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第9章:叡山焼き討ちから始まる火消し生活

一揆は民衆運動じゃないでしょ?

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 1570年4月
 摂津国


「キンカン、申せ」

 また信ちゃんの圧縮データ通信。解凍しなくちゃ。この状況からすると、越前の仕置きですね。
 今、織田軍のほぼ全軍を集めて、一向宗の総本山である石山本願寺、つまり大阪城の付近ね。
 ここ攻めています。

 正史では雑賀の鉄砲隊とか出てきちゃって、大苦戦するわけ。
 でもその雑賀鉄砲隊が出てこないように策謀したやつがいて。
 誰とは言いませんが。

 それで今、一向宗は急遽城塞のよう拡張された本願寺に立てこもっています。
 このまま包囲していれば、その内降伏するんじゃないの?
 北伊勢の一向一揆も起きないし。
 そうし向けた影の実力者がいるようで。


「はっ。すでに朝倉は越前の北、加賀の一向宗と和議を結びましてござる」
「その方の策謀で起きていた越前の一揆も終息したか」
「はっ。それが元で和議となったらしく、それがしの策、まだ甘かったようです」

 信ちゃん、本願寺をにらみつけて俺に言う。

「やつらは坊主ではないわ。民の支配者。常世《あの世》でなく浮世《この世》を支配して居る為政者よ」

 その政治が上手く行っている場所もある。この摂津河内和泉なんかがそう。がっちり経済圏を作っているんですよね。下手な大名の支配権よりも強固だよ。

「どちらを先にするか?」
「加賀でございましょう」

 加賀の国は90年間一向宗に支配されている国だ。
 そのプライドは高い。
 同じ一向宗でも本願寺の命令を聞かないことが多い。

「なぜじゃ」

 俺は下を向いて、少し間を置いて答えた。

「敵は分断して、各個撃破するがよろしいかと」
「続けよ」

 再び俺は、下を向く。

「朝倉を全力で叩き潰しまする。その後、調略した朝倉の旧家臣に支配を任せ、一旦織田は引きまする。
 その後旧家臣を仲たがいさせ内乱、一揆をおこさせ、それを好機と見た加賀の一向衆を越前に誘引……」
「それで?」

 俺は、今度はさりげなく右てのひらを顔の前で広げる。

「その後、越前国の民から兵糧調達をさせるように、補給線を断ちまする」
「仲たがいさせるか。一揆衆を。して、それ以外の手は?」

 今度は左手のひらを開いて顔の前へ。

「既に加賀の一向衆には扇動者を仕込みまして。例のリバーシで大負けした者と大勝ちした者と……」

 最近はリバーシ流行らせています。
 転生物のお約束のリバーシ。
 もう一方のお約束、マヨネーズは食中毒が怖くてやってない。

「者と?」
「……者と……」
「どうした?」
「……あ~、あれを致しまする」

 俺はきょろきょろし始める。
 あれをなくしてしまった。
 半兵衛っちが立てた作戦を書いた小さな紙。
 いわゆる「カンペ!」

「ふむ。仲たがいさせるのには、およそいかほどかかる?」
「銭は1000貫文? 時間は半年」

 これは憶えていた~~、ヨカッタ。
 光秀のメモリー少ないの。
 フラッシュメモリー的でもあるんです。
 すぐ消えちゃう。


「では、キンカン。策は任せる。俺が率いて確実に朝倉の息の根を止め、越前を手にするゆえ、支配がしやすいように差配せよ」

 は~、何とかなったよ。
 策を伝える時は、今度は何としても半兵衛っち連れて来れるようにしよう!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1570年4月
 越前。一乗谷


 また燃えています。
 この時代、何でも燃えてしまうんですね。木と竹でできた家屋ですから、よく燃えます。

 別に信ちゃんが特別な訳じゃないです。この朝倉家代々の根城、一乗谷が燃えたのも、信ちゃんが火をつけたんじゃなくて一揆衆が燃やしたんです。

 でも全部、信ちゃんのせいになっちゃうのが不思議。潜入観念はオソロシイ。


「信長様。ほぼ予定は終了しましてござる」
「よくやった。権六、褒美じゃ」

 柴田のおじさまに小粒金一握り。
 それ、俺も欲しいです。
 また金欠で。
 なんで12万石の大名が食費節約せねばならん!
 今朝も稗飯ひえめしだったよ。
 健康でいいけどさ。


「主力はキンカンの策通り、引く。
 キンカンは長浜より一揆衆の仲たがいを致せ。期間は半年じゃ。できるな」

 収穫後に加賀の連中に越前を荒らしてもらう。
 それまでに越前の主だった国衆に手を回して、戦後の事を事前に整備しておく。

 第二次大戦も1943年のカサブランカの会談で戦後の取り決めしていたもんな。
 勝つ気満々の連中って、その後のことも考えるんだよね。
 始めたときは既に勝てるように準備している。
 相手に手を出させて、それを口実にフルボッコにする。
 何時の時代も同じです。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「放て~い!」

 ばばばば~ん!

「次、放て~~い!」

 ばばばば~ん!!


 敦賀、金ヶ崎から越前中心部へ通じる北国街道。その木の芽峠に鳴り響く鉄砲の轟音。

 こういう山岳地帯は鉄砲の音がこもるんだよね。
 信ちゃんが近畿に行っているすきにとばかりに、敦賀に攻めて来る一向衆、だいたい2万?
 こいつらに十字砲火食らわせている。

 この先鋒が壊乱して敗走したら、それを追って柴田勢が雪崩をうって越前を平定。
 そのまま越前の支配を確固たるものにする。

 ついでに加賀の連中も包囲殲滅するために、海路、今でいうところの金沢市北部にピストン輸送で3000以上の部隊を輸送します。

 金沢落とせば逃げ場はなくなる。
 海路がやばいかもと思って、海が荒れる前の9月に戦争始めました。

 これは織田家だからできる事。
 常備軍だけでも20000近くいるから。
 徴兵すればもっと行けるけど、今回は少数精鋭で。
 士気破砕して、逃走させる。なので木の芽峠まで引き寄せました。

 士気がなければ一揆勢などただの烏合の衆。
 武士の集団には勝てません。


「キンカン。権六の支援をせよ。俺は今度こそ本願寺を落とす」

 信ちゃん、気合が入っていますね。
 孫市が出てこなければ、正史のように鉄砲で手傷追わなくて済むんじゃね?

 光秀は、長浜で城作りながら寧々ちゃんと子作りしていますので、頑張ってください!



「信長様! 申し上げます! 摂津茨木城の荒木村重、離反。周辺の国衆とともに本願寺と結託したとの由。これに三好も加わり、総兵力6万以上!」

「なぜこの時に! あやつか? 義昭。謀ったか?」

 え~っと、これヤヴァい?
 精鋭柴田勢がここにいると、6万の大軍を支えるのは厳しい。
 まだ完全に動員をしていないと思うけど、1月もすればこっちの4万よりもはるかに戦略的優位性を発揮できる。


 信ちゃんの顔が真っ赤になっている。
 こりゃ波乱があるなぁ。
 さすが戦国時代。
 謀反、謀略なんでもあり。

 って、光秀も謀略していたんだから、人の事言えないです。

 どう出る?
 信ちゃん。
 できれば光秀、使わないでね。

 パト〇ッシュ。
 僕、もうつかれちゃったよ。
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