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4 魔王軍四天王の暴れ方
065 説明して
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「火の竜が村を襲ったとは、どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。理由はわからないけど、人間界の村を半壊状態にまで追い込んだって」
カオスは執務室の扉を閉じながら、冷静さを取り戻していった。あれほど焦った様子のカオスは初めて見た。けれど、人間界の村を竜が襲ったからって、何をそんなに取り乱す必要があるのだろうか。
伝説級魔物である竜は、人間が束になったとしても敵わない。過去に、竜を封印したという記録は一、二個ほどあるが、倒したという記録はどこにもないのだ。
火の竜が襲ったという村の人々は、突然の出来事に、ただ唖然として絶望することしかできなかっただろう。五年前、魔王軍四天王レインに半壊状態にされた私の故郷と、火の竜が襲ったという村を重ねて考え、私は胸を押さえた。
「怪我人は?」
「村人は異変を感じて、すぐ逃げたらしい。今のところ、怪我人はゼロ」
よかった。もし亡くなった人がいたら……とさっきまで考えていたから、怪我人が出てないことに胸を撫で下ろす。
「魔王様は何とおっしゃっているのですか?」
「まさかと思って訊いたけど、そんな命令は出してないって」
ん、命令? 魔王が……火の竜に? 気になってしまったため、レインに尋ねることにした。
「命令って、火の竜は魔王軍の関係者なの?」
ただ何となく疑問に思っただけなのに、それを聞いたレインは口を小さく開いたまま固まってしまった。何か変なこと訊いた? と思ってカオスを見ると、彼も同様に驚いた様子で目を見開いている。
「あれ、知らなかったっけ?」
「そうですよ、あのひとが行方不明になったのは、シエルさんがひ……いえ、魔王城に来てすぐのことですから」
そういえば私のことを「協力者」だと思い込んでいる部外者、水の竜スイゲンがいることを思い出し、レインは「人質」という単語を寸前のところで飲み込んだ。
「ってちょっと待って。そこにいるのは誰……?」
子供の姿をしたスイゲンの存在に気付いたカオスは、困惑した表情でその姿を観察した。
「ああ、彼は――」
「怪しいものじゃないよ。我ねー、レインのお友達なの!」
子供らしい無邪気な笑顔で言い放つスイゲン。
「あなたと友達になった覚えはありませんが」
「そんな悲しいこと言わないで、我たち親友でしょう?」
今にも泣きだしそうな震えた声に、レインは言葉を詰まらせる。
「レイン? つまり魔王城に……しかも大事な情報をたくさん保管している執務室に、部外者を連れ込んだってことかな?」
「そうでは、ありません」
「我、来ちゃだめだった? レインに会いたかっただけなのに……」
ぽろぽろと涙を流すスイゲンに、レインはただうつむくだけだ。
「子供でもやっていいことと悪いことぐらいはわかるよね? 泣いて許されると思ったら大間違いだよ?」
悪魔の笑みを浮かべているカオスは、たとえ子供でも容赦ないらしい。改めて、カオスは怒らせてはいけないひとだと思った。
「……ちぇ。頭の固い奴は嫌いだ」
カオスから視線を逸らし、スイゲンはぼそりと呟く。
「竜封じの結界師について訊いたときも教えてくれなかったしさ。貴様の兄が口を滑らせてくれたから良かったが……」
「は?」
口をぽかんと開けたまま、カオスは固まった。そんな様子を見て我に返ったスイゲンは、一度目を閉じ、笑顔を作ってから目を開けた。
「お兄さん、どうかしたの?」
怪訝そうに、カオスはスイゲンを見つめている。そんな視線に、スイゲンは手に汗を握りしめていた。
「爺さん……?」
「だ、誰のこと?」
スイゲンの視線が泳ぐ。それを見て、カオスは確信したようだった。
「こんなところで何をやっているのかな、爺さん? それと、その気持ち悪い演技は何?」
「気持ち悪い!? 可愛いだろう、人の子だぞ?」
カオスがスイゲンのことを「爺さん」と呼ぶということは、かなり親しい仲なのだろうか。子供の姿なのに、「爺さん」なんて呼ばれているのを見ると、何だか頭がおかしくなりそうだ。
変身魔法によって子供の姿をしているが、その中身はもう何百年、何千年も生きている水の竜。「爺さん」と呼ばれてもおかしくない年齢だろう。
「っていうか、兄ちゃんが口を滑らせたってどういうこと?」
「口を滑らせたというか、普通に教えてくれたぞ。竜封じの結界師は、魔王軍四天王レインの側にいる少女だとな」
ほらやっぱり。魔王コスモは秘密なんて守れない。竜封じの結界師が人質の少女だと広まってしまうのは、時間の問題かもしれない。その前に、何かしら対策をする必要があると思う。
「え、竜封じの結界師に会いに来たってこと?」
カオスは私へ視線をやった。意味がわからないというような、困惑した表情を浮かべている。そりゃそうだ、私だって理由を聞くまで……いや聞いてからも意味がわからないのだから。
「そうだが?」
煽るようなスイゲンの言葉に、カオスは顔を引きつらせた。
「まあ部外者じゃないなら……いや部外者だけど、爺さんならいいや。あとで話は聞かせてもらうけどね」
彼は咳払いをして、一瞬にして切り替えた。さすがは魔王の側近だと思った。
「言葉の通りだよ。理由はわからないけど、人間界の村を半壊状態にまで追い込んだって」
カオスは執務室の扉を閉じながら、冷静さを取り戻していった。あれほど焦った様子のカオスは初めて見た。けれど、人間界の村を竜が襲ったからって、何をそんなに取り乱す必要があるのだろうか。
伝説級魔物である竜は、人間が束になったとしても敵わない。過去に、竜を封印したという記録は一、二個ほどあるが、倒したという記録はどこにもないのだ。
火の竜が襲ったという村の人々は、突然の出来事に、ただ唖然として絶望することしかできなかっただろう。五年前、魔王軍四天王レインに半壊状態にされた私の故郷と、火の竜が襲ったという村を重ねて考え、私は胸を押さえた。
「怪我人は?」
「村人は異変を感じて、すぐ逃げたらしい。今のところ、怪我人はゼロ」
よかった。もし亡くなった人がいたら……とさっきまで考えていたから、怪我人が出てないことに胸を撫で下ろす。
「魔王様は何とおっしゃっているのですか?」
「まさかと思って訊いたけど、そんな命令は出してないって」
ん、命令? 魔王が……火の竜に? 気になってしまったため、レインに尋ねることにした。
「命令って、火の竜は魔王軍の関係者なの?」
ただ何となく疑問に思っただけなのに、それを聞いたレインは口を小さく開いたまま固まってしまった。何か変なこと訊いた? と思ってカオスを見ると、彼も同様に驚いた様子で目を見開いている。
「あれ、知らなかったっけ?」
「そうですよ、あのひとが行方不明になったのは、シエルさんがひ……いえ、魔王城に来てすぐのことですから」
そういえば私のことを「協力者」だと思い込んでいる部外者、水の竜スイゲンがいることを思い出し、レインは「人質」という単語を寸前のところで飲み込んだ。
「ってちょっと待って。そこにいるのは誰……?」
子供の姿をしたスイゲンの存在に気付いたカオスは、困惑した表情でその姿を観察した。
「ああ、彼は――」
「怪しいものじゃないよ。我ねー、レインのお友達なの!」
子供らしい無邪気な笑顔で言い放つスイゲン。
「あなたと友達になった覚えはありませんが」
「そんな悲しいこと言わないで、我たち親友でしょう?」
今にも泣きだしそうな震えた声に、レインは言葉を詰まらせる。
「レイン? つまり魔王城に……しかも大事な情報をたくさん保管している執務室に、部外者を連れ込んだってことかな?」
「そうでは、ありません」
「我、来ちゃだめだった? レインに会いたかっただけなのに……」
ぽろぽろと涙を流すスイゲンに、レインはただうつむくだけだ。
「子供でもやっていいことと悪いことぐらいはわかるよね? 泣いて許されると思ったら大間違いだよ?」
悪魔の笑みを浮かべているカオスは、たとえ子供でも容赦ないらしい。改めて、カオスは怒らせてはいけないひとだと思った。
「……ちぇ。頭の固い奴は嫌いだ」
カオスから視線を逸らし、スイゲンはぼそりと呟く。
「竜封じの結界師について訊いたときも教えてくれなかったしさ。貴様の兄が口を滑らせてくれたから良かったが……」
「は?」
口をぽかんと開けたまま、カオスは固まった。そんな様子を見て我に返ったスイゲンは、一度目を閉じ、笑顔を作ってから目を開けた。
「お兄さん、どうかしたの?」
怪訝そうに、カオスはスイゲンを見つめている。そんな視線に、スイゲンは手に汗を握りしめていた。
「爺さん……?」
「だ、誰のこと?」
スイゲンの視線が泳ぐ。それを見て、カオスは確信したようだった。
「こんなところで何をやっているのかな、爺さん? それと、その気持ち悪い演技は何?」
「気持ち悪い!? 可愛いだろう、人の子だぞ?」
カオスがスイゲンのことを「爺さん」と呼ぶということは、かなり親しい仲なのだろうか。子供の姿なのに、「爺さん」なんて呼ばれているのを見ると、何だか頭がおかしくなりそうだ。
変身魔法によって子供の姿をしているが、その中身はもう何百年、何千年も生きている水の竜。「爺さん」と呼ばれてもおかしくない年齢だろう。
「っていうか、兄ちゃんが口を滑らせたってどういうこと?」
「口を滑らせたというか、普通に教えてくれたぞ。竜封じの結界師は、魔王軍四天王レインの側にいる少女だとな」
ほらやっぱり。魔王コスモは秘密なんて守れない。竜封じの結界師が人質の少女だと広まってしまうのは、時間の問題かもしれない。その前に、何かしら対策をする必要があると思う。
「え、竜封じの結界師に会いに来たってこと?」
カオスは私へ視線をやった。意味がわからないというような、困惑した表情を浮かべている。そりゃそうだ、私だって理由を聞くまで……いや聞いてからも意味がわからないのだから。
「そうだが?」
煽るようなスイゲンの言葉に、カオスは顔を引きつらせた。
「まあ部外者じゃないなら……いや部外者だけど、爺さんならいいや。あとで話は聞かせてもらうけどね」
彼は咳払いをして、一瞬にして切り替えた。さすがは魔王の側近だと思った。
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