役立たずの【清浄】スキルと追放された私、聖女の浄化が効かない『呪われた森』を清めたら、もふもふ達と精霊に囲まれる楽園になりました

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私たちの作った薬が、初めて王都へと旅立っていきました。
ゲオルグ会頭の馬車を見送った後も、私の胸の高鳴りはしばらく収まりません。
自分の作ったものが、遠い街の人々の元へ届けられるのです。
その事実は、私にとって初めての不思議で、温かい感動でした。
「ホーウェルさん、私たちの薬は、本当に人々の役に立つでしょうか。」
私は、隣にいたホーウェルさんに少しだけ不安な気持ちを打ち明けます。
ホーウェルさんは、私のその言葉に優しくうなずいてくれました。
「もちろんですとも、主殿。」
「主殿と森の皆の、真心がこもった薬ですからのう。人々の心と体を、必ずや癒やすことでしょう。」
彼の、温かい言葉。
その言葉が、私の不安をすっと消し去ってくれました。
私たちは、家に帰るとささやかなお祝いをすることにします。
ノームの奥さんたちが、木の実のパイを焼いて待っていてくれました。
その、甘くて香ばしい香りが家中に満ちています。
私たちは暖炉の火を囲んで、熱々のパイを頬張りました。
「いやあ、わしらの作った薬が、いよいよ都で売られるんじゃなあ。」
「なんだか、夢のようですわい。」
ノームたちが、興奮した様子で話しています。
仲間たちの顔には、一つの仕事をやり遂げた満足感が浮かんでいました。
その、幸せな光景を眺めながら、私は心の中でそっと祈りました。
私たちの薬が、一人でも多くの人を笑顔にできますように、と。

数日後、王都に新しい店が開店しました。
その店の名は、『森の恵み亭』です。
白鹿商会が、自信を持って開店した私たちの薬の専門店でした。
店の前には、開店時間よりもずっと早くから長い列ができています。
噂を聞きつけた人々が、奇跡の薬を求めて王都の各地から集まってきたのです。
その列には、豪華な服を着た貴族もいました。
質素な身なりの、一般の市民もたくさん混じっています。
「森の聖女様の薬なら、きっと私の長年の病も治るはずです。」
「私は母のために、買いに来たのです。」
誰もが、期待に満ちた表情で開店の時間を待っていました。
やがて、店の扉がゆっくりと開かれます。
人々は、歓声を上げて次々と店内へと入っていきました。
店の中は、まるで森の中に迷い込んだかのような不思議な空間です。
壁には、美しい森の絵が描かれていました。
天井からは、木の葉をかたどった飾りが吊るされています。
そして店内には、清らかな水のせせらぎの音が流れていました。
「まあ、なんて心が落ち着く場所なのかしら。」
その、心地よい雰囲気に人々はすっかり心を奪われています。
カウンターには、私たちが作った薬が美しく並べられていました。
虹色に輝く、ガラスの小瓶。
精霊の紋様が描かれた、陶器の壺。
その、芸術品のような容器にも人々は感嘆の声を漏らしました。
薬は、飛ぶように売れていきます。
特に、貧しい人々向けに安く提供された薬は、あっという間に売り切れるほどの人気でした。
ゲオルグ会頭は、利益を気にせず、その薬をできるだけ多くの人に届けようと努力してくれたのです。
その日の夕方には、店に用意された全ての薬が売り切れてしまいました。
『森の恵み亭』の開店は、王都に大きな衝撃を与えます。
そして、その衝撃はすぐに熱狂へと変わっていきました。
薬を使った人々から、感謝と賞賛の声が次々と上がり始めたのです。
「長年患っていた、頭痛が嘘のように消えました。」
「子供の、ひどかった咳がこの薬で一晩で治ったのです。」
「この塗り薬のおかげで、火傷の跡が綺麗に消えましたわ。」
奇跡のような、体験談。
その話が、人々の口から口へと瞬く間に広まっていきました。
私の名前は、もはやただの「森の聖女」ではありません。
いつしか、「慈愛の聖女」と呼ばれ、民衆から絶大な尊敬を集めるようになっていたのです。

森での私の生活は、交易が始まっても変わらず穏やかでした。
ゲオルグ会頭は約束通り、薬の代金としてたくさんの物資を森へ届けてくれます。
私が欲しかった、新しい植物図鑑。
肌触りの良い、上質な布地。
そして、ホーウェルさんが地図に描いてくれた、珍しい薬草の種。
私の楽園は、外の世界との交流によってさらに豊かになっていきました。
私は、新しく届いた植物図鑑を読むのが日課になります。
その本には、この世界のまだ見ぬ不思議な植物の話がたくさん載っていました。
「まあ、こんな植物もあるのですね。」
私は、あるページに描かれた美しい花の絵に目を奪われます。
その花は、「星屑の花」と呼ばれているそうです。
夜になると、その花びらが星のようにきらきらと輝くと言います。
私は、いつかその花をこの森の薬草園で咲かせてみたいと、夢見るようになりました。
交易で得た、たくさんの資金。
その使い道について、私はホーウェルさんとよく話し合いました。
森の仲間たちの生活を、もっと豊かにするために使うのはもちろんです。
私たちは、その一部を森の外の恵まれない村への支援に使うことを決めました。
先日訪れた、あの貧しい村。
あのような村が、この国にはまだたくさんあるはずです。
私たちは、バーンズ子爵を通じて、そうした村に食料や種籾を名前を伏せて送ることにしました。
私の小さな善意が、また新しい形で広がっていくのです。
そのことが、私にはとても嬉しかったのです。

もちろん、私たちの薬の評判は、聖女ミレイとアルフォンス殿下の耳にも届いていました。
ミレイの「豊穣の奇跡」は、確かに一時的に人々を熱狂させました。
しかし、その効果は一度きりのものです。
人々は、すぐに手に入り、日々の苦しみを癒やしてくれる私の薬の方に、より大きな価値を見出すようになっていました。
ミレイの人気は、再び急に落ちていきます。
「ミレイ様もすごいけれど、エリアーナ様はもっと優しくて、我々のことを考えてくださる。」
そんな声が、民衆の間で当たり前のように囁かれるようになっていました。
アルフォンス殿下は、その状況に激しい怒りを覚えます。
自分の知らないところで、私が莫大な富と名声を得ているのです。
その事実が、彼の高いプライドをひどく傷つけました。
「あの女、この私を出し抜きおって。」
彼は、王城の執務室で一人、荒々しく叫びます。
彼はすぐに、白鹿商会のゲオルグ会頭を城へ呼び出しました。
そして、この取引について厳しく問いただそうとします。
しかし、ゲオルグ会頭は少しも怖がることはありませんでした。
「これは、バーンズ子爵様を介した正当な商取引にございます。」
「エリアーナ様は、その利益の多くを民に還元しておられます。殿下、あなた様とどちらが真に国を思っておいでか、民は賢明に判断するでしょう。」
彼は、王太子を前にして、はっきりとした態度でそう言い放ちました。
その背後には、バーンズ子爵だけでなく、他の多くの貴族たちの支持もあります。
エリアーナの薬は、すでに多くの貴族にとってもなくてはならないものになっていたのです。
アルフォンス殿下は、何も言い返すことができませんでした。
彼は、ただ悔しさに顔を歪ませることしかできなかったのです。

追い詰められたのは、ミレイも同じでした。
自分の居場所が、日に日に失われていく恐怖。
その恐怖が、彼女をさらなる無謀な行動へと駆り立てます。
「もっと、もっとすごい奇跡を見せなければ。」
「エリアーナなんか、すぐに忘れさせてやるわ。」
彼女は、再びあの禁断の魔導書に手を伸ばすことを決意しました。
今度は、以前よりもさらに広大な土地に、さらに強力な禁断魔法をかけようと計画します。
その行為が、やがて取り返しのつかない悲劇を招くことになるとも知らずに。
彼女が魔法を使った土地では、一時的に驚くほどの収穫が得られました。
しかし、その裏で大地は急速に、そして確実に死んでいきました。
その、恐ろしい異変の兆候に、まだ誰も気づいてはいません。

私は、そんな王都の不穏な空気など知る由もありません。
交易で手に入れた、新しい植物図鑑を夢中になって読んでいました。
その図鑑の中に、私はある日、気になる記述を見つけます。
それは、「死の大地」と呼ばれる現象についてのページでした。
「禁断の魔法によって、生命力を根こそぎ吸い尽くされた土地がある。」
「その大地は、二度と緑を取り戻すことはなく、ただ黒い砂漠が広がるのみである。」
私は、その不吉な一文を読みました。
なぜかしら、ミレイ様の起こした『豊穣の奇跡』の噂と、この記述が頭の中で結びついて離れませんでした。
遠いどこかで、大地が確かに悲鳴を上げているような、そんな嫌な胸騒ぎを覚えたのです。
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