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第29話
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「リゼ、応接の準備を整えなさい。上客ですもの、最高級の設えで迎えて差し上げますわ」
「か、かしこまりました!」
リゼが慌てて駆け出していきましたの。わたくしは、リュミエールの鋭い視線を受けながらも、悠然と腰掛けましたわ。
「どうぞ、お掛けになって。査察官閣下」
「……無礼な」
それでもリュミエールは、わたくしの前に静かに腰を下ろしましたわ。わたくしの誘導に乗らざるを得ない、その事実だけで既に主導権はわたくしのものでしたの。
「改めて確認する。アウローラ自由特区連邦は、世界魔導評議会の査察を受け入れるか?」
「ええ、条件付きで受け入れて差し上げますわ」
リュミエールの眉がぴくりと動きましたの。
「条件とは?」
「わたくし自ら、査察団に同行いたします。すべての施設を案内し、すべての秘密を開示して差し上げますわ」
周囲が息を呑みましたの。リゼも心配そうにこちらを見ていましたけれど、わたくしは微笑みを崩しませんでしたわ。
「……よかろう。ただし、こちらも査察団の編成は選ばせてもらう」
「もちろんですわ。好きなだけ選びなさいませ。わたくしには、隠すべき瑕疵など一片もございませんもの」
リュミエールはじっとわたくしを見据え、やがて小さく頷きましたの。
「査察団は三日後、正式にアウローラに入る」
「歓迎いたしますわ」
取引は成立しましたの。でも、これで全てが終わったわけではありませんわ。むしろ、ここからが本番ですもの。
「リゼ、準備を始めますわよ。査察団に見せるべきもの、見せぬべきもの、すべて仕分けいたしますわ」
「了解しました!」
わたくしたちはすぐに作戦会議を始めましたの。リュミエールが背負ってきた圧力を逆手に取り、むしろアウローラの正統性を世界に誇示する。これが、わたくしの狙いですわ。
「お嬢様、査察団の構成員リストが届きました!」
「よろしい、読み上げなさい」
「……第一査察官、リュミエール・ノクターン。副査察官、クロード・バルデューク。補佐官、ミリア・フェルスタイン……」
「ふふ、有名どころばかり集めましたのね」
いずれも各国で名を馳せた魔導技術の権威たち。だが、権威などわたくしには何の脅威にもなりませんわ。
「むしろ好都合ですわ。彼らを納得させることで、アウローラの絶対的正当性を印象付けられますもの」
リゼが不安げに尋ねましたわ。
「あの、でも……仮に査察で問題が見つかったら、どうなるんでしょうか?」
「簡単なことですわ」
わたくしは紅茶を飲み干してから、にっこりと笑いましたの。
「その時は、査察官ごと取り込んでしまえばよろしいのですわ」
リゼがぽかんと口を開けたまま固まりましたの。
「冗談ですわよ、冗談」
おほほほ、と軽やかに笑いながら、わたくしは机の上に次々と設計図を並べましたの。
「まずは迎賓施設の改修から始めますわ。査察団には、わたくしたちの『未来』を見せるのですもの」
「了解しましたっ!」
リゼが勢いよく頭を下げるのを見て、わたくしは更なる構想を巡らせましたわ。
――どうせなら、ただの査察で終わらせるなんてもったいのうございますわ。
――この機会に、アウローラが未来そのものだと、世界中に知らしめますわよ。
「リゼ、特別プロジェクトを立ち上げますわ。“未来都市プロトコル・アウローラ計画”よ!」
「み、未来都市……ですかっ!?」
「ええ、未来の都市とはどのようなものか、世界に見せつけてやりますわ」
わたくしは手袋をはめ直し、設計卓へと向かいましたの。
「まずは、自己修復型インフラシステムから設計を始めますわよ!」
「は、はいっ!」
リゼが必死にわたくしの後を追ってきましたの。
わたくしの心は、最高に昂ぶっておりましたの。
――面白くなってきましたわ!
「か、かしこまりました!」
リゼが慌てて駆け出していきましたの。わたくしは、リュミエールの鋭い視線を受けながらも、悠然と腰掛けましたわ。
「どうぞ、お掛けになって。査察官閣下」
「……無礼な」
それでもリュミエールは、わたくしの前に静かに腰を下ろしましたわ。わたくしの誘導に乗らざるを得ない、その事実だけで既に主導権はわたくしのものでしたの。
「改めて確認する。アウローラ自由特区連邦は、世界魔導評議会の査察を受け入れるか?」
「ええ、条件付きで受け入れて差し上げますわ」
リュミエールの眉がぴくりと動きましたの。
「条件とは?」
「わたくし自ら、査察団に同行いたします。すべての施設を案内し、すべての秘密を開示して差し上げますわ」
周囲が息を呑みましたの。リゼも心配そうにこちらを見ていましたけれど、わたくしは微笑みを崩しませんでしたわ。
「……よかろう。ただし、こちらも査察団の編成は選ばせてもらう」
「もちろんですわ。好きなだけ選びなさいませ。わたくしには、隠すべき瑕疵など一片もございませんもの」
リュミエールはじっとわたくしを見据え、やがて小さく頷きましたの。
「査察団は三日後、正式にアウローラに入る」
「歓迎いたしますわ」
取引は成立しましたの。でも、これで全てが終わったわけではありませんわ。むしろ、ここからが本番ですもの。
「リゼ、準備を始めますわよ。査察団に見せるべきもの、見せぬべきもの、すべて仕分けいたしますわ」
「了解しました!」
わたくしたちはすぐに作戦会議を始めましたの。リュミエールが背負ってきた圧力を逆手に取り、むしろアウローラの正統性を世界に誇示する。これが、わたくしの狙いですわ。
「お嬢様、査察団の構成員リストが届きました!」
「よろしい、読み上げなさい」
「……第一査察官、リュミエール・ノクターン。副査察官、クロード・バルデューク。補佐官、ミリア・フェルスタイン……」
「ふふ、有名どころばかり集めましたのね」
いずれも各国で名を馳せた魔導技術の権威たち。だが、権威などわたくしには何の脅威にもなりませんわ。
「むしろ好都合ですわ。彼らを納得させることで、アウローラの絶対的正当性を印象付けられますもの」
リゼが不安げに尋ねましたわ。
「あの、でも……仮に査察で問題が見つかったら、どうなるんでしょうか?」
「簡単なことですわ」
わたくしは紅茶を飲み干してから、にっこりと笑いましたの。
「その時は、査察官ごと取り込んでしまえばよろしいのですわ」
リゼがぽかんと口を開けたまま固まりましたの。
「冗談ですわよ、冗談」
おほほほ、と軽やかに笑いながら、わたくしは机の上に次々と設計図を並べましたの。
「まずは迎賓施設の改修から始めますわ。査察団には、わたくしたちの『未来』を見せるのですもの」
「了解しましたっ!」
リゼが勢いよく頭を下げるのを見て、わたくしは更なる構想を巡らせましたわ。
――どうせなら、ただの査察で終わらせるなんてもったいのうございますわ。
――この機会に、アウローラが未来そのものだと、世界中に知らしめますわよ。
「リゼ、特別プロジェクトを立ち上げますわ。“未来都市プロトコル・アウローラ計画”よ!」
「み、未来都市……ですかっ!?」
「ええ、未来の都市とはどのようなものか、世界に見せつけてやりますわ」
わたくしは手袋をはめ直し、設計卓へと向かいましたの。
「まずは、自己修復型インフラシステムから設計を始めますわよ!」
「は、はいっ!」
リゼが必死にわたくしの後を追ってきましたの。
わたくしの心は、最高に昂ぶっておりましたの。
――面白くなってきましたわ!
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