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第7章 おじさんと雨の日
第102話
雨は降ったり止んだりを繰り返している。パタパタと屋根を叩く音と、豆を焙煎する音が交互に耳に届いて、なんとなくリズムが取れる気がする。
朝から何杯めか分からないコーヒーを口にしながら、煙草を一本くわえる。今日のブレンドは、前に旅商人からもらった干し果物の皮を、葉に少し混ぜて仕上げたやつだ。燃やすと、わずかに酸味のある香りが広がる。これがまた、雨の日に合う。
「……やっぱり、湿気の日はこっちの葉だな」
灰皿の脇に火のついた一本を置いて、次の焙煎の準備に移る。豆は〈カルミナ豆〉と〈ミルカ豆〉を半々。室内焙煎器に火を入れて、じわじわと熱を通していく。
油断すると焦げるが、今はもう手が覚えてる。指先と鼻と耳で仕上がりを掴む。目に頼る必要はない。雨が作る生活のテンポに合わせれば、それだけで一日がすんなり進む。
「……そういや、あれも試してみるか」
奥の棚から取り出したのは、自作の熟成葉のひと束。雨の日用に燻した葉だ。燻材にはリムナ樹皮に加えて、試しに異国の黒茶も少し使った。茶葉の甘い渋みが、どう出るかは吸ってみなきゃ分からない。
一本、丁寧に巻いて火を入れた。
「……悪くない」
しっとりとした吸いごたえに、鼻から抜ける香りがやけに穏やかだ。茶葉の効能か、それとも気温のせいか。いずれにしても、これは今後の定番に加えてもいい。
外の雨は続いている。通りには人影がない。さっき来た行商人も、すでに村の宿の方へ向かったのか、戻ってくる気配はない。
けれど俺は、それが物足りないとも、寂しいとも思わない。
「……この音がいいんだよな」
焙煎器の中で豆が跳ねる音。遠くで鳥が鳴いて、雨が葉を打つ。煙が立ち上がる横で、本を手に取って読む時間。この空気に、余計なものはいらない。
棚から選んだのは、『植物と天候の相互作用』。農業向けの書だが、香草や葉の変質傾向が載ってる。煙草にも珈琲にも応用できるネタが多い。
ページを繰りながら、隣で湯が湧き始める。次の抽出に向けて、粉を挽く手も自然と動く。雨音に邪魔されず、逆に集中を後押ししてくれる。
「……おっと、温度、ちょっと高いな」
湯の温度を数度下げてから抽出する。今日は〈ミスカ蜜〉は使わず、素の苦味とコクだけで勝負する一杯。
カップに注ぐと、ふわりと湯気が立ちのぼる。
「うん。悪くない」
吸い込んだ煙と、飲み込んだ珈琲の香りが口の中で重なる。この感覚は、言葉じゃ説明できねぇ。だが、それがいい。
来客の鈴は鳴らない。誰かが来るかもしれないし、来ないかもしれない。
けど、それでもかまわない。
この場所、この時間、この味。
誰に見せるでも、売るでもない。
俺の手と舌と鼻だけが頼りの、“今日の正解”がここにある。
店の隅で乾燥を進める豆と、熟成中の葉。それらを記録するためのノートは、もう何冊目になるか分からない。けれど、どのページにも意味がある。俺にとっては、な。
「……雨がやんでも、やることは変わらねぇな」
コーヒーを飲み干して、タバコを揉み消す。
焙煎室の奥から、微かに鳴る乾いた音。豆がちょうど良い具合に弾けている合図。
椅子から腰を上げて、焙煎器の蓋をそっと開けた。
「……よし、仕上がった」
焼き上がった豆の香ばしさが鼻を突く。さっそく粗熱を取りながら、保存瓶に詰めていく。この瓶も、万能生成スキルで作った密閉仕様。湿気対策は完璧だ。
スキル使用:【万能生成】
生成対象:保存用・密閉瓶(吸湿フィルタ付)
効果:湿度制御/香気保持/長期保管安定
「この瓶があると助かるな。あとは、味がどれだけ持つか……実験だな」
カチリと蓋を閉じて、棚に並べた瞬間、また外の雨音が強くなる。
偶然か、タイミングか。
どっちでもいい。
今日もいい一日になりそうだ。
朝から何杯めか分からないコーヒーを口にしながら、煙草を一本くわえる。今日のブレンドは、前に旅商人からもらった干し果物の皮を、葉に少し混ぜて仕上げたやつだ。燃やすと、わずかに酸味のある香りが広がる。これがまた、雨の日に合う。
「……やっぱり、湿気の日はこっちの葉だな」
灰皿の脇に火のついた一本を置いて、次の焙煎の準備に移る。豆は〈カルミナ豆〉と〈ミルカ豆〉を半々。室内焙煎器に火を入れて、じわじわと熱を通していく。
油断すると焦げるが、今はもう手が覚えてる。指先と鼻と耳で仕上がりを掴む。目に頼る必要はない。雨が作る生活のテンポに合わせれば、それだけで一日がすんなり進む。
「……そういや、あれも試してみるか」
奥の棚から取り出したのは、自作の熟成葉のひと束。雨の日用に燻した葉だ。燻材にはリムナ樹皮に加えて、試しに異国の黒茶も少し使った。茶葉の甘い渋みが、どう出るかは吸ってみなきゃ分からない。
一本、丁寧に巻いて火を入れた。
「……悪くない」
しっとりとした吸いごたえに、鼻から抜ける香りがやけに穏やかだ。茶葉の効能か、それとも気温のせいか。いずれにしても、これは今後の定番に加えてもいい。
外の雨は続いている。通りには人影がない。さっき来た行商人も、すでに村の宿の方へ向かったのか、戻ってくる気配はない。
けれど俺は、それが物足りないとも、寂しいとも思わない。
「……この音がいいんだよな」
焙煎器の中で豆が跳ねる音。遠くで鳥が鳴いて、雨が葉を打つ。煙が立ち上がる横で、本を手に取って読む時間。この空気に、余計なものはいらない。
棚から選んだのは、『植物と天候の相互作用』。農業向けの書だが、香草や葉の変質傾向が載ってる。煙草にも珈琲にも応用できるネタが多い。
ページを繰りながら、隣で湯が湧き始める。次の抽出に向けて、粉を挽く手も自然と動く。雨音に邪魔されず、逆に集中を後押ししてくれる。
「……おっと、温度、ちょっと高いな」
湯の温度を数度下げてから抽出する。今日は〈ミスカ蜜〉は使わず、素の苦味とコクだけで勝負する一杯。
カップに注ぐと、ふわりと湯気が立ちのぼる。
「うん。悪くない」
吸い込んだ煙と、飲み込んだ珈琲の香りが口の中で重なる。この感覚は、言葉じゃ説明できねぇ。だが、それがいい。
来客の鈴は鳴らない。誰かが来るかもしれないし、来ないかもしれない。
けど、それでもかまわない。
この場所、この時間、この味。
誰に見せるでも、売るでもない。
俺の手と舌と鼻だけが頼りの、“今日の正解”がここにある。
店の隅で乾燥を進める豆と、熟成中の葉。それらを記録するためのノートは、もう何冊目になるか分からない。けれど、どのページにも意味がある。俺にとっては、な。
「……雨がやんでも、やることは変わらねぇな」
コーヒーを飲み干して、タバコを揉み消す。
焙煎室の奥から、微かに鳴る乾いた音。豆がちょうど良い具合に弾けている合図。
椅子から腰を上げて、焙煎器の蓋をそっと開けた。
「……よし、仕上がった」
焼き上がった豆の香ばしさが鼻を突く。さっそく粗熱を取りながら、保存瓶に詰めていく。この瓶も、万能生成スキルで作った密閉仕様。湿気対策は完璧だ。
スキル使用:【万能生成】
生成対象:保存用・密閉瓶(吸湿フィルタ付)
効果:湿度制御/香気保持/長期保管安定
「この瓶があると助かるな。あとは、味がどれだけ持つか……実験だな」
カチリと蓋を閉じて、棚に並べた瞬間、また外の雨音が強くなる。
偶然か、タイミングか。
どっちでもいい。
今日もいい一日になりそうだ。
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