魔力ゼロの遺物修復師、帝国のゴミ捨て場で伝説の機動要塞を起動する 〜これ、ただの修理じゃなくて「最適化」なんですけど?〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第1話 追放されたので、世界最大のガラクタを修理する

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「魔力値ゼロ。ルード、貴様は今日限りで帝国から追放だ」

黄金の装飾がこれ見よがしに施された玉座の間。
そこに響いたのは、第一皇子ゼノスの傲慢な声だった。

俺の目の前では、ゼノスが指先に灯した小さな火球を弄んでいる。
本人は威圧しているつもりだろうが、俺の目から見れば失笑ものだ。

その火球、熱エネルギーの拡散効率が悪すぎる。
無駄に魔力を垂れ流して、周囲の酸素を無意味に消費しているだけだ。

「おい、聞いているのか? この無能が」

ゼノスが苛立たしげに火球を俺の足元へ放り投げた。
絨毯が焦げる臭いが鼻を突く。

「ええ、聞いていますよ。追放、ですね。願ってもない」

俺の返答に、周囲に控えていた近衛騎士たちが「正気か?」と目を見開く。
彼らにとって、魔法が使えない人間が帝国の保護を失うことは死を意味するからだ。

だが、俺からすればこの国は不合理の塊でしかなかった。
魔法という不確定な力に頼り切り、道具のメンテナンスすら疎かにする。

俺がこの11年間、宮廷修復師としてどれだけの「ガラクタ」を蘇らせてきたか。
その恩恵を一番受けていたのは、他ならぬこの王子のはずなんだがな。

「ふん、強がりを。貴様に与える場所は決まっている。北のデッド・ダンプだ」

その言葉が出た瞬間、騎士たちの顔が引き攣った。
デッド・ダンプ。
帝国が解析を諦めた古代の遺物や、呪われた魔導具を捨てる巨大なゴミ捨て場。

そこは防護魔法なしでは数時間で命を落とすとされる、死の荒野だ。
常識的に考えれば、魔力ゼロの俺が行けば即座に骨も残らない。

(まあ、あそこなら誰にも邪魔されずに『最適化』の続きができるな)

俺は内心でほくそ笑んだ。
あそこには、帝国が「使い方がわからない」と放り投げたお宝が山ほど眠っている。
俺にとってはゴミ捨て場ではなく、最高級のパーツショップだ。

「荷物はこれだけでいい。では、失礼します」

俺は背負っていた使い古しのリュックを軽く叩き、背を向けた。
後ろでゼノスが「二度とその汚い顔を見せるな!」と叫んでいる。

無駄な怒号に肺活量を使うのも非効率だ。
俺は一歩も振り返らず、贅沢すぎる宮殿を後にした。

帝国の北端、空がどす黒い雲に覆われた「デッド・ダンプ」。
そこへ続く道は、鋭利な金属片と、用途不明の巨大なネジが転がる地獄のような光景だった。

護送の兵士たちは、境界線に俺を突き飛ばすと、逃げるように去っていった。
境界の向こう側からは、大気を震わせるような重低音が常に響いている。

「さて、まずは拠点の確保だな」

俺は地面に転がっていた、錆びついた魔導ランタンを拾い上げた。
外装はボロボロで、魔力供給路は完全に断線している。

だが、俺の目にはその内部構造が、神経細胞の繋がりよりも鮮明に見えていた。
スキル『精密復元』を起動する。

俺の指先から淡い光が漏れ、ランタンの内部へ浸透していく。
歪んだ真鍮のフレームが、生き物のようにうごめき、あるべき場所へ収まった。

次に『機能拡張』。
空気中に漂う微弱な振動エネルギーを、直接魔力に変換して蓄電するように回路を組み替える。

カチッ、という小気味よい音がした。
次の瞬間、死に体だったランタンが、太陽の欠片を閉じ込めたような強烈な輝きを放つ。

「照度はこれで十分。次は……あそこか」

ランタンの光が、前方にある「巨大な岩」を照らし出した。
いや、それは岩ではなかった。

それは、数百メートルはあろうかという巨大な鉄の塊だった。
半分以上が土砂に埋まり、表面には太い蔦が絡みついている。

帝国では「動かぬ山」と呼ばれ、単なる地形として扱われてきたものだ。
だが、俺の『精密復元』のセンサーが、その奥底で眠る巨大な心臓の鼓動を捉えた。

「おいおい、冗談だろ……。これ、ただの鉄屑じゃない」

俺は夢中でその鉄塊に駆け寄り、表面の泥を素手で掻き出した。
現れたのは、現代の技術では精錬不可能な、深みのある黒銀色の装甲。

魔導回路なんていうチャチなものじゃない。
エネルギー伝達効率100%を誇る、超電導バイオ回路だ。

「……なるほど。これが『伝説の機動要塞』の正体か」

俺は腰のツールポーチから、自作の多機能ドライバーを取り出した。
装甲の隙間、ミリ単位の狂いもない接合部にそれを差し込む。

「構造は理解した。エネルギー経路の98%が目詰まりしているだけだ」

俺は要塞の脚部と思われる巨大なシリンダーに手を触れた。
脳内に膨大な設計図が流れ込んでくる。

普通の人間なら、この情報量だけで脳が焼き切れるだろう。
だが、俺にとっては、散らかった部屋の片付けをする程度の作業に過ぎない。

「起動シーケンス、再構築。バイパス回路を接続。全出力を一点に集中……」

俺の体から、今まで貯め込んできた全エネルギーを、一点の接点へと流し込む。
それは魔法ではない。
物理法則に従った、最も効率的な「点火」作業だ。

ズズ……。
大地が鳴動した。

「な、なんだ!? 地震か!?」

遠く、境界線の向こうで監視していた兵士たちが腰を抜かす。
彼らの目には、死の山が突然、激しい光を放ち始めたように見えただろう。

装甲にこびりついていた土砂が、衝撃波によって一瞬で吹き飛ぶ。
周囲の木々はマッチ棒のように折れ、数キロ先にいた鳥たちがその爆圧で即死した。

ギ、ギギギ……ッ!!
何百年も沈黙していた金属が、悲鳴を上げながら目覚める。

「……よし、メインフレーム、オンラインだ」

俺の目の前で、巨大なハッチが静かに開いた。
中から漏れてきたのは、カビ臭い空気ではなく、完璧に温度管理された清潔な空気だ。

足を踏み入れると、通路の壁面に埋め込まれたクリスタルが次々と青白く発光していく。
それは、主の帰還を祝福する儀式のようだった。

『……認証完了。マスター・ルード。お待ちしておりました』

頭の中に、鈴を転がすような少女の声が直接響く。
要塞の管理AIだろうか。

「待たせて悪かったな。今、君を最高に使いやすくしてやるよ」

俺は中央管制室と思われる広大な空間に辿り着いた。
そこには、数千の計器と、ホログラムのモニターが浮遊している。

「おいおい、この操作系はなんだ? 無駄な入力が多すぎる」

俺は操作パネルの前に立ち、超高速で指を動かした。
不要なログファイルを削除し、エネルギー配分を居住区と防衛システムへ優先的に割り振る。

「まずはこの椅子だ。硬すぎる。分子構造を組み替えて、低反発素材に『最適化』」

俺が指を鳴らすと、冷たい金属の椅子が、極上のソファのような質感へと変化した。
そこに深く腰を下ろすと、全身の疲れが吸い取られるような快感に襲われる。

その時、外部モニターに数体の影が映し出された。
デッド・ダンプに生息する、魔力の枯渇した大型魔獣たちだ。

彼らは突然現れた巨大な「獲物」を食い散らかそうと、牙を剥いて飛びかかってくる。
その体躯は十メートルを超え、一撃で城壁を粉砕するほどの力を持っている。

「騒がしいな。シータ、だったか? 害虫駆除だ。武装を展開しろ」

『了解しました、マスター。ですが、現在のエネルギー残量では……』

「ああ、計算済みだ。だから、その余計な『魔法冷却装置』を排除して、熱エネルギーをそのまま砲身へ回せ。装填速度が300%上がる」

『……驚愕。理論上は可能ですが、機体が持ちません』

「俺が補強した。いいから撃て」

次の瞬間、要塞の側面から無数の小型砲塔が飛び出した。
通常なら魔法チャージに数分を要するはずの魔導砲が、瞬きする間もなくチャージを完了させる。

ズガァァァァァンッ!!

一閃。
放たれた高密度のエネルギー波が、魔獣たちを分子レベルで分解した。
爆鳴が荒野の果てまで響き渡り、空を覆っていた黒雲に巨大な穴を穿つ。

「ふむ、反動制御も悪くない。次はキッチンの修復だな。腹が減った」

俺はモニター越しに、灰にすらなれなかった魔獣の残骸を眺めながら、次の作業工程を頭の中に描く。

帝国の連中が、この光景をどんな顔で見るか、今から楽しみだ。
あいつらが「呪われた遺物」と呼んで捨てたものが、今や世界で最も快適な俺の家になった。

俺は管理AIが提示した、要塞の全機能リストをスクロールした。
そこには、一国を数分で消滅させる戦略兵器や、永久に食料を生成する自動農園の項目が並んでいる。

「全部、俺の好みに書き換えてやる」

俺は広大な司令室の真ん中で、愉快な気分で指を鳴らした。

その頃、帝国の魔導観測所では、ありえない数値を示した水晶球が次々と粉砕されていた。
「北の荒野で、伝説級の魔力反応を検知!」
「計測不能! 対象は……移動しています! 信じられん、山が動いている!」

老練な魔導師たちが泡を吹いて倒れる中、俺は要塞の自動調理器が作り出した、最高に「最適化」されたコーヒーを口にした。

「……苦味が足りないな。豆の粉砕プロセスからやり直すか」

俺はコンソールに向き直り、再び指を踊らせた。
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