追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第29話

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 「リゼ、応接の準備を整えなさい。上客ですもの、最高級の設えで迎えて差し上げますわ」

 「か、かしこまりました!」

 リゼが慌てて駆け出していきましたの。わたくしは、リュミエールの鋭い視線を受けながらも、悠然と腰掛けましたわ。

 「どうぞ、お掛けになって。査察官閣下」

 「……無礼な」

 それでもリュミエールは、わたくしの前に静かに腰を下ろしましたわ。わたくしの誘導に乗らざるを得ない、その事実だけで既に主導権はわたくしのものでしたの。

 「改めて確認する。アウローラ自由特区連邦は、世界魔導評議会の査察を受け入れるか?」

 「ええ、条件付きで受け入れて差し上げますわ」

 リュミエールの眉がぴくりと動きましたの。

 「条件とは?」

 「わたくし自ら、査察団に同行いたします。すべての施設を案内し、すべての秘密を開示して差し上げますわ」

 周囲が息を呑みましたの。リゼも心配そうにこちらを見ていましたけれど、わたくしは微笑みを崩しませんでしたわ。

 「……よかろう。ただし、こちらも査察団の編成は選ばせてもらう」

 「もちろんですわ。好きなだけ選びなさいませ。わたくしには、隠すべき瑕疵など一片もございませんもの」

 リュミエールはじっとわたくしを見据え、やがて小さく頷きましたの。

 「査察団は三日後、正式にアウローラに入る」

 「歓迎いたしますわ」

 取引は成立しましたの。でも、これで全てが終わったわけではありませんわ。むしろ、ここからが本番ですもの。

 「リゼ、準備を始めますわよ。査察団に見せるべきもの、見せぬべきもの、すべて仕分けいたしますわ」

 「了解しました!」

 わたくしたちはすぐに作戦会議を始めましたの。リュミエールが背負ってきた圧力を逆手に取り、むしろアウローラの正統性を世界に誇示する。これが、わたくしの狙いですわ。

 「お嬢様、査察団の構成員リストが届きました!」

 「よろしい、読み上げなさい」

 「……第一査察官、リュミエール・ノクターン。副査察官、クロード・バルデューク。補佐官、ミリア・フェルスタイン……」

 「ふふ、有名どころばかり集めましたのね」

 いずれも各国で名を馳せた魔導技術の権威たち。だが、権威などわたくしには何の脅威にもなりませんわ。

 「むしろ好都合ですわ。彼らを納得させることで、アウローラの絶対的正当性を印象付けられますもの」

 リゼが不安げに尋ねましたわ。

 「あの、でも……仮に査察で問題が見つかったら、どうなるんでしょうか?」

 「簡単なことですわ」

 わたくしは紅茶を飲み干してから、にっこりと笑いましたの。

 「その時は、査察官ごと取り込んでしまえばよろしいのですわ」

 リゼがぽかんと口を開けたまま固まりましたの。

 「冗談ですわよ、冗談」

 おほほほ、と軽やかに笑いながら、わたくしは机の上に次々と設計図を並べましたの。

 「まずは迎賓施設の改修から始めますわ。査察団には、わたくしたちの『未来』を見せるのですもの」

 「了解しましたっ!」

 リゼが勢いよく頭を下げるのを見て、わたくしは更なる構想を巡らせましたわ。

 ――どうせなら、ただの査察で終わらせるなんてもったいのうございますわ。

 ――この機会に、アウローラが未来そのものだと、世界中に知らしめますわよ。

 「リゼ、特別プロジェクトを立ち上げますわ。“未来都市プロトコル・アウローラ計画”よ!」

 「み、未来都市……ですかっ!?」

 「ええ、未来の都市とはどのようなものか、世界に見せつけてやりますわ」

 わたくしは手袋をはめ直し、設計卓へと向かいましたの。

 「まずは、自己修復型インフラシステムから設計を始めますわよ!」

 「は、はいっ!」

 リゼが必死にわたくしの後を追ってきましたの。

 わたくしの心は、最高に昂ぶっておりましたの。

 ――面白くなってきましたわ!
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