サハギンに転生した俺、最弱から進化して海の覇王になりました

第15話

喉に突き立てた牙に、力の限りを込めた。
シャークフィンリザードが凄まじい勢いで暴れる。
だが、俺は絶対に離さなかった。
離したら負ける。
この一撃に、すべてを懸けていた。

バリバリと肉が裂ける感触が伝わる。
リザードの動きが一瞬だけ鈍った。

その隙を見逃さず、俺はさらに噛みついたまま体をひねった。
ぐしゃりと鈍い音が響き、リザードの体から力が抜ける。

動かない。
完全に止まった。

感知スキルでも、もう殺気は感じ取れなかった。

（勝った……）

全身に疲労がのしかかる。
腕も足もがくがく震えていた。
だが、それ以上に胸に広がったのは、圧倒的な達成感だった。

俺はやった。
レベル差を覆し、格上の相手を倒した。

その証明が、すぐにウィンドウとして現れた。

【経験値を大量に獲得しました】
【レベルが10に上昇しました】
【新スキル：高速遊泳（初級）を習得しました】
【進化条件を大幅に満たしました】

（きた……！）

思わず心の中で叫ぶ。

レベル二桁到達。
そして、進化条件もさらに進んだ。

ステータスを確認する。

【種族：サハギン（幼生）】
【レベル：10】
【HP：30／30】
【MP：5／5】
【筋力：14】
【敏捷：16】
【知力：4】
【耐久：12】
【スキル：水中遊泳（初級）、噛みつき（初級）、水圧噴射（初級）、感知（初級）、硬鱗化（初級）、甲羅強化（初級）、高速遊泳（初級）】

筋力、敏捷、耐久、すべてが大幅に伸びている。
特に敏捷。
これで水中戦ではかなり有利に立ち回れるはずだ。

高速遊泳の詳細を確認する。

【高速遊泳（初級）：水中遊泳の効果を強化し、通常の二倍の速度で泳ぐことが可能になる】

（これも……強い）

スピードこそ力。
この世界では、速さが生死を分ける。

これで、今まで逃げられなかった獲物にも追いつけるし、危険からも素早く離脱できる。

ますます生存率が上がった。

腹の奥から、満ち足りたような力が溢れる。

（でも──まだ、足りない）

進化条件の達成率は七〇パーセントに届いたが、まだ完全には満たしていない。

あと少し。

あと少しで、俺は「最弱サハギン」じゃなくなる。

俺はシャークフィンリザードの肉を食らいながら、次なる戦いに思いを馳せた。

シャークフィンリザードを食い尽くした俺は、満腹感と共に、身体の芯に熱を抱えていた。
力が溢れている。
全身が軽い。
この感覚は、最初にサハギンとして目覚めたときには絶対に得られなかったものだ。

（俺は、強くなった……間違いなく）

でも、満足なんてしていられない。
進化はすぐそこにある。
今、この勢いのまま、もう一押しすれば──

俺は海底を蹴った。
体が、水を切り裂いて滑るように進む。
高速遊泳スキルの効果だ。
まるで海そのものと一体化したみたいに、自在に動ける。

（次の獲物はどこだ……）

感知スキルで探る。
遠くに微かな殺気。
大きな敵ではない。
俺にとっては、もはや脅威にならないレベル。

ゆっくりと近づく。
見えたのは、小さな群れを成して泳ぐ魚たちだった。

【フィンストライプ】
【レベル：4～5】
【特性：群体行動】

群れで動くため、単体は弱くても集団でかかってくると厄介だ。
でも、今の俺にとっては、いい的だ。

（まとめて狩る……経験値を一気に稼ぐ）

俺は水圧噴射を放った。
群れが一瞬で散り、混乱する。

そこに、高速遊泳で突っ込む。

噛みつき、振り回し、次々と仕留める。

一匹、二匹、三匹──。

俺の動きに無駄はない。
目に映ったものを、ためらいなく食らう。

【経験値を獲得しました】
【経験値を獲得しました】
【経験値を獲得しました】

心地いい音が連続して鳴る。
レベルアップはないが、確実に進化への一歩になっている。

感知スキルで周囲を確認。
まだ獲物はいる。

俺はさらに加速した。
迷いなく獲物に食らいつく。

水中が血の匂いで満たされる。
その中を泳ぎ回りながら、俺はすべてを糧に変えていく。

（もっとだ……もっと狩る）

食らって、食らって、食らい尽くす。
その先に、進化があると信じて。

群れを壊滅させたころ、再びウィンドウが開いた。

【進化条件をすべて満たしました】
【進化可能】

──その文字を見た瞬間、俺は全身が震えるのを感じた。

（ついに……）

ここまで来た。
最弱だったサハギン（幼生）が、ようやく、進化の扉を叩くことができた。