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エルフの都、エリアドールでの夢のような夏祭りを終え、私たちコリコの町の訪問団は心からの歓待を受けた感謝を胸に帰路についた。
フィン様をはじめ、たくさんのエルフたちが森の入り口まで見送りに来てくれた。
彼らと交わした再会を約束する固い握手の温もりは、まだ私の手に残っているようだ。
帰り道の馬車の中は、旅の思い出話で行き以上に賑やかだった。
「いやあ、エルフの建築技術、大したもんだったぜ! 特にあの生きた木の柱を捻じ曲げる技法は、ドワーフの石工術にも応用できるかもしれん!」
ボルギンさんは興奮冷めやらぬ様子で、羊皮紙に何やら設計図のようなものを書き殴っている。
「わたくしも、エルフの長老たちと非常に有意義な議論ができました。彼らの持つ、古代からの植物に関する知識はまさに至宝ですな!」
フェンウィック先生も満足そうに頷いていた。
エララさんは故郷の友人たちからもらったという珍しい花の種を、宝物のように大切に抱きしめている。
誰もがこの旅でかけがえのない経験と、新しい友情を得たのだ。
数日後、コリコの町まであと一日という距離の、森の開けた場所で野営をすることになった。
空には今まで見たこともないくらい、大きくて美しい満月が昇っている。
その銀色の光が、私たちのキャンプ地を昼間のように明るく照らし出していた。
仲間たちがそれぞれのテントで眠りについた後、私はルゥフさんと二人きりで静かに燃える焚き火の番をしていた。
ぱちぱちと薪が心地よい音を立てて爆ぜる。
虫の声と、遠くで聞こえる夜行性の動物の鳴き声だけが静寂に響いていた。
私たちは言葉を交わすこともなく、ただ燃える炎を見つめる。
その沈黙は少しも気まずいものではなく、むしろ互いの心に寄り添うような穏やかで満たされた時間だった。
やがてルゥフさんが、意を決したように静かに口を開いた。
その声はいつもより少しだけ低く、真剣な響きを帯びている。
「ユイ。……お前に、話がある」
彼の雰囲気に、私は自然と背筋を伸ばし彼の顔を見つめた。
焚き火の炎に照らされた横顔は彫刻のように美しく、その金色の瞳は今まで見たこともないくらい真剣な光を宿していた。
「この旅で、エルフの都を見て改めて思ったんだ」
彼はゆっくりと、一つ一つの言葉を確かめるように話し始める。
「エリアドールは美しくて平和な場所だった。だが、俺のいるべき場所はあそこじゃない。コリコの町だ。……お前の、隣だ」
「ルゥフさん……」
「お前と出会う前の俺は、ただ森の奥で一人で生きていただけだった。自分の力が怖くて、誰かと深く関わることから逃げていただけだ。温かいパンの味も、仲間と笑い合う温かさも知らなかった。……いや、知ろうとしていなかった」
彼は自分の大きな拳をじっと見つめている。
そこには彼の過去の孤独と、痛みが滲んでいるようだった。
「だが、お前がすべてを変えてくれた。お前の焼くパンが俺の凍えた心を溶かし、お前の笑顔が俺の世界に陽だまりのような温かい光をくれたんだ。お前がいなければ、俺は今もあの暗い森の奥で一人だっただろう」
彼の不器用な、けれど心の底からの言葉の一つ一つが、私の胸に温かく染み込んでいく。
私の目から自然と涙が溢れそうになるのを、必死で堪えた。
「ユイ。俺は、もう迷わない」
彼は私の方へと向き直った。
その金色の瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「俺は、お前を守りたい。お前のその笑顔を、お前の焼く、世界で一番温かいパンを。俺の一生をかけて、守り続けたいんだ」
そして彼はゆっくりと懐から小さな布包みを取り出した。
その包みをそっと開く。
中から現れたのは、一つの不思議な輝きを持つ石だった。
磨かれていない自然なままの形の石だったけれど、信じられないほど美しい。
石の半分は朝日そのものを閉じ込めたかのように温かい金色に輝いている。
そしてもう半分は、今私たちの頭上で輝いている満月のように、静かで優しい銀色の光を放っていた。
一つの石の中に太陽と月、二つの相反する光が奇跡のように混じり合い、調和している。
「これは……?」
「銀狼族に古くから伝わる『誓いの石』だ」
ルゥフさんはその石を、宝物を扱うかのようにそっと私の手のひらに乗せてくれた。
石はひんやりとしているのに、どこか温かい。
まるで生きているかのように、彼の鼓動が伝わってくるようだった。
「俺たちの一族は、生涯を共にすると誓ったたった一人の相手にこの石を贈る。太陽の光は、陽だまりのような温かい愛情を。月の光は、どんな時も寄り添う静かで変わらぬ心を。その両方を、お前に捧げるという誓いの証だ」
彼は石の乗った私の手を、自身の大きな両手で優しく包み込んだ。
その手の、なんと温かいことだろう。
「ユイ」
彼の声が少しだけ震えているのがわかった。
「これからも、ずっと俺の隣で、お前のパンを焼いていてほしい。俺は、お前と、お前の焼くパンを一生守る」
それは彼の、不器用でけれど世界で一番誠実なプロポーズだった。
堪えていた涙の堰が、完全に決壊する。
嬉しくて幸せで、涙が次から次へと溢れ出して止まらない。
私は何度も、何度も、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま力強く頷いた。
「はい……! 喜んで……! 私も、ルゥフさんの隣でずっとパンを焼きたいです……!」
言葉がうまく続かない。
ただ「はい」と頷くのが精一杯だった。
私の返事を聞いて、ルゥフさんの真剣だった表情がふっと和らぐ。
彼の顔に浮かんだのは安堵と、そして心の底からの深い喜びの笑みだった。
彼は私の体を、壊れ物を抱きしめるかのようにその大きな腕でそっと引き寄せた。
彼の胸に顔をうずめると、森の落ち着いた匂いと彼の温かい体温が私を優しく包み込む。
その胸の中で、私は子供のように声を上げて泣いてしまった。
「ありがとう、ルゥフさん……。本当に、ありがとう……」
「礼を言うのは俺の方だ。……ユイ。俺の、生涯の伴侶になってくれて」
彼は私の髪を大きな手で、何度も優しく撫でてくれた。
月明かりと燃える焚き火の光の下で、どれくらいの時間そうしていただろうか。
やがて涙が収まった私は、彼の胸から顔を上げた。
彼の金色の瞳がすぐ目の前で、愛おしそうに私を見つめている。
その瞳に、焚き火の炎と涙で濡れた私の顔が映っていた。
私たちはどちらからともなく、ゆっくりと顔を近づける。
そして静かに唇を重ねた。
それはとても優しくて、温かい初めての口付けだった。
誓いの石が、私の手の中でひときわ強く金色と銀色の光を放つ。
まるで私たちの未来を、祝福してくれるかのようだった。
ルゥフさんは私の手の中にある誓いの石を、もう一度愛おしそうに見つめた。
そして何かを思いついたように、私の顔を見る。
彼の金色の瞳は、少しだけ悪戯っぽく輝いていた。
「ユイ。その石で、指輪を作るのはどうだろうか」
彼の提案に、私は目を丸くした。
「ボルギンに頼めば、きっと最高のものができるはずだ。お前の指で、太陽と月がいつも輝いている」
その言葉はあまりにも素敵で、私の胸は再び高鳴り始める。
彼の指が、私の左手の薬指にそっと触れた。
フィン様をはじめ、たくさんのエルフたちが森の入り口まで見送りに来てくれた。
彼らと交わした再会を約束する固い握手の温もりは、まだ私の手に残っているようだ。
帰り道の馬車の中は、旅の思い出話で行き以上に賑やかだった。
「いやあ、エルフの建築技術、大したもんだったぜ! 特にあの生きた木の柱を捻じ曲げる技法は、ドワーフの石工術にも応用できるかもしれん!」
ボルギンさんは興奮冷めやらぬ様子で、羊皮紙に何やら設計図のようなものを書き殴っている。
「わたくしも、エルフの長老たちと非常に有意義な議論ができました。彼らの持つ、古代からの植物に関する知識はまさに至宝ですな!」
フェンウィック先生も満足そうに頷いていた。
エララさんは故郷の友人たちからもらったという珍しい花の種を、宝物のように大切に抱きしめている。
誰もがこの旅でかけがえのない経験と、新しい友情を得たのだ。
数日後、コリコの町まであと一日という距離の、森の開けた場所で野営をすることになった。
空には今まで見たこともないくらい、大きくて美しい満月が昇っている。
その銀色の光が、私たちのキャンプ地を昼間のように明るく照らし出していた。
仲間たちがそれぞれのテントで眠りについた後、私はルゥフさんと二人きりで静かに燃える焚き火の番をしていた。
ぱちぱちと薪が心地よい音を立てて爆ぜる。
虫の声と、遠くで聞こえる夜行性の動物の鳴き声だけが静寂に響いていた。
私たちは言葉を交わすこともなく、ただ燃える炎を見つめる。
その沈黙は少しも気まずいものではなく、むしろ互いの心に寄り添うような穏やかで満たされた時間だった。
やがてルゥフさんが、意を決したように静かに口を開いた。
その声はいつもより少しだけ低く、真剣な響きを帯びている。
「ユイ。……お前に、話がある」
彼の雰囲気に、私は自然と背筋を伸ばし彼の顔を見つめた。
焚き火の炎に照らされた横顔は彫刻のように美しく、その金色の瞳は今まで見たこともないくらい真剣な光を宿していた。
「この旅で、エルフの都を見て改めて思ったんだ」
彼はゆっくりと、一つ一つの言葉を確かめるように話し始める。
「エリアドールは美しくて平和な場所だった。だが、俺のいるべき場所はあそこじゃない。コリコの町だ。……お前の、隣だ」
「ルゥフさん……」
「お前と出会う前の俺は、ただ森の奥で一人で生きていただけだった。自分の力が怖くて、誰かと深く関わることから逃げていただけだ。温かいパンの味も、仲間と笑い合う温かさも知らなかった。……いや、知ろうとしていなかった」
彼は自分の大きな拳をじっと見つめている。
そこには彼の過去の孤独と、痛みが滲んでいるようだった。
「だが、お前がすべてを変えてくれた。お前の焼くパンが俺の凍えた心を溶かし、お前の笑顔が俺の世界に陽だまりのような温かい光をくれたんだ。お前がいなければ、俺は今もあの暗い森の奥で一人だっただろう」
彼の不器用な、けれど心の底からの言葉の一つ一つが、私の胸に温かく染み込んでいく。
私の目から自然と涙が溢れそうになるのを、必死で堪えた。
「ユイ。俺は、もう迷わない」
彼は私の方へと向き直った。
その金色の瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「俺は、お前を守りたい。お前のその笑顔を、お前の焼く、世界で一番温かいパンを。俺の一生をかけて、守り続けたいんだ」
そして彼はゆっくりと懐から小さな布包みを取り出した。
その包みをそっと開く。
中から現れたのは、一つの不思議な輝きを持つ石だった。
磨かれていない自然なままの形の石だったけれど、信じられないほど美しい。
石の半分は朝日そのものを閉じ込めたかのように温かい金色に輝いている。
そしてもう半分は、今私たちの頭上で輝いている満月のように、静かで優しい銀色の光を放っていた。
一つの石の中に太陽と月、二つの相反する光が奇跡のように混じり合い、調和している。
「これは……?」
「銀狼族に古くから伝わる『誓いの石』だ」
ルゥフさんはその石を、宝物を扱うかのようにそっと私の手のひらに乗せてくれた。
石はひんやりとしているのに、どこか温かい。
まるで生きているかのように、彼の鼓動が伝わってくるようだった。
「俺たちの一族は、生涯を共にすると誓ったたった一人の相手にこの石を贈る。太陽の光は、陽だまりのような温かい愛情を。月の光は、どんな時も寄り添う静かで変わらぬ心を。その両方を、お前に捧げるという誓いの証だ」
彼は石の乗った私の手を、自身の大きな両手で優しく包み込んだ。
その手の、なんと温かいことだろう。
「ユイ」
彼の声が少しだけ震えているのがわかった。
「これからも、ずっと俺の隣で、お前のパンを焼いていてほしい。俺は、お前と、お前の焼くパンを一生守る」
それは彼の、不器用でけれど世界で一番誠実なプロポーズだった。
堪えていた涙の堰が、完全に決壊する。
嬉しくて幸せで、涙が次から次へと溢れ出して止まらない。
私は何度も、何度も、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま力強く頷いた。
「はい……! 喜んで……! 私も、ルゥフさんの隣でずっとパンを焼きたいです……!」
言葉がうまく続かない。
ただ「はい」と頷くのが精一杯だった。
私の返事を聞いて、ルゥフさんの真剣だった表情がふっと和らぐ。
彼の顔に浮かんだのは安堵と、そして心の底からの深い喜びの笑みだった。
彼は私の体を、壊れ物を抱きしめるかのようにその大きな腕でそっと引き寄せた。
彼の胸に顔をうずめると、森の落ち着いた匂いと彼の温かい体温が私を優しく包み込む。
その胸の中で、私は子供のように声を上げて泣いてしまった。
「ありがとう、ルゥフさん……。本当に、ありがとう……」
「礼を言うのは俺の方だ。……ユイ。俺の、生涯の伴侶になってくれて」
彼は私の髪を大きな手で、何度も優しく撫でてくれた。
月明かりと燃える焚き火の光の下で、どれくらいの時間そうしていただろうか。
やがて涙が収まった私は、彼の胸から顔を上げた。
彼の金色の瞳がすぐ目の前で、愛おしそうに私を見つめている。
その瞳に、焚き火の炎と涙で濡れた私の顔が映っていた。
私たちはどちらからともなく、ゆっくりと顔を近づける。
そして静かに唇を重ねた。
それはとても優しくて、温かい初めての口付けだった。
誓いの石が、私の手の中でひときわ強く金色と銀色の光を放つ。
まるで私たちの未来を、祝福してくれるかのようだった。
ルゥフさんは私の手の中にある誓いの石を、もう一度愛おしそうに見つめた。
そして何かを思いついたように、私の顔を見る。
彼の金色の瞳は、少しだけ悪戯っぽく輝いていた。
「ユイ。その石で、指輪を作るのはどうだろうか」
彼の提案に、私は目を丸くした。
「ボルギンに頼めば、きっと最高のものができるはずだ。お前の指で、太陽と月がいつも輝いている」
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