70 / 76
番外編1
プニカメの島 その7
しおりを挟む
「いやあ、ほんと君たちに会えて良かったよ」
弓使いの冒険者は、レインへ手を差し出す。
「いえ、こちらこそ。たくさんプニカメの話ができて、楽しかったです」
レインはその手を掴み、固く握手をした。
あの後、冒険者たちは、レインからぷにぷにの仕方について教えられたり、プニカメが食べるもの、過ごしやすい環境など、生態について語られたりしていた。あんなに熱くなっているレインは久しぶりで、私は見ているだけで疲れてしまった。
プニカメに濃く染まった時間を過ごした冒険者たちは、すっかりプニカメに魅了されてしまったらしい。プニカメを倒すなんて非人道的行いは頭からすっとんで、ただただプニカメをぷにぷにして、癒されていた。
「まさかこうなるとは……」
弓使いの冒険者は、ずっと焦り疲れている様子だったのに、今ではそんなもの最初からなかったかのようにスッキリした表情を浮かべている。もはや怖いぐらいに。
「プニカメは世界を救うのですよ、シエルさん」
本当にそうかもしれない。いつか、人間と魔族も、プニカメを通して仲直りできたらいいな。
「君たちはもう島を出るのかい?」
「ええ。すでに船の予約は取っていますので」
「そうか……」
こういう別れ際でも、レインはニコリともしなかった。相変わらずの無表情のまま、冒険者を見つめるだけだ。
「でかでかさん、どうかこの島のプニカメたちを守ってくださいね。また会いに来たとき、ここにいるプニカメがみんな揃って再会できるように」
冒険者へは何も言わず、レインはでかでかのほうへ体を向けた。これは……レインは正直、冒険者との別れはどうでもいいのだろう。たしかに、優先すべきはプニカメだ。
レインはプニカメの島の守り神に上半身を預けた。きっとでかでかがいれば、この島からプニカメが消えることはないだろう。ずっと賑やかなままでいてほしい。
「はまりさん、怪我には気をつけてくださいね」
コーラルピンクのプニカメは、レインに抱っこされるのが好きらしい。目を細めて喜んでいた。
「クサイさんは体を洗ってください。おデブさんは痩せましょう」
それが別れの言葉でいいのだろうか。悪口にしか聞こえない。
「ほわほわさんは、とても可愛いので、そのままでいてくださいね」
「ほわほわ……? ああ、天使ちゃんのことか」
「その名前は却下しましたよね」
どうして。可愛い名前だと思うんだけどな、天使ちゃん。
「あ、そうでした。ここでのことは、公言しないようにお願いしますね」
レインは冒険者のほうへ振り返って言った。
「なぜだ?」
「ここのプニカメたちが可愛すぎると知られれば、プニカメの島にたくさんの観光客が流れ込んで、プニカメたちの平穏な住処が荒らされてしまうでしょう?」
「そうか。わかった」
「それから、プニカメを傷つけるような外道を見たら、制裁を与えてください。人間にせよ、魔物にせよ、プニカメの敵は一概に悪ですから」
「その通りだな!」
冒険者たちは、レインの言葉にいちいち頷いていた。なんか、プニカメに洗脳された集団みたいだ。
プニカメの島の一番の思い出が、プニカメを使って洗脳したことなんて……魔王コスモや四天王アイレに「どうだった?」と聞かれたとき、何で答えたら良いのだろう。
「ではみなさん、ぼくたちはこれで失礼します」
「おう、元気でな」
私は微妙な気持ちでプニカメと冒険者たちに手を振りながら、レインと共に船着場へ向かった。
◇◆◇
「どうだったぁ?」
「うわぁっ!」
森を出た途端、背後から抱きつかれ、私は驚いて声をあげてしまった。
「大きなプニカメ、見つかった?」
オカルトマニアのブキミちゃんは、頬を紅潮させながら、興奮気味に尋ねた。
「残念ながら」
レインは流れるように嘘をつく。そのときは、レインがどうして嘘をついたのかわからかったが、後から考えてみると、たぶんプニカメたちを守るためだったんじゃないかな、と思う。
でかでかの存在がいろんな人に広まってしまい、正体が明かされれば、「大きなプニカメ」に対しての恐怖は薄れてしまう。そうなれば、「大きなプニカメ」が怖いから島には来なかったという冒険者たちが、ぞろぞろとプニカメを倒すためにやってくるかもしれない。
「えー、また空振りかぁ」
ブキミちゃんはあからさまに肩を落とす。本当は大きなプニカメに……でかでかに会ったのに、何だか申し訳ない。
「オカルトというものは、わからないから面白いのではありませんか?」
人間は、未知というものに恐怖を覚えるものなのだ。化け物とか、幽霊とか。正体がわかれば、「なんでこんなのを怖がっていたんだろう」となることがほとんどだ。
「……そうだねぇ。オカルトはわからないから面白い。ワイは、ゾクゾクするあの感覚が大好きなんよ!」
ブキミちゃんは不敵に笑いながら、天を仰いだ。始終やばい人だった。
「あ、そうだ。これお礼ね」
差し出されたそれに、レインは咄嗟に飛びついた。まるで餌を差し出された犬のようだ。
「プニカメの写真集……」
すでにレインは同じものをもっているはずなのに、どうしてこうも喜べるのだろう。
「ありがとね。チミたちのおかげで、オカルトの面白さを再認識できたよ」
ブキミちゃんは無理やり私の手を握り、鼻息を荒くしながら言う。
「シエルさんに触らないでください」
「おっと、ごめんごめん。じゃ、ワイは次の調査に向かうわー」
ブキミちゃんは嵐のように現れて、嵐のように去って行った。別れは少し寂しいが、正直もう二度と会いたくない。
「いろいろありましたが、プニカメの島を満喫できましたね」
「うん。すっごい疲れたけどね」
帰ったら、たくさん話をしよう。旅の思い出を心の中にしまい、私はプニカメの島に背を向けた。
弓使いの冒険者は、レインへ手を差し出す。
「いえ、こちらこそ。たくさんプニカメの話ができて、楽しかったです」
レインはその手を掴み、固く握手をした。
あの後、冒険者たちは、レインからぷにぷにの仕方について教えられたり、プニカメが食べるもの、過ごしやすい環境など、生態について語られたりしていた。あんなに熱くなっているレインは久しぶりで、私は見ているだけで疲れてしまった。
プニカメに濃く染まった時間を過ごした冒険者たちは、すっかりプニカメに魅了されてしまったらしい。プニカメを倒すなんて非人道的行いは頭からすっとんで、ただただプニカメをぷにぷにして、癒されていた。
「まさかこうなるとは……」
弓使いの冒険者は、ずっと焦り疲れている様子だったのに、今ではそんなもの最初からなかったかのようにスッキリした表情を浮かべている。もはや怖いぐらいに。
「プニカメは世界を救うのですよ、シエルさん」
本当にそうかもしれない。いつか、人間と魔族も、プニカメを通して仲直りできたらいいな。
「君たちはもう島を出るのかい?」
「ええ。すでに船の予約は取っていますので」
「そうか……」
こういう別れ際でも、レインはニコリともしなかった。相変わらずの無表情のまま、冒険者を見つめるだけだ。
「でかでかさん、どうかこの島のプニカメたちを守ってくださいね。また会いに来たとき、ここにいるプニカメがみんな揃って再会できるように」
冒険者へは何も言わず、レインはでかでかのほうへ体を向けた。これは……レインは正直、冒険者との別れはどうでもいいのだろう。たしかに、優先すべきはプニカメだ。
レインはプニカメの島の守り神に上半身を預けた。きっとでかでかがいれば、この島からプニカメが消えることはないだろう。ずっと賑やかなままでいてほしい。
「はまりさん、怪我には気をつけてくださいね」
コーラルピンクのプニカメは、レインに抱っこされるのが好きらしい。目を細めて喜んでいた。
「クサイさんは体を洗ってください。おデブさんは痩せましょう」
それが別れの言葉でいいのだろうか。悪口にしか聞こえない。
「ほわほわさんは、とても可愛いので、そのままでいてくださいね」
「ほわほわ……? ああ、天使ちゃんのことか」
「その名前は却下しましたよね」
どうして。可愛い名前だと思うんだけどな、天使ちゃん。
「あ、そうでした。ここでのことは、公言しないようにお願いしますね」
レインは冒険者のほうへ振り返って言った。
「なぜだ?」
「ここのプニカメたちが可愛すぎると知られれば、プニカメの島にたくさんの観光客が流れ込んで、プニカメたちの平穏な住処が荒らされてしまうでしょう?」
「そうか。わかった」
「それから、プニカメを傷つけるような外道を見たら、制裁を与えてください。人間にせよ、魔物にせよ、プニカメの敵は一概に悪ですから」
「その通りだな!」
冒険者たちは、レインの言葉にいちいち頷いていた。なんか、プニカメに洗脳された集団みたいだ。
プニカメの島の一番の思い出が、プニカメを使って洗脳したことなんて……魔王コスモや四天王アイレに「どうだった?」と聞かれたとき、何で答えたら良いのだろう。
「ではみなさん、ぼくたちはこれで失礼します」
「おう、元気でな」
私は微妙な気持ちでプニカメと冒険者たちに手を振りながら、レインと共に船着場へ向かった。
◇◆◇
「どうだったぁ?」
「うわぁっ!」
森を出た途端、背後から抱きつかれ、私は驚いて声をあげてしまった。
「大きなプニカメ、見つかった?」
オカルトマニアのブキミちゃんは、頬を紅潮させながら、興奮気味に尋ねた。
「残念ながら」
レインは流れるように嘘をつく。そのときは、レインがどうして嘘をついたのかわからかったが、後から考えてみると、たぶんプニカメたちを守るためだったんじゃないかな、と思う。
でかでかの存在がいろんな人に広まってしまい、正体が明かされれば、「大きなプニカメ」に対しての恐怖は薄れてしまう。そうなれば、「大きなプニカメ」が怖いから島には来なかったという冒険者たちが、ぞろぞろとプニカメを倒すためにやってくるかもしれない。
「えー、また空振りかぁ」
ブキミちゃんはあからさまに肩を落とす。本当は大きなプニカメに……でかでかに会ったのに、何だか申し訳ない。
「オカルトというものは、わからないから面白いのではありませんか?」
人間は、未知というものに恐怖を覚えるものなのだ。化け物とか、幽霊とか。正体がわかれば、「なんでこんなのを怖がっていたんだろう」となることがほとんどだ。
「……そうだねぇ。オカルトはわからないから面白い。ワイは、ゾクゾクするあの感覚が大好きなんよ!」
ブキミちゃんは不敵に笑いながら、天を仰いだ。始終やばい人だった。
「あ、そうだ。これお礼ね」
差し出されたそれに、レインは咄嗟に飛びついた。まるで餌を差し出された犬のようだ。
「プニカメの写真集……」
すでにレインは同じものをもっているはずなのに、どうしてこうも喜べるのだろう。
「ありがとね。チミたちのおかげで、オカルトの面白さを再認識できたよ」
ブキミちゃんは無理やり私の手を握り、鼻息を荒くしながら言う。
「シエルさんに触らないでください」
「おっと、ごめんごめん。じゃ、ワイは次の調査に向かうわー」
ブキミちゃんは嵐のように現れて、嵐のように去って行った。別れは少し寂しいが、正直もう二度と会いたくない。
「いろいろありましたが、プニカメの島を満喫できましたね」
「うん。すっごい疲れたけどね」
帰ったら、たくさん話をしよう。旅の思い出を心の中にしまい、私はプニカメの島に背を向けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる