追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第57話

　空間の裂け目は、これまでの比ではありませんでしたの。わたくしの分析装置すらノイズに包まれ、正確なスペックを弾き出せずにいましたの。

　「リゼ、エネルギー測定値は？」

　「最大振り切り！　既存スケールでは計測不能です！」

　「よろしいですわ。ならば、すべて現場対応でまいりましょう」

　裂け目から現れたのは、一人の少女。ですが、その存在感は世界すら歪めるほどの圧力を放っておりましたの。

　「自己紹介くらいしていただけますかしら？」

　わたくしの言葉に応じ、少女はゆっくりと口を開きましたの。

　「私はクロノス機関《最終存在調律官》、セラフィム＝クロノス」

　リゼが絶句しましたの。

　「最終存在調律官……まさか、クロノス機関の“神格級存在”が……！」

　「ええ、理解しましたわ。つまり、ここが正念場ですわね」

　セラフィムは表情ひとつ動かさずに告げましたの。

　「この特区、そして貴女、エリス・フォン・グリムヴァルト。存在の抹消を実行する」

　「わたくしに対する正式な死刑宣告というわけですのね。まあ、受けて立ちますわ」

　すぐさま、未来記念塔中枢に指示を飛ばしましたの。

　「リゼ、防衛レベルをフェイズ・Ωに移行！　戦術核魔導炉、全基接続しなさい！」

　「はいっ！」

　未来都市群の全エネルギー網がわたくしの指揮下に統合され、魔力量は天文学的な領域にまで高まりましたの。

　セラフィムが指先を弾きましたの。空間が一瞬にして反転し、塔そのものを崩壊させかねない次元圧縮波が放たれましたの。

　「無駄ですわよ」

　わたくしは即座に《次元固定式・アカシック・ノート》を発動、世界構造そのものを一時的に凍結して圧縮波を無効化しましたの。

　「それだけでは終わりませんわよ」

　わたくしは連続して、《虚数演算機構・エーテルギア》を起動、通常魔導の十倍以上の速度で複数同時演算を実行しましたの。

　「リゼ、補助演算プールの連結状況は？」

　「完了！　オーバードライブ状態に突入しました！」

　セラフィムが再び攻撃を放ちましたの。今度は、時空跳躍を多重に繰り返す高次元振動体――存在そのものを擦り切らせる超攻撃ですわ。

　「遅いですわね」

　わたくしはそれを見切り、前もって展開していた《多次元干渉偏光障壁》で進路を歪め、エネルギーごと反転させて返して差し上げましたの。

　セラフィムが初めて眉をひそめましたの。

　「観測外……因果の超越……」

　「当然ですわ。貴女たちの想定内で終わるわたくしではありませんもの」

　わたくしは一気に間合いを詰め、《超加速式近接戦闘機構・ファントムギア》を発動しましたの。

　「失礼、少々荒っぽいですが」

　連撃、連撃、連撃。世界そのものを裂く速度と質量を持つ拳が、セラフィムへと叩き込まれましたの。

　「防御不能と見ますわ」

　《絶対零度圧縮魔導衝撃・ゼロエクスプロージョン》を直撃させ、セラフィムを空間ごと凍結・爆裂させましたの。

　爆風の中、リゼが叫びましたの。

　「直撃確認！」

　「ですが、終わっておりませんわ」

　セラフィムの存在は、形骸化した空間から再構築を開始していましたの。

　「存在再構成速度、尋常ではありません！」

　「ならば、存在論そのものを破壊すればよろしいですわ」

　わたくしは最終兵器《オーバーカテゴリー・インフィニティ・ブレイカー》を展開しましたの。

　「世界を創り変える力、見せて差し上げますわ」

　絶対因果切断魔導剣、起動――わたくしの右手に、すべての過去と未来を断ち切る超魔導剣が握られましたの。