『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

☆ほしい

文字の大きさ
11 / 30

11

しおりを挟む
マグマの海に浮かぶ、巨大な洞窟がありました。
その奥に鎮座する古代の兵器工場は、まるで眠れる巨人のようです。
私とナナさんはシルフィードを、工場の入り口にある巨大なドックに着陸させます。
船のハッチが開くと、熱気を含んだ空気が流れ込んできました。

「ここが兵器の、生産工場」

船を降りた私は、目の前に広がる光景に言葉を失いました。
ドーム状の天井は遥か高く、どこまで続いているのか分かりません。
巨大なクレーンや無数のロボットアームが、蜘蛛の巣のように張り巡らされています。
それら全てが今は動きを止め、静かにその時を待っているようでした。
空気はほんのり、鉄が焼ける匂いや機械油の匂いがします。
足元には、何本ものレールが複雑に敷かれていました。

『全システムは、スリープモードで待機中です。動力源の地熱エネルギー供給も、最低限のレベルに抑えられています』

ナナさんが、周囲の状況を冷静に分析してくれます。
この巨大な工場を、どうやって動かせばいいのでしょうか。
私がきょろきょろと辺りを見渡していると、足元の一つのパネルが淡く点滅していることに気づきました。
それは、他とは違う青色の光を放っています。

「ナナさん、あれは」

『管理システムへの、アクセスパネルです。マスター、例のカードキーをどうぞ』

言われて私は、図書館で手に入れた白金のマスターキーを取り出しました。
パネルにはちょうど、カードを差し込むための細いスリットがあります。
私がカードを差し込むと、カチリと小さな音が静寂に響きました。

次の瞬間です。
工場の床を、青白い光のラインが一斉に走り始めました。
それはまるで、巨大な回路に命が吹き込まれていくようです。
停止していた機械たちが一つ、また一つと低い唸り声を上げて再起動していきます。
壁に設置された照明が次々と点灯し、今まで暗闇に沈んでいた工場の全貌が明らかになりました。
その規模は、想像をはるかに超えるものでした。

『生体認証と、魔力パターンの照合を開始します』

りんとした女性のような合成音声が、高い天井に反響します。

『認証コードを、リペアラーとして確認しました。古代文明マスターキーを、承認します。ようこそ管理者様、ヘパイストスの鍛冶場は本日よりあなたの指揮下に入ります』

その声と共に、私たちの目の前に一体の女性型アンドロイドが音もなく現れました。
銀色の長い髪を持ち、体の線が分かる機能的なスーツを着ています。
その顔立ちは、まるで精巧な人形のように整っていました。
青い瞳が、感情を感じさせない光を宿しています。

『私の名は、ヘスティアです。この工場の管理AIですから、以後お見知りおきください』

ヘスティAと名乗ったアンドロイドは、優雅におじぎをしました。
その動きには、一切の無駄がありません。

「わ、私が、管理者?」

『はい、あなた様はこの工場の全ての機能をお使いになれます。生産や開発、研究など何なりとお申し付けください』

図書館に続き、今度は巨大な兵器工場の主になってしまいました。
なんだか、話がどんどん大きくなっていきます。

『ヘスティア、現在の工場の稼働状況と貯蔵資源のリストを出しなさい』

ナナさんが、管理者である私に代わってヘスティアに指示しました。
その口調は、同僚に対するような事務的なものです。

『了解しました、ユニット734。現在、工場の主要システムは78パーセントが正常に稼働中です。残りの22パーセントは、長年のスリープによる機能低下が見られます』

ヘスティアが、空中にホログラムのスクリーンを映し出します。
そこには工場の立体的な見取り図と、各区画の状態が細かく表示されました。
赤く表示されている部分が、うまく動かない場所のようです。
動力部や、素材精錬施設に問題が集中しています。

『貯蔵資源ですが、鉄やミスリルといった基本金属は潤沢に存在します。しかしオリハルコンや、ヒヒイロカネなどの超希少金属は在庫がほとんどありません』

「それじゃあ、ナナさんたちの強化は」

『ご安心ください、管理者様。この工場には、物質合成プラントが併設されています。基本金属を原子レベルで分解し、再構成してあらゆる金属を作り出せます。ただしそれには、膨大なエネルギーと時間が必要となりますが』

ヘスティアの説明に、私は少しだけ安心しました。
時間がかかっても、必要なものが作れるなら問題ありません。

「分かりました、まずはこの工場の機能を100パーセントの状態に戻しましょう」

私は、機能不全を起こしている区画へと向かいました。
そこは工場の心臓部と言える、動力炉の制御室でした。
巨大な制御盤が、激しく火花を散らして黒い煙を上げています。
焦げ付くような、嫌な匂いが立ち込めていました。

「これは、ひどい状態ですね」

『経年劣化による、魔力伝導体の腐食が主な原因です。交換部品の在庫はありますが、修理には専門の技術者が必要になります』

ヘスティアが、申し訳なさそうに言いました。
しかし、私にはその必要はありません。

「大丈夫です、私が直しますから」

私は、煙を上げる制御盤の前に立って両手をかざしました。
そして、修復の力に意識を集中させます。

「『上位修復』!」

私の手から放たれた緑色の光が、巨大な制御盤を丸ごと包み込みます。
腐食していた配線が、新品同様の輝きを取り戻しました。
ショートしていた回路が、正常な状態に直っていきます。
壊れていた部品が、まるで意思を持つように自ら正しい位置へと収まっていきました。
制御盤から発せられていた異音も、次第に収まります。

ほんの数分後のことです。
あれだけひどい状態だった制御盤は、完全にその機能を取り戻していました。
それどころか私の魔力で強化され、以前より遥かに高い性能になっています。

『信じられません、これはもはや修理ではなく創造の領域です。記録されたどの修復技術とも、一致しません』

ヘスティアが、驚きに目を見開いていました。
管理AIである彼女の感情が、はっきりと表情に現れています。

『管理者様、いえマスター。あなた様こそ、我々が待ち望んでいた真の主です』

ヘスティアは、その場に深くひざまずきました。
私に忠誠を誓うように、頭を下げます。
こうして私は、ヘパイストスの鍛冶場の機能を完全に手に入れたのです。

工場の機能が全て回復したところで、私たちはさっそく強化プランを練ることにしました。
ヘスティアが巨大なドックに、シルフィードとナナさんの設計図をホログラムで映します。

『まずは、シルフィードからですね。図書館のデータによれば、この船にはいくつかの追加武装の搭載が可能です』

スクリーンに、様々なオプションパーツが表示されました。
自動追尾機能付きのレーザー砲や、広範囲を攻撃するプラズマ爆弾があります。
さらには、空間を歪めて敵の攻撃を無効化する次元シールドまでありました。
どれも、とんでもない性能です。

「すごい、これ全部付けられるんですか」

『理論上は可能です、ですがそれには先ほど申し上げた超希少金属が必要になります。現在の在庫では、レーザー砲を二門追加するのが限界でしょう』

「そうですか、じゃあまずはそのレーザー砲をお願いします」

『かしこまりました、すぐに生産ラインを稼働させます』

ヘスティアが指示を出すと、工場のあちこちでロボットアームが動き始めました。
貯蔵庫から運ばれた金属が、溶鉱炉で真っ赤に溶かされます。
あっという間に、レーザー砲の部品へと加工されていきました。
その光景は、見ていて飽きませんでした。

『次に、ナナさんの強化プランですが』

ヘスティアが、ナナさんの設計図を拡大しました。

『ナナさんには、いくつかの換装ユニットの設計図があります。遠距離からの砲撃に特化した、デストロイヤー・モード。隠密行動と奇襲を得意とする、ファントム・モード。そして近接格闘能力を高めた、ブレイカー・モードです』

どれも、強力そうなものばかりです。
私がどのモードが良いか悩んでいると、ナナさん自身が口を開きました。

『マスター、私自身の意見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか』

「もちろんですよ、ナナさん」

『ありがとうございます、私は特定の状況に特化した形態より、あらゆる戦況に柔軟に対応できる強化を望みます』

ナナさんの、初めて聞く明確な自己主張でした。
私は、なんだか嬉しくなってしまいます。

「分かりました、じゃあ一つのモードに換装するのではなくて、それぞれの良いところを今のナナさんの体に追加するのはどうでしょうか」

私の提案に、ヘスティアは少しだけ難しい顔をしました。

『それは前例のない、非常に高度なカスタマイズです。各システムの干渉や、ボディバランスの再計算など問題が山積みです。しかしマスターのスキルがあれば、あるいは』

「やります、私がナナさんを世界で一番すごいゴーレムにしてみせます」

私は、力強く宣言しました。
ナナさんの赤い目が、嬉しそうにほんの少しだけ輝いたように見えました。
こうして私とナナさん、そしてヘスティアによる壮大なプロジェクトが始まったのです。
工場の奥深く、特別に用意されたドックにナナさんが静かに入っていきました。
これから、彼の新しい体が生み出されようとしています。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

☆ほしい
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

聖水が「無味無臭」というだけで能無しと追放された聖女ですが、前世が化学研究者だったので、相棒のスライムと辺境でポーション醸造所を始めます

☆ほしい
ファンタジー
聖女エリアーナの生み出す聖水は、万物を浄化する力を持つものの「無味無臭」で効果が分かりにくいため、「能無し」の烙印を押され王都から追放されてしまう。 絶望の淵で彼女は思い出す。前世が、物質の配合を極めた化学研究者だったことを。 「この完璧な純水……これ以上の溶媒はないじゃない!」 辺境の地で助けたスライムを相棒に、エリアーナは前世の知識と「能無し」の聖水を組み合わせ、常識を覆す高品質なポーション作りを始める。やがて彼女の作るポーションは国を揺るがす大ヒット商品となり、彼女を追放した者たちが手のひらを返して戻ってくるよう懇願するが――もう遅い。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...