出されている冒険者登録票を指さした。
「まずは、イルって人をどうにかする」
弓使いのイル。勇者への当たりが強く、冒険の障壁となる人物。この不安要素は取り除いておきたい。
「勇者パーティーから追い出すのが手っ取り早いんだろうけど……」
「イルさんがいなくなれば、勇者たちは一気に弱くなりますよ」
コスモはうんうんと頷く。
「イルさんって強いの?」
「弓使いの中ではトップレベルの実力を持っているでしょうね。上級魔物を倒したこともあるそうです」
レインはカンシチョウから映し出されたイルの功績を見ながら言った。
上級魔物を倒せるのは冒険者の中でも一握り。勇者パーティーに所属するのにふさわしい実力は持っているようだ。
「ぼくたち四天王にかすり傷を付けられる程度には、強いのではないでしょうか」
かすり傷。それだけで強者だと言われる人間は、本当に無力だ。
人間であるレインが、何を食べてどんな生活をして魔王軍四天王まで上り詰めたのか、甚だ疑問だ。
レインは本当に人間なのだろうか。私に油断させるために嘘をついているのでは。そう疑いたくもなるが、彼は私より筋力は劣っている。その点を見れば、レインはれっきとした人間なのだろう。
「イルさんが勇者へ辛辣な言葉を投げかけないように認識を変えるか、何を言われても大丈夫なように勇者の精神を鍛えるか、ですね」
「なら前者だね」
私もコスモと同じ意見だ。勇者の精神を鍛えるのはほぼ不可能。下手したら、勇者が一生部屋から出てこなくなる。それは何としてでも避けたい。
「じゃあ、イルに勇者のことを知ってもらおう」
コスモは指をパチンと鳴らそうとして、スカッという音を鳴らした。じっと右手を見つめたのち、静かにその手を下ろす。
「それなら、アストさんに話をしてもらえばいいのでは?」
「んー、アストはイルに何度も話をしてるみたいだけど、一向に効果なし」
「では……勇者に助けられた人、などはどうでしょう」
コスモとレインは考え込む。
勇者に助けられた人。重い荷物を持ってもらったおばあちゃん、一緒にお母さんを探してもらった小さな子。
魔物に襲われていたところを助けるだなんて、いかにも勇者らしいことはしていないだろうけれど、小さな手助けなら彼は何度もしているだろう。
「あと、イルには他人を守るっていう考えが全くないんだよ」
「それは……勇者の仲間としてどうなの?」
勇者パーティーって人間界を守るためにあるんだよね。そのくせに守る気がないってどういうことだよ。
イルは魔のものたちを滅ぼそうとしている。誰かを守りたいとか救いたいとか、そういう理由で冒険者になったわけではない。だから、目の前で傷ついて泣いている人がいても気にしない……あれ、イルってかなりやばい人では?
「とりあえず心をへし折りましょうか。絶望に付け込めばあとは簡単です」
「おお。君、可愛い顔して怖いこと言うね」
怖いことを言いながらも、その表情は変わらない。普通なら悪い顔をするものだろうが、そうではなく無表情だとむしろ怖くて不気味だ。魔王軍って怖い。
「イルは最近、緑の丘によく来てるよ」
緑の丘とは、ランドが支配するダンジョンのことだ。土属性の魔物が多く生息する、そこまで難易度は高くないダンジョンだと聞いた。
「一人で攻略しようとしているらしい。愚かだねぇ」
クククと笑うコスモは魔王っぽいけれど、私たちにはどうしても魔王の真似事にしか見えない。子供が「魔王ごっこ」をしているかのようだ。本物の魔王であるはずなのに。
「ちょっとランドに潰してきてもらおうか。あれはきっと心折れるよ」
ランドの強さはさっき見たばかりだからわかる。頑丈に作られた魔王城の壁すらも壊す怪力。あんな力で殴られたら、ぺっしゃんこになって戻れないだろう。
「ついでに、誰かを守ることも学ばせよう」
レインは無言で頷いた。話す必要がなければ、彼は話そうとしないのだ。
「それと、故郷を滅ぼされた時のトラウマも掘り返しちゃおう」
子供っぽく無邪気な笑顔で怖いことを言う魔王コスモ。やっぱり魔王軍って怖い。
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