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第9章:叡山焼き討ちから始まる火消し生活
強力戦略兵器、お手紙。(足利義昭視点)
しおりを挟む<足利義昭視点です>
1570年10月
二条御所
「上様。松永久秀と和睦した三好勢合わせて22000。筒井城を囲みましてございまする。
筒井順慶、直ぐに降伏するかと」
側使いの者が伝令からの情報を伝えて去っていく。
すべて順調じゃの。
言う事を聞かぬ信長の奴を、実力で懲らしめてやるわ。
余がいくら幕府に権力を集中させよと言うても、己が権力基盤を高めて自分で幕府を支えるとか申す。
その様にして数々の謀反人が足利の幕府を操ってきた。
それももう終いじゃ。
余が直々に将軍として日ノ本を治める。
今は手勢が少ない。
じゃが織田の領地を削り、そこを幕府の直轄地にする。
こたびの戦に参集したものに、少々は領地をくれてやるが、良き地は幕府が治めてその収入で幕府の兵を編成してくれよう。
「上様。本願寺と三好。あの血にまみれた歴史を持つ両者の仲裁、見事としか申しませぬ。
松永と三好も同様。まさかこのように連携した戦を始めるとは誰も思いませんでしたでしょう」
何をぬかす。
目の前に座るこいつの策じゃろう。
その皺に隠された顔からは表情は見とれないが、真面目腐って言うておるのじゃろう。
こやつには冗談は通じぬようだ。
おだてているのではなく本当にそう思っている節もある。
「ただ宇喜多と毛利の仲裁は厳しいかと。ここは瀬戸内の制海権を毛利に確実に手に入れてもらうように、近隣の水軍衆にも文を」
「そうじゃな。
だがそのような下賤な輩に余の文を与えるのもどうかと思うが」
「なるほど。そうでございまする。拙僧としたことが失態でございました。では水軍に影響力を持つものへ」
この僧形の策士。
織田家臣、羽柴秀吉とか申す者の配下という。
陪臣ではあるが使い勝手が良い。
羽柴の使いで来ていたものを、儂の直臣に取り立てた。二重の臣となるがよくあること。
天台宗の僧で天海とか申したが、まるで天台宗徒とは思えぬ。
まさか比叡山を陥れるための策を練るとは思わなんだ。
あの信長を仏敵にするために、比叡山を焼かせるように仕向けた。
おかげで本願寺を動かしやすくなって、良策であったことがわかったわ。
「本願寺の一向宗徒は摂津から外には出ますまい。上様の号令で京に攻め上る者は畿内では荒木殿を中心とした15000程度。
すでに山崎を抜けるころ。
織田の軍勢は、未だ近江に引き返している最中。
京の都を取り、上様が大号令をかければ播磨・丹波よりさらに20000は集まりましょう」
「その兵を使い、京を守っている間に武田と上杉に織田を攻めさせると」
皺顔がかすかに笑うように頭を下げる。
「近衛さまも、このはかりごと、快く思われているご様子。
朝廷をまとめていただけるという内意を頂きました」
よくやるの、この者。
武芸百般にして、文化教養人。
(細川)藤孝とも仲が良いという。
織田の諸将とは全く違う。
あの使えそうに見えた明智とやらよりもはるかに使える。
「あとは信長の本隊がどのくらい早く、京に引き返して来るかでありまするが……」
その時、ドタドタと縁側を走る足音。
「上様! 瀬田の大橋に桔梗紋! 織田の配下、明智光秀の軍勢にて!」
なんだと?
まさか、このような短期間でここまで来るとは。
奴の配下は韋駄天の化身なのか?
◇ ◇ ◇ ◇
「瀬田の大橋。焼かれなく幸いでした」
半兵衛っちの言う通り。
この橋、京都を守るための重要地点。
本能寺した後の光秀が安土城取れなかった理由はこの瀬田の大橋を焼かれちゃったこと。
義元君もそうだし、信玄の坊さんもこの橋渡りたかったんだろうね。
せめてここの砂でも袋に詰めて持ち帰りたかった?
光秀も一応、袋に詰めておこうかな。
負けたときにすぐ逃げ帰れるように。
「先行した甲賀忍から伝令。村上勢、中川清秀を先鋒に山崎を通過中」
ありゃ、先に山崎を取られちゃったよ。
そりゃ仕方ないよね。こっちは琵琶湖を渡って来たんだから間に合わない。さてそれじゃ、どう作戦を……
「半兵衛。どう見る?」
最近、こう聞けばいい事、やっと気が付きました~
先に策を聞いて、もったいをつけてそれを採用する!
「はい。神のごとき殿の策には比べ物になりませぬが、わたくしの策を」
むずかゆくなる前置き、毎度毎度言わないでちょ~だい!
「作戦目的は、この戦略の大元、公方様の身柄の確保。これさえ成功すれば京はいつでも奪還できます。
故に二条御所を包囲が定石ですが……殿には多分、策がおありかと」
それ聞きたいんじゃない!
「そうだが、まずは半兵衛の策を参考にさせてもらおう」
「そうでございますか。では……」
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