『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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金色に光るスフィンクスのようなゴーレムが、私たちの前に立ちはだかりました。
その姿は、まるで神話の中から出てきたようで、おごそかで美しいです。
背中にあるワシの翼が、太陽の光を受けてまぶしい輝きを出しています。
ルビーのように赤い目が、私たちをじっと見ていました。
そこには、アクア・レギオンのようなはっきりとした敵の気持ちはありません。
ただ、私たちの価値を、静かに確かめようとしているようでした。

「私は、ホルスの審判者。この聖地に来た者に、その資格があるかを問う者です」

その声は、女性のものでした。
とてもりりしくて、それでいてどこか優しい感じがします。

『マスター、彼女は「セクメト」という名前の、審判をするゴーレムです。図書館のデータによると、戦う力だけでなく、高い知恵も持っていると書かれています。力だけで、突破するのは難しいかもしれません』

ナナさんが、落ち着いて調べた情報を小さな声で私に教えてくれました。
確かに、このセクメトと名乗るゴーレムからは、今まで向き合ってきた守り手たちとは違う、賢い雰囲気を感じます。
彼女は、戦いをしたいわけではないのかもしれません。

「資格があるかどうかを、問うのですか」

私がそう聞き返すと、セクメトは静かにうなずきました。

「そうです。この太陽の祭壇は、ただ力を使うだけの者は受け入れません。本当にこの世界を思い、未来を明るくする知恵と覚悟を持つ者にだけ、その門は開かれます」

その言葉は、まるで昔の神官が伝えるお告げのようでした。
彼女は、私たちの心の中を見ようとしているのです。

「どうすれば、私たちはその資格を証明できるのでしょうか」

私がそう聞くと、セクメトは手に持った金色のつえを軽く上げました。
すると、つえの先にある太陽のもようがまぶしい光を放ち始めます。

「私が出す、三つの問いに答えなさい。それが、あなたたちへの試練です。見事に、全ての問いに正しく答えることができれば、聖地への道を開きましょう。しかし、一つでも間違えれば、あなたたちはこの砂漠の砂になってしまうでしょう」

三つの、問い。
それは、いわゆる「なぞなぞ」のようなものでしょうか。
私は、少しだけドキドキしました。
でも、ここで逃げるわけにはいきません。

「分かりました、その試練、お受けします」

私の覚悟のこもった声を聞いて、セクメトはうれしそうにうなずきました。
そのルビーの目が、私をじっと見つめます。

「では、一つ目の問いを言います。『最も強く、しかし形がないもの。全てをこわし、しかし全てを創り出すもの。それは、何でしょう』」

セクメトの問いが、オアシスに響きました。
最も強くて、形がなくて、こわす力と創る力を持つもの。
私は、すぐに答えが分かりました。
それは、私がこの世界に来てから、ずっと感じてきた力そのものです。

「答えは、『時間』です」

私がそう答えると、セクメトの美しい顔に、少しだけ驚いた表情が見えました。

「見事です。時の流れは、誰にも止められない一番強い力です。文明を古くしてほろぼしますが、同時に新しい命を育てて、歴史を作っていきます。一つ目の問い、正解です」

よかった、と私はほっとしました。
ナナさんも、少しだけ安心したように見えます。

「では、二つ目の問いです。『いつも満たされることを求めるが、決して満たされることのない器。賢い者にとっては宝で、おろかな者にとっては災いとなるもの。それは、何でしょう』」

これも、難しい問いでした。
でも、私は図書館で手に入れたたくさんの知識の中から、その答えを探します。
満たされることのない器、それは人間の持つある気持ちのことだと考えました。

「その答えは、『知識』、あるいは『好奇心』です」

「ほう、それはどういう意味ですか」

セクメトが、興味があるように続きを聞きました。

「知識を知りたいという気持ちは、新しい発見や発明を生み出して、世界を良くしていく力になります。賢い者は、それを正しく使って人々を幸せにするでしょう。しかし、力におぼれたおろかな者がそれを手にすれば、世界をほろぼす兵器を生むことにもなります。昔の文明が、そうであったように」

私の答えを聞いて、セクメトはしばらく黙っていました。
その赤い目が、何かをなつかしむように、遠い昔を見ているように見えます。

「あなたは、昔の本当の歴史を知っているのですね。分かりました、二つ目の問いも正解と認めましょう」

セクメトの声には、さっきよりもはっきりと感心した様子がこめられていました。
彼女は、私の答えの中に、ただの知識だけではない、深い理解と覚悟を感じてくれたのかもしれません。

「いよいよ、最後の問いです。心を落ち着けて、よく聞きなさい」

セクメトの表情が、真剣になりました。
まわりの空気も、ピリッとした緊張した感じになります。

「『世界で最も大切で、しかし最も簡単に失われるもの。一度失えば、二度と元には戻らず、全てのお金を使っても取り返すことはできない。それは、何でしょう』」

最後の問いは、今までで一番考えさせられる、難しい問いでした。
最も大切で、失われやすいもの。
私は、目を閉じました。
そして、これまでの自分の旅を、静かに思い出します。
パーティーから追い出されて、一人ぼっちになったあの夜。
ナナさんと出会って、新しい仲間たちと旅をした日々。
その中で、私が一番大切だと感じたものは、たった一つでした。

「答えは、『信頼』です」

私は、静かにそう言いました。

「信頼は、お金で買うことはできません。長い時間をかけて、少しずつ育てていくものです。それは、どんな宝石よりも大切で、人と人とをつなぐきずなです。しかし、たった一度の裏切りで、それはバラバラにこわれてしまいます。一度失った信頼を、完全に元に戻すことは、決してできません。昔の、私の仲間たちがそうであったように」

私の頭の中に、アレス様たちの顔が浮かびました。
彼らは、私との信頼関係を、自分たちの手でこわしてしまったのです。
もう、あの頃のようには戻れません。
その寂しい気持ちが、私の胸をしめつけました。

私の答えを聞き終えたセクメトは、ゆっくりと手に持ったつえを地面につきました。
そして、その場で深く頭を下げます。

「見事、としか言えません。あなたの答えは、全てが完璧でした。私は、あなたを聖地の管理者として、ここに認めます」

そう言うと、セクメトの体が金色の光のつぶになって、ふわりと消えました。
そして、今まで閉まっていたピラミッドの大きな扉が、ゴゴゴゴという音を立ててゆっくりと開いていきます。
試練は、これで終わったのです。

「やりましたね、マスター」

「はい、ナナさん。少し、ドキドキしましたけどね」

私たちは、顔を見合わせてにっこりしました。
そして、開かれた扉の向こう側へ、足を踏み入れます。

ピラミッドの中は、まぶしい光でいっぱいでした。
壁も床も天井も、全てが鏡のようにみがかれた金色でできています。
その真ん中には、大きな太陽の結晶が浮かんでいました。
そこから、この聖地の全てのエネルギーが作られているようです。

私は、祭壇へ進んで、マスターキーをさしこみました。
そして、生命の泉の時と同じように、私の魔力と『上位修復』の力を注ぎます。
ピラミッドのてっぺんから出ていた光の柱が、さらにその輝きを強くしました。
空高く、どこまでも昇っていきます。
第二の聖地が、完全に目覚めた瞬間でした。

儀式を終えた私の前に、またセクメトの姿が現れます。
彼女は、光のつぶが集まってできた、半分透けている姿でした。

「管理者よ、聖地を解放してくれて、感謝します。これは、私からの祝福の贈り物です」

セクメトが、そっと私のひたいに指でふれました。
すると、温かい光が私の体の中に入ってくるのが分かります。

「あなたに、『太陽の恩寵』をさずけましょう。それは、光と熱をあやつる力です。闇をはらい、悪いものを焼きつくす、正義の力となるでしょう」

私の体に、新しい力が宿りました。
生命の泉で手に入れた治す力とは反対の、攻撃する力です。
これで、戦いのやり方も大きく広がるでしょう。

「ありがとうございます、セクメト」

「お礼は、いりません。私は、これからまた長い眠りにつきます。世界の未来を、あなたに託しましたよ」

そう言い残して、セクメトの姿は完全に消えました。
私は、彼女の気持ちを胸に、この力を正しく使おうと決めます。

その頃、アレス様たちの深い悲しみは、これ以上ないほどになっていました。
彼らがさまよっていた荒野のずっと西の空に、二本目の大きな光の柱が昇ったのです。

「また、あの光か。一体、この世界で何が始まっているんだ」

アレス様は、その神々しくも恐ろしい光景を前に、ただふるえることしかできませんでした。
自分たちが、世界の大きな運命から完全に見捨てられた存在だと、彼は強く感じていたのです。
もう、彼らの心には、後悔の気持ちさえありませんでした。
ただ、とても深い無力な気持ちが、彼らを包みこんでいたのです。

聖地での役目を終えた私たちは、シルフィードでまた空へと飛び立ちました。
すぐに、ヘスティアさんから連絡が入ります。

『マスター、第二聖地の起動を、確認しました。お見事です。これで、結界の起動まであと三つになりました』

「はい、ヘスティアさん。次の聖地は、どこになるのでしょうか」

私の問いに、ヘスティアさんは大陸の地図を画面に映しました。
そして、北東の、けわしい山が多い場所に浮かぶ、大きな浮遊島を指します。

『第三の聖地は、天空に浮かぶ「風の聖域」です。そこは、昔の天気をあやつるタワーがあった場所です。大陸全体の天気を管理していましたが、今は言うことを聞かなくなったゴーレムたちが暴れて、いつも雷雲と強い風が吹く、とても危険な空になっています』

ヘスティアさんの説明を聞きながら、私は画面に映る浮遊島を見つめました。
黒い雷雲におおわれたその島は、まるで魔王の城のようにも見えます。
次の試練も、簡単にはいかないようです。
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