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第12章:ドラゴンスレイヤー!
謙虚堅実にやっているつもりですが何か?
しおりを挟む<信長視点です>
1672年9月
加賀国。犀川南岸
「犬よ。貴様、謙信の思惑どう見る」
「引き寄せてから叩く。それしかありませぬ」
それはそうじゃ。
これだけ陣地を派手に構築すれば、迂回するか陣地から引っ張り出すことでしか決着はつかぬ。迂回は地形で出来ぬがな。
やつには退く理由はある。
越後で謀反が起きたのだから、それを理由に転進。追ってきた織田を一撃で葬る。必ずやあの軍神とやらは考えるであろう。
双方、首を狙う戦い。
受けのみはない。最後には襲い掛かるための受けよ。
キンカンの奴は「謙信にはウケはございませぬ。タチのみでござる」とか訳の分からぬ事を言っておったが、早い話が攻めるのみであると言いたいのであろう。
そういえば、あの『薄い本』。
試しに送ってみたが、意外と気に入ったようだった。その後も何冊か送ったが、それで武田との共同戦線を張られずに済んだのかもしれぬ。
なんでも試してみるものじゃな。
「じゃがこれでは加賀は支配権が確定せぬ。それでは治安が悪くなる一方」
「ではこちらから仕掛けますか? そろそろ野分も気になるところ。雨が降れば鉄砲が使えませぬ」
以前よりも鉄砲の雨除け技術が向上した。またもやキンカンの手柄だ。あいつにはいつも助けられてばかりよ。
「その前に叩けるか? 騎馬鉄砲隊で」
「は。敵の殿をぶっ叩き消滅させる事、容易い事かと」
「そして一撃して離脱か」
「御意」
騎馬鉄砲隊は足が命。
一旦、嵐が来て道がぬかるんだらしまいよ。
やるなら早く決断をせねば。
このまま犬に任せるか。
はたまたキンカンが戻るまで待つか。
「2個大隊だけでやれるか?」
「いいえ。1個大隊の方がよろしいかと」
そうか、多すぎると逃げる時につかまるか。しかしそれでは大した打撃は与えられぬではないか。
それを言おうとした時、あいつが帰ってきた。
「信長様。明智殿が帰って参りました」
「早いな。手勢は何人じゃ」
「はっ。10名ほどにて。相当な強行軍だったらしく馬が潰れております」
摂津からここまで50里(200km)。その間に4カ所、補給所とやらを設けて馬を変え、物資を補給しつつ機動するとか言うていた。
なぜそのような思い付きが出来ると聞いたら
「秀吉殿に教えていただき申した」
とか言うていたが、猿は全然知らぬという。
いつものキンカンらしい話じゃな。
常に人に功績を譲る。
「お待たせいたしました、信長様。さて敵はいずこに?」
額に手のひらを当ててきょろきょろする当たり、昔の猿のような剽軽な仕草よ。
そう言えば最近の猿は、このような仕草はしなくなったな。やたらと重厚な姿勢を取りたがる。その顔を見るとむかつくことがよくある。
「謙信はここより北。4里(16km)の辺りに。光秀殿。我ら第1大隊ならば1日で一撃離脱できようかと」
犬は最近、吼えなくなったな。
若い時と別人じゃ。
これもキンカンの影響か?
「甲賀と伊賀者の情報を吟味し、半刻後(1時間後)には出立。
余裕を見て1刻後(2時間後)には敵に攻撃が出来るかと」
「1個大隊でよいのか?」
「は。その方がようございまする。すでに何度も演習はこなしておりまする故。龍退治の特別訓練。この第1大隊のみが出来まする」
そう言うと、キンカンはにんまりとほほ笑んだ。
いつもびくびくしていた若い頃とは別人のような頼もしさ。
明るく人をひきつけ、頼りがいがあり、知恵が働く。
必要な時は鬼と化す。
ようこれだけ育ったわ。
織田の至宝、俺の右腕だな。
もし俺に何かがあったら、こ奴が信忠を支え……
「信長様。それがしの意見を言うてもよろしいでしょうか」
「ん? 申せ」
「第1大隊で殿を撃破します故、第2大隊で戦果拡張。敵を誘引後、半包囲で射撃戦とするのが良策でございましょう」
「その策は? 半兵衛のものか?」
少し迷ったようだが力強くキンカンはいうた。
「は。それがしの発案を半兵衛が、子細に詰めまして」
「で、あるか」
この戦。
いや、織田家の存亡をこいつに賭けるか。
それともじわりじわりと越後を攻めるか。幸い本願寺は黙らせる事が出来た。あと大勢力は毛利と北条のみ。
北は放っておいても冬は雪で攻めてこぬ。
「信長様。謙信の寿命、あと数年。それがしが送った強き酒の飲み過ぎにて酒毒が回りまする。そこまで待てれば良いですが、武田と手を組まれると厄介。
西国に手を付けるなら、ここで大打撃を与えてしまうのが吉。
早くこの乱れに乱れた世を平定してくださいませ。
そのためならばこの光秀、粉骨砕身いたします!」
キンカンは深々と頭を下げる。
そうだな。
権六(柴田勝家)なき今、北方が危ういと、おちおち他戦線で攻勢に出られん。
決めた。
「キンカン。龍狩りぞ。思う存分暴れよ!」
「はっ。畏まってござる。ドラゴンを退治してまいりまする」
どらごん?
いつもながら訳の分からぬ奴じゃな。
<光秀視点です>
はあああ。
言っちゃったよ。
半兵衛っちに、ハンニバル教えて島津の釣り野伏せを自慢げに話したら、今になって
「この時のためにわたくしに策を練れと仰っていたのですね! 流石は我が殿。千里の先を見ていらっしゃる」
とか、褒め殺し地獄に突き落とされました。
やっぱり坊さんを沢山殺したから、地獄に落ちる?
いやいや、そんなことはない。
でも……もしものことがあったらやだから、ちっちゃなお墓作って置くかな。土盛ってさ、上には十字架でも刺しておこうね。
「ここに隠れキリシタンの墓が!?」とか、川口ひろき探検隊が掘り起こすように仕向けるの。
さて。
これからドラゴン退治だ。
酒を沢山飲ます陰謀めぐらせたからヤマタノオロチだね。
坊主相手だと普通のお百姓さんや町人相手だからやだけど、半分専業みたいに訓練されている越後の足軽ならたたき甲斐があるっしょ?
潰して二度と立ち上がれないようにして差し上げます。
……俺も大口叩くようになったなぁ。
もっと謙虚堅実に生きないと、悪役令嬢みたいに破滅フラグが立っちゃうかな。
謙虚謙虚。それが一番です。
小市民な光秀には出過ぎたことは禁物です。早く信ちゃんに天下を統一してもらって、安楽な生活するために頑張る!
そのためにも秀吉君の真似してニコニコしよう!
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