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「できません」
俺は、きっぱりとそう断った。
ガルドの頼みを聞いていたら、きりがなくなってしまう。
俺は、何でも屋ではないのだ。
「なっ、なんでだ。お前なら、できるだろう」
ガルドが、必死に食い下がってくる。
その様子は、少しだけかわいそうだった。
だが、俺の気持ちは変わらない。
「俺は、喫茶店のマスターです。金属を作ることなんて、専門外ですよ」
俺が冷たくそう言うと、ガルドはがっくりと肩を落とした。
「そ、そんな。じゃあ、俺はもうおしまいだ。あのわがままな娘に、首をはねられちまう」
彼は、カウンターに突っ伏すとしくしくと泣く真似を始めた。
その大きな体で泣かれると、何とも言えない気持ちになる。
周りで見ているエリナさんとルナリアも、困ったような顔をしていた。
「まあ、金属そのものは作れませんが」
俺は、わざと少しだけ時間を置いて言った。
その言葉に、ガルドがぴくりと体を動かす。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。
その目には、かすかな希望の光が見える。
「何か、方法があるのか」
彼の声は、少し震えていた。
「ええ、少しだけ。金属を、ものすごく硬くする方法なら心当たりがあります」
「な、なんだって」
ガルドは、椅子から勢いよく飛び上がった。
「本当かケンジ、それはどういう方法だ」
「それは、教えられません」
俺がにっこり笑うと、ガルドは「ぐぬぬ」と悔しそうにうなった。
俺が考えていたのは、前の世界の知識を使うことだ。
金属の表面に、炭素の特別な膜をはりつける技術。
そうすれば、ダイヤモンドと同じくらいの硬さにできる。
この世界の技術では、まだ見つかっていない方法だろう。
俺のダンジョンの創造機能と、コアの助けがあればできるはずだ。
問題は、それを俺がやるかどうか。
俺にとって、良いことは何もない。
ただ、面倒なだけだ。
「ケンジ様、どうかガルドさんを助けてあげてください」
それまで黙って話を聞いていたエリナさんが、口を開いた。
彼女は、真剣な目で俺を見つめている。
「ガルドさんは、この国にとってかけがえのない宝です。彼を失うことは、この国にとって大きな損害になります」
エリナさんの言葉に、ルナリアもこくりとうなずいた。
「私も、お願いします。困っている人を、助けてあげてください」
二人とも、本当に心が優しい。
彼女たちにそんな風にお願いされると、さすがに断りにくくなってくる。
俺は、やれやれという気持ちでため息をついた。
どうやら、今回も面倒なことに関わることになりそうだ。
「分かりました、今回だけ特別ですよ」
俺がそう言うと、ガルドは「おおっ」と喜びの声を上げた。
彼は、俺の手を両手で強く握りしめる。
「ありがとうケンジ、このご恩は一生忘れねえ」
「ただし、条件があります」
俺は、人差し指を立てて言った。
「俺が手伝うのは、あくまで金属を硬くする部分だけです。盾を完成させるのは、あんたの仕事ですよ」
「おう、もちろんだ。それこそ、俺の専門だからな」
ガルドは、力強く胸を叩いた。
「それともう一つ。この件が片付いたら、俺の店の厨房設備を、無料で最高の物に取り換えてもらう。いいですね」
俺は、ちゃっかりと自分の要求を付け加えた。
ガルドは、すぐにうなずく。
「当たり前だ、世界最高の厨房を作ってやらあ」
こうして、俺とガルドの二度目の共同作業が始まった。
俺たちは、すぐにガルドの工房へと向かうことになった。
場所は、ここから馬車でも半日かかる山奥だという。
俺は、店のことはルナリアとゴブきちに任せることにした。
エリナさんも、手伝ってくれるというので心配ない。
(マスター、お気をつけて)
コアが、心配そうに念話で声をかけてくる。
俺は、彼女にだけ聞こえるように心の中で答えた。
(大丈夫だ、何かあったらすぐに転移で戻ってくるさ)
ダンジョンマスターである俺は、ダンジョンの中ならどこへでも一瞬で移動できる。
これも、とても便利な能力だ。
俺とガルドは、店の外に出た。
そこには、ガルドが乗ってきたのだろう、大きなイノシシが引く荷車が停まっている。
イノシシは、俺の姿を見ると「ぶひー」と鼻を鳴らして威嚇してきた。
どうやら、まだ俺を仲間だとは思っていないらしい。
「こいつは、相棒のブーやんだ。少し、気が荒いがな」
ガルドが、イノシシの首をぽんと叩く。
俺たちは、その荷台に乗り込んだ。
ガルドが手綱を握ると、ブーやんはすごい勢いで走り出す。
その速さは、普通の馬車とは比べ物にならなかった。
周りの木々が、あっという間に後ろへ飛んでいく。
数時間後、俺たちは山奥にあるガルドの工房に着いた。
そこは、いかにもドワーフの仕事場といった感じの、飾り気のない大きな建物だった。
中に入ると、もわっとした熱い空気と、鉄の匂いが俺たちを迎える。
壁には、いろいろな道具や、作りかけの武器や防具がたくさん並べられていた。
工房の真ん中には、大きな炉がごうごうと音を立てて燃えている。
「さて、と。まずは、元になる金属を鍛えねえとな」
ガルドは、そう言うと慣れた手つきで炉の火を強くし始めた。
「ケンジ、お前さんは少しそこで見てな」
彼は、山のように積まれた鉄鉱石の中から、特別大きくて質の良さそうなものを選ぶ。
そして、それを炉の中に放り込んだ。
次に、大きなふいごを使って、炉の温度をどんどん上げていく。
鉄鉱石が、真っ赤に溶けていく様子は見ていて面白かった。
ガルドは、溶けた鉄を型に流し込むとそれを冷やして大きな鉄のかたまりを作った。
ここからが、彼の本当の腕の見せ所だ。
彼は、自分の背丈ほどもある大きな金槌を軽々と振り上げる。
そして、真っ赤に焼けた鉄のかたまりを叩き始めた。
カン、カン、カン。
工房の中に、力強い金属の音が響き渡る。
火花が、滝のように美しく飛び散っていた。
彼の動きには、少しの無駄もない。
長年の経験と、感覚だけが頼りのまさに職人技だった。
俺は、ただ驚いてその光景を眺めていた。
これが、雷拳のガルド。
ドワーフ族で最高の、鍛冶職人の仕事だ。
俺の知らない世界が、ここには確かにあった。
どれくらいの時間が、経ったのだろうか。
ガルドは、汗びっしょりになりながらも金槌を振るうのをやめない。
大きかった鉄のかたまりは、少しずつ形を変えていく。
やがて、それは美しい円形の盾の形になった。
だが、まだ完成ではない。
これは、あくまで土台なのだ。
「ふぅ、ここまでだ」
ガルドは、ようやく金槌を置くと大きな息をついた。
その顔には、疲れの色が濃く浮かんでいる。
でも、同時にやり遂げた満足感も感じられた。
「ケンジ、出番だぜ。こいつを、この世で最も硬い盾に変えてくれ」
彼は、まだ熱を持っている盾を指差して言った。
俺は、こくりとうなずくと盾の前に立つ。
いよいよ、俺の出番が来た。
俺は、目を閉じてダンジョンの創造機能に意識を集中させた。
心に思い浮かべるのは、ダイヤモンドよりも硬い炭素の結晶だ。
その膜を、この盾の表面に原子のレベルで覆っていく。
これは、とても細かい作業だ。
少しでも気を抜けば、失敗してしまうだろう。
俺の体から、薄い魔力の光があふれ出した。
その光が、盾をゆっくりと包み込んでいく。
工房の中の空気が、ぴりぴりと震えているのが分かった。
ガルドが、息をのんでその様子を見守っている。
どれくらいの時間が、過ぎただろうか。
俺が、ゆっくりと目を開ける。
目の前の盾は、見違えるように姿を変えていた。
その表面は、まるで黒く磨かれた石のように、深くて美しい黒色に輝いている。
それは、まるで光を全て吸い込んでしまうかのような、特別な黒だった。
もはや、ただの金属ではない。
何か、新しい物質に生まれ変わっていた。
「こ、これが」
ガルドが、ぼうぜんとつぶやく。
彼は、おそるおそる盾に近づくと、その表面を指でそっと撫でた。
「なんて、滑らかなんだ。それに、この冷たさ。本当に、金属なのか」
「試してみますか」
俺が言うと、ガルドはごくりとつばを飲み込んだ。
彼は、工房の隅から自分が作った中で最も切れ味の鋭い剣を持ってくる。
そして、覚悟を決めたように、その剣を盾に振り下ろした。
キィィィィン。
甲高い金属音が、耳に響いた。
剣は、盾に傷一つ付けることができない。
逆に、剣の刃の方が、粉々に砕け散ってしまった。
「うそ、だろ」
ガルドは、信じられないというように自分の手の中を見る。
そこには、柄だけになった剣と、傷一つない盾があった。
彼の顔は、驚きと、そして喜びに満ちていた。
「できた、できちまったぞケンジ。これこそ、まさに最強の盾だ」
彼は、子供のようにはしゃいでいる。
その様子を見て、俺もようやく肩の力を抜くことができた。
どうやら、うまくいったらしい。
これで、面倒な頼みごとも終わりだ。
ガルドは、最強の盾を手に大喜びしていた。
俺は、きっぱりとそう断った。
ガルドの頼みを聞いていたら、きりがなくなってしまう。
俺は、何でも屋ではないのだ。
「なっ、なんでだ。お前なら、できるだろう」
ガルドが、必死に食い下がってくる。
その様子は、少しだけかわいそうだった。
だが、俺の気持ちは変わらない。
「俺は、喫茶店のマスターです。金属を作ることなんて、専門外ですよ」
俺が冷たくそう言うと、ガルドはがっくりと肩を落とした。
「そ、そんな。じゃあ、俺はもうおしまいだ。あのわがままな娘に、首をはねられちまう」
彼は、カウンターに突っ伏すとしくしくと泣く真似を始めた。
その大きな体で泣かれると、何とも言えない気持ちになる。
周りで見ているエリナさんとルナリアも、困ったような顔をしていた。
「まあ、金属そのものは作れませんが」
俺は、わざと少しだけ時間を置いて言った。
その言葉に、ガルドがぴくりと体を動かす。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。
その目には、かすかな希望の光が見える。
「何か、方法があるのか」
彼の声は、少し震えていた。
「ええ、少しだけ。金属を、ものすごく硬くする方法なら心当たりがあります」
「な、なんだって」
ガルドは、椅子から勢いよく飛び上がった。
「本当かケンジ、それはどういう方法だ」
「それは、教えられません」
俺がにっこり笑うと、ガルドは「ぐぬぬ」と悔しそうにうなった。
俺が考えていたのは、前の世界の知識を使うことだ。
金属の表面に、炭素の特別な膜をはりつける技術。
そうすれば、ダイヤモンドと同じくらいの硬さにできる。
この世界の技術では、まだ見つかっていない方法だろう。
俺のダンジョンの創造機能と、コアの助けがあればできるはずだ。
問題は、それを俺がやるかどうか。
俺にとって、良いことは何もない。
ただ、面倒なだけだ。
「ケンジ様、どうかガルドさんを助けてあげてください」
それまで黙って話を聞いていたエリナさんが、口を開いた。
彼女は、真剣な目で俺を見つめている。
「ガルドさんは、この国にとってかけがえのない宝です。彼を失うことは、この国にとって大きな損害になります」
エリナさんの言葉に、ルナリアもこくりとうなずいた。
「私も、お願いします。困っている人を、助けてあげてください」
二人とも、本当に心が優しい。
彼女たちにそんな風にお願いされると、さすがに断りにくくなってくる。
俺は、やれやれという気持ちでため息をついた。
どうやら、今回も面倒なことに関わることになりそうだ。
「分かりました、今回だけ特別ですよ」
俺がそう言うと、ガルドは「おおっ」と喜びの声を上げた。
彼は、俺の手を両手で強く握りしめる。
「ありがとうケンジ、このご恩は一生忘れねえ」
「ただし、条件があります」
俺は、人差し指を立てて言った。
「俺が手伝うのは、あくまで金属を硬くする部分だけです。盾を完成させるのは、あんたの仕事ですよ」
「おう、もちろんだ。それこそ、俺の専門だからな」
ガルドは、力強く胸を叩いた。
「それともう一つ。この件が片付いたら、俺の店の厨房設備を、無料で最高の物に取り換えてもらう。いいですね」
俺は、ちゃっかりと自分の要求を付け加えた。
ガルドは、すぐにうなずく。
「当たり前だ、世界最高の厨房を作ってやらあ」
こうして、俺とガルドの二度目の共同作業が始まった。
俺たちは、すぐにガルドの工房へと向かうことになった。
場所は、ここから馬車でも半日かかる山奥だという。
俺は、店のことはルナリアとゴブきちに任せることにした。
エリナさんも、手伝ってくれるというので心配ない。
(マスター、お気をつけて)
コアが、心配そうに念話で声をかけてくる。
俺は、彼女にだけ聞こえるように心の中で答えた。
(大丈夫だ、何かあったらすぐに転移で戻ってくるさ)
ダンジョンマスターである俺は、ダンジョンの中ならどこへでも一瞬で移動できる。
これも、とても便利な能力だ。
俺とガルドは、店の外に出た。
そこには、ガルドが乗ってきたのだろう、大きなイノシシが引く荷車が停まっている。
イノシシは、俺の姿を見ると「ぶひー」と鼻を鳴らして威嚇してきた。
どうやら、まだ俺を仲間だとは思っていないらしい。
「こいつは、相棒のブーやんだ。少し、気が荒いがな」
ガルドが、イノシシの首をぽんと叩く。
俺たちは、その荷台に乗り込んだ。
ガルドが手綱を握ると、ブーやんはすごい勢いで走り出す。
その速さは、普通の馬車とは比べ物にならなかった。
周りの木々が、あっという間に後ろへ飛んでいく。
数時間後、俺たちは山奥にあるガルドの工房に着いた。
そこは、いかにもドワーフの仕事場といった感じの、飾り気のない大きな建物だった。
中に入ると、もわっとした熱い空気と、鉄の匂いが俺たちを迎える。
壁には、いろいろな道具や、作りかけの武器や防具がたくさん並べられていた。
工房の真ん中には、大きな炉がごうごうと音を立てて燃えている。
「さて、と。まずは、元になる金属を鍛えねえとな」
ガルドは、そう言うと慣れた手つきで炉の火を強くし始めた。
「ケンジ、お前さんは少しそこで見てな」
彼は、山のように積まれた鉄鉱石の中から、特別大きくて質の良さそうなものを選ぶ。
そして、それを炉の中に放り込んだ。
次に、大きなふいごを使って、炉の温度をどんどん上げていく。
鉄鉱石が、真っ赤に溶けていく様子は見ていて面白かった。
ガルドは、溶けた鉄を型に流し込むとそれを冷やして大きな鉄のかたまりを作った。
ここからが、彼の本当の腕の見せ所だ。
彼は、自分の背丈ほどもある大きな金槌を軽々と振り上げる。
そして、真っ赤に焼けた鉄のかたまりを叩き始めた。
カン、カン、カン。
工房の中に、力強い金属の音が響き渡る。
火花が、滝のように美しく飛び散っていた。
彼の動きには、少しの無駄もない。
長年の経験と、感覚だけが頼りのまさに職人技だった。
俺は、ただ驚いてその光景を眺めていた。
これが、雷拳のガルド。
ドワーフ族で最高の、鍛冶職人の仕事だ。
俺の知らない世界が、ここには確かにあった。
どれくらいの時間が、経ったのだろうか。
ガルドは、汗びっしょりになりながらも金槌を振るうのをやめない。
大きかった鉄のかたまりは、少しずつ形を変えていく。
やがて、それは美しい円形の盾の形になった。
だが、まだ完成ではない。
これは、あくまで土台なのだ。
「ふぅ、ここまでだ」
ガルドは、ようやく金槌を置くと大きな息をついた。
その顔には、疲れの色が濃く浮かんでいる。
でも、同時にやり遂げた満足感も感じられた。
「ケンジ、出番だぜ。こいつを、この世で最も硬い盾に変えてくれ」
彼は、まだ熱を持っている盾を指差して言った。
俺は、こくりとうなずくと盾の前に立つ。
いよいよ、俺の出番が来た。
俺は、目を閉じてダンジョンの創造機能に意識を集中させた。
心に思い浮かべるのは、ダイヤモンドよりも硬い炭素の結晶だ。
その膜を、この盾の表面に原子のレベルで覆っていく。
これは、とても細かい作業だ。
少しでも気を抜けば、失敗してしまうだろう。
俺の体から、薄い魔力の光があふれ出した。
その光が、盾をゆっくりと包み込んでいく。
工房の中の空気が、ぴりぴりと震えているのが分かった。
ガルドが、息をのんでその様子を見守っている。
どれくらいの時間が、過ぎただろうか。
俺が、ゆっくりと目を開ける。
目の前の盾は、見違えるように姿を変えていた。
その表面は、まるで黒く磨かれた石のように、深くて美しい黒色に輝いている。
それは、まるで光を全て吸い込んでしまうかのような、特別な黒だった。
もはや、ただの金属ではない。
何か、新しい物質に生まれ変わっていた。
「こ、これが」
ガルドが、ぼうぜんとつぶやく。
彼は、おそるおそる盾に近づくと、その表面を指でそっと撫でた。
「なんて、滑らかなんだ。それに、この冷たさ。本当に、金属なのか」
「試してみますか」
俺が言うと、ガルドはごくりとつばを飲み込んだ。
彼は、工房の隅から自分が作った中で最も切れ味の鋭い剣を持ってくる。
そして、覚悟を決めたように、その剣を盾に振り下ろした。
キィィィィン。
甲高い金属音が、耳に響いた。
剣は、盾に傷一つ付けることができない。
逆に、剣の刃の方が、粉々に砕け散ってしまった。
「うそ、だろ」
ガルドは、信じられないというように自分の手の中を見る。
そこには、柄だけになった剣と、傷一つない盾があった。
彼の顔は、驚きと、そして喜びに満ちていた。
「できた、できちまったぞケンジ。これこそ、まさに最強の盾だ」
彼は、子供のようにはしゃいでいる。
その様子を見て、俺もようやく肩の力を抜くことができた。
どうやら、うまくいったらしい。
これで、面倒な頼みごとも終わりだ。
ガルドは、最強の盾を手に大喜びしていた。
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