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第9章:叡山焼き討ちから始まる火消し生活
なによ? こいつ。強すぎ!
しおりを挟む黒古を矢倉の中へ放り込んで待機させる。アゲハに矢倉の警戒も指示。
黒古は姫様抱っこで連れて行けと要求してきたが即座に却下。
衛生兵がやられたら、もしもの時ヤヴァいじゃない。
矢倉をピットにして、いつでもピットイン出来るようにしておく。
まあ、そんなに針使うことはないと思うけど、もしも将軍をケガさせたらまずいよね。
北門の内側に堂々と立っていようかな。いや、やっぱり相手は将軍だから片膝ついた方がいい?
それにしても遅いな。
すこし焦り出した俺の前に、4人の護衛らしき側近に守られるように狩衣姿の将軍が小走りに近づいてくる。
どうせ何か忘れものでもして、取りに行っていたんだろうね。
「おお。そなたは明智とやらか? 今からでも遅うはない。余の家臣となれ。ここを離れて大軍にて信長を叩き潰す故、手を貸すのじゃ」
この馬鹿殿みたいな将軍。
現在の状況も認識できないのか?
「上様、お迎えに上がりました。三好や腐れ坊主どもにたぶらかされてはなりませぬ。信長様は今後も副将軍として義昭さまを支えていく所存。
ここは御逃げなされて信長様の下で追討令を発していただきたく」
笑いをこらえつつ、ヘイトを溜め始める。
「何を申すのじゃ! 信長は余の命令をことごとく無視しおって。しまいには余に命令し始める様。許しがたい!」
「それは上様の秘めたるご意思を信長様が汲み取り、汚れ役を買って出ている事ゆえで」
「黙れ! それでは信長が全て取り仕切っておるように日ノ本中の武家や公家に映ってしまうではないか!」
周りの側使え?も、異議を唱え、中には「不忠者!」「この下郎が!」とかなじる者も出て来る。
よく見ると三淵藤英とか細川藤孝とか、官位持っちゃっているお上品な方々もいる。だがこの方々は煽り耐性MAX?
平然としている。どろどろ公家さん相手に寝技をしている魑魅魍魎連中だからね。
どうやってこの連中を慌てさせようかと考えていると、その後ろから僧形の小柄な人影が現れた。
「そこをどきなされ。若侍殿。
征夷大将軍の行動を止められるのは、恐れ多くも帝のみ。
たとえ副将軍とされる信長殿でも、幕府の実権を握って自在になさることは出来ぬのが道理」
しわがれた声が古臭い考え方を展開しだしたが。
「そのような話は後で聞こう。信長様の前でな。もっとも信長様が許されればだが」
ちゃっちゃとこいつら倒して将軍を略奪するか。
逃げ場はない。
後ろは雪風が塞いでいるはず。
「おお、そなたの味方らしき忍者は、あの者が持っていた糸で柱にぐるぐる巻きにしておいたぞ。
殺しはせなんだから安心せよ」
「なんだと? 雪風を倒しただと?」
常人だったら、あの糸さばきからは逃げられない。それを反撃されずに生け捕り? 奴の僧衣は全く引き裂かれていない。
「なによ! あんた。光秀みたいに加速できるの? 卑怯よ、尋常に勝負なさい!」
そういうそばから雪風は縛りを抜け出したのか、忍者らしくないセリフを吐きつつ、身体中から血を吹きだしてこちらへ走って来る。
大丈夫なのか?
「おお、よくあの縛りから抜け出せたものよ。亀甲縛りとM字縛り、ついでに吊り攻め……」
「よく知っているな、そんな縛り方を」
「いや、趣味で……」
光秀はヲタクの習性でなんでもよく知っているのだ!
だがこいつ。M字縛りと言っていなかったか? この時代にM字とは?
「御託はこの辺でよかろう。ささ、藤英殿、藤孝殿。公方様をお逃がし下され。これら雑魚は拙僧が相手します故」
「では頼んだ。天海殿。あとから落ち合いましょう」
「まてぃ! 公方様、信長様の所にお連れいたす」
俺は念のため、頭痛を覚悟して加速を開始。北門の通用口を塞ぐように立ちはだかる。そして将軍を担いで逃げようとした……が!
間に割って入る僧形。
「その程度の素早さ、拙僧にもあるぞ」
加速のために脱ぎ捨てられた菅笠に隠れていた顔が、目の前にあった。
「うっ!」
「どうした。驚いたか」
「くっ」
「?」
「口がクサイ!!」
天海とかいう糞坊主が、ついつい口の臭いを嗅ごうとしたすきを狙い、将軍を略奪!
雪風のもとへ向かう。
「待たんか! この口先男。実力で勝負せよ!」
「総合的な能力が実力というものだ。お前のような正面から戦うしか能のない奴には俺には勝てん」
ただ単にセコいとも言われるけど、楽して勝てればそれでいいんです。
「では拙僧が実力、見てもらおうか」
糞坊主はその言葉と共に、手にした六尺棒を引っ張り、二つにする。
中には2本の直刀。長さは両方とも150cmはある。
双方、さきほどまで止めていた加速空間に入った。
少し遅れた俺の首筋のすぐ前を、糞坊主の切っ先がすり抜けていった。
こいつ。
俺と同じ加速をしてくる。
他にもなにか隠し持っているものがあれば危険だ。
だがこの加速。どうしてこいつが出来るんだ?
ひゅん。
そんなことを考えている余裕はない。
四方八方から斬り込んでくる2本の長巻のような武器をどういなすか。それをかいくぐり奴の身体にこちらの切っ先を届かせる。
腰の後ろから2本の小刀を抜き放つ。
一合、二合。
刀を交わしながら間合いを計る。
圧倒的にリーチが違う。
片方の長巻を左腕でからめとり、そのまま近づくか。
ダブルダッチのような空間に入り込んで、宙返りしながら奴の手首を狙う。
よけられた。
長巻を短く持ち換え、反撃してくる。
しかしな。
それは囮。
バク転しながら、もう一方の長巻の柄を斬り落とす。
よしっ。奴の得物は1つだけになった。
これならば長巻を片方の小刀で鍔ぜり合いをしながら斬り込める。
「ふははは。よくやるな、ガキが。だがもう頭痛がひどいだろう。これで終わりじゃ。公方様も逃げる事が出来た。
さらばじゃ」
糞坊主は思いっきりしゃがんでジャンプ!
え“
まるでロケットじゃん、その勢い。
放物線弾道を描きながら飛び去る坊主姿。
「あいつ。なんであんたみたいな加速するのよ? それにあの力」
やっとのことで近づいて来た雪風が奴のジャンプした際にできた穴をのぞきながらぼやく。その横にはアゲハに守られながら黒古もいる。
「あの人。多分、わたくしが針を打った人ですわ。あの加速と怪力。間違いなく黒古チルドレン」
チルドレンにしては歳取りすぎているが、黒子の犠牲者なのか。
「黒子。おまえ、奴を知っているのか?」
「いいえですわ。見た事のない顔ね」
気になる謎が出来てしまった。
だがそれよりも将軍を逃がしたのは痛い。
これで織田家包囲網が確定した?
「あ。あのお坊さん。わらじを忘れていったです。穴の中に張り付いてるです。今度お返ししなくちゃなのです」
やはり生身以外は強化できないのがお約束らしい。
あのしわくちゃボディ(想像)を見るとMPが一気に削れるというスキルに警戒せねば。
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