役立たずの【清浄】スキルと追放された私、聖女の浄化が効かない『呪われた森』を清めたら、もふもふ達と精霊に囲まれる楽園になりました

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森の奥深くへと続いていく道は、今まで歩いてきた場所とは全く違う雰囲気でした。
木々は、さらにその高さを増し、空を覆い隠すように生い茂っています。
今まで見たこともないような、色鮮やかな花が咲いていました。
地面は、ふかふかとした苔で覆われていて、歩くと柔らかな音を立てました。
空気は、ひんやりとしていて、どこか神聖な気配に満ちています。
シルフたちが、私たちの周りを楽しそうに飛び回り、道に迷わないように導いてくれました。

「この辺りの場所は、精霊の力がとても強い場所のようですな。」

ホーウェルさんが、とても感心したように言いました。
彼は、私の肩にちょこんと止まって、一緒に来てくれています。

「ええ、なんだか体が、自然と軽くなるような不思議な気がしますわ。」

私は、清らかで澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みました。
しばらく歩き続けると、目の前に、きらきらと輝く不思議な光のカーテンが見えてきます。
それは、数えきれないほどの小さな光の粒が集まってできた、美しい滝のようでした。
その優しい光は、温かく、私たちを歓迎してくれているかのようです。

「まあ、なんて綺麗なのでしょう。」

私たちが、その美しい光景に見とれていると、光の中から小さな人型の存在が姿を現します。
彼らは、背中に蝶のような美しい羽を生やしていました。
それは、森の妖精であるピクシーです。
ピクシーたちは、警戒するように私たちを遠巻きに見ていました。
彼らは、とても臆病な性質を持っていると、ホーウェルさんが事前に教えてくれます。
私は、彼らを驚かせないように、ゆっくりとその場にしゃがみ込みました。
そして、ノームが作ってくれた木の実のクッキーを、そっと前に差し出します。

「こんにちは、私たちは、あなたたちを驚かせに来たのではありませんよ。」
「もしよかったら、このお菓子をお食べになりませんか。」

私の、穏やかで優しい声を聞いて、ピクシーたちは少しだけ警戒を解いてくれたようです。
一人の、特に勇気あるピクシーが、おそるおそる私の方へ飛んできました。
私の持つ清らかな気配が、彼らを安心させたのかもしれません。
そして、私の手のひらに乗ったクッキーを、一口だけかじります。
その顔が、ぱっと輝くように明るくなりました。

『これは、おいしい!』

そのたった一言をきっかけにして、他のピクシーたちも、わっと私の周りに集まってきます。
みんな、夢中になってクッキーを食べ始めました。
どうやら、完全に私たちを受け入れてくれたようです。
私は、集まってくれたピクシーたちに、水源地を探していることを伝えました。
すると、彼らは「それなら、案内してあげる」と、快く言ってくれます。
ピクシーたちは、私たちの先導役を買って出てくれました。
彼らの親切な案内のおかげで、私たちは道に迷うことなく、さらに奥へと進むことができたのです。

数時間、ひたすら歩き続けたでしょうか。
私たちは、ついに森の水源地へとたどり着きました。
そこは、広大な地下洞窟のようになっていました。
天井には、鍾乳石がいくつも垂れ下がっています。
そして、その洞窟の中央に、信じられないほど巨大な水晶が、鎮座していました。
その水晶は、大きな家よりもずっと大きく、青白い不思議な光を放っています。
水晶の内部では、まるで銀河のように無数の光がまたたいていました。
そして、その巨大な水晶の根本から、清らかな水がこんこんと湧き出ています。
その水が、やがて小川となって森全体へと流れていっているのです。

「ここが、森の水源地なのですね。」

あまりにも、幻想的で美しい光景でした。
私は、言葉を失ってしまい、ただその水晶をぼうぜんと見つめていました。
ホーウェルさんも、その荘厳な光景に、感嘆のため息を漏らしています。

「これは、なんと素晴らしい。まさしく、大地の心臓部ですな。」

しかし、私はすぐに、その美しい水晶に、ある異変が起きていることに気がつきました。
水晶の中心部、ほんのわずかな一点だけ。
そこに、小さな黒いシミのようなものが、ぽつんと浮かんでいるのが見えたのです。
それは、まるで美しい宝石に付着した、たった一つの穢れのようでした。
その黒いシミから、禍々しい気が、ゆらゆらと放たれています。

「あれは、一体何でしょう。」

私が、その黒いシミを指さして言いました。
ホーウェルさんは、片眼鏡の奥の目を、ぐっと細めてそれを見つめます。

「ふむ、あれこそが、ウンディーネ殿を苦しめていた、穢れの根源に違いありますまい。」
「世界のどこかで生まれた、とても強い穢れが、水の流れに乗って、この聖なる場所にまでたどり着いたのでしょう。」

やはり、そうでしたか。
私は、その黒いシミから、ミレイ様が使っていた禁断の魔法と、同じ種類の邪悪な気を感じ取りました。
私は、もう迷いませんでした。
ゆっくりと、巨大な水晶へと近づいていきました。
そして、その冷たい表面に、そっと両手を触れます。

「【清浄】」

私は、自分の持つ全ての聖なる力を、その一点に集中させました。
私の体から、今までにないほど、まばゆい光が放たれます。
その光は、水晶の中へと流れ込み、黒いシミへとまっすぐに向かっていきました。
黒いシミは、私の聖なる光に抵抗するかのように、激しく脈動します。
そして、私の脳裏に、ある映像が一瞬だけ流れ込んできました。
それは、遠いどこかの大地が、黒くひび割れていく光景です。
緑は失われて、生き物は倒れていき、全てが死んでいく、とても悲しいビジョンでした。
「やめろ」という、大地の叫びが聞こえたような気がします。

「これは、一体。」

私は、その光景に胸を締め付けられながらも、さらに強く力を込めます。
私の楽園を、こんな邪悪なもので汚させるわけにはいきません。
私の、とても強い意志に応えるかのように、光はさらにその輝きを増しました。
そして、ついに黒いシミを、完全に包み込みます。
黒いシミは、まるで悲鳴を上げるように霧散し、跡形もなく消え去りました。
水晶は、本来の、一点の曇りもない美しい輝きを取り戻します。
洞窟全体が、ぱっと明るくなりました。
湧き出る水の勢いも、心なしか力強くなったような気がします。

「これで、終わったのですね。」

私は、額の汗を拭いながら、ほっと息をつきました。
体力のほとんどを、使い果たしてしまったようです。
少しだけ、足元がふらついてしまいます。
ルーンが、心配そうに私の体を支えてくれました。
水源の浄化は、無事に成功したのです。

その頃、王国の北部では、恐ろしい異変が、本格的に人々の目に触れ始めていました。
ミレイが、「豊穣の奇跡」を起こした広大な麦畑。
その収穫が終わった後の土地は、もはや誰の目にも明らかな、死の大地と化していたのです。
黒く乾いた土は、冷たい風に吹かれて砂のように舞い上がります。
近くの村では、井戸水が、次々と枯れ始めました。
家畜たちが、原因不明の病で、ばたばたと倒れていきます。
農民たちは、その恐ろしい光景に、ようやく事の重大さに気がつきました。

「なんだ、これは。土地が、完全に死んでしまったではないか。」
「聖女様の奇跡というのは、呪いだったというのか。」

不安と恐怖の声は、すぐにパニックへと変わりました。
このままでは、自分たちの村も、やがて死の土地に飲み込まれてしまうでしょう。
その不吉な噂は、すぐに王都にも届きました。
アルフォンス王太子は、調査団を派遣します。
しかし、その原因を突き止めることはできませんでした。
ただ、そこには、人の力ではどうすることもできない、絶望的な光景が広がっているだけだったのです。

水源を浄化した私は、森への帰り道を歩いていました。
体は疲れていましたが、心はとても晴れやかです。
これで、ウンディーネも元気になるでしょう。
でも、私の頭の中には、浄化の時に見た、あのビジョンが、はっきりと焼き付いて離れませんでした。
遠い大地が、死んでいく光景。
あれは、一体何だったのでしょうか。
家に帰った私は、早速ホーウェルさんにそのことを相談しました。
私の話を聞いたホーウェルさんは、とても難しい顔で腕を組みます。

「ふむ、それはおそらく、『大地の嘆き』ですな。」
「世界のどこかで、大地そのものが、悲鳴を上げているのでしょう。」
「そして、その原因は、おそらくミレイ殿の起こした、あの奇跡にあるとわしは見ております。」

やはり、そうでしたか。
私の、嫌な予感は的中してしまったのです。

「ホーウェルさん、私、どうすればよいのでしょう。」
「このままでは、王国が、大変なことになってしまいますわ。」

私は、いてもたってもいられない気持ちでした。
ホーウェルさんは、そんな私を、落ち着かせるように優しく言います。

「主殿、まずは落ち着いてください。我々だけで、焦っても仕方がありません。」
「まずは、正確な情報を集めることが、先決です。」
「ゲオルグ会頭への次の手紙で、王都の北の土地で起きている異変について、詳しく尋ねてみてはいかがでしょうかな。」

ホーウェルさんの、冷静な助言。
その言葉に、私は少しだけ、落ち着きを取り戻すことができました。
そうです、まずは、何が起きているのかを、正確に知らなければなりません。
私は、ゲオルグ会頭への次の手紙で、王国の異変について尋ねてみようと思いました。
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