陽だまりの魔法パン工房 ~もふもふ狼さんと焼きたての幸せ~

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子供パン作り教室の賑わいが、まだカフェの中に温かい余韻として残っている、そんな穏やかな午後のことだった。店の前に、一台の美しい白木の馬車が静かに止まった。その扉に刻まれた紋章は、森の館の主、フィン様のものであることを示していた。

馬車から降りてきたのは、フィン様の忠実な従者であるアルヴィンさんだった。彼は一人で馬車を降りると、カフェの扉を静かに開け、中にいた私を見つけると恭しく一礼した。

「陽だまりのパン屋さん、ユイ殿。ご無沙汰しております。本日は、我が主フィンより、あなた様とコリコの町の皆様へ、正式な書状をお持ちいたしました」

彼の声は穏やかだったが、その表情にはどこか晴れやかな興奮の色が浮かんでいる。カフェにいた客たちも、その荘厳な雰囲気に何事かと視線を向けていた。

「フィン様からの、書状ですか?」

私が驚いて尋ねると、アルヴィンさんは頷き、巻物のように丸められた美しい木の皮の書状を私に手渡した。書状は、森の若葉を思わせる瑞々しい緑色の紐で結ばれている。

「どうか、お受け取りください。主からの、心からの招待状にございます」

私は緊張しながらもその書状を受け取り、ゆっくりと紐を解いた。書状を開くと、そこにはエルフの言葉で流れるような美しい文字が綴られている。

『陽だまりのパン工房 ユイ殿、そしてコリコの町の心優しき友人たちよ。
君たちを、我々の故郷『エルフの森の都・エリアドール』で来月開かれる夏祭りへ、正式に招待したい』

エルフの森の都。夏祭りへの招待。その言葉に、私は思わず息を飲んだ。

『君たちはパンを通じて、森と我らの心と温かい絆を結んでくれた大切な友人だ。どうか、我らの都へ来て共に夏の恵みを祝い、歌い、踊ってほしい。君たちのパンと我らの森の文化が交わることで、きっと新しい素晴らしい何かが生まれるはずだ』

こんなに光栄な招待があるだろうか。書状を読み終えた私の手を、いつの間にか隣に来ていたエララさんがぎゅっと握りしめた。彼女の瞳は驚きと、そして故郷への思いで潤んでいる。

「ユイさん、これって……!」

その知らせを聞きつけた町の仲間たちが、次々とカフェに集まってきた。

「なんだと。エルフの都へ、嬢ちゃんたちが行くのか」
ボルギンさんが、目を輝かせている。
「いい機会だ。エルフの連中が作る、ひょろひょろした建物が本当に百年持つのか、この目で確かめてきてやる」

彼は、職人としての探求心に火がついたようだった。

「おお、エルフの森の都。そこには、失われた古代の知識を記した古文書が眠っているやもしれませぬな。なんということだ、胸が高鳴りますぞ」

フェンウィック先生も、学者としての興奮を隠しきれない様子だ。
そして何より喜んだのは、エララさんだった。

「ユイさん、ありがとう。まさか、みんなと一緒に故郷の夏祭りに行けるなんて。夢みたいだわ」

エララさんは若い頃に故郷を離れ、このコリコの町で花屋を始めたと以前話してくれたことがある。彼女にとって、故郷の祭りはきっと特別な思い出なのだろう。

「子供の頃に参加したきりなの。エリアドールの夏祭りは、世界で一番美しいお祭りなのよ。町中が光る花で飾られて、夜には音楽会が開かれて……」

普段は落ち着いている彼女が、子供のようにはしゃいでいる。その姿を見ているだけで、私たちの期待も膨らんでいった。
私と、隣で静かに話を聞いていたルゥフさんは顔を見合わせた。彼の金色の瞳も、興奮と期待で輝いている。私たちは迷うことなく、深く頷いた。

「はい。喜んで、お伺いさせていただきます」

私の返事に、アルヴィンさんは満足そうに微笑んだ。こうして、私たちのエルフの都への旅は、町を挙げての一大イベントとなった。フィン様は、コリコの町の仲間たちなら誰でも歓迎すると言ってくれた。旅のメンバーは私とルゥフさん、エララさんを中心に、ボルギンさんやフェンウィック先生、三つ子たちとその両親まで加わる大所帯の旅団となった。

その日から、私たちは新しい旅の準備で大忙しになった。
私はエルフの都へ持っていくため、コリコの町の特産品を詰め込んだ特別なパンの試作を始めた。
太陽の恵みを浴びた小麦と、大地の力強さを感じる木の実。この町の温かさが伝わるパンを届けたい。

ルゥフさんは、工房の隅で大きな森の地図を広げていた。
エリアドールまでの、最も安全で美しい景色が見られる道のりを入念に確認してくれている。
その横顔は、とても頼もしかった。

「みんな、見てちょうだい。私、旅のしおりを作ってみたの」

エララさんが、手作りの可愛らしい冊子をみんなに配ってくれた。
そこにはエルフの都の見どころや、夏祭りのプログラムが彼女の美しいイラスト付きで描かれている。

「エリアドールの建物はね、すべて生きたままの木を魔法で少しずつ形を変えて作られているのよ。だから、壁に触るとほんのり温かいの」
「夜になると、町中に『月光花』のように自ら光を放つ花が咲いて、それが街灯代わりになるの。とっても幻想的なのよ」

エララさんの話を聞いていると、冒険への期待はますます高まっていく。
私は工房で、フィン様から以前いただいた「歌い樹の樹液」を生地に練り込んだ。
生地からは、甘く神秘的な、優しいメロディーが聞こえてくるようだった。
出発の日は、もうすぐそこまで迫っていた。
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