独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第17章 おじさんとレザークラフト

第217話

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足が痛むわけじゃない。ただ、なんとなく、しっくりこない。

いつも履いている革靴を脱いで、作業台の上に置く。旅用に選んだやつだが、俺の足には少しだけ硬い。特に、かかとの辺りが馴染まない。

「長く歩く気はないが、快適じゃないと許せない」

そう呟いて、革細工の棚を開いた。

選ぶのは、柔らかすぎず、かといって突っ張らない中厚のベジタブルタンニン。色はダークブラウン。履けば履くほど馴染み、じわじわと沈み込む感触が癖になるやつ。

まずは靴のかかと部分に合わせて、型を取る。

俺の足の癖に合わせて、左右非対称。左はやや外側重心、右は土踏まずのアーチが強め。市販の靴じゃどうにも対応できないところを、こうして自分で補正する。

型紙に合わせて革を切り出す。カーブの部分は慎重に刃を滑らせ、断面を綺麗に整える。

ヤスリで角を丸め、指でなぞると、革がしっとりと馴染んだ。裏面には薄く接着剤を塗り、靴の中にぴたりと収める。

手を抜けば楽だが、それだと意味がない。

指で押さえて、革が沈む感触を確かめながら、ひとつひとつ位置を合わせていく。

「……やっぱり、自分で合わせるのが一番だな」

さらに、全体のバランスを見るために、インソールも交換することにした。

既製品のそれを剥がし、新しく切り出した革を敷く。今回は少しだけ厚みを出して、土踏まずをしっかり支える形にする。

断面を丸め、表面には蜜蝋を薄く塗る。足が滑らず、汗を吸い、時間と共に沈み込む。それがいい。

試しに靴を履き直す。

かかとが沈んで、土踏まずが軽く持ち上がる。靴全体が足に寄り添ってくる感覚がある。音もなく、体重が吸い込まれるような安定感。

「悪くない」

そのまま少し歩いてみる。店の中を、数歩だけ。

いつもの床が、少し柔らかく感じた。

余った革が手元に残った。

捨てるには惜しい。程よい大きさと柔らかさ。思いつきで、草履でも作ってみることにした。

型紙は自分の足。立ったまま輪郭を取り、それよりほんの少し大きめに裁断する。底には滑り止めとして、厚めの革を重ねた。

草履の鼻緒は、古い麻布を裂いて丸めたもの。革の穴に通して、裏でしっかり結ぶ。

履いてみると、なんとも言えない素朴な感触。床板の温もりが、じかに伝わってくる。

読書用、もしくは焙煎中に履くにはちょうどいい。外には出ないが、だからこそ室内でも快適でいたい。

足の裏に柔らかく沿う、手製の草履。歩くたびに、革がわずかに鳴いて、音もまた心地よかった。

靴と草履。

用途は違えど、どちらも俺の足にぴったりだ。

誰かに見せるものでもない。誰かの目を気にするわけでもない。ただ、自分のために整える。

そういう手間が、俺には必要なんだろう。

革というのは、不思議な素材だ。

人の形に合わせて、時間と共に変化していく。手をかければ応えてくれるし、使い方次第で、表情も性格も変わる。

靴のかかとに手をやり、指で軽く押してみる。

沈みすぎず、硬すぎず。まるで自分の足と対話しているような、そんな感覚があった。

俺は煙草を一本取り出し、火をつけた。

ふう、と吐き出した煙が天井へ上がっていく。

今日の足元は、申し分ない。明日、どこかに出かけるかはわからないが、いつでも歩き出せるという安心感が、今の俺にはちょうどよかった。
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