『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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ヘパイストスの鍛冶場を飛び立ったシルフィードは、二つの部隊を連れていました。
ヴァルキリー部隊とタイタン部隊を従えて、南東へと進路を取ります。
私たちの次の目的地は、五大聖地の一つである「生命の泉」でした。

空の旅は、もう危険なものではなくなっています。
絶対的な安全が約束された、快適な時間になっていました。
シルフィードの周りでは、銀色の翼を持つ十体のヴァルキリーたちが飛んでいます。
彼女たちは、美しい隊列を組んで飛行していました。
シルフィードの護衛をしながら、私たちの目や耳になってくれます。
周りの警戒を、少しも怠りません。
その姿は、まるで天から来た使いのようでした。
私は操縦席の窓から、しばらく見とれてしまいます。

「すごいですね、ナナさん。あの子たちは、本当に頼りになります」

私の隣に立つナナさんも、満足した様子でうなずいていました。
彼の新しいエターナルコアは、全てのゴーレムといつもつながっています。
ヴァルキリー部隊とタイタン部隊に、私とナナさんの考えをすぐに伝えられるのです。
私たちは、もはや一つの心を持った、一つの軍団になっていました。

『はい、マスター。彼女たちの敵を探す能力は、シルフィードのレーダーよりも優れています。どんな不意打ちも、もう私たちには通用しないでしょう』

タイタン部隊は、シルフィードの船倉で出番を待っていました。
彼らが活躍するのは、地上に降りてからです。
その黒くて大きな体が、大地を揺らす時が来るでしょう。
私は、今からその時を楽しみにしていました。

船の中では、私は新しい設計図の研究に夢中になっていました。
それは、ヘパイストスの鍛冶場で手に入れたものです。
そこには、物質を原子のレベルで作り変える、特別な技術が書かれていました。
私の「上位修復」スキルと、この技術を合わせれば何かが起きるかもしれません。
もしかしたら、何もないところから物を生み出すことすら、可能になるかもしれないのです。
私は、そんなすごい可能性を感じていました。

もっと知りたいと、私は強く思いました。
古代文明の技術のことや、私の力のことをです。
追放された時は、ただおだやかに暮らしたいと思っていました。
でも、今は違います。
私には、守りたいものができました。
ナナさんやヘスティアさん、それにイグニスもいます。
新しく仲間になった、ヴァルキリーやタイタンたちも大切です。
そして、この世界の、まだ見たことのない美しい景色も守りたいのです。
それら全てを、「侵食する虚無」の悪い力から守りたい。
その強い想いが、私を動かしていました。

その頃、アレス様たちのパーティーは、希望を失いかけていました。
国王から与えられた一週間の時間は、残すところあと一日です。
しかし、「奇跡の修理屋」についての情報は、何一つ見つかっていませんでした。

「くそっ、なぜだ。なぜ見つからないんだ」

王都の安い宿で、アレス様はいらいらしていました。
彼は、その気持ちを隠さずに壁を殴りつけます。
そのこぶしからは、血がにじんでいました。
しかし、彼の自慢だった聖剣は、もう輝きを取り戻しません。

「もう、終わりですわ。私たちは、勇者の名前を取り上げられて追放されるのよ」

魔術師のリナリアさんは、ベッドの上で泣いていました。
彼女は、自分のひざを抱えています。
彼女のきれいな顔は、涙でぐしょぐしょでした。
パラディンのゲオルグも、いつもの自信をなくしています。
部屋の隅で、ただ黙り込んでいました。
彼の心は、完全に折れてしまったようでした。

「一つだけ、気になるうわさがあります」

今まで黙っていた神官のカインが、ぽつりと言いました。
彼の言葉に、パーティーの全員が顔を上げます。

「なんだと、カイン。何かあるのか」

「はい。最近、大陸の南東の方で、とても大きな空飛ぶ船が目撃されたといううわさです。銀色に輝く、鳥のような美しい船だったそうです。その周りには、天使のような兵士を連れていたとか」

「空飛ぶ船だと、ばかな。そんなもの、今あるはずがないだろう」

アレス様は、カインの言葉を笑って相手にしませんでした。
古代の宝である飛行艇は、おとぎ話の中だけのものです。
しかし、カインは真剣な顔で、話を続けました。

「ですが、その船が目撃された時期と場所が、修理屋が現れたといううわさと重なるのです。もしかしたら、その空飛ぶ船に修理屋が乗っているのかもしれません」

それは、とてもとんでもない話でした。
わらにでもすがりたいような、小さな希望です。
しかし、今の彼らにとっては、それしかありませんでした。

「分かった、行こう。その、南東部とやらに」

アレス様が、しぼり出すような声で言いました。
彼の目には、ほんの少しだけ最後の光が宿ります。
彼らは、残された最後の望みをかけて、南東部へ向かうと決めました。
その先に、まさか私がいるなんて夢にも思わなかったでしょう。

シルフィードは、何日か飛んだ後で目的地の空に着きました。
目の下には、どこまでも続く、大きな自然が広がっています。
緑の豊かな森や、大きく曲がりくねって流れる川が見えました。
そして、遠くには、巨大な滝があります。
ゴウゴウと、水が流れ落ちる音がここまで聞こえてきました。

「あそこが、生命の泉ですね」

『はい、マスター。ヘスティアのデータと同じです。あの大きな滝の裏側に、聖地への入り口があるようです』

シルフィードは、ゆっくりと高さを下げていきました。
滝つぼの近くにある、おだやかな湖の上で止まります。
湖の水は、信じられないほど透き通っていました。
湖の底にある、白い砂まではっきりと見えます。
周りには、色とりどりの花が咲いていて、まるで楽園のような景色でした。

「なんて、きれいな場所なんでしょう」

私は、その美しさに思わずため息をもらします。
しかし、その時でした。
おだやかだった湖の水面が、急に激しく泡立ち始めたのです。

「な、何ですか」

ゴボゴボゴボ、と音がします。
水面が、まるで生き物のように盛り上がりました。
そして、そこから巨大な何かが姿を現します。
それは、全身が透き通った水でできた、巨大なヘビでした。
いえ、これは竜です。
その体は、湖の水そのものでできていました。
大きさは、シルフィードよりも大きいくらいです。
二つの目が、青く冷たい光を放っていました。

『警告します、高密度の生命エネルギー反応を検知しました。聖地の守り人、「アクア・レギオン」だと判断します』

ナナさんの落ち着いた声が、操縦室に響きました。
アクア・レギオンは、水の軍団という意味かもしれません。
その名前の通り、水の竜は一体だけではなかったのです。
その周りの湖から、次々と、同じような水の竜が現れ始めました。
その数は、あっという間に数十体にもなります。

『我は、聖地を守る者。何者も、この先へは通さない』

ひときわ大きな水の竜の口から、声が聞こえました。
それは、私の頭の中に直接響いてきます。
どうやら、彼がこのアクア・レギオンのリーダーのようでした。

「私たちは、戦いに来たのではありません。ただ、聖地を訪れてある儀式をしたいだけなのです」

私がそう叫び返すと、リーダーの竜はあざ笑うように体を揺らしました。

『人間が、何を言うか。お前たち人間は、これまで何度もこの聖なる泉をよごそうとしてきた。もう、お前たちの言葉を信じることはできない』

その言葉と一緒に、数十体の水の竜がいっせいに口を大きく開きました。
その口の中に、ものすごい魔力が集まっていきます。
あれは、高圧の水の刃でしょう。
あれを受けたら、シルフィードのよろいでも、無事ではすみません。

『マスター、指示をください。ヴァルキリー部隊は、いつでも出撃できます』

ナナさんが、冷静に私に判断を求めました。
戦うか、それとも別の方法を探すかです。
私は、目の前の水の竜たちを、じっと見つめました。
彼らの体は、確かに水でできています。
しかし、その中心には、核になる青く光る魔石がありました。
そして、その魔石が少しだけ、黒くにごっていることに私は気づいたのです。

あれは、悪い気かもしれません。
もしかして、この子たちは何かに苦しんでいるのではないでしょうか。
私は、一つの可能性に思い当たりました。
彼らが、これほど人間を敵だと思うのには、何か理由があるはずです。
そして、その原因を取り除いてあげれば、彼らと分かり合えるかもしれないと思いました。

「ナナさん、ヴァルキリー部隊は待っていてください。私が、彼らと話をしてみます」

『しかし、マスター。危険です』

「大丈夫です、私に考えがあります」

私は、シルフィードの出口を開けて、船の先に立ちました。
目の下には、今にも攻撃してきそうな水の竜たちがいます。

「皆さん、聞いてください。あなたたちが何かに苦しんでいることは分かります。私に、その苦しみを取り除く手伝いをさせてくれませんか」

私の声は、滝の音で消えそうになりました。
でも、リーダーの竜にはちゃんと届いたようです。

『小娘が、何をばかなことを。我らの苦しみが、お前に分かってたまるか』

「分かります、あなたたちのその体は悪い気にむしばまれていますね。そのせいで、心が乱れて必要以上に攻撃的になっているのではありませんか」

私の言葉に、リーダーの竜は明らかに動揺しました。
その青い目が、大きく見開かれます。

『なっ、なぜお前がそれを』

「私は、壊れたものを直すのが得意なんです。それは、物だけではありません。よごれてしまった、あなたたちの心もきっと直せます」

私は、両手を前に突き出しました。
そして、ありったけの想いを込めて、スキルを使います。

「上位修復」

私の手から放たれた緑色の光は、一本の大きな光の矢になりました。
リーダーの竜の胸にある、黒くにごった魔石へまっすぐに飛んでいきます。
それは、攻撃ではありませんでした。
癒やしと、清めの光です。
私の全てを込めた、一撃でした。
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