1 / 5
第1話 ゴミ扱いの荷物持ち、魔境に捨てられる
しおりを挟む
「アクス。お前、今日でクビな」
吹き荒れる吹雪の中、パーティリーダーの勇者ゼクスが、俺の足元に銀貨をたったの一枚放り投げた。
場所は北の最果て、凍てつく『絶望の氷原』。
周囲には、先ほどまで俺が背負っていた大量の装備品が、雑多に雪の上に転がっている。
「……クビ、ですか?」
「そうだ。耳が腐ってるのか? お前みたいな戦闘能力ゼロの【荷物持ち】を、いつまでもSランクの俺たちが養ってやる義理はないんだよ」
ゼクスは、腰に差した聖剣を自慢げに叩きながら、俺を嘲笑うように見下ろした。
背後では、魔導師のミレーヌと重戦士のボルグが、面倒そうにこちらを見ている。かつて、俺が夜なべして彼らの防具を研磨し、傷の手当てをしてやった仲間たちだ。
「でも、ここから街までは徒歩で十日はかかります。装備も持たずに一人で残されるのは、死ねと言っているのと同じじゃ……」
「ははっ! 死ぬなら死ぬで、せめて魔物の餌になって俺たちの役に立てよ。なあに、お前が持っていた『便利すぎる収納袋』は、新しい荷物持ちが来るまで俺が預かっておいてやる」
ゼクスは、俺の腰からひったくった革袋——彼らが【収納袋】だと思い込んでいるマジックアイテム——を振ってみせた。
だが、彼は分かっていない。
その袋自体には何の価値もないことを。
「……分かりました。それほどまでに僕が邪魔だというのなら、ここでお別れしましょう」
「ああ、せいぜい頑張れよ。あ、その銀貨は俺からの慈悲だ。あの世で酒でも飲むんだな!」
高笑いを上げながら、彼らは転移結晶を砕いた。
一瞬の光と共に、俺を置き去りにして彼らの姿が消える。
静まり返った氷原には、ただ風の音だけが響いていた。
「…………ふぅ」
俺は深く、重いため息をついた。
絶望……ではない。どちらかといえば、解放感に近い。
「やっと、一人になれた」
俺は雪を払い、立ち上がった。
ゼクスに奪われたあの袋は、ただの「触媒」に過ぎない。
俺の本当のスキルは、袋という『物』ではなく、俺の魂に刻まれた権能にある。
「【四次元倉庫(ディメンション・アーセナル)】、展開」
虚空に指を滑らせると、パチパチと青白い火花が散り、何もない空間に「窓」が現れた。
それは、世界中の誰にも解析できない、失われた超古代文明の管理インターフェースだ。
> [認証成功:アクス・ハミルトン管理者権限を確認]
> [現在の貯蔵電力:88%]
> [兵装展開レベル:1/10]
画面には、広大な空間に整然と並ぶ、無数の「遺産」が表示されている。
ゼクスたちが「少し容量の大きい鞄」だと思っていたのは、この広大な兵器庫の、ほんの砂粒ほどの隙間に過ぎない。
「さて、死ぬのは御免だ。まずは……『環境維持型・簡易シェルター』を呼び出そう」
俺が画面のアイコンをタップすると、雪原に巨大な銀色のカプセルが出現した。
自動で展開し、数秒後には頑丈な装甲を持つ防寒仕様の住居が完成する。
中に入れば、魔導エアコンが効いた二十五度の快適な空間だ。
「よし、暖かい。次は……そうだな、夕食だ」
倉庫から『自動調理式マジック・キッチン』を取り出し、ボタンを押す。
数分で、ほかほかと湯気が立つビーフシチューと、焼きたてのパンが完成した。
勇者たちといた時は、いつも彼らの食べ残しや、硬い干し肉ばかりだった。こんなに美味そうな匂いを嗅ぐのは、何年ぶりだろう。
「……美味しい」
一口食べると、涙が出そうになった。
彼らは俺を無能だと笑ったが、俺がこのスキルで、どれだけ彼らの生存率を上げていたか。
泥水を濾過し、壊れた剣を夜中に『自動修復機』で直し、敵の気配を『魔力レーダー』で事前に察知してルートを提案していた。
それら全てを、俺は「荷物持ちの勘」だと嘘をついて彼らを支えてきた。
「もう、あいつらを支える必要はないんだな」
食後、俺は窓の外を眺めた。
暗闇の中から、こちらを狙う赤い眼光がいくつも見える。
この氷原の主、ランクAの魔物『フロスト・ウルフ』の群れだ。
「いい機会だ。一つ、護身用のテストをしてみるか」
俺はインターフェースを操作し、倉庫の奥深くから一つのアイテムを選んだ。
「【追尾型浮遊魔導砲台(ビット)】、四機射出」
シェルターのハッチが開き、中から野球ボールほどの大きさの金属球が飛び出していく。
それらは空中で静止し、背負った魔導回路を光らせると、襲いかかるウルフたちに向けて青い光線を放った。
ドォォォォン!
爆音と共に、雪原が光に包まれる。
悲鳴を上げる暇もなく、ランクAの魔物たちが一瞬で蒸発していった。
一万年前、神殺しに使われたという兵器の威力は、現代の最高位魔法すら凌駕する。
「……やりすぎたかな。でも、これで安心して寝られそうだ」
俺はふかふかのベッドに潜り込み、目を閉じた。
明日からは、どこか住み心地の良い土地を探そう。
俺には一国を養えるだけの食料も、一国を滅ぼせるだけの兵器も、ここ(倉庫)にある。
一方その頃、街へ戻った勇者ゼクスたちは、奪った「収納袋」がただの空っぽの革袋に変わっていることに気づき、顔を真っ青にしているはずだが……まあ、俺には関係のないことだ。
吹き荒れる吹雪の中、パーティリーダーの勇者ゼクスが、俺の足元に銀貨をたったの一枚放り投げた。
場所は北の最果て、凍てつく『絶望の氷原』。
周囲には、先ほどまで俺が背負っていた大量の装備品が、雑多に雪の上に転がっている。
「……クビ、ですか?」
「そうだ。耳が腐ってるのか? お前みたいな戦闘能力ゼロの【荷物持ち】を、いつまでもSランクの俺たちが養ってやる義理はないんだよ」
ゼクスは、腰に差した聖剣を自慢げに叩きながら、俺を嘲笑うように見下ろした。
背後では、魔導師のミレーヌと重戦士のボルグが、面倒そうにこちらを見ている。かつて、俺が夜なべして彼らの防具を研磨し、傷の手当てをしてやった仲間たちだ。
「でも、ここから街までは徒歩で十日はかかります。装備も持たずに一人で残されるのは、死ねと言っているのと同じじゃ……」
「ははっ! 死ぬなら死ぬで、せめて魔物の餌になって俺たちの役に立てよ。なあに、お前が持っていた『便利すぎる収納袋』は、新しい荷物持ちが来るまで俺が預かっておいてやる」
ゼクスは、俺の腰からひったくった革袋——彼らが【収納袋】だと思い込んでいるマジックアイテム——を振ってみせた。
だが、彼は分かっていない。
その袋自体には何の価値もないことを。
「……分かりました。それほどまでに僕が邪魔だというのなら、ここでお別れしましょう」
「ああ、せいぜい頑張れよ。あ、その銀貨は俺からの慈悲だ。あの世で酒でも飲むんだな!」
高笑いを上げながら、彼らは転移結晶を砕いた。
一瞬の光と共に、俺を置き去りにして彼らの姿が消える。
静まり返った氷原には、ただ風の音だけが響いていた。
「…………ふぅ」
俺は深く、重いため息をついた。
絶望……ではない。どちらかといえば、解放感に近い。
「やっと、一人になれた」
俺は雪を払い、立ち上がった。
ゼクスに奪われたあの袋は、ただの「触媒」に過ぎない。
俺の本当のスキルは、袋という『物』ではなく、俺の魂に刻まれた権能にある。
「【四次元倉庫(ディメンション・アーセナル)】、展開」
虚空に指を滑らせると、パチパチと青白い火花が散り、何もない空間に「窓」が現れた。
それは、世界中の誰にも解析できない、失われた超古代文明の管理インターフェースだ。
> [認証成功:アクス・ハミルトン管理者権限を確認]
> [現在の貯蔵電力:88%]
> [兵装展開レベル:1/10]
画面には、広大な空間に整然と並ぶ、無数の「遺産」が表示されている。
ゼクスたちが「少し容量の大きい鞄」だと思っていたのは、この広大な兵器庫の、ほんの砂粒ほどの隙間に過ぎない。
「さて、死ぬのは御免だ。まずは……『環境維持型・簡易シェルター』を呼び出そう」
俺が画面のアイコンをタップすると、雪原に巨大な銀色のカプセルが出現した。
自動で展開し、数秒後には頑丈な装甲を持つ防寒仕様の住居が完成する。
中に入れば、魔導エアコンが効いた二十五度の快適な空間だ。
「よし、暖かい。次は……そうだな、夕食だ」
倉庫から『自動調理式マジック・キッチン』を取り出し、ボタンを押す。
数分で、ほかほかと湯気が立つビーフシチューと、焼きたてのパンが完成した。
勇者たちといた時は、いつも彼らの食べ残しや、硬い干し肉ばかりだった。こんなに美味そうな匂いを嗅ぐのは、何年ぶりだろう。
「……美味しい」
一口食べると、涙が出そうになった。
彼らは俺を無能だと笑ったが、俺がこのスキルで、どれだけ彼らの生存率を上げていたか。
泥水を濾過し、壊れた剣を夜中に『自動修復機』で直し、敵の気配を『魔力レーダー』で事前に察知してルートを提案していた。
それら全てを、俺は「荷物持ちの勘」だと嘘をついて彼らを支えてきた。
「もう、あいつらを支える必要はないんだな」
食後、俺は窓の外を眺めた。
暗闇の中から、こちらを狙う赤い眼光がいくつも見える。
この氷原の主、ランクAの魔物『フロスト・ウルフ』の群れだ。
「いい機会だ。一つ、護身用のテストをしてみるか」
俺はインターフェースを操作し、倉庫の奥深くから一つのアイテムを選んだ。
「【追尾型浮遊魔導砲台(ビット)】、四機射出」
シェルターのハッチが開き、中から野球ボールほどの大きさの金属球が飛び出していく。
それらは空中で静止し、背負った魔導回路を光らせると、襲いかかるウルフたちに向けて青い光線を放った。
ドォォォォン!
爆音と共に、雪原が光に包まれる。
悲鳴を上げる暇もなく、ランクAの魔物たちが一瞬で蒸発していった。
一万年前、神殺しに使われたという兵器の威力は、現代の最高位魔法すら凌駕する。
「……やりすぎたかな。でも、これで安心して寝られそうだ」
俺はふかふかのベッドに潜り込み、目を閉じた。
明日からは、どこか住み心地の良い土地を探そう。
俺には一国を養えるだけの食料も、一国を滅ぼせるだけの兵器も、ここ(倉庫)にある。
一方その頃、街へ戻った勇者ゼクスたちは、奪った「収納袋」がただの空っぽの革袋に変わっていることに気づき、顔を真っ青にしているはずだが……まあ、俺には関係のないことだ。
8
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる