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完成した高炉は、工房の屋根を突き抜けるほどの高さになった。
その姿は、まるで天に届く鉄の塔のようだ。
俺とギデオンさんは、そのすごい存在感の前に言葉を失った。
「本当に、できてしまったな。わしらの、夢の炉が」
ギデオンさんが、感動したようにかすれた声で言った。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。
「ええ。ですが、まだ完成じゃありませんよ。これから、こいつに魂を入れるんです」
俺は、にやりと笑って言った。
いよいよ、この高炉に初めて火を入れる時が来たのだ。
俺たちは、炉の中にたくさんの石炭と星鉄鉱を入れた。
そして炉の中心部にある魔力増幅器に、俺が魔力を込める。
俺の体から放たれた魔力が、炉の全体に巡っていった。
ごおおお、という低い地鳴りのような音が響き渡る。
炉の中で、炎が燃え盛るのが見えた。
その炎は、普通の炎とはまったく違う。
まるで太陽のかけらのように、まぶしいほどの白い光を放っていた。
工房の中の温度が、一気に上がっていく。
俺たちは、額から出る汗を拭くのも忘れてその光景を見守っていた。
「すごい、なんて温度だ。これなら、星鉄鉱を間違いなく溶かせる」
ギデオンさんは、興奮を隠せない様子で叫んだ。
高炉は、数時間にわたって大きな音を上げ続けた。
そして、ついにその時がやって来る。
炉の下にある排出口から、溶けた鉄が流れ出してきたのだ。
それは、まるで光り輝く川のようだった。
どこまでも滑らかで、余計な物をまったく含まない完璧な溶けた鉄だ。
伝説の鉱石である星鉄鉱が、ついに人間の手によって溶かされた瞬間だった。
「やったぞ、ミナト殿。わしたちは、ついにやったんじゃ」
ギデオンさんは、俺の手を握って子供のように跳びはねて喜んだ。
俺も、こみ上げる達成感に思わず拳を握った。
流れ出た溶けた鉄は、用意しておいた鋳型に注がれていく。
そしてゆっくりと冷やされ、美しい輝きを放つ鉄の塊になった。
それは、まるで鏡のように俺たちの顔を映している。
信じられないほど軽く、指で弾けばキーンと美しい音がした。
「これが、星鉄か。なんと、美しいものだ」
ギデオンさんは、うっとりとした表情で完成した鉄の塊を撫でた。
長年の夢が、今彼の目の前で本当のことになったのだ。
「ミナト殿、この礼は、どう言ったらいいか分からん。あんたは、わしの生涯の恩人じゃ」
彼は、俺に向かって深々と頭を下げた。
「顔を上げてください、ギデオンさん。これは、俺たち二人の力でやり遂げたことです」
俺たちの周りでは、工房の職人たちから大きな歓声と拍手が上がっていた。
バルガスも、満足そうに腕を組んでうなずいている。
ルナは、ぴょんぴょんと跳ねて自分のことのように喜んでくれた。
この日の成功は、すぐに町中の噂になった。
誰もが不可能だと思っていた星鉄鉱の精錬に成功した、謎の船乗りと頑固な老職人の話だ。
俺たちの工房には、噂を聞いた多くの職人たちが見学に訪れるようになる。
誰もが、天を突く高炉とそこで生み出される奇跡の金属に驚いていた。
「すごい、本当に星鉄じゃないか」
「こんな金属は、見たことがない。まるで、魔法のようだ」
人々は、それぞれに褒める言葉を口にした。
ギデオンさんは、一躍この町の英雄になった。
そして俺も、ミナトという名前で町中の人々に知られることになった。
数日後、俺はギデオンさんとこれからのことについて話し合った。
「ギデオンさん、この高炉と星鉄の技術は、あなたに全て譲ります」
俺の言葉に、ギデオンさんは驚いて目を見開いた。
「な、何を言うんじゃ、ミナト殿。これは、あんたの知識と力があったからできたものじゃ」
「ええ。ですが、俺は旅の者ですから。いつまでも、この町にいるわけにはいきません」
俺は、穏やかに言った。
「この素晴らしい技術は、この町でこそ生かされるべきです。あなたの手で、この星鉄を使って最高の武具や道具を作ってください」
それが、この町とギデオンさんへの俺なりの感謝の気持ちだった。
俺は、名声や富が欲しいわけではない。
ただ俺の知識が誰かの役に立ち、その笑顔を見ることができればそれでいいのだ。
俺の決意が固いことを知ると、ギデオンさんは涙を浮かべてうなずいた。
「分かった、ミナト殿。あんたのその大きな志は、確かに受け取った。このギデオン、生涯をかけてこの技術をさらに良くしてみせよう」
こうして、この町の未来を大きく変える技術の引き継ぎが終わった。
その代わりに、俺はギデオンさんから十分な量の星鉄の塊を譲り受けた。
もちろん、代金はきっちりと支払っている。
俺の燻製ビジネスで稼いだ、有り余るほどのお金があったからだ。
これで、俺の目的は完全に達成された。
最高の材料を、手に入れたのだ。
俺は、さっそくリバーサイド号の加工室で新しい機械の製作を始めた。
星鉄を使って作られた機械は、俺の想像をはるかに超える性能を見せた。
驚くほど滑らかに動き、少しの狂いもなく魚を加工していく。
その効率は、以前の機械の十倍以上だった。
これさえあれば、燻製や干物の大量生産も夢ではない。
俺のビジネスは、また一つ大きな武器を手に入れたのだ。
ロックベルの町に来てから、二週間が過ぎた。
俺たちは、すっかりこの町の一員として受け入れられている。
バルガスは、鉱夫たちと飲み比べをしては勝ち続けていた。
すっかり、町の人気者になっている。
ルナは、ギデオンさんの工房で宝石の加工を手伝うのが日課だった。
彼女の器用な手先は、細かい作業に向いているらしい。
職人たちも、可愛いルナを孫のように可愛がってくれた。
俺は、機械の調整を終えた後、のんびりと町の散歩を楽しんでいた。
この町の、活気と熱気に満ちた雰囲気が俺は好きだった。
だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。
その夜、俺はバルガスとルナをリビングに集めた。
「二人とも、聞いてくれ。そろそろ、この町を出発しようと思う」
俺の言葉に、二人は少しだけ寂しそうな顔をする。
だが、すぐに力強くうなずいた。
「分かったぜ、ミナト。あんたが決めたなら、俺はどこまでもついていく」
バルガスが、頼もしい声で言った。
「うん。わたしも、ミナトと一緒に行くよ」
ルナも、はっきりと自分の気持ちを告げた。
俺は、最高の仲間に恵まれたと心から思う。
「よし、決まりだな。次の目的地は、川を下った先にある商業都市だ。ダリウスさんとの、約束があるからな」
俺たちの新しい冒険が、また始まろうとしていた。
翌朝、俺たちは町の人々の盛大な見送りを受けて出発の準備をする。
港には、俺たちとの別れを惜しむたくさんの人々が集まっていた。
ギデオンさんも、弟子の手を借りてわざわざ見送りに来てくれた。
「ミナト殿、世話になったな。あんたのことは、わしは一生忘れんぞ」
彼は、しわくちゃの手で俺の手を固く握った。
その目には、感謝と寂しさの色が浮かんでいる。
「俺の方こそ、お世話になりました。また、必ず会いに来ますから」
俺がそう言うと、彼は嬉しそうに何度も頷いた。
「ああ、待っておるぞ。次に会う時までには、この星鉄で世界一の剣を作ってみせる」
俺たちは、固い再会の約束を交わした。
やがて、出航の時間が来た。
俺は、リバーサイド号の舵を握る。
「リバーサイド号、出航だ」
俺の合図と共に、船はゆっくりと岸壁から離れていった。
港からは、いつまでも俺たちの名前を呼ぶ声と別れを惜しむ声が聞こえる。
「達者でな、ミナト」
「バルガス、また飲み比べしようぜ」
「ルナちゃん、また遊びに来てね」
その温かい声援に、俺たちは大きく手を振って応えた。
リバーサイド号は、ゆっくりと向きを変える。
そして、川の流れに乗って下流へと進み始めた。
活気あふれる鉱山の町が、少しずつ遠ざかっていく。
だがこの町で得た経験と絆は、俺たちの心の中にずっと残り続けるだろう。
俺は、新しい目的地である商業都市に気持ちを向けた。
次の町では、どんな出会いと出来事が待っているのだろう。
俺は、期待を胸にしながら舵を握る手に力を込めた。
船は、順調に川を下っていく。
上流から下流へ向かう流れは、とても速くて気持ちがよかった。
ルナは、甲板の先頭に立って嬉しそうに風を受けている。
その髪が、きらきらと太陽の光を反射して輝いた。
バルガスは、見張り台の上で気持ちよさそうに昼寝をしていた。
いや、きっと周囲をしっかりと警戒しているはずだ。
俺は、そんな平和な光景を眺めながらこれからの計画を練る。
ダリウス商会と組んで、いよいよ本格的な商売を始めるのだ。
まずは、この星鉄製の機械で作った最高品質の燻製を市場に出す。
きっと、大きな話題になるに違いない。
それから、あの村の漁師たちが獲る新鮮な魚も売り出そう。
リバーサイド号の生け簀を使えば、内陸の町でも新鮮な川魚を届けられるはずだ。
これも、きっと画期的なことになるだろう。
考えているだけで、わくわくしてくる。
俺の頭の中には、新しい商売の考えが次々と浮かんできた。
旅をしながら、自由に商売をする。
それは、俺がずっと夢見ていた生き方そのものだった。
船旅は、数日間続いた。
川の両岸の景色は、山の多い地域から再び広大な平野へと変わっていく。
川幅も、どんどん広くなってきた。
行き交う船の数が、明らかに増えてくる。
大きな帆を張った、立派な商船の姿も珍しくなくなった。
目的の商業都市が、近いという証拠だった。
そして出発から五日目の昼過ぎのことだ。
見張り台から、バルガスの興奮した声が響き渡った。
「おい、ミナト。見えてきたぜ、とんでもなくでけえ町だ」
俺は、前方に視線を向ける。
地平線の向こうに、巨大な町の影が浮かび上がっていた。
これまで見てきたどの町よりも、大きく活気に満ちているのが遠くからでも分かる。
あれが、目的の商業都市か。
俺は、思わずごくりと喉を鳴らした。
その姿は、まるで天に届く鉄の塔のようだ。
俺とギデオンさんは、そのすごい存在感の前に言葉を失った。
「本当に、できてしまったな。わしらの、夢の炉が」
ギデオンさんが、感動したようにかすれた声で言った。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。
「ええ。ですが、まだ完成じゃありませんよ。これから、こいつに魂を入れるんです」
俺は、にやりと笑って言った。
いよいよ、この高炉に初めて火を入れる時が来たのだ。
俺たちは、炉の中にたくさんの石炭と星鉄鉱を入れた。
そして炉の中心部にある魔力増幅器に、俺が魔力を込める。
俺の体から放たれた魔力が、炉の全体に巡っていった。
ごおおお、という低い地鳴りのような音が響き渡る。
炉の中で、炎が燃え盛るのが見えた。
その炎は、普通の炎とはまったく違う。
まるで太陽のかけらのように、まぶしいほどの白い光を放っていた。
工房の中の温度が、一気に上がっていく。
俺たちは、額から出る汗を拭くのも忘れてその光景を見守っていた。
「すごい、なんて温度だ。これなら、星鉄鉱を間違いなく溶かせる」
ギデオンさんは、興奮を隠せない様子で叫んだ。
高炉は、数時間にわたって大きな音を上げ続けた。
そして、ついにその時がやって来る。
炉の下にある排出口から、溶けた鉄が流れ出してきたのだ。
それは、まるで光り輝く川のようだった。
どこまでも滑らかで、余計な物をまったく含まない完璧な溶けた鉄だ。
伝説の鉱石である星鉄鉱が、ついに人間の手によって溶かされた瞬間だった。
「やったぞ、ミナト殿。わしたちは、ついにやったんじゃ」
ギデオンさんは、俺の手を握って子供のように跳びはねて喜んだ。
俺も、こみ上げる達成感に思わず拳を握った。
流れ出た溶けた鉄は、用意しておいた鋳型に注がれていく。
そしてゆっくりと冷やされ、美しい輝きを放つ鉄の塊になった。
それは、まるで鏡のように俺たちの顔を映している。
信じられないほど軽く、指で弾けばキーンと美しい音がした。
「これが、星鉄か。なんと、美しいものだ」
ギデオンさんは、うっとりとした表情で完成した鉄の塊を撫でた。
長年の夢が、今彼の目の前で本当のことになったのだ。
「ミナト殿、この礼は、どう言ったらいいか分からん。あんたは、わしの生涯の恩人じゃ」
彼は、俺に向かって深々と頭を下げた。
「顔を上げてください、ギデオンさん。これは、俺たち二人の力でやり遂げたことです」
俺たちの周りでは、工房の職人たちから大きな歓声と拍手が上がっていた。
バルガスも、満足そうに腕を組んでうなずいている。
ルナは、ぴょんぴょんと跳ねて自分のことのように喜んでくれた。
この日の成功は、すぐに町中の噂になった。
誰もが不可能だと思っていた星鉄鉱の精錬に成功した、謎の船乗りと頑固な老職人の話だ。
俺たちの工房には、噂を聞いた多くの職人たちが見学に訪れるようになる。
誰もが、天を突く高炉とそこで生み出される奇跡の金属に驚いていた。
「すごい、本当に星鉄じゃないか」
「こんな金属は、見たことがない。まるで、魔法のようだ」
人々は、それぞれに褒める言葉を口にした。
ギデオンさんは、一躍この町の英雄になった。
そして俺も、ミナトという名前で町中の人々に知られることになった。
数日後、俺はギデオンさんとこれからのことについて話し合った。
「ギデオンさん、この高炉と星鉄の技術は、あなたに全て譲ります」
俺の言葉に、ギデオンさんは驚いて目を見開いた。
「な、何を言うんじゃ、ミナト殿。これは、あんたの知識と力があったからできたものじゃ」
「ええ。ですが、俺は旅の者ですから。いつまでも、この町にいるわけにはいきません」
俺は、穏やかに言った。
「この素晴らしい技術は、この町でこそ生かされるべきです。あなたの手で、この星鉄を使って最高の武具や道具を作ってください」
それが、この町とギデオンさんへの俺なりの感謝の気持ちだった。
俺は、名声や富が欲しいわけではない。
ただ俺の知識が誰かの役に立ち、その笑顔を見ることができればそれでいいのだ。
俺の決意が固いことを知ると、ギデオンさんは涙を浮かべてうなずいた。
「分かった、ミナト殿。あんたのその大きな志は、確かに受け取った。このギデオン、生涯をかけてこの技術をさらに良くしてみせよう」
こうして、この町の未来を大きく変える技術の引き継ぎが終わった。
その代わりに、俺はギデオンさんから十分な量の星鉄の塊を譲り受けた。
もちろん、代金はきっちりと支払っている。
俺の燻製ビジネスで稼いだ、有り余るほどのお金があったからだ。
これで、俺の目的は完全に達成された。
最高の材料を、手に入れたのだ。
俺は、さっそくリバーサイド号の加工室で新しい機械の製作を始めた。
星鉄を使って作られた機械は、俺の想像をはるかに超える性能を見せた。
驚くほど滑らかに動き、少しの狂いもなく魚を加工していく。
その効率は、以前の機械の十倍以上だった。
これさえあれば、燻製や干物の大量生産も夢ではない。
俺のビジネスは、また一つ大きな武器を手に入れたのだ。
ロックベルの町に来てから、二週間が過ぎた。
俺たちは、すっかりこの町の一員として受け入れられている。
バルガスは、鉱夫たちと飲み比べをしては勝ち続けていた。
すっかり、町の人気者になっている。
ルナは、ギデオンさんの工房で宝石の加工を手伝うのが日課だった。
彼女の器用な手先は、細かい作業に向いているらしい。
職人たちも、可愛いルナを孫のように可愛がってくれた。
俺は、機械の調整を終えた後、のんびりと町の散歩を楽しんでいた。
この町の、活気と熱気に満ちた雰囲気が俺は好きだった。
だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。
その夜、俺はバルガスとルナをリビングに集めた。
「二人とも、聞いてくれ。そろそろ、この町を出発しようと思う」
俺の言葉に、二人は少しだけ寂しそうな顔をする。
だが、すぐに力強くうなずいた。
「分かったぜ、ミナト。あんたが決めたなら、俺はどこまでもついていく」
バルガスが、頼もしい声で言った。
「うん。わたしも、ミナトと一緒に行くよ」
ルナも、はっきりと自分の気持ちを告げた。
俺は、最高の仲間に恵まれたと心から思う。
「よし、決まりだな。次の目的地は、川を下った先にある商業都市だ。ダリウスさんとの、約束があるからな」
俺たちの新しい冒険が、また始まろうとしていた。
翌朝、俺たちは町の人々の盛大な見送りを受けて出発の準備をする。
港には、俺たちとの別れを惜しむたくさんの人々が集まっていた。
ギデオンさんも、弟子の手を借りてわざわざ見送りに来てくれた。
「ミナト殿、世話になったな。あんたのことは、わしは一生忘れんぞ」
彼は、しわくちゃの手で俺の手を固く握った。
その目には、感謝と寂しさの色が浮かんでいる。
「俺の方こそ、お世話になりました。また、必ず会いに来ますから」
俺がそう言うと、彼は嬉しそうに何度も頷いた。
「ああ、待っておるぞ。次に会う時までには、この星鉄で世界一の剣を作ってみせる」
俺たちは、固い再会の約束を交わした。
やがて、出航の時間が来た。
俺は、リバーサイド号の舵を握る。
「リバーサイド号、出航だ」
俺の合図と共に、船はゆっくりと岸壁から離れていった。
港からは、いつまでも俺たちの名前を呼ぶ声と別れを惜しむ声が聞こえる。
「達者でな、ミナト」
「バルガス、また飲み比べしようぜ」
「ルナちゃん、また遊びに来てね」
その温かい声援に、俺たちは大きく手を振って応えた。
リバーサイド号は、ゆっくりと向きを変える。
そして、川の流れに乗って下流へと進み始めた。
活気あふれる鉱山の町が、少しずつ遠ざかっていく。
だがこの町で得た経験と絆は、俺たちの心の中にずっと残り続けるだろう。
俺は、新しい目的地である商業都市に気持ちを向けた。
次の町では、どんな出会いと出来事が待っているのだろう。
俺は、期待を胸にしながら舵を握る手に力を込めた。
船は、順調に川を下っていく。
上流から下流へ向かう流れは、とても速くて気持ちがよかった。
ルナは、甲板の先頭に立って嬉しそうに風を受けている。
その髪が、きらきらと太陽の光を反射して輝いた。
バルガスは、見張り台の上で気持ちよさそうに昼寝をしていた。
いや、きっと周囲をしっかりと警戒しているはずだ。
俺は、そんな平和な光景を眺めながらこれからの計画を練る。
ダリウス商会と組んで、いよいよ本格的な商売を始めるのだ。
まずは、この星鉄製の機械で作った最高品質の燻製を市場に出す。
きっと、大きな話題になるに違いない。
それから、あの村の漁師たちが獲る新鮮な魚も売り出そう。
リバーサイド号の生け簀を使えば、内陸の町でも新鮮な川魚を届けられるはずだ。
これも、きっと画期的なことになるだろう。
考えているだけで、わくわくしてくる。
俺の頭の中には、新しい商売の考えが次々と浮かんできた。
旅をしながら、自由に商売をする。
それは、俺がずっと夢見ていた生き方そのものだった。
船旅は、数日間続いた。
川の両岸の景色は、山の多い地域から再び広大な平野へと変わっていく。
川幅も、どんどん広くなってきた。
行き交う船の数が、明らかに増えてくる。
大きな帆を張った、立派な商船の姿も珍しくなくなった。
目的の商業都市が、近いという証拠だった。
そして出発から五日目の昼過ぎのことだ。
見張り台から、バルガスの興奮した声が響き渡った。
「おい、ミナト。見えてきたぜ、とんでもなくでけえ町だ」
俺は、前方に視線を向ける。
地平線の向こうに、巨大な町の影が浮かび上がっていた。
これまで見てきたどの町よりも、大きく活気に満ちているのが遠くからでも分かる。
あれが、目的の商業都市か。
俺は、思わずごくりと喉を鳴らした。
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